資本主義によって生み出される格差をなくす。キーワードはシェアリングエコノミー。

格差を生まない新しい資本主義社会の形成を目指し、共有経済(シェアリングエコノミー)事業を立ち上げる姜さん。大学時代にDPR Korea(北朝鮮)で子どもたちに「資本主義」について講義をした時に受けた衝撃とは?お話を伺いました。

姜 大成

Daesong Kang|シェアリングエコノミー事業の運営
マーケティング専門家にいつでも相談できる相談型クラウドサービス「Bizlink」を運営する、株式会社Growtherの代表取締役 兼 CEOを務める。

Bizlink

生かされた命の使い道


僕は東京都江東区で生まれました。祖父の代より日本に来た在日朝鮮人の三世です。そのため、小さな頃から朝鮮学校に通い、日常生活では日本語、学校では朝鮮語を話す生活を送っていました。

父は経営者として様々な事業を興していて、幼いながらに将来は父を超えたい、経営者になりたいと考えていました。ただ、とりわけ勉強ができるわけではないし、スポーツが得意なわけでもない。「普通」の少年時代を過ごしていました

そんな生活を送っていた中学3年生の時、「ギラン・バレー症候群」を患ってしまいました。運動神経が障害され、身体に力が入らなくなってしまう病気で、次第に呼吸などもできなくなると言われていました。そして、すぐに入院することになり、ひとりでトイレに行くこともできない状態となりました。

正直、どうして自分がこんな目に合わなければいけないのかと感じました。しかし、そんな僕を見て悲しむ母の姿は見たくないという気持ちもありました。母を元気にさせるためには、自分が元気でなければならない。そう考えていくうちに、病気への考え方も変わっていったんです。

確かに体が動かなくて、選択肢は狭まった。それでも、できることだってある。そして、自分ができることをやり、楽しく生きることが母の幸せにもなる。

人生にも終わりが見えてしまっていたのですが、残りの期間に対して前向きに考えられるようになったんです。すると、1ヶ月ほどした時に、「誤診だった」と言われ、身体も動くようになりました。

この時、「あたりまえのこと」ができる喜びを実感したとともに、自分は生かされたんだと感じましたね。そして、与えられたこの命を必死に生きようと思ったんです。

DPR Korea(北朝鮮)で資本主義の授業をして得た気づき


その後は学ぶ楽しさを覚えて、懸命に勉強するようにもなりました。高校2年生からは商業班に入り簿記2級を取得し、そのまま会計資格を専門学校で取得しようと思いましたが、起業をするなら会計士は雇えば良いとの父の一言をキッカケに、全寮制を原則とし、組織や人の成長に焦点を当てた朝鮮大学校にそのまま内部進学しました。

朝鮮大学校は、北朝鮮と韓国に別れる前の朝鮮時代の流れを組んでいたので、マルクス経済学が主流で教えられていました。そんな環境にいたので、周りには共産主義に傾倒している人もいたし、反日の人もいました。僕は、両親の影響もあって自由主義者でしたが、彼らの主張もそれとして受け止めていましたし、誰と話すかによって自分の主張をするのかどうかは使い分けていました。

その中で、僕自身は父も商売をしていたこともあり、「自由主義の経済ってどうなのか?」と興味を持ち、金融に関して学んでいました。そして、大学3年生の時には、DPR Korea(北朝鮮)に行き、現地の子どもたちに資本主義の仕組みを教えることがありました。ただ、僕はあくまで資本主義の事実を伝えようと考え、メリットとデメリットは伝えるものの、自分の主張は挟みませんでした。

すると、子どもたちが、真っ直ぐな目を向けて「先生はどうしてそんなに不幸な国に住んでいるのですか」「我々の豊かな国に来てください」と言うんです。僕は、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けてしまいました。

確かに、彼らは平壌に住んでいたので、他の地域よりは生活水準が高い地域でしたが、それでも、日本の方が生活水準が高いのは明らかでした。そこで彼らに、「物欲はないの?」と聞くと、「欲しいものは何でも国が配布してくれます」と言うんです。

この言葉を聞いた時に、むしろ日本を筆頭にした先進国での課題を感じました。日本は求める水準が高過ぎて、相対的な満足に対する枯渇度合いが高いのに対して、北朝鮮はその水準が低い分、相対的な枯渇度合いも小さく、結果「幸せ」を感じる人が多いのではないかと。

もちろん、高い水準を満たされている人が一番幸せかもしれませんが、実際には、水準を達成できるかどうかの格差は大きいし、資本主義は構造的に格差が生み出されてしまう仕組み。そして、本質的に人が豊かになるような成長とは、格差が助長されるものではなく、多くの人が幸せに近づけるものではないかと考えるようになったんです。

