「花は文化、心の豊かさ」というブレない指針。ダリアの産地を0から作る、文化と産業の挑戦。

【株式会社パークコーポレーション・福島県塙町提供:another life. × 地域 町民全員で花を咲かせる「ダリアの町」福島県塙町特集】福島県塙町役場の農林振興を担当し、町の花ダリアの生産地化に取り組む吉成さん。ゼロから生産地を作るという挑戦を支えた「花は文化、心の豊かさ」という言葉に込められた思いとは?お話を伺いました。

吉成 知温

よしなり ともはる|福島県塙町役場勤務
福島県塙町役場 まち振興課 農林振興係 副主幹兼農林振興係長として、ダリアの生産地作り等に取り組んでいる。

※この特集は、株式会社パークコーポレーション・福島県塙町の提供でお届けしました。

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田舎暮らしへの関心から塙町に


私は千葉県佐倉市に生まれ、地元の中高に通って育ちました。中高ではバスケ部に打ち込みつつ、元々子どもが好きだったこともあり、将来は小学校の先生にぼんやりと憧れを抱いてました。そのため、高校を卒業後は大学に進学し、教員免許を取ろうかと考えていました。

しかし、高校3年生になると、進学だけでなく公務員として就職という選択肢もありだなと考えるようになっていきました。また、同じタイミングで、福島県の塙町という田舎の出身だった父から、「将来は福島に帰りたいと考えているのだけど、お前はどうする?」という話をされたんです。

元々、小さい頃から父の実家には足を運んでおり、夏休み等は1人で泊まることもありました。そして、川遊びはできるし、虫取りはできるし、親には監視されないという福島の環境は、私にとってとても良い思い出だったんです。ごちゃごちゃした都会よりも、田舎もいいかなという思いから、福島県塙町の町役場を受けてみることにしました。

結果的に、警視庁にも内定をいただくことができたのですが、塙町役場の試験に受かってからは、そのまま塙町で働くことにしました。最後は環境が決め手でしたね。

実際に引っ越しをして暮らし始めてからも、都会との違いに驚かされました。都会に比べて人があまり急いでおらず、人付き合いがすごくいいんです。役場の先輩も皆非常に優しく、人間関係にも恵まれました。強いて言えば飲み会が多いのが大変なのと、冬が寒いを通り越して「痛い」ことだけどうしても慣れませんでしたね。

また、一般事務の仕事に加え、老人ホームを尋ねる機会もあったのですが、最初はなまりが強くて何を話しているのか分からないこともありました。それでも、休みもしっかり取れ、ごく普通の公務員生活を送る日々が続きました。

腹を割って話す中で起きた変化


その後、建設課や住民課を経て、25歳のタイミングで農政課への配属となりました。この課は、町内の農家の活性化が使命だったのですが、それまでとは大きく働き方が変わりました。

それまでは、住民の方との仕事上の対話はあっても、腹を割って話すというよりは、手続き上の会話が中心でした。しかし、高齢化も目に見えた状況で、町の農業の振興のためにも何かしなければいけないと考えた時、役所で農家の方が来るのを待つのではなく、こちらから出向いてざっくばらんに話を伺うしかないと考えたんです。

実際に直接農家を回ってみると、私自身、少しずつ仕事への温度感が変わっていきました。「地域」というものに対して、より強い興味を持つようになっていったんです。よそ者だったからこそ知らなかった地域の風土を学べることもあり、毎日新たな学びがありました。

また、何よりも農家の方の生活スタイルを知ることで、農業で収入を上げることはすごく大変だということを思い知らされました。「こんなに頑張ってこれか・・・」とショックを受けましたね。

そこで、それからは直接聞いた声をもとに、付加価値を高められる商品作りや、養鶏所の誘致等、様々な施策を行っていきました。そのスタンスは他の部署に移っても変わらず、福祉課では高齢者の家庭を全て回った上で介護保険の立ち上げを行う等、次第に地域での仕事の仕方が変わっていきました。

「花は文化、心の豊かさ」


その後は異動があり、総務課の配属となりました。直接町民の方と腹を割って話し、施策を考えていくことにやりがいを感じていたからこそ、職員相手の業務が多い総務課配属に、正直あまり前向きではありませんでしたね。

ところが、ある日突然同じ総務課の上司の天沼と2人で秋田出張の打診を受けたんです。驚いて内容を尋ねると、町の花としてまちづくりの一旦を担っていたダリアを、町で切り花として栽培し、産地として出荷するというという計画とのことでした。

