福井発、新種恐竜の研究に込める期待。挑戦の決意と周りの支えで掴んだ、新発見。

福井県立恐竜博物館の研究員を務め、福井県勝山市で見つかった新種の恐竜の研究を行う柴田さん。幼少期から、古く歴史ある物に漠然と関心を抱きながらも、職業につながるイメージを持てずにいた中、自らのやりたいことを追いかけようと決めた背景とは?お話を伺いました。

柴田 正輝

しばた まさてる|恐竜の研究
福井県立大学恐竜学研究所の講師および福井県立恐竜博物館の研究員として植物食恐竜であるイグアノドン類の研究を行う。

※本チャンネルは、TBSテレビ「夢の扉+」の協力でお届けしました。
TBSテレビ「夢の扉+」で、柴田 正輝さんの活動に密着したドキュメンタリーが、
2015年9月27日(日)18時30分から放送されます。

番組公式HPはこちら
番組公式Facebookはこちら

歴史に思いを馳せることへの関心と、サラリーマン以外の道


私は兵庫県姫路市に生まれ、小さい頃から古くから残る物に関心があり、お城や街道・化石や恐竜等に関心を持つ子どもでした。元々、3歳ぐらいの時に誰かが持っていた葉っぱの化石を見て以来、「こんな古いものが残っているんだ」と驚きを覚えたんです。また基本的に、当時の時代や人の行動を想像することが面白く、地元の古い街道を見ると、「ここに人がいたのか・・・」と思いを馳せていました。

ただ、中高と進学していく中で、周りにはそんなことを話している友人がいないことに加え、そういった分野を仕事にすることを考えても、お金に繋がるイメージを持てずにいました。

そのため、職業としてのビジョンはあまりないものの、人がやっていないことに取り組みたいという思いから、高校卒業後は広島大学理学部に進学し、地質について研究をすることに決めました。

ところが、実際に入学して研究室に入るタイミングでちょうど古生物の分野の教授が退官されてしまい、結果的にはある地域の地質的な生い立ちを研究することに。残念ではあったものの、気持ちを切り替えて、学部の卒業後はそのまま大学院に進学することにしました。理系のため周りでも院進学が多かったことに加え、就職が厳しい時代背景もあり、すぐに企業で働くことは頭にありませんでしたね。

また、学部時代からフランス料理屋でアルバイトを始めたことも、私の仕事に対する考え方に大きな影響を与えていました。一緒に働く中で料理人の方の仕事はすごく過酷で、最初はなぜ皆この仕事をしているのだろうと考えていました。

しかし、職場の方々がやりがいをもって仕事に取り組んでいることを目の当たりにし、非常に魅力を感じたんです。この人たちの仕事は人を笑顔にする、と。自分自身、厳しい環境ではあったものの、仕事の楽しさも見つけることができ、次第に気持ちが変わっていきました。

その経験から、将来は自分もやりたいことをやってみたほうがいいんじゃないかと考えるようになっていきました。チャレンジをして、やるだけやってみてから諦めたいと。

そして、自分にとってのチャレンジは、機会が無く真剣に追いかけずにいた恐竜についての研究を、先進国である海外で勉強してみたいというものでした。アルバイトでの経験から、様々な人の生き方を知ったこともあり、ぼんやりとですが、将来は周りが諦めてしまうようなことにも挑戦し、海外で仕事をしてみたいと考えるようになっていきました。

初めての化石発掘と、モンタナへの留学


そんな折、私が恐竜のことに関心があると知っていた先輩から、富山で行われる恐竜の化石の発掘調査に誘っていただきました。そして、初めて訪れた発掘現場でチームの一員として調査を進めていくと、偶然にも恐竜の歯を見つけることができたんです。驚きや喜びととともに、「やっぱり前から好きだったことにチャレンジしてから諦めよう」という思いが確信に変わりました。

24歳でその覚悟を決めてからは、とりあえず海外に行こうと決めて勉強をしようと考え、親戚の会社でアルバイトをしながらお金を貯めて、恐竜の研究で有名だったアメリカのモンタナに行くことを決めました。モンタナ州立大学という学校に有名な先生がいるという理由で選んだものの、特別コネクションがある訳でもなく、まずは附属の語学学校に入学しました。

それでも、現地では人との出会いが私の道を作ってくれました。まず、語学学校の先生の紹介で大学の恐竜化石発掘に参加でき、師事する先生と出会うことが出来ました。さらに、その大学で開かれた学会で、熊本にある恐竜博物館の学芸員の方とも知り合いになることができたんです。

その後、帰国した時にはその博物館で、発掘した岩石から化石を取り出すクリーニングと呼ばれる業務等も任せていただき、ただのアルバイトではなく、今後のキャリアにつながるような経験を積むことができました。何も無い状態でのスタートでしたが、多くの人に助けていただき、次々とやりたいことを実現していくことができました。

