バイリンガル女子大生コミュニティで世界に。「アジアの希望」を目指す新たな一歩。

「人生に、より多くの選択肢を」「語学をもっと身近に」という2つの想いから、3つのサービスを展開する樋口さん。幼い頃から多様な文化に触れ、日本、中国、アメリカで暮らす中で見えてきたアイデンティティとは。お話を伺いました。

樋口 亜希

ひぐち あき|バイリンガル教育サービスの運営
株式会社Selan代表取締役を務め、インタビューサイト「belong」の運営、バイリンガル教育「お迎えシスター」の事業展開、Youtube動画『Akiの落書きチャイニーズ』の配信を行う。

「人と違うこと」に対するコンプレックス


私は、日本人の父と中国人の母の間に生まれ、2、3歳の頃は中国、小学校4、5年生をアメリカで過ごしました。私の両親は、ずっと共働きで、物心がついた時から、毎日、家に外国人留学生がベビーシッターとして、お手伝いに来てくれていました。色んな国のお姉さんたちと触れあうことで、私の世界は広がっていきました。

また、母方の親戚は、アメリカ、中国、ブラジル、オーストラリア、マレーシア等、色んな国に散らばり、華僑となったため、親戚で集まると、英語と中国語が入り混じるような家庭環境で育ちました。私はそれが嫌で嫌でたまらず、「どうして私だけみんなと違うんだろう」と、ネガティブな感情を持っていました。人と違うバックグラウンドに自信が持てず、自分の中で英語や中国語を遠ざけるようになりました。

しかし、10歳の頃に父の仕事の都合でアメリカのボストンに引っ越すと、その考え方はがらっと変わりました。アメリカには多種多様な人種がいて、それぞれが自分のアイデンティティに誇りを持って生きている姿は、とてもインパクトが大きかったんです。

特に、私の通っていた学校での出来事は印象的でした。耳の聴こえない生徒が同じクラスにいたので、私たちのクラスだけ、特別に手話の授業があったんです。そのため、授業中もみんな手話で会話していました。「今日の放課後、何して遊ぶ?」って。先生にバレないし、これは便利だと思いましたね。(笑)

アメリカでは、自分と異なるものを受け入れるとはどういうことかを実感し、人と違うからこそ「私」なんだということに気づくことができました。

自分への挑戦、北京大学を目指す


ところが、日本に帰国すると、漢字が読めなくなっていたり、アメリカの方が算数の進度が遅いため、クラスメイトと比べて計算ができなくなっていたり、耳にピアスを開けていたりと、「みんなと違うこと」を理由に、からかわれるようになりました。それが嫌で学校に行きたくないと思うこともありました。

ただ、学校の授業は大好きだったので、気づくと、大学受験のために必死に勉強するようになっていました。特に世界史に魅了され、毎日、友達と世界史のクイズを出し合って遊んでいましたね。(笑)しかし、努力も虚しく、志望校には入れなかったんです。

入学した大学での生活は、まあまあ楽しかったのですが、このまま再チャレンジしないで終わるのは、なんだか自分らしくない気がしたんです。そこで、自分のルーツでもある、中国に足を運ぶ決意をしました。

出会った中国人の学生達は、私にとって、ものすごく衝撃的でした。みんな壮大とも思える夢や目標を持っていて、それを達成するために逆算して人生計画を立て、猛烈に努力する人ばかりだったんですよ。その姿を見て、私も「この人たちと一緒に勉強したい!」と強く思ったんです。

中国の学生に感化され、日本の大学を辞めて北京大学を受験することにしました。北京大学の受験は、もちろん全て中国語なので、まずは、全く話せなかった中国語の勉強を始めました。その後、受験勉強を始め、毎日15時間、朝から晩まで勉強する生活を9ヶ月間続けました。

出る杭しか生き残れない中国での生活


受験期間中は、ストレス性胃炎で3回入院しました。(笑)でも、なんとか北京大学に合格することができました。9ヶ月間、気を張りつめて勉強していたので、合格が分かった瞬間は、全身の力が抜けて立っていられなかったですね。(笑)

ただ、入学後の大学生活4年間は、受験期間よりもさらに大変でした。中国の大学は、成績不良者や不正をした人を容赦なく退学にするんです。実際、カンニングがばれ、テスト中、その場で退学届けを書かされたクラスメイトもいました。また、私は、中国語が完璧にできる訳ではありませんでしたし、中国人の学生は優秀かつ努力家ばかりだったので、授業に着いていくので精一杯でした。

中国の学生は、授業中とにかくよく質問をします。私も、ディスカッションの授業で、数百人の前で論破されることも多々ありました。でも、そのおかげで、人前で何か発言することや失敗することを、恥ずかしいと思わなくなったんです。間違えるのは悪いことではない、むしろ今ここで間違えを知れたのは、ラッキーなのだと。

