今の社会、挑戦は一回きりじゃないんです。
産業構造の変革をテーマに、地方自治体という立場からIT産業の振興に携わる杉原さん。島根県庁の公務員として、県内のIT関連企業の売上・雇用増をミッションに活動しています。 「誰でも、何度でも挑戦できる環境」を作るというビジョンに向けて活動する背景には、ご自身の体験に基づく、ある危機感がありました。
杉原 健司
しぎはら けんじ|島根県庁職員
この3月まで島根県内のIT関連企業の売上・雇用増をミッションとする、
島根県庁の情報産業振興室に所属。現在は、県東京事務所にて勤務。
また、島根発のプログラミング言語「Ruby」の普及・発展のための組織、
「一般財団法人Rubyアソシエーション」の支援スタッフを務める。
一般財団法人Rubyアソシエーション
政治家としての社会貢献
島根で生まれ育ち、東京の大学に進学しましました。
そのころから、漠然と社会に貢献したいという思いがありました。
社会貢献といっても色々あると思うのですが、僕の場合は、政治家になりたいと思うようになったんですよね。
キッカケは田中角栄の本でした。
賛否両論あるとは思うんですが、ぶっ飛んだことを言いながらも、
人の役に立とうとする姿勢に、共感するところがあったんですよね。
そんな影響もあり、大学も後半に差し掛かる頃には、官僚になろうと考えるようになっていました。
法律を作るという、分かりやすい形で社会に貢献できると思ったんですよね。
ところが、国家公務員1種の試験に落ちてしまったんです。
もう一年浪人するという選択肢もあったのですが、
親に迷惑がかかることもあり、並行して受けていた地元島根県の県庁で働くことに決めました。
最初は入るつもり無く受けていましたね。(笑)
社会人になり、県庁の仕事の傍らで政治に関わる機会があり、
正直、自分が想像していた世界ではないと感じたんですよね。
同時に自分の力不足も感じ、「政治家」として社会に貢献することは、
早い段階で諦めることになりました。
もっと利用者に寄り添った仕組みにできる
最初こそ、志望していなかった仕事でしたが、業務をこなしていくうちに、
どんどん熱中していきました。
色々な分野の部署を渡り歩いたのですが、どこにいる時も、
「ここに骨を埋めてもいいかな」
と考えていましたね。
ひどい時は3日連続で徹夜して働くこともありました。
その中でも、IT産業の振興に携わる部署に配属されてからは、特にのめり込んでいきました。
島根県はプログラミング言語「Ruby」の開発者、まつもとゆきひろさんが住んでいらっしゃることもあり、
Rubyを軸としたIT産業支援に力を入れているのですが、
業務に取り組む中で、だんだんと産業構造に課題を感じるようになっていったんですよ。
僕が所属していたのは、島根県内のIT産業の売上高・雇用を増やすことがミッションの部署なのですが、
支援先の多くが、東京など、他のIT企業からの多重下請け先だったんです。
請け負い型の業務だと、どうしても発注元へ納品することがゴールになってしまい、
最終的な利用者への価値提供に目が向いていないんですよ。
そのような、産業自体が抱えるひずみを目の当たりにし、
もっと利用者に寄り添った仕組みにできるんじゃないかと思うようになったんですよね。
アタマにドカンときた気がしました
そんな折、東日本大震災が起こりました。
僕も4月の中旬に約10日間ほど県としての支援活動の一環で東北に向かいました。
基本的には、避難所に寝泊まりする方のサポートや、救援物資のやり取りを本部と行うという作業だったのですが、
情報伝達の手段は電話かFAXで、なかなかタイムリーに連絡が取れなかったんです。
当時、企業では安否確認の手段として、TwitterやFacebookが機能していたので、
役場もITツールを使えばいいのにと思い、持ちかけてみたんです。
ところが、
「そんなの、使い方が分からない」
と言われたんです。
正直、カチンときたんですよ。
市民のことを考えたら、勉強すればいいのに!と思ったんです。
そんな思いを抱え東京に帰って一週間ほど立った頃、
冷静に考えてみると、「使えばいいじゃん」というのはIT側の意見なんじゃないかと思うようになったんですよ。
プロダクトは作っているものの、誰もが使える状態になっていない。
相手に寄り添う視点が欠けているという意味では、自分たちも同じだったんです。
アタマにドカンときた気がしました。
自分が取り組もうとしている課題を、自分たちがそのまま体現してしまっていたんですよ。
これじゃあ世の中回っていかない、そんな危機感を持ちました。
利用者を向いた、「探索型」の価値提供
ちょうど同じ時期に、これからのIT産業がどこに向かうべきかというテーマで、
業界で活躍される方から色々な意見を伺う機会がありました。
その中で、自分でもだんだんと見えてくるものがあったんですよね。
今の時代、スマートフォンやソーシャルネットワークの普及により、個々人の価値観が多様化していると思うんです。
そんな中、「何が受け入れられる価値なのか」を見極めるのは難しいです。
だからこそ、「探索型」でお客さんの求めている価値を探しながら商品・サービスを修正していかなければいけないと思うんです。
価値観の多様化した時代だからこそ、利用者を向いて事業を適応させていけるような構造になるべきだと思うんです。
僕個人としては、そうやって産業構造を変えていくために、経済環境の面から支援したいと思っています。
島根県内の地方金融機関が、企業の事業計画書をもとに融資を行い、
企業が基本的に毎月の元本、利子の返済を求められるような仕組みでは、
初期の段階でキャッシュアウトを抑えたい上記環境での挑戦と相性が悪いと思うんです。
だからこそ、近い将来、地方でベンチャーキャピタルを立ち上げ、挑戦する人に投資をしようと思っています。
正直、一発で事業を当てるのは、宝くじに当たるのと同じくらいの確率じゃないかと思います。
だからこそ、何度でも挑戦する人が評価される世の中にしたいし、
それを支えるような経済的な仕組みを作りたいんです。
「誰でも、何度でも挑戦できる環境」を作ること
それが、僕の目指す社会貢献なんだと、今は考えています。
2014.04.29