思考・言動・行動が一致する生き方をする!持続可能な社会に向けて、私なりにできること。

NPO・ソーシャルビジネス向けのコンサルティングサービスを提供する田所さん。6年間働いた外資系コンサルティングファームを辞め、幼い頃より志した「持続可能な社会を築いていくための仕事」をするため、独立を選択。その背景には、どんな葛藤があったのか、お話を伺いました。

田所 詩子

たどころ うたこ|NPO・ソーシャルビジネス向けコンサルティング
NPO・ソーシャルビジネスコンサルティングユニット「Crescendo(クレッシェンド)」を運営する。

第二のレスター・ブラウンを目指して


私は神奈川県藤沢市で、自由に思考し続ける父と、その父と社会とを繋ぐかのようにバランスを取る母のもとに生まれました。 父は、悟りを開くべく真剣に瞑想するような人で、インドの宗教家に会いに行ってしまったり、50日間断食してみたり、精神世界の本を自費出版してみたりと、かなり自由に生きていました。

母は、そんな父の話を時に聞き流し、時に真面目に聞き、そのバランス感覚でご近所や親戚と家をつないでいました。そのおかげで、私は父やその周りの友人に囲まれつつも、「空気を読む」価値観も学ぶことができたんだと思います。

6歳くらいの頃に、父が「これからは肉を食べずに暮らそう!」と言い始め、我が家の食卓から肉が消え、それからはペスカトリアンとして育ちました。10歳の時には「これからは自給自足の時代だ」と、神奈川県足柄上郡の山奥に引っ越しました。 鹿も猪も出るような大自然の中、家ではテレビは禁止、童話などたくさんの児童文学に触れながら育ちました。『モモ』や『指輪物語』の世界に入り込み、「お金や名声といった目に見える価値ではないところに「本当の価値」がある」、そんな考え方を自然と持つようになりました。

そして中学生くらいの頃、両親と行った地球温暖化に関する講演会で、「これは社会の一大事だ!」と心に響くものがあったんです。環境問題に関心を持つようになり、環境論者レスター・ブラウンの本にも影響を受けました。レスター・ブラウンは、すでに60歳近く、「私が大人になる頃には彼は高齢。私が第二のレスター・ブラウンになるんだ」と思っていましたね。

持続可能な社会に繋がる仕事を


環境問題の勉強をしたいと思っていたので、高校は単位制の実験校だった神奈川総合高校に進学しました。制服も校則もなく、国語や数学など通常の科目は最低限の単位を取れば、その他は好きなことを勉強できる環境でした。

そのためか、集まっている生徒もみんなキラキラした夢を持っていました。パティシィエになると言っている人、ニューヨークで歌を学ぶと言っている人、服飾専門学校への進学を決めていた人など、周り中が『耳をすませば』の聖司君のようでした。彼らを見て、「自由な価値観で生きるカッコよさ」という考え方が一層加速してしまったようですね。

そんな友人に囲まれながら、私はと言えば、環境問題の中でも、食糧問題に興味を持つようになっていました。食肉を生産するためには、その何倍もの穀物を消費していることを知り、「仮に人が肉を食べることをやめたら食糧問題は解決するのか?」という問いを立て、「世界ベジタリアン化計画」というなんとも暑苦しい卒業レポートを書いたりしました。勢い余って、そのレポートを師事したいと考えていた環境経済学の第一人者の教授にメールで送ったら、「まずは受験頑張ってください」とお返事をもらえたのには驚きましたね。

その後何とか無事にその教授のいる京都大学に進学し、希望のゼミに入り、環境経済学を学ぶ中で、「Sustainability(持続可能性)」という人生のキーワードが明確になってきました。 同時に、持続可能な社会に繋がる仕事をするため、シンクタンクに入りたいと考えるようになりました。ビジネスとアカデミック、ミクロとマクロのちょうど中間位の領域で、本質的な問題に取り組めると思ったんです。実際、シンクタンクでアルバイトもしていたので、働くイメージも持てていました。

ただ、学部卒ではほぼ採用対象外でしたし、4年間では勉強したとも言えないと感じたので、大学院には進学することにしました。大学院では再生可能エネルギー政策に関して研究しつつ、研究所でのインターンなども経験し、比較的まっすぐにシンクタンク就職に向かっていました。

力をつけるためコンサルタントに


就職の時期が近付くと、シンクタンクへの就職を希望しつつも、環境・エネルギー専門の研究職ではかなり数が限られてしまうことも見えてきたので、何となく、コンサルティングファームも視野に入れるようになりました。ただ、2,3社受けてみたものの、さほど意欲も湧かず、従って結果も伴わず、「やっぱり違うかな」と思い始めていました。

そんな時、ボストン・コンサルティング・グループの説明会に行くと、社長が世界食糧計画(WFP)をサポートした時の事例を、涙を流しながら話していたんです。その姿を見て、「ここだ!」と、すっかり決めてしまいました。幸い面接で出会う社員の方とも相性が良く、トントン拍子で就職が決まりました。

