スマホ時代の新たな情報伝達の鍵はGIF画像。「君がいてよかった」と思ってもらえる人生を。

毎月5万作品が投稿される日本最大級のGIFアニメコミュニティ「GIFMAGAZINE」や、クリエイターが運営するWEBメディア「CREM」を手がける大野さん。「自分がいたことで、世界を面白くしていきたい」と語り、合唱やダンスなど表現者としての道を歩む中、訪れた転機とは。会社を通じて表現し、世界に面白いことを発信する大野さんにお話を伺いました。

大野 謙介

おの けんすけ|世界を面白くする事業の運営
「GIFMAGAZINE(ジフマガジン)」「CREM(クリム)」を運営する、クリエイティブボックスインクの代表取締役CEOを務める。

自分の身体表現で世界を面白くしていきたい


僕は福島で生まれました。小さな頃から一人遊びが好きで、CMで流れるダンスを踊ったりする子どもでした。一方、人と違うことをしたいと思っていたのか、友達の間で流行している遊びにはあまり興味がありませんでした。

また、自分は家族に愛されている幸せものだと思い、自分のことが大好き。しかし、根暗だったこともあって自分に自信が持てず、だからこそ何事にも努力する性格でした。

中学では最初は運動部に所属していました。ただ、2年生の時に新しい先生が赴任してきたことで合唱部の先輩たちが全国優勝する姿を見て、3年生から合唱部も掛け持つことにしました。

その先生はとにかくこだわりが強く、厳しい人でした。そのおかげで、歌の技術や表現など、全国で通用するレベルとはどういうものなのか、身をもって感じることができましたね。

そして、厳しい練習の甲斐があって、僕たちも全国優勝することができました。昔から、「人を楽しませたい」「多くの人に影響を与えたい」とは漠然と思っていて、この時、自分の身体表現で直接人に感動を与えられる「エンターテイメント」の素晴らしさを実感できたんです。そして、将来は表現者として歩んでいこうと決めました。

エンターテイメントの世界を目指すためには、情報が集まる関東に出ることは必須だと思っていました。そこで、高校では上京するための勉強に打ち込み、関東の中でも横浜に行きたかったので、横浜国立大学に進学することにしました。

プロダンサーとの差を感じてしまい、挫折する


大学ではサークルに所属し、ダンスに没頭していきました。将来はプロダンサーになり、エンターテイナーとして人を楽しませたいと考えていたんです。

ところが、世界大会でも優勝したことのある有名なダンサーにダンスを習った時、自分の才能の限界を感じてしまいました。日本では一握りのトッププロしか食べていけない世界。僕はその世界で勝ち抜いていけるレベルではなかったし、そこを目指すための覚悟も足りなかったんです。

また、今リスクを背負って何かをしようと思っても、せいぜい借りられるお金は数百万円程度。それは自分が世界に与えられる影響力の大きさを表していて、なんてちっぽけなんだと感じてしまったんです。

死ぬまでに面白いことをして、世界に影響を与えたい。そう考えていた僕としてはかなり焦りました。ただ、ここで諦めてしまったら、今までの自分を否定してしまうことになる。そこで、「面白いことをしたい」という気持ちは曲げずに、どうしたら生み出せるか考えるようになっていきました。

そして、自分自身が直接表現しても与えられる影響が小さいのであれば、面白いことを作り出せる人を集めたらいいと考えたんです。その人たちが稼げる仕組みをつくれば、相乗効果的に大きな影響を与えられると。

そこで、大学3年生の時に、仲のいい友人2人と「せかいせーふく」という事業を始めてみることにしました。

インターネットを使えば直接ユーザーに表現できる


せいかいせーふくでは、アマチュア・プロ双方のデザイナーを集めて、Tシャツの制作・納品を行いました。企業やサークルからの依頼に対してデザイナーが作品を作り、コンペで採用されたTシャツを工場で生産まで行うんです。

手がかかるので、ビジネスとしての拡大は難しかったのですが、自分たちの作った仕組みでお金を稼げるのは良い経験でした。一緒に働くアマチュアデザイナーの人が1円でも稼げると、それは「プロ」だと言えて、デザイナーの人と私どちらにとっても自信になる仕事だったんです。

この経験を通して、自分で新しい仕組みを作って世界に影響を与えることは、過去の自分にも、これからの自分にも背いていないことだと感じることができましたね。

そして、大学卒業後は大学院に進み、2年間面白いことを仕掛けるための猶予期間を作ろうと考えていました。ただ、起業の経験から自分の未熟さを痛感していたので、一度社会に出てビジネスの仕組みを学ぶ必要があるとも感じていました。

