未来を担う子どもに、まっすぐな愛を。ママになり抱いた、子どもの未来への使命感。

子育てを行うママとその子どもを対象に、託児スペース付きで飲食店等のサービスを受けられる事業を運営する山下さん。幼い頃から、何かに問題意識を持ったら自ら解決するよう叩き込まれたという山下さんが、「子どもの未来」のために事業を始めた背景とは?お話を伺いました。

山下 真実

やました まみ|託児付きランチ・お出かけサービス運営運営
子育てを行うママとその子どもを対象に、託児スペース付きで飲食店等のサービスをうけられる「ここるく」を運営する株式会社ここるくの代表取締役を務める。

「問題意識に、使命感を持って取り組む」という教え


私は京都府福知山市に生まれ育ちました。両親ともに会社やお店を経営していて、それを見て育ったため、小さい頃から、将来は自分も会社を経営するんだろうなと考えていました。具体的なイメージがあるわけではないものの、逆に企業で働くイメージが持てなかったんです。

また、父が仕事の性質上、英語を使っていたことに影響を受け、高校生のタイミングで留学をしたり、大学も外国語に触れることの多い関西の私大に進学しました。

実際に大学に入ると、周りの友人で家庭教師のアルバイトをしている人が多かったのですが、その話を聞いているうちに、仕事の環境に違和感を抱くようになりました。例えば、家庭教師先を訪れる際は白い靴下必須など、実際の教師としてのパフォーマンスに関係の無い部分の非効率さに苦しんだり、指摘されることに萎縮して、能力を出し切れていないような印象もあったんです。また、親御さんからいただいているお金の半分以上が、運営をする大人に回っていくことにも疑問がありました。

そこで、「家庭教師をしたい人は多く、新興住宅地もあるのだから、自ら家庭教師を斡旋する学生ベンチャーを立ち上げよう」と決めたんです。

元々、親から「何か問題意識を持ったら自ら解決を試みなさい」と叩き込まれて育ったため、友人達が置かれたその課題に対し、何かできることはないかと考えての行動でした。正直、自分自身は課題に対しての創意工夫が得意な人間ではないというコンプレックスもありましたが、とにかくやってみようという気持ちでしたね。

そして、実際にファックスを利用して通信教育で家庭教師を行ってみたのですが、私自身も実際に教師として教える中で、直接生徒から前向きなフィードバックをもらえたことで、世の中の非効率を少し変えられたんじゃないかという手応えがあり、嬉しかったですね。

それからは、大学2年生に立ち上げたベンチャーの活動に力を注ぎつつ、3年生になり就職活動を迎えると、将来はそれまでの流れで自然と起業することを考えていました。しかし、親族全般にサラリーマンがいない偏った家系だったため、「世の中のほとんどの人がサラリーマンなので、それを知らずに起業するのは不利なんじゃないか」と考え、一度勉強のためにも就職をしようと考えるようになったんです。

そこで、就職活動を経て、業界として関心があり、私が持つ日本のサラリーマンのイメージに近かったNECに就職を決めました。ぼんやりとですが、その次に起業をしようというような感覚でした。

転職・MBAを経て自分の働き方を探していく


実際に入社してからは、SIerのコンサルティング営業を担当し、法人への営業やプロジェクトマネジメントに従事しました。特に新人時代はプロジェクトを回すことに苦労しながらも、「サラリーマンってこんなに情熱を持って働いているんだな」という気づきもあり、非常に仕事が楽しかったですね。

ただ、その情熱の行き場が限られているような感覚も同時に抱いており、自分はこの環境に長く居ないだろうなという気持ちもありました。とはいえ、周りの方のサポートもあり、自分でも驚くほど大きな案件を受注することになり、自分よりも役職が上の方ばかりのチームをまとめる経験をさせていただき、2年程非常に濃い日々を過ごしました。

そんな風に仕事に打ち込んでいくと、ある時から、ビジネス理論をもっと学びたいと感じるようになりました。大きな案件を受注することはあったものの、提案では外資系企業に負けてしまうことも多く、もっとビジネスを知らなければという必要性を感じていたんです。特に、ほとんどの理論が海外から来ていたため、どうせなら源流で学びたいという気持ちから、24歳のタイミングで会社を退職し、アメリカでMBAを取得することに決めました。

アメリカのミズーリ州に渡り勉強を始めてみると、色々な分野がある中で、特に面白いと感じたのはファイナンスの領域でした。周りの友人は皆毛嫌いしているクラスだったのですが、まるで理科の実験で顕微鏡を除くような感覚で、一つ一つは意味や価値がなくとも、仕組み化することで0から1を生むような金融理論に、非常にワクワクして感動を覚えたんです。

そこで、卒業後は実際に金融の現場に携わりたいという気持ちからJPモルガン証券に就職し、日本で働き始めました。与えられたミッションには非常にやりがいを感じ、全く不満はありませんでしたが、前職と比べても働く時間は非常に長かったですね。海外との連絡が多い分、朝も夜も仕事という状態になっていきました。