周りでは就職して結婚をして家族を持つ仲間も現れる中、自分のやりたいことに打ち込む生活を続けられたのは、周りの方の支えがあったからこそでした。

福井県立恐竜博物館での新種の発掘


それからは、日本でアルバイトをして、再びモンタナに戻り、2年間かけて大学院への進学が決まりました。

すると、進学して半年ほど経ったタイミングで、福井にある県立恐竜博物館で研究職員を募集するという話を聞きました。それまでずっと勉強をして大学院に合格したばかりだったこともあり、応募は考えていなかったのですが、熊本でお世話になった博物館の学芸員の方や、モンタナ州立大学の先生からも就職を薦められたんです。「就職できる機会があるのなら、できるうちにしておけ、研究はいつでもできるから」と。

そこで、応募したところ、採用の通知をいただくことができました。正直、研究業績では他の応募者には劣っていたことは間違いない状況でした。ただ、非常勤の職員ながら熊本の博物館での実務経験や、日本各地での発掘経験があることは、他の学生にはない、自分のユニークな部分だという認識がありました。結果的には、古生物関係の研究職としては比較的早い30歳で就職をすることができました。

実際に博物館で研究員として働き始めると、業務の内容の大枠は理解しながらも、以前よりも大きな組織で戸惑うところも多くありましたが、博物館の諸先輩方の助けを得ながら、なんとかこなすことができました。就職した次の年からは福井県内での発掘調査も始まり、2年目ながら発掘現場を仕切る機会をいただくこともできました。

そして、その発掘調査で「フクイティタン・ニッポネンシス」という、竜脚類と呼ばれる首と尻尾の長い恐竜の新種を見つけることができたんです。これまで国内では見たことがない大きさの骨の化石で、見つけた瞬間に「これはすごい!」と感じました。クリーニング作業を経て、その全貌と素晴らしい保存状態を確認し、早くから発掘の醍醐味を味わうことができました。

新しい発見に期待しながら研究に向き合う毎日


現在は福井県立恐竜博物館の研究員として、研究・展示・普及教育という3つの業務に取り組む傍ら、2013年からは福井県立大学恐竜学研究所の講師として、一般教養として恐竜学を学生に教えています。

研究は、既に見つかっている発掘現場から化石を含む岩石を発掘し、岩石を取り除くクリーニング作業を行い、分析を進めるという流れで行われており、私は福井県勝山市で発掘された「フクイサウルス」に代表されるイグアノドン類という植物食の恐竜の研究をメインとしています。具体的には、発掘されている化石から恐竜の全体像を推測したり、行動を分析したりということを積み重ねています。

また、中国やタイ等の研究機関や博物館とも一緒に発掘研究を行っています。直近では、2008年に福井県勝山市で見つかった恐竜の化石が、草食恐竜イグアノドン類の新種だと判明し、「コシサウルス・カツヤマ」という学名が2015年の1月に認められました。

福井県の場合、発掘が最も大切な部分であるため、そこから新しい価値を生み出しつつ、博物館での展示等を通じて少しでも恐竜の魅力を伝えていければと考えています。

また、大学では一般教養に近い授業を行っています。そのため、個人的に、学生が関心を持って追いかける対象は、恐竜だけでなくてもいいと思っています。できれば少しでも恐竜に興味を持ってもらいたいですが、恐竜の知識が直接仕事に生きることがなくても、それをきっかけに何か自分がやりたいことを見つけてくれたらという思いで授業をしています。

世界レベルで見てみると、恐竜の研究について、日本には研究材料が少なく遅れています。だからこそ、私は日本産の恐竜を研究できるという恵まれた環境を生かして、研究者として、自分の専門の内外を問わず、新しい発見を続けていきたいですね。

研究をしていて辛いとか苦しいとか思うことは無く、分からない部分はもちろんあるものの、その部分を面白く感じています。逆に辛いのは研究ができないことで、今は毎日発見を期待しながら仕事をしています。

私たちよりも上の世代の方が発掘現場や化石を見つけ、立派な博物館を作ってきたからこそ、私たちの世代では、これからもどのようにその魅力をより高めていくのか、どのように新しい発見を生み出すかという点に力を入れていきたいです。

2015.09.21

ライフストーリーをさがす
fbtw

お気に入りを利用するにはログインしてください

another life.にログイン(無料)すると、お気に入りの記事を保存して、マイページからいつでも見ることができます。

※携帯電話キャリアのアドレスの場合メールが届かない場合がございます

感想メッセージはanother life.編集部で確認いたします。掲載者の方に内容をお伝えする場合もございます。誹謗中傷や営業、勧誘、個人への問い合わせ等はお送りいたしませんのでご了承ください。また、返信をお約束するものでもございません。

共感や応援の気持ちをSNSでシェアしませんか?