「人生の終わりは必ずしも幸せじゃない。」
介護の問題を全て解決するために再び歩む一歩。

介護業界に携わる若者のコミュニティを運営する秋本さん。学生時代に介護に携わるようになってから、大学卒業後も一貫して、介護業界に携わる若者に焦点を当てて活動してきました。「介護の問題を全て解決したい」と思い、起業するまでには、どのような背景があったのでしょうか。お話を伺いました。

秋本 可愛

あきもと かあい|介護業界に携わる若者のコミュニティ運営
介護業界の若者のコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営する株式会社Join for Kaigoの代表取締役を務める。

遊んで過ごす大学生活への危機感


私は山口県光市に生まれました。小学から高校の間、バスケットボールに熱中し、部活漬けの毎日でしたね。部活引退後は勉強よりも体育祭の副隊長になり、なったからには優勝したいと、受験期に大切な高校3年生の夏休みを応援練習に熱中して過ごしてしまいました。体育祭で総合優勝はできたものの、案の定成績は伸びませんでした。(笑)幸いにもある程度評定があったことで先生に勧められたのもあって、指定校推薦で都内の私大の商学部に入りました。とくにやりたいことがなかったので、経済学部や経営学部などに行っておいた方が良いのではと思っていましたが、商学部に決めたのは、指定校推薦の枠が商学部しかなかったからです。

東京に出てきたのは、ただただ田舎者の憧れで、大きい大学でキャンパスライフを楽しみたい!という気持ちだけでした。やりたいことは全然決まっておらず、大学4年間で見つかればいいなと思っていましたね。その後、大学に入学してからの1年間は、アルバイト・サークル・大学の毎日で、全く勉強せず、ひたすら遊んで過ごしました。

しかし、大学1年目の終わり頃にふと1年間を振り返って、将来に対する漠然とした不安を覚えました。大学4年間がこのまま終わってしまうんじゃないかという焦りがあったんです。たしかに、大学の友達と過ごす時間は楽しかったのですが、小中高と続けていたバスケットボール部時代に比べて熱中するものがなかったので何か物足りなくて、自分自身の成長を感じなかったんですね。

ちょうどその頃、たまたまmixiで起業サークルの新入生歓迎会の告知を見かけました。とくに起業を志していたわけではないんですが、単純に面白そうだと思って、そのイベントに参加することにしたんです。そこで、自分のやりたいことを熱烈に語っている同世代の姿を見て、衝撃を受けたんですよね。ここにいたら成長できるかもと思い、そのまま起業サークルに入ることに決めました。

所属した起業サークルFor Successでは、チームを組んで事業をやりながら学ぶ形で、特にやりたいことが決まっていなかったので、一緒に組んだら成長できそうな人とチームを組みたいと思いました。そして、介護領域で事業を考えているチームに決まりましたが、自分のおじいちゃんおばあちゃんは元気に暮らしていることもあり、介護には全く興味はありませんでした。決まったチームは第一候補でもなかったんですよね。(笑)

ただ、チームメンバーは、自分のことを可愛がってくれた大好きなおばあちゃんが認知症になり、最終的に自分のことを忘れてしまったという悲しい原体験を持っていました。そこで、仲間の認知症による悲しみを減らしたいという思いから、「認知症予防に繋がるコミュニケーションツール」というコンセプトのもと、フリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行しました。

人生の終わりは必ずしも幸せではない


チームを結成した当初、新しいものをつくっていくことに楽しさを覚えていましたが、介護問題を解決したい気持ちは、周りのメンバーに比べて強くありませんでした。そして、1号目が発行した頃、フリーペーパー制作のために、介護現場でアルバイトを始めることにしました。というのも、認知症の人とのコミュニケーションツールを作っているのにも関わらず、私自身認知症の人と多く接したことがありませんでした。介護現場に見学に行ったりもしましたが、認知症であるかそうでないかも検討がつかず、もっと認知症を知りたいという思いがありました。

そこで、小規模のデイサービスのバイトを始め、食事介助・歩行介助・入浴介助・排泄介助やケアマネジャーへの営業や夜勤など、全般的に携わらせてもらいました。通われる利用者さんの多くは認知症を患っており、同じことを何回も話したり、暴れてしまったり、これまでネットや書籍で知っていた認知症の症状を初めて目の当たりにしました。

また、アルバイトの経験を通じて、認知症だけではなく、様々な問題にも触れました。ご家族さんから虐待を受けたり、介護放棄されるケース。夜勤中に「人に迷惑をかけてばかりだから、早く死にたい」と寝る前に神様にお祈りする人もいました。日々年を重ね、人生のおわりに向かって生きているのにも関わらず、「人生の終わりは必ずしも幸せではない」のだと感じましたね。

それだけでなく、介護をするご家族が認知症の親を受け入れられなかったり、仕事との両立が難しかったりと、体力面、精神面ともに疲弊していたり、介護職員が腰痛や精神を崩して辞めていくこともありました。アルバイトを通じて、人生の終わりに携われることはとても尊いことだと感じる反面、人生の終わりに関わる人達の苦しんでいる現状を知れば知るほど、「このままでは嫌だ、変えたい」という思いが強くなりました。