そんな折、父親が他界したことも重なり、家族との時間を全く取れていない状況に対し、「これで良いのだろうか?」と、改めて考え直すようになったんです。自分にとって家族の優先度は高いため、もっと仕事以外にも目を向けられる環境が必要なんじゃないか、と。ただ、金融の仕事自体は続けたかったため、28歳のタイミングで同じ金融業界のリスク管理のコンサルティングを行う会社に転職を決めました。

その会社では「今までに無いことをやってくれ」という要望の元、新規事業の立ち上げに携わることになり、元々関心があった分野だったため、非常に充実していました。立ち上げた事業が上手く回り始めたら次の担当に引き継いで、もう一度新しい立ち上げを行うという役回りで複数の事業立ち上げに関わらせていただき、裁量を持って働く日々を過ごしました。

実際に働いてみて、理想と違った部分をしっかりと認識して、仮説を持って転職を行うようにしていたため、転職を重ねるごとにやりがいが増していく手応えがありましたね。

未来を支える子どもを取り巻く問題への危機感


そして、33歳のタイミングで子どもを授かり、出産後は3ヶ月ほどで仕事に復帰し、育児をしながらも新規事業に携わる日々を過ごしました。

するとある時、同じように子どもを産んで産休を取っていた親しい友人に再会する機会があったんです。昔からの友人で近況を聞くのも久しぶりだったのですが、話をしてみると、「毎日児童館に行って、ママ友に愚痴を言うことが唯一のストレス発散だ」ということでした。しかも、1歳手前の子どもについての愚痴でした。

その話を聞いて、ママ同士が子どもの愚痴を言い合うなんて異常なことなんじゃないかと感じたんです。とはいえ、すごく信頼していたその友人がそんな状態になるのであれば、自分も同じように愚痴を言うようになる可能性があったんじゃないかと危機感を覚えました。

現在は核家族化や晩婚晩産化が進んでいるため、少し前の世代よりも産後の孤独感や負担が親(特に母親)に集中しやすく、母親がストレスを抱えやすいことはもちろん、それが子どもへの悪影響となって現れてしまうことに大きな不安がありました。この問題は、未来を支える子どもの問題だと感じたんですよね。

私自身、子育てを始めてから、子連れでは行けない店が多いことで、ストレスを感じたことがありました。そこでプライベートで会食などする際には、レストランと相談して個室を一時的な託児スペースとして使わせてもらい、そこに保育士を配備して、大人も子どももそれぞれのペースで快適に過ごせる場を作ってみたんです。

そこで、その仕組みを利用して、なんとか友人が悩んでいるような課題を解決できないかと考えるようになったんです。この仕組みは、一見すると、母親の希望を叶える為のサービスのようですが、実は源流はすごく子ども目線。子どもにとっては退屈で苦痛な「大人の時間」に無理やり付き合わせないで、子ども本位に過ごせる環境を担保したいという気持ちが先にあるんです。

「子どもの良い育ち」を後押しするサービスを


そんな思いから、35歳のタイミングで株式会社ここるくを創業し、託児つきの新しいお出かけサービス「ここるく」を開始しました。

ここるくでは、ミシュランガイドのお店やじっくり味わうお寿司屋さん等、子連れでは行くことを諦めてしまうような場所で、一時的にお店の個室を解放していただき、託児スペースを設けることで、大人も子どももそれぞれのペースで楽しんでいただきます。

店舗側としては、このサービスがないと来店できないような純粋な新規顧客の獲得に繋がる上に、ママという属性的にも横のネットワークが強い層に訴求できるのが特徴です。特に、どんな人気店でも稼働していない席は出てくるので、もう一回転させたい時に呼び込む施策として活動していただいています。まずはレストランから始まり、現在ではエステや習い事教室でも利用できるようになりました。

以前考えていたよりもタイミングは遅れましたが、実際に独立してみて、前職で事業を形作り回すことをできた経験は非常に糧になっています。ただ、自分以外に誰も責任を取る人がいない中で事業を進めていくのは、これまでと全く状況が違いますね。自分が止まってしまうことが会社にとって一番のリスクのため、「もういいや」と思ったり思考を止めたりせずに、自分を次なる進化に向けて駆り立てることに力を注いでいます。

訳の分からぬことで不安に感じることもあり、これほどまでにしんどいとは思ってもいませんでしたが、不安になっても手を止めない技術は学んだように思えます。やはり、この事業を通して「子どもの良い育ち」を後押ししていきたいという使命感が強いため、少しでも価値を大きくしたいという一心です。

子どもに対して熱い想いを持たない親はいません。でも、体に疲労が溜まれば血流が滞るように、産後の辛さや子育てのストレスが溜まることで、本当は表出させたい想いも滞ってしまう。私は、子を想う親の愛情やエネルギーが、滞らずにきちんと子どもに届けられるような環境を作り、それが当たり前の社会にしていきたい。そんな想いで、今後も事業進めて行きたいと思っています。

2015.05.15

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