自ら感じた痛みや悩みを、技術で解決したい。企業向けヘルスケアに込めた思いと可能性。

企業向けヘルスケアサポートサービスの開発に従事する糟谷さん。学生時代からの研究を活かし、デジタルカメラの新機能搭載でも活躍された糟谷さんが、新たに取り組むヘルスケア分野への思いとは?自らが感じた痛みや課題を解決したいと語る背景を伺いました。

糟谷 勇児

かすや ゆうじ|企業向けヘルスケアサポートサービス開発
株式会社リコーにて、企業向けヘルスケアサポートサービス「遠隔生涯ヘルスケアシステム」の開発に携わる。

自らの悩みが研究の種に


私は埼玉県浦和市に生まれ育ちました。中学生頃から周りでゲームが流行り始め、「ゲームデザイナー」が同世代のなりたい職業の上位に入る程の人気で、ゲームが好きだった私も漠然と憧れを抱くようになりました。そして、自らCG作成ソフトを買ってみたり、プログラミングを独学で始めてみたり、色々と行動に移すようにもなっていったんです。技量が無いため、たいしたものなど作れないのですが、さっぱり分からないながらも、面白いなという感覚はありましたね。ひたすら何かを作っていました。

そんな背景もあり、高校を卒業する頃には、もっと情報学を学びたいと考えるようになり、早稲田大学の理工学部に進学しました。

元々勉強自体が好きだったこともあり、大学では勉強を中心とした生活を送りました。とはいえ、自ら手を動かすことに関心があり、大学の授業に出てもその関心は満たせないため、自ら本を買って実際に手を動かして試してみて、ということを繰り返すような日々を過ごしました。

その中でも、「パターン認識」と言われる自然情報処理の分野に関心を持ち、研究を進めていくようになりました。元々、「人間の脳ってどうなっているんだろう?」という部分に関心を抱くようになったんですよね。

というのも、大学に入ってから研究室に入るまでの間、あまり友達ができなかったんです。例えば研究室の仲間のように、同じ文脈を共有している人には話しかけやすいものの、それまではどう友達を作ってよいか分かりませんでいした。いくつかサークルにも参加してみたのですが、いまいち感覚が掴めず、少し悶々としていた時期があったんです。だからこそ、「人間って何なんだろう?」という分野に興味を持つようになっていきました。

その後、大学4年生になり、実際に人間の脳を知りたいという思いからニューラルネットワークと呼ばれる分野の研究を始め、卒論をその分野で執筆しました。しかし、ニューラルネットワークのパターン認識の性能はあまり高くなかったこともあり、より社会の役に立つことに、パターン認識の技術を活かす方向に、研究内容を変更していきました。

論文のための研究でなく、人の役に立つ研究を


そんな大学生活を過ごし、卒業後はそのまま大学院に進学することに決めました。摸索はしながらも、研究に面白さを感じており、大学院でも研究を続けて、将来は研究者になりたいと考えていたんです。

大学院ではパターン認識を画像検索に活かし、手書きで書かれた数式の構造を認識するようなシステムの研究を行っていました。そして、研究を進めていくうちに、教授から博士課程に誘っていただくこともできました。

しかし、大学で研究を続けていく中で、「論文のための研究は本質的ではないな」というフラストレーションも感じるようになっていたんです。実際に世に出して人の役に立つことに重きを置いていたからこそ、企業に入ったほうが良いのではないか、と。

そこで、自分の研究を活かせるような環境を探して就職活動を行い、学会で技術の発表を行う等、研究に積極的に取り組む良い会社だと感じた株式会社リコーに入社を決めました。

実際に入社をしてからは、画像系の研究を行っていたこともあり、スキャニング技術を扱う研究所に配属になり、機能改善のための研究に従事するようになりました。父親がサラリーマンではないため、企業で働くイメージは漫画でしか持っていなかったので、土日に会社の人と遊んだり、先輩からバドミントンに誘われたりという雰囲気に「ああ、社会人ぽいな」と関心することもありました。(笑)そんな風に環境にも恵まれ、会社にはうまく馴染んでいくことができました。

