誰でも気軽に頼めるデザイン屋を作りたい。未経験デザイナーだからこそ感じること。
「デザインを身近にしたい」と想いを掲げ、個人のデザイン事務所を経営するトミナガさん。美大ではなく、外国語大学で生活する中でデザイナーを目指し始めるには、どんなきっかけあったのか。お話を伺いました。
トミナガ ハルキ
とみなが はるき|デザインを身近にする仕組みづくり
デザイン事務所「AMIX」を設立し、ASOBO DESIGNをはじめ、品質×価格のベストバランスを目指したデザインサービスを展開中。
デザイン事務所AMIX
留学生に聞かれて初めて考え始めた興味を持っていること
私は大阪で生まれました。運動が苦手で、勉強は目立つほどはできない。しかも、これといった特技もなかったので、学校ではいじめられるようになりました。居心地は良くありませんでしたが、母親が小学校の教師だったこともあり、学校には渋々通っていました。
小さな頃から絵を描くことが好きで、褒めてもらえることも多かったので、中学では美術部に入りました。しかし、先輩にあまりにも絵がうまい人がいて、その人と比べた時に芸術家としての限界を感じてしまったんです。そのため、部活にはあまり行かなくなってしまいました。
高校では、オーケストラ部に入りました。1人で作品を完成させる美術に対して、みんなで1つの作品を作ることに魅了されたんです。また、オーケストラは人数が増えてもパートを増やせばよくて、「全員レギュラー」なところにも惹かれました。
ただ、楽団奏者として生活を成り立たせるのは厳しいと理解していたので、プロを目指そうとは思いませんでした。両親がどちらも公務員だったので、将来は自分も公務員になるのだろうと考えていました。そして、語学はいくらできても荷物にならないだろうと考え、関西外国語大学に進むことにしました。
大学では軽音楽部に所属してベースを始めました。また、せっかくだから英語を喋れるようになりたいと考え、2回生の時から寮に入って留学生と共同生活を始めたんです。英語を使う環境にいれば、話せるようになるだろうと。
そして、寮では留学生たちとよく進路の話をするようになりました。私は「公務員になろうと考えている」と話していました。すると、「公務員になって何をするの?」「どうして公務員になりたいの?」とか、「何に興味があるの?」と聞かれるんです。
それまでは考えたこともないことでした。些細なことでしたが、それがきっかけとなり、初めて自分が何に興味を持っているのか、将来何をしたいのか、具体的に考えるようになったんです。
未経験からのデザイナーとしての新卒就職
振り返って考えてみると、私が興味を持っていたのは「デザイン」でした。ライブ告知のチラシを作ったり、ゼミでプレゼンの資料を作ったりするのが楽しかったし、作った時に感謝されるのが嬉しかったんです。少しでも興味を持つものを追いかけた先に何かあるんじゃないか。そう思い、デザイナーとして働きたいと考えるようになりました。
ただ、それまでデザインを学んだことはありません。美大の友達には、デザイナーとしての就職は絶対無理だと言われていました。実際、私自身「フォトショップって何?」というほどで、知識もありませんでした。
ただ、やっと見つけた自分の興味があることを、簡単に諦められませんでした。少なくとも、関西でデザイナーを募集している企業は全て当たってみようと。
自分なりに作品を準備して、就職活動を始めました。企業によっては追い返されてしまうこともありましたね。しかし、懐の深い企業が1社あり、デザイナーとして雇ってもらうことができたんです。それも、事業部としては新卒採用一期生としての入社でした。
一番下からのスタートだったので、覚えることがたくさんあって忙しかったですね。ですが、元がゼロなだけに、仕事をした分だけ成長を実感することができ、毎日楽しくてしかたなかったです。
ただ、同期は美大を主席で出るような人だったし、先輩もすごい人ばかりで、私とは圧倒的にレベルの差がありました。このままでは会社のお荷物になってしまうと焦っていました。
そこで、自分のレベルを上げるため、会社の仕事だけでなく個人でも仕事をすることにしたんです。デザイン仕事を受ける窓口として、WEBサイトを作りました。ただ、実績もないデザイナーに仕事の依頼が来るはずありません。そこで、最初はこちらからお願いして無料で仕事をさせてもらい、とにかく実績を作るところから始めました。
中小企業でもデザインを気軽に頼んで欲しい
私が働いていた会社は、様々な商品の「パッケージ」の制作を行っていました。クライアントは大手企業で、1つの仕事も大きなプロジェクト。キャッチコピーを考える広告代理店や、写真素材を提供する人など、仕事は分業で行われていて、私はその中でデザインを担当していました。
当然、動く金額も大きかったので、逆に中小企業はあまり対象としていませんでした。しかし、世の中に存在する会社の数は、中小企業の方が圧倒的多数。それに、毎年何万もの新しい事業が立ち上がっていると考えた時、中小企業の支援をしたいと感じたんです。
