パーティーに出張ソムリエを呼びませんか?飲食業界にも働き方の選択肢を。

出張ソムリエとしてホームパーティーでの厳選したワイン提供や、自身の通販ショップでワインの販売を行う上杉さん。ソムリエへの憧れから飲食業界に入ったものの、飲食店で働くことの課題に直面し、「飲食に関わる人の働き方の幅を広げたい」と考えるように。そんな上杉さんにお話を伺いました。

上杉 武史

うえすぎ たけし|出張ソムリエ、ワイン通販ショップ運営
オーガニックワインのネット通販ショップ「Vin Hearty(ヴァンハーティー)」運営しながら、出張ソムリエとしてホームパーティーやイベント時のソムリエとして活躍する。

ミュージシャンを目指して宮崎から上京する


私は宮崎県で生まれました。祖父は元軍人、父も大企業勤めだったので、しつけは厳しかったですね。ただ、やりたいと思ったことは何でもやらせてくれる家庭でした。しかし、将来は安定した職業に就きなさいと言われていたので、その点には違和感を感じていました。

また、父の影響で小さい頃から水泳に打ち込み、週に5日はプールにいるような生活を送っていたのですが、中学生になると、水泳では全国や世界を狙えるレベルではないと痛感してしまい、止めることにしたんです。そして、これまた父の影響で始めていたギターが好きだったのでミュージシャンを目指すことにしました。

特にハードロックが好きで、バンドを組んで家では毎日ギターを弾いていました。ただ、高校生になると、部活は應援團に入ることにしました。サッカーなどが人気の中、男らしく少数派の雰囲気に魅力を感じたんです。

声出しの練習をしたり走って体力をつけたりと、毎日楽しくて夢中で過ごしていき、礼儀作法等も学ぶことができましたね。また、バンドではライブハウスに出るようになり、ステージで演奏するのが楽しく、このまま一生音楽を続けるためにプロの道に進みたいと思っていました。

そこで、高校卒業後は大学へは行かずに東京に行ってミュージシャンを目指すことに決めたんです。高校は進学校でしたが、私のクラスはバンドやスポーツなど、大学以外の道に進む人が多かったので違和感や不安はありませんでした。そして、地元のバンドは解散して、ワクワクを胸に一人東京に上京したんです。

メンバーの苦しみに気づけずにバンドを解散する


メンバー募集の張り紙を見たり自分で張り紙を貼ったりしながら、いくつかのバンドで活動した後、19歳の時に組んだ3ピースのバンドで長く活動するようになりました。

私たちは下北沢や新宿のライブハウスで活動しました。お客さんがほとんどいない日もありましたが、それでもステージで演奏できることがとにかく楽しかったですね。21歳の時にはライブハウス主催のバンドコンテストで優勝し、22歳の時にはインディーズレーベルと契約するなど、少しずつ前に進み順調な音楽活動を送って行きました。

しかし、ある日のライブに、ベースボーカルが現れませんでした。その日はドラムと2人でライブを行うことになったんです。そして後日話し合いを設けると、彼はバンドを続ける生活に苦しさを感じていたことが分かりました。確かに、月に5回以上ライブをやっていて、その練習のためのスタジオ代や楽器の費用もかさみ、生活的には厳しい状況が続いていました。私はそれでも楽しくて仕方なかったので、彼の苦しみに全く気づけていなかったんです。

一旦はもう一度3人で頑張ることにしましたが、結局ベースボーカルが抜けることになり、23歳の時にバンドも解散することにしました。そして、このバンドでの活動で燃え尽きていたこともあり、音楽の道は諦めて別の道を探すことに決めたんです。

ソムリエの仕事に憧れて資格を目指し始める


それまで音楽しかやってこなかったこともあり、他に何をやりたいか分からず、まずは飛び込み営業の仕事や日雇いの建設仕事など、色々試してみることにしました。しかし、どれも自分に合っていると感じる仕事はありませんでしたね。それでも、人に雇われ、働く時間や場所を決められてしまうことが苦手だと分かってきました。

とは言え打ち込みたいことは見つからず、1年程職を転々としていると、そんな自分を見かねたのか、お世話になっていた人に会員制の高級レストランに連れて行ってもらうことがありました。レストランに行くのは人生初で、そこでソムリエが働く姿を見て純粋にカッコいいと思い、「ソムリエになりたい」と直感的に感じたんです。