社会の仕組みを変えられるのは、銀行でなく起業


そこで、格差を助長してしまっている銀行のあり方を変える必要があると考え、大学卒業後は、在日朝鮮人向けの銀行として歴史のあるハナ信用組合に就職することにしました。ハナ信用組合の「戦後当時、一般の銀行からお金を借りることのできない在日商人に機会を提供する」という秘めたる理念にも共感していましたし、内部から銀行を変えたいと思ったんです。

入社してからは銀行にあるマニュアルを読みあさり、改善した方がいいと思ったことは即座に提言していました。しかし、新人の言うことなど聞いてはもらえませんでしたね。

また、僕が働き始めてから、父の事業の雲行きが怪しくなっていきました。これまでも危機的状況はありましたが、それまでとは明らかに雰囲気が違いました。家にいると、銀行の人間が取り立てに来ていることが分かるんですよね。家が差し押さえられてしまうかもしれない状況でした。

一方、僕自身、仕事では首が回らなくなった父と同年代の経営者の家に行き、融資を返済するようにと催促していました。お金を返せない状況を実家を見て嫌というほど実感しているのに、目の前の人には同じ行為をしていたんです。

相手の気持ちを痛いほどわかるのに、何の力にもなれない。そんな状況に何度も悔し涙を流しましたし、銀行の機能では社会を変えられないと感じてしまったんです。

そこで、3年ほど働いた会社を辞めて、起業することを決めました。自分で社会を変える仕組みを作ろうと。そして、まずは起業する力をつけようと、起業家を排出している会社に転職することにしました。

ところが、朝鮮大学校やハナ信用金庫の経歴は、日本社会では学歴や職歴がないのに等しく、転職活動は難航しました。貯金を切り崩しながら必死に動き、最終的にはインテリジェンスの新規事業である「i-common」の事業部に入社できましたが、それまでには半年もかかりました。

共有経済を広げることによって格差をなくす


i-commonは、定年退職したシニアビジネスマンを中小企業に顧問として紹介し企業経営の支援をする事業でした。僕は、この立ち上がったばかりの事業を拡大する営業コンサルタントの仕事に就きました。

最初はトップの営業を真似することからスタートし、次第に成果を出せるようになり、事業のボードメンバーにもなることができました。しかしながら、営業として契約を取ってくるものの、成果がなかなか出ず、すぐに解約されてしまうなど、苦い経験もたくさんしました。

そして、3年間でトップセールスとなりひとつやりきった感覚を持てたし、労働集約のモデルに限界を感じるようにもなり、また外部環境として自分が経営者となって実家の経済を支える必要も出てきたので、2015年5月に会社を辞めて独立をすることにしました。

事業を立ち上げる上では、「共有経済(シェアリングエコノミー)」の概念が重要だと考えていました。余っている知識や人、資産を共有することで、資本主義の格差を助長する間違った構造を変革することができると考えていたんです。これは、数年前から少しだけ関わらせてもらっていた、認定NPO法人Living in Peace代表の慎泰俊さんに影響を受けていましたし、i-commonのサービスはまさに知識を共有するサービスだったので、実感もありました。また、人にとって「協創する」ことは、根源的にある大切なモノだとも考えていました。

僕のこれまでのキャリアを考えると、「お金」「人」の部分は活かせる。そこで、まずは「人」の領域で共有経済を作ろうと考え、新しいカタチの人材シェアリングサービスを立ち上げることにしました。

マーケティング専門家を求める企業とマッチングする


現在は、マーケティングに特化した専門人材のクラウドソーシング事業「Bizlink」を立ち上げたところです。前職の顧問サービスにも近しいのですが、この事業では、個人の働き方の多様化を目指すというよりも、あくまで専門家の智恵を必要としている企業のためのサービスだと定義しています。特に「地方×マーケティング」はひとつのキーワードだと考えていて、地方のよいものをマーケティングの専門家によって世界中に届けていけたらと思っています。

僕自身はマーケティングの専門家ではありませんが、企業が持つ課題を特定して、どの人に頼めばいいかというマッチングに関しては、前職のコンサルティング営業の経験からも得意な領域です。そして、今後はWEBサイト上でその「課題」と「適した人材」が最適にマッチングできる仕組みを作っていきます。

この事業により、まずは専門家の持つ知識を共有できる社会にしていきたいと考えています。そして、いずれは領域も広げていき、「困っている企業」に「適した優秀な人」が共有されていけばと思います。また、「人」の支援だけでなく、マイクロファイナンスのように「お金」も一緒に支援できるようにしたいと考えています。

今の社会は、どうしても「お金」のために働く人が多いような気がします。強い言葉で言えば、資本主義のパーツになってしまっているようで、格差が広がり、よりお金のために動くといった負の連鎖が起きてしまっている。その連鎖を止めるためにも、共有経済を広げていき、お金ではなく、働く豊かさが重視される新しい資本主義社会を作っていきます。

2015.08.17

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