そこで、世の中にインパクトを与える仕組みのつくり方を学ぶため、大学院には進学せず、面白そうなことができそうなリクルートに入ることに決めたんです。

また、大学4年生の時には、「検索勇者」というWEBサービスを個人で立ち上げました。これは、様々な検索サイトやポータルサイトの窓口となるWEBサイトでした。そこに訪れると、僕が厳選した「中二病ワード」が表示されたり、検索した回数やアクセスした回数でレベルが上がっていくもので、「コンテンツを探す行為自体をコンテンツ化する」というコンセプトでした。

これは、爆発的にヒットしたわけではないのですが、合唱の時に感じたように、「自分の表現が直接ユーザーに伝わる感覚」を、はっきりと感じることができました。インターネットを使えば直接世界中の人に影響を与えられると体感した瞬間だったんです。

これからのコミュニケーションにおけるGIFの可能性


その後、リクルートに入社してからも、お馬鹿なことや社会に面白いことをできないかと、アイディアは考え続けていました。そこで、2年目の夏には、とりあえず何か面白いことを始めようと、仕事を続けながら会社を作ることにしました。

そして、大学時代のように、Tシャツにまつわるアイディア等を考えていく中で、次第にパソコンやスマートフォンの画面上で簡単なアニメーションを表現できる「GIF」の可能性を強く感じるようになっていったんです。

以前から、これからの「コミュニケーション手段」はどう変わっていくのかに関心を持っていて、個人的に考えることがありました。原始的には鳴き声から始まり、文字や手紙、電話やメールなど、技術の進歩とともにその方法は変化してきました。

そしてその変化は、結局は「伝達の速度」「保存できる容量」「伝えられる情報量」の発達で、今後さらに進歩できる部分は「情報量」を増やすことだけではと感じたんです。そして情報量は、声から文字、そして静止画と進歩してきたので、次は動画だろうと考えていました。

とはいえ、ムービーを撮影して送るコミュニケーションが主流になるとは思えませんでした。その時、「ガラケー」時代の絵文字には、「動く絵文字」があったことを思い出したんです。これは静止画よりも一歩進んだ情報量を持つGIF。そのことから、スマホ時代においてもGIF、つまり、「短編」「ループ」「クリックレス」な映像がコミュニケーションを面白くするかもしれないと思ったんです。

さらに、そのGIFアニメを投稿したり、お互いの作品を見れるオープンな場を作ることで、多くの人が楽しんだり、その作品から雇用が生まれたりするような気がしました。

そこで、会社を辞めて、大学時代からの友人と2人で事業として立ち上げることにしました。今の未熟な自分では、世界に与えられる影響がまだまだ小さいので、事業や会社を大きくして、もっと大きな影響を与えられる人間になりたいと考えたんです。

世界を少しでも楽しいものにしていきたい


そのようにして立ち上げたのが、「GIFMAGAZINE(ジフマガジン)」です。GIF好きの人たちが、自分で創ったGIFを共有することができ、色々なGIFを見ることができます。

また、共有されたGIFは、ブログや他のサイトで面白い使われ方をしていることが分かってきました。そこで、クリエイターがGIFを活用して表現する「CREM(クリム)」というメディアも立ち上げました。CREMは、クリエイターによるGIFのカタログであり、「こんな使い方ができる」という研究成果を提示する場所でもあります。

さらに、2015年4月には、元々目指していたコミュニケーションツールとして、FacebookメッセンジャーでGIFを送れる「GIFMAGAZINE for Messenger」をリリースしました。

将来的に、フォーマットとしては「GIF」ではなくなるかもしれません。しかし、「短編」のアニメーションが「クリックレス」で「ループ再生」される映像を軸に、これからも世界にインパクトを与えていきたいです。そのためにも、まずはGIFMAGAZINEを日本で一番見られるサイトに成長させていきます。

僕たちの会社のメンバーは、僕もそうですが、みんな表現者の道を一度挫折した人が集まっています。そのため、会社で世界に面白いことを発信していくこと自体が、僕らにとっては表現なんです。

将来、一緒に働くメンバーが増え、表現できることのクオリティが大きくなったら、社内のメンバー個人個人が表現したいことを実現できるような場所にしていきたいですね。僕自身もいつか「検索勇者」みたいなお馬鹿コンテンツを、家庭用ゲームにリメイクしたいなと思っています。

そして、世界に面白いことを発信していき、できるだけ多くの人に「大野謙介がいたから、世界が面白くなったよ」と言われながら人生を終えることができたら最高です。

2015.05.14

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