仕事場も思考も「スッキリ」させましょう!「かたづけ」を仕事にする生き方。
日本初の「かたづけ士」として、かたづけ研修や経営者へのかたづけコンサルティングを行っている小松さん。ものを集めるのが好きだった子供時代から一転して、ものを減らして整理するかたづけの魅力に気づくには、どのような体験があったのか。お話を伺いました。
小松 易
こまつ やすし|かたづけ士
日本初の「かたづけ士」として、スッキリ・ラボの代表を務める。
ものを集めることで自信を補う
私は北海道で生まれ育ちました。生まれつき体が細かったので、小さな頃から自分に自信を持っていませんでした。その分、何かを所有することで自信を持ちたいと思ったのか、ものを集めることが好きでした。ケシゴムやブロマイド、キーホルダー等を収集していたんです。また、知識欲も強く、本を集めるのも好きでしたね。
大学生になってからも、漫画やカセットテープ、ビデオなどを集める「収集コレクター」でした。群馬の高崎で一人暮らしをしていましたが、部屋はもので溢れていたんです。
大学では経済を中心に学んでいましたが、英語が好きだったので、将来は英語を使う仕事をしたいと漠然と考えていました。日本の企業に勤めつつ、海外赴任などをして英語を活かせたらと。
就職活動では、最終的に、先輩の勤めていたゼネコンに就職を決めました。業界の中では中堅のポジションで、会社としても勢いがあり、大手よりも制約なく色々なことに挑戦できることに惹かれたんです。やりたいことは具体的に見えていたわけではありませんが、どの会社に入っても自分次第だと思っていたので、語学を活かす道もあるだろうと。
また、就職が決まった大学4年生の時に、学内でアイルランドとの交換留学制度が始まり、留学のチャンスが舞い込んできました。そこで、一期生としてダブリン市立大学に留学することになりました。
ものを持つよりも経験を積み重ねることの大切さ
留学先ではホストファーザーが様々な体験をさせてくれました。学校が終わり家に帰ってくると、どこかに連れて行ってくれたり、誰かに会わせてくれたりするんです。サッカーに興味があると言えば、地元サッカークラブでの練習に参加させてくれたり、英語の勉強のために新聞を読んでいると、「政治が好きなのか」と政治家に会わせてくれたりしました。
また、彼の娘の卒業した小学校で「折り紙を教えてみたら」と言い、学校と調整をしてくれたこともありました。すると、子どもたちは日本人や日本文化と触れ合うのは初めてのことで、すごく喜んでくれたんです。
他にも、本当にたくさんのことを経験させてもらい、アイルランドでの生活は人生で忘れられない日々となりました。
そして3ヶ月の留学を終え、帰るために荷物をまとめようと思ってベッドの下からトランクを引き出した時、自分がものをほとんど所有していなかったことに気がついたんです。トランクひとつ分の荷物しか持っていないのに、今までにないほど充実した生活を送れていたと。
この時、人は所有するものが少ない方が、豊かな生活を送れることを気づきました。また、ホストファーザーは、ものを持つことより、経験を積み重ねることの大切さを教えてくれたんです。
アイルランド留学によって、ものを所有することへの考え方を変えることができました。
お客さんからの反応を直接感じられる仕事をしたい
日本に帰ると、すぐに社会人となりました。新入社員はみんな建設現場に配属されるのですが、最初は何も分かりませんでしたね。建築の専門用語が分からず、会議でも、夜の飲み会でも、日本語なのに何を話しているのかさっぱり。事務職という役割でも何もできず、技術職の人に頼りっきりだし、コピーすらまともにとれずに馬鹿にされていましたね。
また、ある時、仕事を終えて帰ろうとすると、上長に怒られてしまうことがありました。次の日も使う手帳と計算機を、机の上に置きっぱなしにしていることを注意されたんです。
そんなことくらい、と思いましたが、確かに他の先輩はみんな机の上は綺麗に片づけて帰っていました。また、その建設現場は会社の中でも評価が高かったのですが、トイレも現場も事務所も、どこも綺麗に片づいていました。
それは、全て安全のためだったんです。建設現場では、ひとつでもものが置きっぱなしにされていて、つまづいたらそれは大きな事故につながり、人命にも関わってきます。いかに安全にプロジェクトを進めるか、そのために片づけは重要だったんです。
そんなことも学びつつ、少しずつ仕事を覚えていきました。しかし、ゼネコンでは、技術職の人が世間からは脚光を浴びやすく、私のような事務職の仕事は基本的には裏方。そのため、仕事を始めて4,5年目には、お客様からの反応を直接感じられる仕事をしたいと思い、このままこの仕事を続けるのか悩むようになりました。