中国は人口が多いため、「出る杭は打たれる」のではなく、「出る杭しか生き残れない」社会でした。なので、自分を主張することは、生きる上での必須条件でした。小さい頃から、泣き虫だった私は、中国でだいぶメンタルが鍛えられた気がします。(笑)

人生に、より多くの選択肢を


大学3年生になり、外から日本の就活を見ていると、なんだかとても不思議な光景に思えてきました。みんな「自己分析」に膨大な時間を割き、「自分とは何か」を見つけようとする一方で、全員が真っ黒なリクルートスーツを着て、周りと同化しようとしていることにとても驚いたんです。

その姿を見ているうちに、「個性を出せていないこと」が日本では大きな課題だと感じるようになりました。私自身、自分に自信が持てず、苦しい経験をしたことも影響していたと思います。そこで私は、日本の就職活動を変えたいと思い、就活業界のパイオニアであるリクルートに入社することにしました。

2012年10月に入社し、新卒採用媒体の営業として配属されました。個性的で面白い同期や先輩、上司に恵まれ、リアルな就活市場の動向を学ぶことができました。

一方、日本の採用・就活に携わる中で、日本の若者が「自分らしくハッピーに生きる」ために、もっと自分にできることがあるんじゃないか、と思うようになりました。時が経つにつれて、その想いはどんどん強くなり、気づくと「グローバル」「語学」「キャリア」関連で「何かしたい!」という想いだけを頼りに、2年ほど勤めた会社を辞めることを決めていました。

そして、インタビューサイト「belong」の運営を始めました。「人生に、もっと多くの選択肢があったらいいな」という想いから、このサイトをスタートさせました。テーマはアイデンティティ。「自分は何者で、何が好きか」をきちんと理解し、自分らしい生き方をしている人々のインタビュー記事を掲載しています。

今の日本には、誰かが作った人生のレールがあり、そこから外れることは悪いことのように捉えられている気がします。「この人生を歩めば成功」「外れれば失敗」というように。私は、それは自分の心が決めることだと考え、自分らしい生き方を伝えていきたいと思ったんです。

アジアの希望になるために


また、今は、belongの他に、「グローバル」「語学」「キャリア」というキーワードの元、バイリンガル教育サービスを行っています。「お迎えシスター」という、バイリンガルのお姉さんが、子どものお迎えをしながら外国語教育を行うサービスです。バイリンガルお姉さん達は、ほとんどがアメリカのトップ大学院に行けるTOEFLスコアを持った帰国子女で、とても明るく、天真爛漫な子たちなので、子どもとのフィット感も高いんです。

この事業を始めたきっかけは、私自身の原体験にあります。外国人留学生ベビーシッターに囲まれ、日々色んな言葉や文化に触れた経験は、今の自分にとてもプラスの影響を与えてくれました。自分自身をよく理解するために、まずは「自分と違うもの」と触れることが大切だと考えています。

さらに、小さい頃から外国語に触れることで、語学はコミュニケーションツールであり、「文法通りに話さなきゃ」「テストでいい点を取らなきゃ」と思われている語学のハードルを下げられると考えています。

その他『Akiの落書きチャイニーズ』という、中国語を身近に感じてもらうためのYoutube動画の配信も始めました。「教科書に載っていない中国語」テーマに、現地でよく使うフレーズをご紹介しています。

私は、語学を学ぶコツは基本的には3つだけだと思っています。1、「覚えたらすぐ使う」2、「楽しく学ぶ」3、「とにかく繰り返す」ことです。今、世界ではノンネイティブが主流です。語学は、完璧である必要はないんです。

とはいっても、語学を学ぶ過程で、もちろん、辛い時、苦しい時もあります。『Akiの落書きチャイニーズ』が、語学学習者の方の役に立つような、学習ハードルを下げられるような動画になったらいいなと思っています。

今後は、お迎えシスターをアジア中で展開したいです。アジアの国々では、日本よりも共働き世帯数が多く、教育熱が高いため、お迎えシスターのニーズがあると思っています。子どもたちにとって、アジアのボーダーが無くなるようなサービスにしていきたいです。

そして35歳までに、「belong奨学金」を作りたいと思っています。アジア中の自分らしく生きる人を支援する奨学金です。特に、海外に行きたいと思っている人たちが、もっと気軽に外国で学べ、身につけたスキルや経験をもとに、日本の新たな産業を創る人材が生まれる、そんな奨学金を作れたらと考えています。

私の「亜希」という名前は「アジアの希望になるように」という両親の想いが込められています。その想いに応えられるよう、アジアで貢献できる人になりたいです!

2015.06.05

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