スマホひとつで気軽に転職を!総理大臣ではなく起業家として果たす使命とは。
スマートフォンで気軽に転職相談ができるサービス「ジョブクル」を運営する、株式会社スマイループス代表取締役の仲子さん。日本の教育を変えることを志し、総理大臣やビジネスの道を模索する中、大学4年時に訪れたカンボジアで想いが確信に変わる転機がありました。「夢を持つ人が才能を開花させ、その力を活かせる社会を目指す」と語る背景にあるお話を伺いました。
仲子 拓也
なかこ たくや|転職相談サービス「ジョブクル」運営
転職相談サービス「ジョブクル」を運営する、株式会社スマイループス代表取締役を務める。
やりたいことが見つからない教育なんておかしい
私は山口県で生まれ、広島県で育ちました。父は建築家として建築事務所を経営していたので、働く姿をよく見ていました。経営状態の波はあるものの楽しそうに仕事をする父を見て、私も将来は「好きなことを仕事にするんだ」と思っていました。また、サラリーマンになるイメージは持てませんでしたね。
小学校卒業後は中高一貫の進学校に進み、テニスに夢中になっていきました。高校も県大会でも優勝するような強い学校で、毎日テニスに明け暮れているうちに、将来もスポーツの世界に携わりたいなと考えていました。しかし、毎年あと1回勝てば全国大会に出られるようなところで負けてしまい、選手としては限界を感じていました。
私は「一番」にこだわりのある性格で、高校での文理選択でも、得意な数学で一番になるためにあえて文系に進むような人間。選手が難しいのであれば、栄養学に長けたトレーナーとして一番になることで、一生スポーツと関わっていきたいと考えたんです。そのため、文系ながら、数学と化学と英語しか勉強せず、理系の大学を目指していました。
しかし、周りの友人は、将来やりたいことから大学を選ぶのではなく、「偏差値の高い大学」を目指している人ばかりでした。この時、「誰もやりたいことがないのかな?」と強烈に違和感を感じてしまったんです。
通っていた学校は私立の進学校ですが、300年近い伝統があり、自由を重んじる校風。その中で6年間も過ごしてやりたいことひとつ見つからないなんて、そもそもの教育システムがおかしいのではないか。そう思った時、「教育を変えること」が自分の使命だと感じたんです。
そして、教育を変えるためにどんな方法があるか考えた末、短絡的でしたが、政治から変えようということで総理大臣になるのが一番だと結論づけました。(笑)そこからは一転、総理大臣になるのに最適な大学はどこか考え、某有名国立大学の合格を辞退して、最終的には慶應義塾大学に進学を決めました。
政治の道か、ビジネスの道か
大学に入ってからは、衆議院議員事務所で私設秘書を始め、政治の世界にどっぷりと浸かっていきました。大学2年次には、郵政民営化に対する国民の意思を問うための解散総選挙があり、私も大学を留年するほど政治の世界に力をいれていきました。
しかし、この時、政治の世界では「コントロールできないこと」が多すぎると痛感しました。マスメディアや、派閥・組織の力。一議員だけではどうにもならないことが多く、この世界で社会を動かすためには、何十年も下積みをしなければ無理そうだと感じてしまったんです。
一方、世間では、若手IT企業経営者が台頭していました。その姿を見て、経済の方が自由に、そして早く社会にインパクトを与えられるのではないかと感じ、将来どの道に進むべきか悩むようになっていきました。
また、私が秘書をしていた議員は、元々はリクルートに勤めていました。ビジネスの世界で感じた課題を政治の力で解決しようとしていて、非常に説得力のある人でした。その姿を見ていたので、いずれにせよ一度社会に出てから総理大臣を目指す方が良いと考えるようになりました。
そこで、選挙の後1年ほどで秘書の仕事を辞め、先輩が立ち上げたベンチャー企業で働かせてもらうことにしました。実際に会社で働くことを経験し、ビジネスの可能性や、一方で自分の実力のなさを認識することができましたね。
そして、次第に政治ではなくビジネスの力で教育を変えたいと考えるようになり、就職活動を始めました。ただ、将来は自分で起業しようと思っていたので、一定期間修行する気持ちでした。そして、感覚的に一番しっくりきたリクルートに入社することに決めました。
夢を実現するために大切な「教育」と「就職」
大学4年生の時には、海外にバックパック旅行に出ました。道中、カンボジアのゲストハウスの1階で警備員をしていたひとりの女の子と話す機会がありました。彼女は7人兄弟の長女でした。家族を養うために朝9時から次の日の朝3時頃まで働いていたのですが、それだけでなく、家に帰ってからは、自分の夢のために日本語と英語と建築の勉強をしていました。そして、日本で建築を勉強したいと話しながら、嬉しそうに見せてくれたスケッチブックには、すごく素敵な建築の絵が描いてあったんです。
その瞬間、高校時代の「環境が整っているけど夢がない」日本の状況がフラッシュバックしたんです。そして、この子のように、夢を持つ人が実現できる社会を作りたい。そのためには、才能を引き出す「教育」だけでなく、その能力を仕事にするための「就職」も大切だと感じたんです。そのため、就職を扱うリクルートに入ることに決めて、心から良かったと思いましたね。
