期間限定のアクセサリーで植物をもっと日常に。花屋という夢を、自分らしく叶えるための選択。

植物を用いたアクセサリーの販売やワークショップ運営を行う高畠さん。学生時代のアルバイトを通じて花屋に憧れを抱きながらも、実際に就職をしてみると、独立してお店を回していくことの厳しさも感じたそうです。「それでも花と関わっていたい」と考えた高畠さんが選んだ道とは?

高畠 美月

たかはた みつき|植物を用いたアクセサリーの販売・ワークショップ運営
植物を用いたアクセサリーの販売・ワークショップを行うmicromの運営を行う。

獣医から花屋に変わった夢


私は東京都大田区に生まれ、都内の学校に通って育ちました。小さい頃から動物や植物が好きで、家ではペットを飼わせてもらえなかったものの、小学校で飼育委員になって以来、ぼんやりと獣医に憧れを抱くようになりました。

そこで、高校を卒業後は、数学や理科が得意だったこともあり、獣医学科がある大学を受けることに決めました。しかし、受験の結果、狭き門を通過できず、現役で合格できたのは同じ学部の農学科のみ。浪人して獣医を目指すか、合格した学科に行くか考えた結果、「植物も嫌いじゃないし、まあいいか」とそのまま農学科に進学をすることにしたんです。正直、成り行きの部分もありましたね。

そんな背景ではありましたが、実際に入学して授業が始まってみると、実習で畑に行き作業をすることはとても楽しかったです。植物の成長が目に見えて分かり、趣味だった園芸とも通ずる部分がありました。逆に、いわゆる研究等、白衣を着て行う作業は苦手で、「品種を改良して・・・」という理屈は分かるものの、実験を積み上げていくことは向いていないなと感じるようになりました。

また、大学生になってからはやってみたいバイトに挑戦しようと思い、まずは本屋さん、次に花屋さんで働きました。すると仕入れた商品をそのまま売る本屋とは異なり、花屋では自分で素材を組み合わせて商品を作ることが出来、自分の力次第では高く売れたり、技術がないと作れないものがあったりすることに、とても面白さを感じるようになったんです。

素材となる花が季節ごとに変わっていくのも独特で、その時々に偶然そろっている中からアドリブで作る感覚も楽しかったですね。1年間働かないと覚えられない植物があったり、大学で学んでいた生産現場と結びつく点もあったり、アルバイトながら非常にやりがいがありました。

そんな大学生活を経て就職活動を迎えると、私たちの世代は、ちょうど就職氷河期と呼ばれる時代でした。そして、なんとなく進学した農業方面は仕事にするイメージが持てず、逆にバイトでやりがいを感じた花屋で働きたいと考えたんです。ただ、飽くまで店頭で働きたかったため、大学ではそのような求人は見つけることができませんでした。

そこで、「花屋の現場に立つ仕事の求人はどこに来るだろう?」と調べた結果、どうやらその領域の専門学校があることを知ったんです。ありがたいことに、バイト先の花屋さんからも就職の声をかけていただいたのですが、一度花について体系的に学びたいという気持ちもあり、大学を卒業後は専門学校に進学することに決めました。

「1人で花屋をやっていくのは無理だな」


専門学校では花や園芸について1年間学ぶクラスに通い、フラワーデザインを基礎から学びました。ものすごく課題の多い学校でしたが、「うまくならなきゃ」という一心で取り組み、充実した時間はあっという間に過ぎていました。

そして、もっと自分の裁量で仕事をしたいという思いから、自然な流れで、将来は自らお店を開こうと考えるようになりました。そのため、大きな会社ではなく、仕入れから現場、経営まで全て見れる規模の店舗で働きたいと思い、個人経営のお花屋さんに就職を決めました。

ところが、実際に正社員として働き始めると、バイト時代とは全く異なり、ものすごく仕事が大変だったんです。仕事内容自体は面白く、皆いい人ばかりなのですが、体力的な厳しさを痛感したんですよね。元々、体力が無い方だったので、10時間は立ちっぱなしという環境は私にとって堪えるものでした。特に、お寺の仕事を請け負っていたこともあり、お彼岸やお盆の時期はとにかく忙しかったですね。

決して誰かが悪い訳ではなく、業界の特性としてしょうがないことだったため、そのような状況を目の当たりにし、改めて「お花を売って利益を出して暮らしていくというのはこういうことか」と再認識しました。「これだけやらないとお給料が出せないのだな」というのが本音でしたね。

元々、独立のために最低3年、長くても5年働いたら店を辞めようと考えていたのですが、実際に3年働いてみると、「1人で店売りの花屋をやるのは無理だな」という考えに至りました。創業資金とかやる気とかそういった問題ではなく、一人で店を回して利益を出して長く続けるのは、私には無理だと感じてしまったんです。