一緒に活動していたプロジェクトのメンバーは、原体験から認知症の「予防」に焦点を絞っていましたが、原体験を持っていない自分としては、起きている全ての問題が気になったんです。それからは、「どうすれば介護業界の問題を、全部解決できるのか?」と考え始めるようになりなりました。

介護の問題を解決していく若者を増やしたい


大学3年生の12月には、フリーペーパー「孫心」が、全国の学生フリーペーパーコンテストで、準グランプリを受賞しました。それから学生団体のインタビューサイトやイベントで登壇する機会をいただくようになり、学生団体の代表や活動的な同世代の繋がりが増えてから、介護業界に優秀な若手が入ってこないことに問題意識を持つようになったんです。

大学生のときに震災があったこともあり、復興支援や国際協力など、社会貢献活動している同世代が多くいました。その一方で、介護業界には同世代の関心が向くことがないと感じたんです。私たちが小学生のときから「高齢社会」と言われてきていたり、最近では毎日のように何らかの形で高齢化問題のニュースに触れる中、課題があることは知っていながらも、自分ごととしてその問題を捉えたり、解決に踏み出すきっかけがないだけなのではないかと思うようになりました。

そこで、若者にとっての介護業界への入り口をつくり、課題解決に関わる人を、どんどん増やしていこうと思うようになりました。

「思い」を「形」にできていない


まずは既に介護に思い持っている仲間を集め、飲み会を開催し、大学卒業後は超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を立ち上げ、定期的にイベントを開催するようになりました。そして、卒業と同時に独立し、企業の広報誌の企画や制作、業界団体の運営など介護関連のお仕事を頂きながら、HEISEI KAIGO LEADERSを運営していました。

この「HEISEI KAIGO LEADERS」は、2025年に向け28歳までの同世代の若者を対象として運営していました。というのも、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者を迎える2025年、要介護者の急増、人材不足、看取り難民や介護離職など今ある問題がさらに悪化すると言われています。2025年まであと10年、私たちの10年間の生き様が2025年をつくると言っても過言ではありません。今から2025年という前代未聞の非常事態に備え、より各々が能力向上に努め、多方面で協力しあう仲間をつくろうと、月に1度、「介護×テクノロジー」「介護×医療」「介護×葬儀」など様々なテーマでイベントを運営してきました。

実際の参加者は、介護を専攻している学生や、介護職はもちろん、医師、看護師、小学校の先生や行政の方など、幅広くご参加頂きました。
しかし、実際はずっとモヤモヤを抱えながら運営を続けていたんです。普段介護に関わっていない人も、興味を持って参加してもらうことはできたものの、私はその先がつくれていませんでした。参加してくれた人は皆、想いの強弱はあれど、それぞれ問題意識を持っていたり、こんなことをやってみたいという想いがあり、そこに私自身可能性を感じつつも、実際に形にするまでの場はつくれていませんでした。

「このままやっていても意味がないかもしれない」

その想いを加速させたのがHEISEI KAIGO LEADERS1周年記念のイベントでした。独立して活動を始めたにもかかわらず、何一つ結果が残せていないことに焦りや危機感があり、1周年イベントは絶対成功させたいという強い気持ちがありました。結果、若手を中心に業界内外から多くの人にご参加頂き、好評頂き、イベントとして表面的には成功だったかもしれません。しかし、何一つ満足できない自分がいたんです。

介護業界の課題の1つの解決策として


そこで、このままではダメだと思い一旦活動を休止し、活動を精査する期間を作りました。正確には「なにか違う」と感じてから、動けなくなったという方が正しいかもしれません。「そもそもリーダーとは何か?」「なぜ介護の問題を解決したいのか?」という原点から問い直すようになりました。それと同時期にリーダーシップ関連の本を読み漁ったり、セミナーに行ったり、新たなご縁を頂く中で、「マイプロジェクト(マイプロ)」という教育手法に出会いました。

マイプロは、慶応義塾大学SFC井上英之研究室によって開発・実践されてきた実践活動を伴う教育手法です。自分自身の問題意識や原体験に基づいて、ずっと挑戦してみたかったことや身近な課題に、自発的に取り組めるプロジェクトを立案し、実現に取り組みます。「マイプロ」を介護業界でもやってみようと、2015年1月から試験的に「KAIGO MY PROJECT」を始め、現在は1期が始まりました。学生、介護職、看護師、医師、介護企業人事や事務職など、業種問わず様々なバックグラウンドや想いを持った人が参加してくれています。

3ヶ月のプログラムを経て、新たな行動がうまれたり、自己肯定感があがったり、周囲の人との関係性が良くなったり、本当にやりたいことが見つかったり、何より3ヶ月のプログラムを共にした仲間との繋がりができ、プログラム終了した今もそれぞれのプロジェクトの支えになっているように感じます。まだまだ社会から見るとちっぽけな変化かもしれませんが1人1人の変化に、とても可能性を感じています。

「現場で感じた問題意識、もっとこんなことがあれば良いのにという想い、それを想いのまま留めたり、不平不満に変えるのではなく、自分ごととして解決のために一歩を踏み出す人が増えれば、もっと介護業界は良くなるのではないか。」誰よりも私自身がその実践者でありたいと思っています。

2015.06.03

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