「ペットモード」での成功体験


その後、研究所の統合があり、横浜の中央研究所で映像関係、特にデジタルカメラ向けの機能を考えることになりました。そこで、個人的に猫が好きで飼っていたことから、ちょうど出始めていた顔認識機能ならぬ「猫認識機能」を実現できたら面白いんじゃないかと考えるようになり、個人で研究を始めました。

すると、上司や部門の理解を得られたことで、「ペットモード」という機能として、実際に商品化されることになったんです。正直、搭載に至るまでのプロセスは非常に大変でしたが、自ら提案した企画が商品になるということは非常にやりがいがあり、自信にもつながりました。

しかし、あまり満足感は得られず、「本当に役に立つものをもっと提案したい」という思いは大きくなり、もっとできるんじゃないかという気持ちが募っていきました。

その後は同じ映像の分野で、テレビ会議・Web会議システムの商品開発に従事するようになりました。「会議ソリューション」が商品ということもあり、カメラだけでなくファシリテーションを研究してみたり、技術だけではなく、本質的に役に立つためのプロセスの研究に打ち込みました。

職業病の苦しみとヘルスケア分野での挑戦機会


その後、組織改編を経て、新規事業開発を行う部署に配属となりました。この部署では、先のファシリテーションの研究のように、新規事業につなげることを念頭に置いた提案を行っていたのですが、中々思うような成果が出せず思い悩む日々を過ごしました。

本質的に役に立つことを追求しながらも、それを事業化して収益を出すという点と一緒に考えることは初めての経験で、どうしたらお金になるかを考えるのはとても苦労しましたね。色々失敗もし、モヤモヤすることもありました。

そんな折、上司から新しく参入するヘルスケア分野の事業の開発メンバーにならないかと誘っていただいたんです。元々、個人的にも企業の健康管理については何かできるんじゃないかと思っていたので、非常に関心のある分野でのチャンスでした。

というのも、私自身昔から目が光に弱く、テレビ会議・Web会議システムの商品開発のためにプロジェクターの研究をする中で、光に苦しみ産業医に相談をしていたこともあったんです。「職業病ってどんな分野でもあることだよな」という感覚を強く抱いていたんですよね。そこで、自分でもヘルスケアのために何か出来ることがあればという思いから、新しいチームへの異動を決めました。

自分が感じた痛みや課題を解決したい


そんな背景から、2014年10月より、企業向けのヘルスケアシステムの開発に携わり始めました。具体的には、企業に勤める方の勤怠、健診、生体・環境モニタリングなどからなる健康情報データベースと、専門スタッフ (産業医)が対象者に行う遠隔面談をもとに、健康維持に貢献する情報の提供等を行う「遠隔生涯ヘルスケアシステム」という仕組みのデータ解析部分を担当しています。

医療に近しい分野ということもあり、知識が足らないと感じることもありますが、この分野でも学生時代から研究しているパターン認識を業務に活かすことができ、自分が貢献できることがありそうだという手応えもありますね。企業の健康管理に携わる、産業医、人事部、一般社員にお役立ちできるように、本質的な課題を一緒に見つけ出して解決するための方法を考えていきたいと思っています。

今後もヘルスケア分野を中心に、自分が感じた痛みや課題を解決するようなことに取り組んでいけたらという思いがあります。例えば、ファシリテーションの研究をして行く中で、人が正直に嘘をつかずに生きていく社会を作れないかと考えたり、自分と同じように人付き合いで悩む人の課題を解決できないかと考えたり、挑戦してみたいことはたくさんありますね。

自分は技術者ですが、技術で解決できることは世の中のほんの一部だと思っています。本当に世の中の人にお役立ちするためには、どうやって人と人のかかわり方を変えて良い社会にしていくのか考えることが必要だと思っています。

2015.06.01

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