人工知能を使いアパレル業界の未来を切り開く!研究者ではなく、起業の道を選んだ理由。

人工知能技術を用いたファッションアプリ「SENSY」の開発等を行う、カラフル・ボード株式会社の渡辺さん。学生時代に、研究者から起業の道を決める背景には、どんな思いがあったのか。「夢の実現のため、考えるだけでなく動き続けたからこそ見えてきたものがたくさんある」と語る渡辺さんにお話を伺いました。

渡辺 祐樹

わたなべ ゆうき|人工知能を使って人の感性を可視化する
カラフル・ボード株式会社代表取締役CEOを務める。公認会計士の資格も持つ。 【採用募集中!】思いに共感してくるエンジニアを募集しています!

人の頭の中にあるものを可視化する人工知能に惹かれる


私は高知県の土佐清水市という田舎町で生まれました。1学年は20人ほどで、幼稚園から中学生まで同じメンバーで過ごすような環境で育ちました。テニスやサッカーなど、スポーツは好きでしたが、性格的にはどちらかといえば落ち着いていましたね。将来はサッカー選手になりたいと思いつつも、そこまで現実的ではありませんでした。

高校は高知市の進学校に進み、大学は慶應義塾大学の理工学部に進みました。そして大学3年生で研究室を選ぶ時には、「人工知能」を選択することにしました。

元々物理が好きで、世の中の事象を、シンプルな計算式で表せることに魅了されていました。その中でも、人工知能は人の頭の中にある感覚や感性といった「目に見えないもの」を可視化できるところに面白みを感じたんです。

研究に没頭するようになり、2週間ほど家に帰らないような時もありましたね。論文の成果も認められるようになり、将来は研究者の道に進もうと考えていました。

一方、興味のあることには何でも取り組む性格だったので、3年生の時には、友達と家庭教師の派遣事業を立ち上げました。どうせ自分で家庭教師をするなら、みんなと一緒に行った方が広がりを出せると思ったんです。

ただ、この事業を一生続けようとは思っていませんでしたし、事業もうまくいきませんでした。営業に苦手意識があり、チラシを置いてもらうお願いをしにいくのも緊張してしまったし、どんなエリアにチラシを置けばいいのかも分からなかったんです。結局、事業は半年ほどでたたむことにしました。

新しい技術ではなく、新しい産業を生み出したい


家庭教師事業と並行して、相変わらず人工知能の研究には夢中になっていました。私は主に、人工知能の処理速度を早くするための基礎研究を行っていました。しかし、4年生の春先に、ふと「このままでいいのか?」と疑問に思うことがありました。

この基礎研究を続けることが、果たして誰の役に立つのか。一体何年後に、誰が社会に適応させるのか。そんな違和感を持ってしまったんです。

そこで、改めて自分は何をしたいのか考えました。根底にあるのは、やはり新しいものをつくり出したいとの思いでした。しかし、それが社会と繋がりを持てることでなければ、やりがいは半分になってしまうと感じてしまいました。

そして、私は新しい「技術」をつくりたいのではなく、新しく「世の中の役に立つこと」をつくり出したいことに気づいたんです。そのために、起業家として新たな産業をつくり出すことが一番の近道だと。

ただ、家庭教師事業の失敗から、ビジネスを行う上で自分に足りていない力を痛感していました。営業、マーケティング、コミュニケーション。そこで、まずは就職して力をつけることにしたんです。

そこで、卒業後は、株式会社フォーバルに「アントレプレナープログラム」の一期生として入社することにしました。そのプログラムは5000人の応募者の中から選ばれた20人が、3年間働きながら起業するための力を身につけるものでした。

厳しいノルマがあり、ノルマを達成できなければ脱落。最初のノルマは3ヶ月で新規法人営業で2件受注することでした。2ヶ月で1件も契約が取れなかった私は、プレッシャーで倒れてしまうほど緊張感を持って仕事をしていました。

その後、何とかノルマを達成し、会社に残ることができました。3ヶ月で半分が脱落し、さらに1年でもう半分が脱落するような厳しい環境の中、新規の法人営業、少人数チームのマネジメント、代理店営業のマネジメントなど、様々な力をつけることができました。

アパレル業界で発生する構造的な在庫問題を知る


3年目になると、自分が求めていた力はある程度ついてきた実感はありました。ただ、会社全体の方針を判断するような力ありませんでした。

そこで、次は戦略コンサルタントとして大きなビジネスを動かす力をつけたいと考え、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社に転職することにしました。フォーバルで3年を終えれば、独立のための出資をもらえる可能性もあったのですが、私にとってはそれよりも時間の方が大切だったんです。

