青年海外協力隊、大学院を経た次の挑戦!企業の任意情報開示の新たな可能性を探る。

上場企業が株主・投資家を中心としたステークホルダーに向けて情報発信を行う支援をする「IR支援業界」にて、財務情報だけでなく、数値では表現しきれない企業の成長ストーリーを伝える提案を行う斉藤さん。社会人として働きながら大学院に進み、企業の任意情報開示の可能性を専門的に学んだ次なる挑戦とは?お話を伺いました。

斉藤 肇

さいとう はじめ|企業の情報開示支援
企業の任意情報開示やステークホルダーとのコミュニケーションを支援する企業にて働く。

海外の多様性に触れたいと興味をもつ


私は神奈川県で生まれました。叔父が青年海外協力隊の初期のOBだったので、小さい頃から現地での生活の話を聞くことが多く、気づけば知らない世界に飛び込んでみたいと、海外に興味を持つようになりました。

そこで大学生の時に地元横浜で国際エイズ会議が開催されることを知ると、関連イベントとして開催される第1回エイズ文化フォーラム運営ボランティアに参加することにしました。そこでは海外の人と交流することもあり、多様な人たちの中に身を投じることの面白さを感じましたね。

そしてもっと外国の人と関わりたいと思い、若者向けエイズ予防啓発に取り組むNGOで1年間実行委員長を務め、タイのチェンマイで開催されたアジア太平洋地域のエイズ会議に参加もしました。その流れがあり、就職も国際会議等のイベントを企画・運営するコンベンション運営会社に入りました。

私はその会社で、通訳者をコーディネートする仕事に携わるようになりました。国際色豊かな仕事だったし、少しだけですが長野オリンピックの運営準備などにも関わることができ、仕事はハードでしたがやりがいを感じましたね。また、いずれは海外に留学したいという漠然たる思いを秘めていたので、その資金を貯めるようになりました。

ただ、私は昔から人生の重要な選択を自分一人で決める我が強い性格だったこともあり、会社では周りと衝突することもありました。特に、直属の上長には理不尽なことを言われることも多く、一緒に仕事を進める上での関係性に限界を感じ、2年9ヶ月ほどで会社を辞めることにしたんです。

そして転職活動をする中で「IR支援業界」に興味を持ち始めました。IRは上場企業が株主や投資家に対して財務状況の開示や事業の方向性、成長性の訴求など、投資判断に重要な情報を提供していく投資家向けの広報活動で、日本でもその重要性が高まっていた時期でした。新しい業界ということにも魅力を感じ、上場企業のIR支援を専門で行う会社に入社することにしました。

青年海外協力隊でモザンビークに行き多様性の意味を学ぶ


そこで私は、上場企業が株主・投資家向けに毎年任意で発行する「アニュアルレポート」と呼ばれる企業の財務・非財務情報を盛り込んだ年次報告書のアカウント・エグゼクティブとして働き始めました。上場企業のIR担当者に企画提案を行い、企画プレゼンテーションを通じて、アニュアルレポート制作業務を受注していく仕事でした。

仕事の成果物として、実際に作られたアニュアルレポートが作品として手元に残るし、クライアント先の社員でも滅多に会えない、企業のトップ層に直接会ってインタビューしに行けたので、多くのやりがいを感じることができましたね。

ただ、ある企業の仕事で大きな失敗をしてしまい、直属の部門長にお客さんの目の前で「斉藤にはがっかりした」と言われてしまい、その言葉にショックを受け、「こんな会社辞めてやる」と決意しました。そして、昔から行きたいと思いつつ実行できていなかった留学を実現するために、幼い頃から話を聞いていた青年海外協力隊に迷わず応募しました。

そして無事合格することができ、当時の上長に退職の意思を伝えました。すると上長から「休職でもいいんじゃないか?」との提案があり、さらに社長からも2年間の休職の許可を得ることができました。実は社長自身、青年海外協力隊に行きたいと思いながらも断念した過去があり、私を快く送り出してくれたんです。

その後、国内での派遣前訓練を経て、青年海外協力隊エイズ対策隊員としてアフリカ南東部のモザンビークに派遣され、モザンビーク中部のマニカ州教育文化局にて学校の先生向けにエイズ予防教育を行うことに従事しました。

しかし、思っていたようには物事は進まず、かなり苦労しました。現地では日本とは違い、計画や時間を守らないことが当たり前で、今まで当然だと思っていた日本での「常識」は全く通用しないと痛感しましたね。それまでは自分の我を押し通す性格でしたが、言葉も価値観も意思疎通も全く異なる世界に身を投じたことで、カルチャーショックを受けて本当の意味での多様性を学ぶことができました。そして、自分の意見を押し通すだけでなく、自分が変わる必要があることが身にしみたんです。