持続可能な社会に直接繋がる仕事をする機会は、ほとんどないだろうとは分かっていました。それでも、シンクタンクに比べ事業を支援できるコンサルティングファームの方が、社会に与えられるインパクトは大きいかもしれないなどと考えていました。

ただ、入社前には、直接的にプロジェクトでSustainabiltyに関わりを持つか、あるいはビジネスパーソンとしてのスキルを身につけることで、将来社会を変えるための力を身につけるか、そのどちらもないと感じたら、辞めて違う仕事をしようと決めていました。

実際、入社してから関わるプロジェクトは、オンラインメディア、アパレル、通信、保険など、持続可能な社会を作ることとは、直接的には繋がりを感じられない仕事ばかりでした。それでも、スキルが身につく実感はありましたし、クライアントも社内の人も、出会う人みんなが素敵で、想像以上にやりがいもありました。 そのため、自分がやりたいこととは違うと思うこともありましたが、すぐに辞めようとは思わなかったんです。

考えと発言と行動を一致させる


しかし、時が経つに連れて、自分がやりたかったことと、この仕事は違うという感覚は、じわじわと積み重なっていきました。ただ「絶対にこれがしたい」と、明確に決めていることもありませんでしたし、今の仕事や職場での人間関係、そこに対する愛着など積み重ねてきたものが惜しいのも事実で、今後どうしたら良いのか悩むようになっていきました。

本当にやりたいと思っていることや自分の価値観と、実際の行動がずれていることで自分がすり減っている感覚があり、本来持っていたエネルギー少しずつ失われているような気がしていたんです。

そして、様々な人から、色々なアドバイスをもらう中でも、「Happiness is when what you think, what you say, and what you do are in harmony.」というガンジーの言葉は、すごくしっくりきたものでした。まさに、今の私は、思考や言動と、行動が一致していないから悩んでいるんだなと思ったんです。

「持続可能な社会」の最小単位は自分自身。自分を持続させていくために、まずは時間の使い方を価値観と一致させよう。そう決め、次のことなどは一切考えずに、6年間働いた愛着ある会社を辞めることにしました。思考と行動を合わせることで、「元気貯金」を回復させようと。

ちょうどその頃、私が望んでいた仕事であるNPO支援のプロボノプロジェクトのマネージャーをやらないかと声も掛けてもらったのですが、退職を決めかけていたため遠慮することにしました。すると、私の親友でもある同期が担当することになりました。彼女にとってそのプロジェクトは「過去最高!」と思えるほど楽しかったようで、退職してゆっくり過ごしている私に、何度も電話で興奮を伝えてくるんです。プロジェクト後も、そのNPOの代表の下に転職してしまいそうな勢いで。

すると、ある日、彼女が家に遊びに来ている時にぽつんと、「NPOコンサルタントって面白そうじゃない?一緒にやらない?」と言ったんです。NPOは人材不足で困っているし、人ひとりを雇う金額程度に抑えたら、仕事になるんじゃないかと。 その話を聞いて、私は即答で一緒にやろうと答えました。その発想自体面白いと思いましたし、持続可能な社会にダイレクトに繋がる仕事だと感じたんです。また、彼女がとにかくエネルギッシュで、その力で引っ張ってもらえる感覚もありました。

自己紹介するのが嬉しい仕事


そして、2015年7月、NPO・ソーシャルビジネス向けに、戦略コンサルティングサービスを提供する「Crescendo」を、ふたりで創業しました。私たちは、社会課題の解決をミッションにしている組織・そのリーダーをサポートし、各組織の持てる力を引き出すことで、ソーシャルインパクトの最大化に貢献したいと考えています。

事業領域としては、戦略の策定、人材・組織強化、財務基盤強化のサポートとしていますが、クライアントの組織に入っていき、必要なことは何でもやっています。オフィスで一緒に仕事をして、議論に参加もするし、必要であれば資料も作るしテレアポだってします。私と相方はスキルや得意分野の出張りや引込みがちょうど合致するので、ふたりで一緒にサポートに入っています。

今の世の中には、社会が無理していることで起こっている様々な問題があります。このままでは社会が続かないだろうと感じるものも多くあります。そんな課題を解決するために挑戦している人たちを支援することで、社会の持続可能性に寄与できればと考えています。

そう考えると今は、自分の価値観と行動が完全に一致しているので、これまでの仕事とは充実感が違います。「こういう仕事をしている」と自己紹介するのが嬉しいですし、自分の仕事を人に自慢したいような気持ちすらあります。

事業としてはかけ出したばかりなので、真面目でひたむきに、目の前のことに取り組む以上にできることはないと考えています。この仕事を通じて、多様な価値観を持つ人々、究極的には多様な生物・生態系全体が、自然体で持続可能な形でいられる社会を少しずつでも実現できたら嬉しいです。

2015.10.02

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