正直、よくわからぬままでしたが、秋田のダリア農家の方々を出張で周り、塙町をダリアの産地にすべく、プロジェクトをスタートしました。以前に町おこしの施策の一環として、町民全員にダリアの球根を配って育てた実績もあり、ものにはなるような感覚がありましたが、それを外に販売するとなると、商品になるのか、お金になるのかは未知数でした。

また、「産地ってどうやって作るんだろう?」という純粋な疑問もありましたね。2・3件の農家が生産しているだけでなく、産地と謳えるほど生産者もいて商品力のある状態になるには何年かかるのだろうかと、色々なことに思い悩む日々を過ごしました。

特に、最初は地元の農家の方を中心にダリア栽培の生産者を募集しても集まらない状況が続きました。そのため、それまでの農政課の経験も踏まえ、人の繋がりで地道に依頼を続けていき、なんとか15名前後を集め、昔から地域ぐるみで縁のあった東京の市場とも出荷先の契約を取り交わすことができました。

そこで、これくらい人数がいて売り先も決まっているから、なんとかなるだろうと思い、秋田のあるダリア農家の方のもとに、研修を兼ねて栽培方法を教わりに尋ねることにしました。

すると、研修が終わった後の懇親会で、その方から「そんな簡単に売れるものではない!」とお叱りを受けてしまったんです。「よく考えてこい、花は文化、心の豊さなんだ」と。

その言葉を聞いてハッとしました。元々、私たちが塙町で育てる予定のダリアの球根はその方から仕入れたのですが、特許料等も取らず、通常よりもずっと安い価格で譲っていただいたんです。そして、それはダリアという花を広めたいという思いに基づいたものだったことに気づいたんですよね。

それまで、どこか流行にのって営利を中心に考える部分もあったのですが、その話を受けて文化を広めていくという考え方に変わっていきました。よく考えれば、まちづくりも同じで、人の繋がりを大事にして、文化が根付いていくことが一番大事だったんですよね。

「ダリアの町」の文化と産業を広めていく


町の花ダリアを産業にするという試みは、20名弱の農家の方の協力の元で形になっていき、翌年からは東京での出荷も始まっていきました。やはり「ダリアの町」として全世帯に球根を配っていたこともあり、皆特性が分かっていて始め易いという利点がありました。

仕入れ先や出荷先の方々の協力と交流の甲斐もあり、1年目から非常に高値で販売をすることができ、皆大満足で1期目を終えることができました。毎日のように現場を周り、真っ黒に日焼けをするような生活でしたが、手応えもありましたね。

その次の年、2011年は東日本大震災という大きな出来事がありながらも、福島の南に位置し、海からも遠い塙町はあまり大きな被害を受けず、ダリアの出荷自体は半年後の秋がメインだったため、大きな影響を受けることなく取引を行うことができました。かなり心配していたものの、周りの方々の理解もあり、ほっとした気持ちでいっぱいでしたね。

また、その前後からは、新たな試みとして、首都圏を中心に店舗を展開する青山フラワーマーケットでも塙町のダリアの販売を開始しました。元々、ダリアはブライダル等の法人需要が中心で、長期間日持ちがしないこともあり、消費者向けの販売はされていない状況でした。

しかし、ダリア自体を本当に広めていくには一般の方が買えるものにしないと、という思いがあったんです。産地と店舗の距離が近いことを生かし、鮮度を保って販売まで行う工夫もこらし、消費者の方に向けた販売を開始しました。「花は文化、心の豊かさ」という教わった言葉を胸に刻んでの、新しい挑戦でした。

また、それに伴い、法人取引用の高価な品種だけでなく、消費者の方でも買い求め易い新しい商品作りにも力を入れています。需給バランスが繊細な世界で、ある品種が高値をつけると、次の年は供給過多で値崩れするため、生産者側の利益を保つためにも新規の施策を行っていければと考えています。

産地としては、軌道に乗ったことで生産者が増え、技術的にブレが生じてきているという課題感もあります。やはり、消費者の方が欲しがってくれることが産地であり続けるために必須なので、今後も生産者の研修教育等は行っていく予定です。

「花は文化、心の豊かさ」というキーワードは、ダリアの生産地としてだけでなく、まちづくりにおいても大事にしている考え方です。例えば、一つの切り花の産地として考えると、他の地域が大口で生産を始めると負けてしまう可能性もあります。ただ、もっと広く「ダリアの町」として観光等まで含めて文化を広めていくことで、もっと色々な発想が生まれ、産業としても根付いていくのではないかと思います。

それらを通じて、町が良くなったり、外に知ってもらうことが出来たら嬉しいですね。肩に力を入れても咲く花の本数が増える訳でもないので、欲を出さず、人の和を大事に広げていきたいです。

2015.09.17

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