転職先では、事業戦略や人事戦略の策定をしたり、マネージャーとしてクライアントとの折衝やチームのマネジメントなど、様々な力を身につけることができました。

また、ある時、アパレルメーカーのプロジェクトに参加することがありました。現状を分析するために業界構造を調べていくと、業界として売上に対する「在庫率」が異常に高い問題があることが見えてきました。

その在庫率は石油業界と同じ程度。しかし、石油は基本的には商品価値が下がらないので、在庫がいくらあってもそこまで問題はありません。一方、アパレルは「生もの」と言われるほど、流行り廃りが激しいので、多くの在庫は無駄になってしまうのです。それも、在庫率が高いのはメーカーだけでなく、卸も小売も、流通上全ての箇所で発生していることでした。

その背景には、「何が売れるか分からない」という課題がありました。ファッションセンスは人の感覚に大きく依存するので、人の好みや特徴を正確に把握することができないのです。売れるか分からないので、新しい商品はなるべく多くの種類の商品を仕入れていて、それが在庫になっているのでした。

これは構造として大きな問題だと感じ、将来起業する時にはこの問題を解決したいと考えるようになりました。

3つの企業で身につけたい力をつけ、満を持して起業する


1年ほどすると、コンサルタントとして身につけたい力もある程度ついてきました。ただ、財務や会計の知識は皆無で、「減価償却」の意味すら知らない状況でした。

そこで、どうせなら一番高いレベルで勉強しようと、働きながら公認会計士を目指すことにしたんです。毎日仕事も夜遅くまである中、深夜、早朝の時間に集中して勉強していきました。

すると、1年ほどで試験を突破することができました。実務経験や実務補習は、それまでしてきた会社での仕事が認められ、公認会計士の資格もそのまま取得できました。

資格取得後は、新規事業の立ち上げのコンサルティングを行う、イーソリューションズ株式会社に転職することにしました。起業するか悩みましたが、独立前にゼロから新しいことを立ち上げる経験を積んでおきたいと考えたんです。

新しい会社では、新規事業を立ち上げるスタイルを確立することができました。まずは将来あるべき姿を大きなビジョンとして描き、どこから取り組むか戦略を立て、そこに賛同するパートナーと協働していくスタイルです。

そして、1年半ほどで取り組んでいた事業が立ち上がってきたこともあり、独立することに決めました。小さな事業を回す力、大きなビジネスを動かす力、ゼロからイチを生み出す力、そして会計の知識と、独立までに必要だと考えていた力が揃ったんです。

事業としては、大学時代に研究していた人工知能を使って、アパレル業界の問題を解決することに決めました。人の持つファッション感覚や好みを人工知能に学習させ、生産から小売にまでフィードバックすることで、「売れるもの」の予測を立てられるようにしようと考えたんです。

そして、大学と共同で研究を始めつつ、2011年にカラフル・ボード株式会社を立ち上げました。最初は、Tシャツやグッズなどのデザイナーコンテスト事業を始めました。デザインを公募し、集まったデザインをユーザーが評価し、人気のものを実際に商品化していく仕組みです。

その評価システムに人工知能の技術を使い、より正確にユーザーの好みを反映させるようにしていきました。また、集まったユーザーからの評価データは、オリジナル商品の開発だけでなく、アパレル企業の商品企画やマーケティング施策に反映させることで、効率的な開発やプロモーションができるような支援も行っていきました。

1人ひとつの人工知能を持つ社会に


デザイナーコンテストの事業がある程度仕組み化できたこともあり、2014年11月からはスマートフォンアプリ「SENSY」での新しい事業も始めました。これは、アプリ上で次々にファッションアイテムが表示されていき、ユーザーはそのアイテムに対して「好み」か「好みでない」か反応していきます。それを人工知能が学習していき、次第にユーザーのセンスに合わせたアイテムが表示されるようになり、アプリ上で購入することもできます。

SENSYを使うことで、ユーザーは自分の好みのアイテムに出会いやすくなりますし、そのデータを販売店やECショップ、生産ライン等にフィードバックすることで、「どんなものが求められているか?」予測できるようになります。その世界が広がれば、あらゆる場所での無駄な在庫を解消できるんです。

今後、アプリはユーザーの好みを知るための重要な接点になっていくので、より使いやすく改善していきたいと考えています。そのため、2015年4月には資金調達も実施し、エンジニア採用を強化しています。また、アプリだけでなく、実店舗でのデジタルサイネージやロボット、他のECショップ上にもこの好みを知る仕組を展開していきたいと考えています。

人工知能は日々改善を行っていて、今は慶應義塾大学や千葉大学と共同研究も行っています。将来的には、ファッションの分野だけでなく、食、映像、音楽、旅行、ヘルスケアなど、ライフスタイルの分野全般に広げていき、個人の感性を統合的に学習していければと考えています。

そして、それぞれの人に合った、「1人ひとつの人工知能」を持つような社会にしていければと思います。

2015.05.20

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