花を日常に取り入れるアクセサリーの可能性


しかし、お花の仕事は続けたいという思いがあり、何か手段がないかと考え、通っていた専門学校に行ってみると、たまたま学校内の実習店舗のアシスタントの枠が空いており、週2・3日の勤務で雇っていただくことになったんです。また、業界的に繁忙期が集中するため、花屋の派遣会社が出来始め、そのような業者に登録をして、派遣で短期的に行う仕事も並行するようになりました。それまではお店でみっちり働いていた分、フリーランスのような働き方ができたらという思いもありましたね。

ただ、派遣の仕事は季節変動が大きかったため、その時間で何か自分の仕事を作りたいと思い、アイデアを探していると、洗足にオーナーを日替わりで募集するカフェがあることを知りました。そこで、毎週金曜日だけ店舗を借り、お花屋さんのあるカフェというコンセプトの「花カフェ」の運営を始めたんです。

開店後、店先では季節の花を売り始めたのですが、お客さんの反応が非常に勉強になり、改めて「花が日常にあるのは良いな」と再認識する機会になりましたね。それまではずっと花業界の中にいたから当たり前になっていたことも、一歩外に出て他の業界の人と仕事をすると、自分のスキルやノウハウを活かす幅が広がったような感覚がありました。

元々、花カフェのプロジェクトは3年の契約だったのですが、その期間が終盤を迎えると、今度は花を用いたアクセサリーに関心を持つようになりました。花屋の仕事の中で、結婚式用のコサージュや花冠等、細かいワイヤーワークを用いたアクセサリーを作ることがあったのですが、派遣の時に久しぶりにその作業をしていて、なんだか楽しさを感じたんですよね。

ただ、式場のように統一されたデザインではなく、もっと自由に作りたいという思いから、コサージュを1日1個作り始めるようになったんです。アクセサリーという形にすることで、日常に植物を取り入れやすくなるんじゃないかという思いもありました。

すると、毎日作っていくうちに、コサージュお作ってみたいという人や、結婚式のようなフォーマルな場以外でも身につけてみたいという人がたくさんいることに気づき、ワークショップを開いてみても反応がとても良かったんです。多くの人が興味を持っているのに機会が無いのはもったいないと思い、コサージュだけでなく他のアクセサリーもできるのではないかと、色々な植物を使って1つずつ作って研究する日々を過ごしました。

そんなことを続けていると、ある時から「そのアクセサリーを販売してほしい」という声をいただくようになったんです。そこで、「microm」という名前でプロジェクトをスタートし、いくつかの商品をオンラインで販売し始めました。

一人でも多くの暮らしに植物を


現在は、専門学校の仕事と並行して、花屋の一形態として、植物を用いたアクセサリーの販売やワークショップを行っています。素材となる植物は仕入れるものもありますが、一部は自ら育てるところから行っており、実際に作り方を覚えれば、身の回りの植物に置き換えることも可能です。そういった目線を持つことで、植物を通じて季節を感じるキッカケになればという思いもありますね。

ワークショップでは、幅広い年齢の女性にお越しいただき、ガーデニング等を趣味としている方もいらっしゃいます。ただ、そのように既に関心を持っている方だけでなく、あまり植物に興味が無く、花屋にも行かないような人が、アクセサリーを通じて植物に興味を持ち、花屋に足を運んだり、実際に育てるところまで至ってもらえるのが理想です。

植物を用いたアクセサリーということもあり、使える期間が限られていたり、ドライになっても1年から2年くらいでもろくなったり色あせたりするという面もあります。ただ、そういった変化を通じて「季節や植物が有限である」ということを感じてほしいんです。いつもでも同じものができないからこそ、全てが思い通りにならないからこそ良いと思うんです。だからこそ、「この季節しか付けられないところが良いですね」というような声をかけてもらえることは嬉しいですね。

また、他の活動も含め、個人的には1人でも多くの人に植物に触れてほしいというのが一番のモチベーションです。一生花屋に来ない人もいるからこそ、花屋でないところでも花を見てもらいたいですね。きっと好きになると思うし、植物を楽しむことは決してハードルが高いことではないと思うんです。

今後、micromでは、植物を種から育ててアクセサリー作りに繋げていくプログラムも予定しています。ただ綺麗というところで終わらず、生産の過程まで知ることでより魅力を感じられるのではないかと考えています。そんな風に、植物を暮らしの中に取り入れるようなことを、自分のペースでゆっくり長く続けていきたいですね。

2015.07.01

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