そして、自分なりの方法で人に役立つ方法があるのではと、臨床心理士や、整体、カイロプラクティックなどで独立を考えるようになりました。一方、会社の中で何かできるかも探り、MBAを取得して経営を目指そうかと、日本にある経営大学院に通うようにもなりました。
想像を超えていた片づけの可能性
しかし、どれもしっくりこなくて途中で止めてしまっていた中、あるきっかけで、実務的なスキルを身につけるのではなく、自分の人生を掘り下げるプログラムと出会いました。コーチング的手法を用い、自分を発見し、変革させていくんです。
さらに、自分だけでなく周りの人も変えるということで、人に貢献できることを考えて実践するプロジェクトを行うことになりました。そして、アドバイスをすることでダイエットを成功させた事例を見た時、家の片づけも同じようにできるのではと思いついたんです。家を片づけたいと思っている人はいるし、片づけてあげるのではなく、ダイエットプログラムのようにコーチとしてアドバイスをして手助けする方法もあるんじゃないかと。
そこで、4ヶ月のプロジェクトの中で、5人の家の片づけをサポートすることにしました。すると、家が綺麗になって喜んでもらえただけでなく、それ以上の効果があったんです。
ある70歳近い女性は、片づけをする中で、エルビス・プレスリーの大ファンだったことを改めて思い出し、ずっと夢だったエルビスのお墓参りにアメリカへ旅行することを決断しました。また、ある人は片づけたことで彼女ができるなど、5人全員何かしらの効果がありました。家を片づけることで思考もスッキリして、人生のハードルを超えることにつながったんです。
プロジェクトの成果を発表すると、周りに大絶賛され「仕事にした方がいい」とまで言われました。確かに、それまで目指したものと比べても、不思議と本心からやりたいと思える仕事でした。いつかは片づけを仕事にしたいと考えるようになり、会社での仕事も続けながら、片づけの相談も受けるようになっていきました。
そして、2005年の4月、会社の再編があったのですが、私の仕事はこれまでとほとんど変わらないことが分かりました。このままだと自分が停滞してしまうと感じたし、これはタイミングだと思い、12年以上働いた会社を辞めることに決めました。3ヶ月前に結婚したばかりだったので、妻やその家族に反対されたらどうしようかとも思いましたが、みんな応援してくれました。
そこで、35歳にして会社を辞め、「かたづけ師」として独立を決めたんです。片づけの可能性は十分に確信していましたし、この仕事がうまくいく自信もあったので、不安はありませんでしたね。
問題解決ではなく何かを生み出すかたづけ
独立してからは、銀座のシェアオフィスを拠点とするようになり、そこでの色々な人との出会いによって、方向性をブラッシュアップしてもらうことができました。
私が片づけを通してお客様に提供したかった価値が、「スッキリ」してもらうことだと気づかせてくれたのも、このシェアオフィスのオーナーでした。また、片づけには3つの「片」「型」「方」があるので「かたづけ」とひらがなで表すというコンセプトや、「かたづけ師」ではなく「かたづけ士」の方が良いのでは、といったアイディアなども生み出すことができました。
ただ、最初はお金にはならず、苦しい時期が続きました。妻も仕事を辞めて自分の夢に向かって独立してしまったので、家計は苦しい状況でした。
しかし、3年目を終える頃に、少しずつ風向きが変わり始めました。1週間に3件もなかった問い合わせが、毎日1件は来るようになったんです。
さらに、仕事に連続性が出てきたタイミングで、テレビ番組の『ガイアの夜明け』に出演することになりました。5分も映ればいいと思っていたら、30分も映り、そのおかげで問い合わせは殺到。その後出した本もベストセラーになり、経営は安定していきました。
現在はかたづけ士として企業や経営者向けにかたづけのコンサルテイングを行いつつ、講演会や本の執筆なども行っています。かたづけの方法も教えますが、それ以上にかたづけ自体が「その人にとってどんな価値になるのか」に気づいてもらうために、タイムリーな言葉を投げかけるのもひとつの仕事なんです。
独立してからの10年は、モノのかたづけによる問題解決を提示してきた期間でした。仕事場などを片づけることで書類や情報を探す無駄な時間を省き、仕事の効率やパフォーマンスを上げるサポートをしてきました。
しかし、今後はそれだけではなく、「かたづけ」自体が、何か新しいことを生み出すためのものになっていく必要があると考えています。例えば、モノだけでなく、思考を整理することで、何かクリエイティブなことを生み出せたり、対処療法的に意識して「かたづける」のではなく、気づいたら「かたづく」仕組み・状況ができている、そんなことが次の段階では大切なのではないかと感じています。
そして、人が本来持っている「かたづけ力」を引き出して、まずは日本を元気にしていきたいと思います。
2015.09.23