子供たちが生きる将来のこと、考えてみませんか?
「こどものためのデータ分析」というミッションのもと、「いじめ」「出会い系」「犯罪」など急増しているネット上でのトラブルを防ぐためのwebサービスを提供する西谷さん。志していた起業を一度は諦め、いちエンジニアとして会社で働く中で、「今しかないというタイミングが来た」と話す背景には、どんなストーリーがあったのでしょうか。
西谷 雅史
にしたに まさし|ネット上で子供の安全を守るサービスの運営
ネット上でのトラブルから子供を守るためのwebサービス「Filii(フィリー)」を提供する、
エースチャイルド株式会社の代表取締役を務める。
エースチャイルド株式会社
Filii(フィリー)
「決断」には至らない
将来は起業したいと漠然と思い始めたのは、たしか大学生頃でした。
幼なじみに言われた言葉で、
「お前はなんでも自分でやりたいんだろ」
というのが印象に残っているんですよね。
自分の思うとおりにやらないと納得しない性格なので、
責任は伴えど、自分でやりたいという意識があったんだと思います。
ただ、大学生当時は遊んでばかりで、週四回もスノボーに足を運び、
旅行サークルで飲み会に明け暮れる日々でした。
大学院に入ってからはちゃんと研究をするようになり、
国際学会で発表させてもらったこともありました。
ただ、将来のことはずっと漠然としていましたね。
起業したいとは言いながらも、情報収集すらせず、何も行動を起こしていませんでした。
就職活動の頃になって、「起業するって思ってなかったっけ?」ということを、
改めて考え直しました。
ただ、考えた結果、まずは社会に出て働くことを経験してみようということに落ち着きました。
結局、いいなとは思いながらも、「決断」には至っていなかったんです。
就職活動は、情報工学を活かせるIT系と、昔から興味のあった航空宇宙系を回りました。
結局、いくつか内定を頂いた中で、働くイメージをもてたSIerで働くことに決めましたね。
圧倒された経験と部署移動
新卒で入社した会社では配属の希望が通り、優秀な技術者が集まる部署に配属されました。
特に、三年目の時に携わった案件のメンバーが、社内のオールスターみたいな感じだったんですよね。
びっくりするくらい優秀な先輩が3人、ものすごい息のあった連携で働いているんです。
その仕事ぶりに、正直圧倒されたんですよね。
自分がその3人の上に立ち仕事をするイメージが、全然浮かばなかったんですよ。
気付けば、起業は一旦置いておこうという気持ちになっていました。
相変わらず行動を起こしていなかったですし、その経験のインパクトは大きかったですね。
優秀な技術者を目指そうという方向にシフトしていったんです。
ところが、その後担当していた仕事の流れで、
新規事業を立ち上げる部署に配属されることになりました。
明確に仕事の内容も変わり、企画や調査の業務にも携わるようになりました。
図らずも、新しい事業の立ち上げの機会をもらったんですよ。
自分なりに事業アイデアを考えていくのは楽しかったですね。
ところが、いざ企画を立案しても、社内の決裁が下りないことが続いたんです。
中には、却下された後に、他の会社が同じことをやって成功したものもありました。
段々、もどかしさを感じていったんですよね。
決心がつきました
ちょうど、新しい部署に入って一年ほど立った頃、子供が出来ました。
よくある話かもしれませんが、子供が出来てから、少なからず考え方は変わった気がします。
特に、将来について考えるようになったんですよね。
自分の子供に限らず、その世代には明るい未来を残したいと思うようになったんですよね。
日本は先行きが不安だと思うんです。
でも、子供の世代は、その中を生きていかなければいけない。
だからこそ、少しでも直接的に子供のためになることをやろうと思ったんです。
そんな思いをミッションに定め、会社のリソースを使って、新規事業で取り組もうと思いました。
ところが、上司と話をする中で、会社の方針として、BtoC向けの事業はやらないということが分かったんです。
なんだか、色々な要素が重なって、そこで決心がつきました。
独立して、子供の将来のための事業をやろうと決めたんです。
やるなら今しかなく、これ以上後ろはないと思いました。
自分の年齢もそうですし、子供が小学校に入ってからは引っ越しをさせたくないという気持ちがあったので、
それまでに収入や方針を固めなければいけないということを考えると、
このタイミングしかないと思ったんです。
以前より仕事感が醸成されたこともあり、自分より優秀な人が下につくことへの抵抗も無くなっていったんですよね。
目的を達成するための役割分担だと思えるようになっていました。
遺書で初めて知る苦悩
独立を決めてから、家族に相談したところ、応援してくれるとのことでした。
ただ、無計画にやってもまずいので、考えうるリスク等について、元エンジニアの嫁と議論をしました。
なんだかんだ、自分で起業について調べたのは、そのときが初めてでしたね。
その結果、VC(ベンチャーキャピタル)の出資をうけることを独立の条件とすることに決めました。
それが決まらないようだと、始めても難しいんじゃないかと考えたのもありました。
ところが、順調に進むことばかりではありませんでした。
当時考えている事業を説明したところ、
「話にならない、何しに来たの?」
と暗に言われるようなことすらありました。
また、子供向けの中でもどんな分野に注力するかが定まっておらず、
独立の決心がつきながらも、もがいていましたね。
ちょうどその頃、連日のように、子供のネット被害のニュースが流れていました。
最初はキャリア教育のサービスなどを考えていたのですが、
どうしてもそのニュースが気になるようになり、調べてみることにしたんです。
調べていくうちに、自殺した子供の遺書に辿り着きました。
トラブルに巻き込まれながらも、親に心配をかけたくないから隠していて、
自分の命を絶つときに、遺書として親にそのことを伝えていたんです。
それらの遺書を読んで、親にすら言えない状況があることに、衝撃をうけました。
時代背景的にも、これから先、子供がインターネットにアクセスすることはどんどん増えていきます。
だからこそ、安全に使えることで、子供の安全を守ることが必要なんじゃないかと、強く思うようになったんです。
目指すのは世界平和
ネット上で子供の安全を守るという方向性でサービスを検討したところ、
あるインキュベーターの方が、一緒にサービスの方向性を考えてくれ、
最終的には出資をしてもらえることに決まったんです。
楽な道ではなかったですが、条件を達成し、スタート地点に立つことが出来た瞬間でした。
現在は、「子供のためのデータ分析」というミッションのもと、
子供がトラブルに巻き込まれていないかを、プライバシーを担保しながら検知できるシステムを作っています。
サービスとして、日本だけにとどまらず、子供の安全のため、
世界に向けてサービスを展開していこうと考えています。
また、蓄積したデータを活かすことで、子供自身に有意義なフィードバックを行い、
キャリア教育にもつなげていけたらと考えています。
大きな話ですが、目指すところは「世界平和」です。
チームでも常にそこを目指そうと話しています。
事業がうまくいったら、昔からやってみたかった宇宙関連の事業も展開したいですね。
実は、会社を創る時に、定款に宇宙のことも入れてたんですよ。(笑)
あとは、やっぱり子供とたくさん遊びたいですね。
その時間は創り続けたいと思います。
2014.04.12