そして、将来「教育」「就職」この2分野での起業を考えつつ、社会人としての生活が始まりました。ところが、リーマンショックの影響で採用市場は冷え込んでしまい、配属されたのは結婚情報誌を扱う部署でした。それでも、仕事は面白く、学べることはたくさんありました。
一方、起業するための事業プランは考え続けていました。考える中で、毎回ITの知識のなさでつまづきレベルの低いプランだな感じ、2年ほどしたタイミングで転職を決意しました。
しかし、異業種のIT業界への転職は、メガベンチャーと呼ばれるところは知っていても、その他はさっぱり。求人サイトをみても全然違いを捉えられない。住んでいた栃木では、休みを取って東京に行き、キャリアカウンセラーと面談するのも大変。そこで、転職先を決める前に会社を辞めることを伝え、時間を作ることにしたんです。転職はなんてリスクがあるのかと思いましたね。
面接の「第一印象」を動画で代替するサービス
そして、Speee(スピー)という会社に入り、海外向けソーシャルゲームの新規事業に携わりました。うまくいかないことも多く実力不足を感じましたが、サービスを開発する体験の中でたくさんの学びがありました。
その後、2年で辞めると決め、最後の引き継ぎ期間で事業計画を練り始めました。分野を絞らずにアイディアを出してみましたが、「教育」「就職」以外では、人生をかけてやり遂げたいと思えず、収益性も加味して就職の市場で事業を作ることにしました。
また、ちょうど会社で採用の仕事に携わっていて、「面接」に課題感を持っていました。時間単価の高い役員が、一日中面接に時間を割いていたのですが、「会った瞬間に合わないと思った」と言うことも多かったんです。会った瞬間に答えが出ているなら、その後の30分は時間の無駄だと。
そこで、調べてみると、人は30−90秒で人の第一印象を判断していることや、アメリカではビデオ面接が盛んに行われていることが分かりました。また、アメリカのベンチャーキャピタルでも、一次選考を世界中から送られてくるビデオレターで行っていることを知りました。起業家への投資という、相性を最も大事にする分野でも映像が使われるのであれば、これは間違いないと感じたんです。
そして、2012年12月に会社を立ち上げ、企業が候補者の自己PR動画で採用選考できるツール「Entry Movie.com(エントリームービー)」を始めました。企業としては、無駄な面接をできるだけなくせるだけでなく、海外留学生の採用など距離があってなかなか会うことができなかった候補者と会えるなどメリットがあり、候補者としては、履歴書だけでは伝わらない「自分らしさ」を伝えることができるというメリットがありました。
ただ、α版として出したサービスはまだまだ課題ばかりで、チーム作りも上手くいかず、すぐにお金の底が見えてしまいました。絶望的な状況でしたね。しかし、ある夜、沈んだ気持ちでユーザーが送ってくれた動画を見ていると、やっぱりこのサービスには価値があると確信したんです。正直それまでは自己資本で経営したいと思っていましたが、それって、自分のエゴで会社をコントロールしたいだけだったなと、会社の成長のために外部資本を入れようと決めた瞬間でした。
そこからは積極的に投資家に会い、思いを伝えて、ほとんどお願いに近かったように思います。そこで男気ある投資家が応援してくれて、再度チャンスを与えてもらいました。
スマホひとつで誰でも気軽に転職活動を始められる世界に
その後、事業の方向性は修正しつつ、採用に関わる様々な人に話を聞いていると、仲介業者の人から、「求職者にオファーメールを送っても返答率が低くて困っている」と言われることがありました。この話を聞いた時、スマートフォンの「プッシュ通知」ですぐにオファーメールに気づくことができ、かつ「チャット」ですぐに返信を送れたら、返答率は上がるだろうと閃いたんです。
そこで、2014年12月から新サービス「ジョブクル」を始めました。これは、アプリに転職を考えている人が自分の情報を登録すると、その人に合った転職エージェントとマッチングされます。そして、エージェントの人とそのままチャットでやり取りでき、自分に合った会社を紹介してもらうことができます。
ジョブクルを使えば、私自身が転職した時に感じた不便さを解消できるんですよね。情報を得づらい地方の人でも、東京のエージェントとスマートフォン上でやり取りできますから。
転職を考えている人のうち、3分の2、つまり約500万人ほどは、実際には転職しないと言われています。なかなか転職サイトみても違いがわからなかったり、転職エージェントに会いに行くほどでもないみたいなところで離脱して、後回しになっていたりするんですよね。
その人たちは、現状の職場に不満を抱きながら仕事をしているわけで、それって幸せな状況ではないですよね。スマホひとつであればどこでも始められるジョブクルは、転職のハードルを下げることで、社会全体の幸せにも繋がると考えています。
2015年5月にはEntry Movie.comは大手人材会社に売却し、ジョブクル一本に集中しています。父によく「お前は何屋なんだ?」と聞かれていたのですが、やっと「人材屋」と言えるスタートラインに立てたかなと思います。「教育」の分野に関しては他にも素晴らしいサービスがあるので、そちらに任せていき、私は「就職」をより良くしていきたいと考えています。
そして、カンボジアで出会った子のように、想いを持つ人が教育を受けて才能を開花させ、その力を仕事に活かして暮らせる世界を作っていきます。
2015.06.11