堅苦しい法律に、私が「魔法」をかけましょう。

弁護士として個人の事務所を構えながら、マジシャンとしてもステージに立つ、銀座の“ウィザード”小野さん。「法律」へのハードルを下げ、少しでも多くの人の幸せを取り戻すため、2足のわらじを履き、弁護士ならではのマジックを披露します。 苦労して司法試験を通過した弁護士が、マジックを始めるまでの背景を伺いました。

小野 智彦

おの ともひこ|弁護士マジシャン
銀座ウィザード法律事務所にて代表弁護士を務める傍ら、マジシャン「おのんのん」としても活動。

銀座ウィザード法律事務所
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エンターテイナーとしての原体験


小さい頃から人前で何かして喜ばせることが好きでした。
ブラスバンドや鼓笛隊など、音楽を人前で演奏することも多かったですね。

中学2年のある時、アメリカの同世代の学生と共同生活をする催しに参加したことがありました。
たしか、何かの罰ゲームで、一芸を披露しなければいけなくなったのですが、
私は、待っていましたといわんばかりに、持っていたリコーダーを2つ同時に演奏するという芸をやったんです。

それがものすごくウケたんですよね。
そのあとの卒業式でもやってくれとせがまれるような評判でした。

なんというか、エンターテイメントの血が沸き上がるような体験でした。
それまでは集団でステージに立っていたこともあり、
一人で大勢の前に立つことの面白さを、強く感じたんですよ。

あの瞬間は、エンターテイナーとしての原体験でしたね。

ただ、だからといってエンターテイメントの道を歩もうということにはなりませんでした。
高校が進学校だったこともあり、みんなが大学に行くので自分も行かなきゃと思ったのですが、
理数系は赤点をとるほど苦手ということもあり、選択肢は絞られていきました。

結局、文学部と法学部を迷ったのですが、潰しがききそうというイメージで法学部を選び、受験することにしました。
法学部の学生として、人生に一度くらいはちゃんと勉強しなきゃなと思ったんですよね。

苦しんだ司法試験


大学一二年は遊びボケていました。バブル絶頂で、いい時期でしたね。

そんな中、大学の活動の一環で現職の弁護士さんのところに伺う機会があったのですが、
ある時、すごくカッコいいなと思う先生に巡りあったんですよね。
お酒を飲みながら「弁護士」という仕事について熱く語る中で、
「本気で目指してみようかな」と思うようになったんですよ。

大学三年から本気で勉強を始めたのですが、司法試験にはかなり苦戦しました。
特に短答式の試験が苦手で、連続して落ちてしまったんですよ。
当時はもうバブルもはじけてしまい、就職の選択肢も無くなって来ていましたし、
法律の勉強の中毒に陥っていくような感覚でした。

ある時、勉強をし続けて、栄養失調で入院してしまったことがあったんですよ。
両親から、実家に帰って来いと言われ、少し静養をすることになりました。
これはさすがに堪えましたね。私にとって挫折となる経験でした。

当時は、心身ともに少し弱っていたんだと思います。
地元で静養していた時に、ふらっと立ち寄った楽器屋で、
聴こえてきた音色に惹かれて、オカリナを買ったこともありました。
打ちひしがれているところに、その音色が響いたんですよね。

時間がかかり、色々なものに支えられましたが、
苦労した時期を経て、無事司法試験に合格することができた時は、すごく嬉しかったですね。

スーパーマンを求められる仕事


初めて弁護士として働き始めたのは、憧れる先輩の事務所でした。
苦労していたこともあり、最初の頃は嬉しくて仕方なかったです。
バッチをつけて歩くだけですごく楽しいんですよ。

ところが、一二年経つと、そのバッチの重みを感じるようになっていったんですよね。

ありがたいことですが、依頼者の方は私たちに対して、
非常に期待をして事務所に足を運んでいただけます。
ただ、その期待が、スーパーマンに望むそれと同じように感じることもあったんです。