そして任地で1年ほど試行錯誤した結果、自分は裏方に徹する役割で活動することを決めました。私はモザンビーク人ではないし、言葉も流暢に使えるわけではありません。そのため、交渉や研修などフロントの仕事は現地の同僚を立てて、私は同僚が一番動きやすいように後方サポートに徹しようと。それでも計画通りには進みませんでしたが、最後の最後で一気に物事が動くというモザンビークなりの仕事のやり方が分かり、最後まで諦めないことの大切さも学びましたね。

仕事の壁を突破するために大学院に進学


2年間の青年海外協力隊の活動期間を終えると、日本ですぐに職場復帰しました。海外に軸足を置く仕事も考えはしたのですが、長期間を海外で過ごしたことで改めて日本という国の良さ、魅力を実感できたこともあり、休職を認めてくれた会社への恩返しも含めて貢献したいと考えたのです。モザンビークでは多くの問題を「お金」で解決できる社会だったので、日本社会のお金よりも「信頼」を基盤とした仕事の進め方にも魅力を感じましたね。

ただ、営業として仕事が取れないことも増えてきました。業界として競合が増えてきたこともありますが、それだけでなく、企業を評価する軸として財務諸表や事業の成長性だけでなく、CSR(企業の社会的責任)も重視されるようになり、アニュアルレポートにもCSRの内容を取り入れられるようになり、企業の任意情報開示に変化が起こり始めました。

そしてCSRの知識に強い人間は社内では少なく、自分のもつ知識だけでは競合他社に勝てないと感じることがありました。競合で修士を持つ人が提案に出てきたり、CSRレポートを出すだけでなく、その後のコミュニケーションまで提案する会社も出現し、壁にぶつかったんです。

そこで、私も壁を突破する必要があると感じて、企業の情報開示のあり方を改めて学問として学ぶことに決めました。色々な情報を調べる中で、立教大学大学院の「21世紀社会デザイン研究科」の案内を見て「ここしかない」と直感的に判断し、2013年4月より、会社で働きながら大学院に通い始めることにしました。

ESG投資と企業情報開示の可能性をテーマに修士論文を進める


大学院1年目は土曜も含めて週4で通っていたので、授業がある夜の時間を空けるため早朝から仕事をするようになり、時間管理や生活リズムはかなり変わりましたね。また、授業では様々な先行研究や社会課題を学ぶことができ、それが実際に仕事でも活きて、大型の案件を受注できるようにもなりました。

ただ、それと同時に漠然とはしていたものの、新しい挑戦をしたいと考えるようにもなっていきました。私は大学院で様々な分野を学んでいく中で、修士論文のテーマを「ESG投資と企業情報開示の可能性」の領域に絞っていきました。Eは環境(Environment)、Sは社会(Society)、Gは企業統治(Governance)の意味で、投資家がESGの項目でも企業の投資判断材料として配慮していこうという、新しい動きが生まれたためです。私は、ESG投資はCSRの議論と、IR活動のどちらの立場にも共通する接点を感じたので、私の今までの実務経験が活き、かつ学術研究としても成立する可能性のあるテーマと判断しました。

そこで、一旦は修士論文を書き上げることに集中し、その研究を基に次の挑戦をしようと考えたんです。2014年の年末前には前職の仕事に区切りをつけ、年末は論文執筆に集中しました。そして、今年の元旦に完成した修士論文をキャリアチェンジの武器に、修士論文提出後から就職活動を開始しました。その中で、今までの実務経験と、この修士論文を評価してくれた企業コミュニケーション支援を行う会社で4月から働き始めることになりました。

直感を信じ、挑戦し続ける生き方を


2015年3月に大学院は無事卒業し、4月より新しい会社での仕事が始まりました。

私の役割は、IRの視点とCSRの視点をどちらも持ち、企業が株主・投資家をはじめとしたステークホルダーに対して、どのような情報を開示していくかの新しい視点や、コミュニケーション方法を提供していくことだと考えています。企業の事業性だけでなく社会性の情報も含めて、ストーリー性を持って統合的に伝えていけたらと思います。

とは言っても、それぞれの企業が何を伝えていくべきかは、潜在的に企業側にあるはずなので、私はそれを上手く引き出すお手伝いができたらと思います。例えば、研究として学んだ知識を、「統合報告書」という新しい領域でビジネスに活かす挑戦も、楽しみですね。


新しいことに飛び込む時は不安もありますが、1回しかない人生、直感が働いた時はとにかく飛び込むように心がけています。それでダメだったら、方向を変えればいいですから。これからは、青年海外協力隊での経験、大学院での研究、これまでの実務経験で積んだ「点」を「線」に結び、企業の任意情報開示の分野で新たな可能性に挑戦していければと思います。

2015.04.16

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