また、中小企業からは、デザインの依頼は金額的にもハードルが高いと敬遠されることも多くありました。社内にデザイナーがいない企業は、自社で工夫してロゴやチラシなどを作っています。しかし、それをデザイナーが形にすると、「これが作りたかったんだ」と、とても喜んでもらえるんです。個人的にはその瞬間が好きでしたし、デザイン業務はデザイナーに依頼してもらうことで、本業に集中してほしいとも感じていました。
将来的には、そういった人たちにとってのハードルを下げ、デザインを身近に感じてもらいたいと考えるようになっていきました。個人での仕事は収益化には程遠い状況でしたが、いつか独立してそんな仕事をしていこうと考え始めました。
3社の経験を経て独立を決意
3年ほど働いたタイミングで、依頼されたものをデザインするのではなく、自社商品を扱う仕事をしたいと考え、転職することに決めました。商品への想いや考え方を直接聞き、その想いをお客さんに伝えていくために、「どんな効果を期待して」「どんな施策を行うか」と広い範囲での仕事がしたかったんです。
転職先は、美容・化粧品を扱う会社でした。私は新ブランドの立ち上げを行い、ロゴやWEBサイトのデザインだけでなく、コンセプトの設計、キャッチコピーの考案、素材写真の撮影、店舗でのディスプレイと、商品がお客さんに届くまでの全工程に携わることができました。そのおかげで、それまでは分からなかった、デザイン以外の仕事の大変さも実感できましたね。
1年ほどその会社で働いた後は、家庭用品を扱う会社に転職しました。独立したい気持ちもありました。しかし、現実的には難しく、もっと経験を積む必要だと考えていました。
転職先は変わった家庭用品を作っていて、個人的にもその商品が好きでした。ただ、それが世の中にうまく伝わっていなくて、「もっと世の中に知ってもらおうよ」と、もどかしい気持ちもありました。
そこで、企画広報の仕事を立ち上げることにしたんです。世の中の人に商品の魅力を伝えてるにはどうしたらいいかを考え、メディアやインターネットマーケティングなど、幅広く行っていきました。
仕事で溜まった知見を個人のWEBサイトにも活かすことで、少しずつ個人の仕事も安定するようになってきました。そして、独立しても大丈夫だと確信を持つことができたタイミングで、デザイン事務所「AMIX」を設立しました。
気軽に入れる「デザイン屋」を作りたい
現在は、ロゴの制作、チラシの制作など、コンセプトごとにWEBショップを作り、デザインの依頼を受けています。私の活動の根底にあるのは、「デザインを身近にする」ことです。それまでデザインを頼んだことがない人が、「ちょっと頼んでみようかな」と気軽に思えるようにしたいと考えています。
そのため、デザイン料金はWEBサイト上に記載し、オプションなどもなるべく分かりやすく表記しています。また、デザインだけでなく、チラシなどの印刷を行って納品することころまでカバーすることで、依頼する人の負担を少しでも減らしたいと考えています。
値段も、お金はあまりないけど「みんなで飲み会を1回我慢したら頼める」くらいの価格にしています。バンドや町内会の人がイベント等を告知する時に、「ちょっとかっこいいポスターを作ってみたい」という気持ちで使ってもらえたらと思っています。
私自身、学校などで専門的に学んだわけではないからこそ、デザインは特別ではなく、「普通の仕事」だと思っているんです。だからこそ、お高く止まるのではなくお客さんに寄り添いたいし、クリーニング屋や八百屋のように、気軽に入れる「デザイン屋」を作りたいんです。
実際、「初めてデザインを頼んだ」と言ってくれる人も多く、ほとんどWEB上で注文をしてもらえています。デザイン業界では紹介で仕事の依頼に繋がることが多いので、珍しいことですが、狙い通りです。
WEB上での注文ですが、お客様との繋がりを感じる瞬間ももちろんあります。納品後には、チラシを配った反応を教えてくれるお客様もいて、そういった声を聞ける瞬間は何よりも嬉しいですね。
今後は、紙のデザインだけではなく、WEBデザインなどにも領域を広げていき、新しいことを始めようとする人をワンストップで支援していきたいですね。
独立を悩んでいる時期は、デザイン事務所として何か「新しいこと」をしなければならないと思っていました。しかし、実際は革新的なことでなくとも、周りで困っている人に目を向けて見ると、そこに可能性は広がっていると気づくことができました。多くのデザイン事務所がある中でも、デザインを頼まずに自分たちで行う人もたくさんいて「それはなぜか?」を突き詰めていったことで、色々な隙間が見つかったんです。そして、既存の仕組みを少し変えるだけでも、お客様には「これが欲しかったんだよ」と言われるものをつくれたんです。
これからも、多くの人にとってデザインが身近なものになるため、仕組みづくりを続けていきます。
2015.05.30