依頼者の方の期待が大きいからこそ、自分たちが法律の範囲内で解決策として提示できる価値が、
微々たるものに思えてしまったんですよ。
「スーパーマン」として、人の人生を背負ってしまうことに、不安を感じていました。

正直、弁護士を辞めようかと思ったこともありました。

半ば現実逃避のように、当時流行っていた英語の教材に手を出し、
TOEICの点が順調に伸びていったこともあり、留学しようかと考えたこともありましたね。

そんな気分を一新するキッカケとなったのは、結婚し子供ができたことでした。
色々悩みはありましたが、仕事へのモチベーションを持ち直すことができたんです。

ところが、仕事が忙しいこともあり、家に帰る時間はどうしても遅くなりがちでした。
子育てを楽しみにしながらも、コミュニケーションの時間がとれないことへの危機感が、
少しずつ大きくなっていったんです。

子供の食いつきが違う


子供とのコミュニケーションのために、一番最初に考えたのは音楽でした。
自分自身が得意だったこともあり、オカリナやハーモニカなど、いくつも楽器を与えてみたんですよね。

ところが全部一過性の興味で終わってしまうんです。
なぜだか分からないのですが、興味を示してくれなかったんですよね。

どうしたらいいものか悩んでいた頃、たまたま子供と二人で入ったおもちゃ屋さんで、
マジックのビデオが流れていたことがありました。
そのビデオに二人で見入ったこともあり何気なく商品を手に取ってみると、意外と安かったんですよね。

「この値段で子供を驚かすことができるのなら、買ってみようかな」

本当に軽い気持ちで、安いマジックのセットを買って帰ることにしました。

それから、ちょっと練習してマジックを子供に披露したところ、すごく喜んだんです。
それどころか、一緒に見ていた妻まで本当に驚いていたんですよね。

これはすごいと思いました。今まで一緒にやった楽器などと食いつきが違いました。

それから、真剣にマジックの勉強を始めるようになったんです。
ビデオをすり切れるまで見て研究しましたね。
マジックの教材は英語のものが多いことを知ったときには、
「英語を勉強していたのはこのためだったのか!」と思いましたね。

マジックのサークルにも入り、少しずつ披露する舞台も増えていきました。

マジックが下げる「敷居」


ステージに立つようになってからは、「弁護士マジシャン」として、
法律に絡めたネタでマジックをするようになりました。

ある時、マジックに関する訴訟が起こったことがあり、
担当弁護士として法廷で、裁判官への説明のため、
マジシャンを呼んでマジックを見せたことがあったんですよ。

それがテレビなどのメディアに取り上げられ、
たくさん人に自分の活動を知ってもらえるようになったんです。
逆風かと思っていた法曹の仲間達も、活動を応援してくれました。

僕が「弁護士マジシャン」として目指しているのは、マジックを通じて法律を啓蒙することなんです。

弁護士というと「敷居が高く感じる」と話す方がたくさんいらっしゃいます。
だからこそ、その敷居を下げるツールとして、マジックがすごく有効だと思うんです。

マジックをするようになって、その親近感から本業のご相談をいただくこともありますし、
その逆のパターンもあります。
二足のわらじが相乗効果的に作用しているんですよね。

弁護士だけやっていると、自分が呼ばれるのは離婚や相続等、人生におけるネガティブなシーンが多いです。
逆にマジシャンは結婚式や誕生日など、ポジティブな場が中心です。
その二つのバランスがいいんですよね。

人の心理を扱うという意味では弁護士もマジシャンも似ていると思います。
事務所の名前にもしている「ウィザード」には、「魔術師」という意味に加え、
「専門家」みたいなニュアンスもあるんですよ。
まさに僕にぴったりな言葉だと思っています。

「スーパーマン」ではなく、「ウィザード」だったんです。

二つの仕事で、人生における様々な舞台で、人に笑顔を与えていきたいんですよね。

2014.04.10

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