そして、飲食の世界のことは何も知らなかったので、とにかく現場に入ろうと思い、すぐに飲食店で働き始めることに決めました。ただ、ソムリエになるには5年以上の飲食店での現場経験が必要と知り、そんなに長く働くのかと驚きましたね。(笑)

入社したのは六本木に本社を置く大手外食企業で、私は六本木にある外国人向け寿司屋さんでウェイターとして働き始めました。ソムリエになりたいと言ってもワインの知識なんて全くなかったので、仕事が終わった後は先輩に教えてもらったり自分で勉強したりして、知識をつけていきました。また、働いていたレストランのお客さんはほとんど外国人だったので、日本酒について聞かれることが多く、利酒師の資格も取ることにしました。

接客は得意だったので楽しく働くことができましたが、やはり働く時間や場所の自由がないことにはストレスを感じていましたね。その後、社員になり丸の内にあるオイスターバーの店舗の立ち上げに関わった後、サービスレベルが高いお店を展開する企業に転職することにしました。ソムリエの資格を取った後は自分のお店を出したいと考えるようになっていて、そのために自分自身成長したかったんです。

感じてしまった飲食店を持つことへの限界


転職先では、丸の内や銀座、六本木の有名店で店舗の管理に関わる仕事をしました。人気店だったのでかなり忙しく、月に300時間以上働き、休みなんてほとんどありませんでした。

また、店舗の経営を任されることで飲食店経営の実態が見えてきて、自分でレストランを出すのことに違和感を感じるようになっていきました。初期投資に対して日々の売上や忙しさを考えると、飲食店で働き続けても「幸せになるイメージ」が持てなかったんです。お酒や接客は好きでしたが、飲食店で働くことには限界があると。

そこで、29歳でソムリエの資格を取ったタイミングで飲食店は辞め、新しい働き方ができないか探すことにしました。世間では「ノマドワーカー」「フリーランス」という言葉が出てきて、飲食業界でも同じような働き方をできるんじゃないかと。理想としている働き方をしている飲食業界の人は周りにいなかったので不安もありましたが、新しい道を模索するため、とにかく挑戦することに決めたんです。

そして、ホームパーティーなどに招かれて「出張ソムリエ」として少しずつ仕事をしながら、インターネットの活用を勉強していくうちに、まずはワインの通販ショップを持ってみることに決めました。

ただ、ワインの流通に関して全く無知だったので、銀座にあるデパート内のワインショップで勉強のために働くことにしました。そこは飲食店と比べると労働環境は良かったし、お客さんとも繋がりができたので、楽しく働けましたね。ただ、やはり自分が本当にお勧めするワインだけを取り扱いたい気持ちもあり、またやはり雇われることへの違和感もあったので、予定通り1年ほどで辞めて通販ショップを開くことに決めたんです。

飲食店以外の働く選択肢を増やしたい


今はワイン通販ショップ「Vin Hearty(ヴァンハーティー)」を運営しながら、出張ソムリエとして働いています。ワインショップでは私が心からお勧めするオーガニックワインだけを取り扱っています。

また、今は出張ソムリエの方に軸足を置いていて、月に15件程のホームパーティーに足を運んでいます。事前に幹事の方と相談をしてどんな料理が出るのか確認し、そこに合ったワインを選び、当日も場を盛り上げるためにソムリエとして同席させてもらいます。また、よりワインを楽しんでもらうため、簡単なワイン講座をすることもあります。

ワインを苦手だと言っていた人が、気づけば何杯も飲んでくれる姿を見れると、嬉しいですね。元々ソムリエとして、現場でお客さんと接する仕事がしたいと思っていた私としては、出張ソムリエは元々やりたかったことを実現できています。

今の働き方は、飲食店で働いていた時と比べて時間に余裕があるので、やりたいと思ったことに挑戦できるので非常に快適です。ただ、今後は私だけでなく、飲食業界で働く多くの人が働き方を選べるように、仕組みを作っていきたいと思っています。ホームパーティーやイベントに出張して料理を提供したりネット通販をするなど、飲食店に勤める以外にも、働き方に幅を持たせて選べるようにしたいですね。

そして飲食に関わる人が、お金も時間も手に入っている状態を作り出せたらと思います。私個人としては、飲食店時代にスリランカから働きに出てきている人と出会ったこともあり、彼らの支援をしたいと思っています。そうやって、やりたいことができた時にすぐに飛び込めるような、そんな働き方の仕組みを作れたらと思います。

2015.05.02

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