生死を彷徨った出産で感じた、母親の偉大さ。ママとして、モデルとして伝えたいこと。
一児の母親でありながら、フリーランスモデルとして活動している岩村さん。生死を彷徨った妊娠・出産を経て、辛い時期を過ごしながらも、ママとして働くことを楽しめるようになるまでにはどんな背景があったのでしょうか。お話を伺いました。
岩村 幸子
いわむら さちこ|フリーランスモデル
一児の母として子育てに励む傍ら、フリーランスモデルとしての仕事にも注力しながら、
仕事と子育ての両立に取り組んでいる。
ブログ
疎外感を感じていた中学高校時代
私は、神奈川県横浜市に生まれ、5人兄弟の3番目として育ちました。
中学高校時代は、家庭で親にかまってもらえず、
寂しい思いを抱いていて、疎外感を持っていました。
家にいても、自分のことを見てもらえていないのが分かるんです。
そのため、学校では寂しいもの同士で仲間をつくっていて、荒れていました。
仲間といれば自分が認めてもらえると思っていたんですよね。
それでも、母が百貨店に務めていた関係で、化粧品コーナーに連れて行ってもらう機会があり、
その時間は私にとって楽しみなものでした。
特に、その化粧品コーナーで綺麗な格好をして働いている人の姿に、
段々と憧れを抱くようになったんです。
いつしか、自分もこんな環境で働きたいと思うようになり、
美容部員になることが目標になりました。
そして、高校卒業後は、実際に美容部員として働き始めました。
入社前から接客のイメージトレーニングを何百回と行っていたため、
店舗内で接客数も売り上げも一番を獲得することができました。
務めていた会社はノルマがなく、お客を大切にする風土で、非常にやりがいがありましたね。
ただ、新卒で入社した周りのメンバーは、大学や専門学校を出ている人たちばかりで、
高校を卒業してすぐに入社したのは私だけでした。
私だけ学歴がなかったんですね。
そのせいもあって、在庫管理等のパソコンを使うような業務が苦手で、
周りの人たちにも「接客はできるが業務ができない」というレッテルを貼られました。
自分自身がまだ社会経験が少なく未熟なのもありましたが、
結局、その状況が辛くて、2年間務めた後その会社は辞めてしまいました。
そこで、転職先を考えていると、父が海外が好きで、普段から海外での体験談を聞かされていたり、
中1の頃から海外に連れていってもらっていたことを思い出し、
自分は海外に興味があるということに気づいたんです。
そこで、英語を独学で勉強し、コストコという、アメリカ発の大型会員制の倉庫店を運営する会社に転職しました。
実際に働き始めると、外資系の会社は日本と違い、自由な環境でした。
どんどん有給を取れと言われていて、残業もしない方がよいという環境でしたし、
接客スタイルが日本と違い、「安い代わりに自分でやって」というコンセプトなんです。
そのため、丁寧な接客をすると、会社のコンセプトと違ってしまうので、
その点は辛かったですね。
それでも、3・4割が外国人ということもあり、英語で話すことができるのはやりがいを感じました。
生死を彷徨った妊娠・出産
その後、26歳で結婚し、すぐに子どもを授かりました。
ただ、妊娠してからかなり体調が悪くなり出したんです。
というのも、私は100人に1人の割合で存在するといわれている、つわりの症状がひどいタイプの体質だったんです。
通常、つわりは3・4ヶ月がピークなのですが、
私の場合はピークまでが長く、5・6ヶ月まで続きました。
働いているときから、日ごとに吐き気がひどくなり、まっすぐ立つこともできなかったので、
会社には休業届けを出しました。
それからは、家で夫を仕事に送り出した後、1日に10回以上ベッドとトイレを往復する日々でした。
口元に飲み物を持っていくだけで吐き気を催しますし、
マクドナルドの看板を見ただけで吐いてしまうような状態なんです。
さらに、吐き気が強すぎて、気持ち悪さより睡魔が勝ったときだけしか寝れないんです。
しかも、寝てもすぐに強い吐き気で起きてしまうので、
結局のところ、夜は全然寝れませんでしたね。
本当に、生きているのがやっとくらいの具合の悪さでした。
その後、出産自体も48時間かかり、寝れもせず、ご飯も食べられず、ずっと痛みとの戦いでした。
自分の無事も、子どもの無事も確信できないような状況で、今までにない恐怖感がありました。
痛いのに生まれないという状況なので、ノイローゼ気味になり、
全身が震えていて、いっそ死んだ方が楽なんじゃないかと思う瞬間もありました。
本当に、病院の窓ガラスを割って今にでも飛び降りようと思うくらい辛かったです。
実際、ここで踏ん張らなかったら死んでしまうんだろうな、という感覚がありました。
まるで、臨死体験に近いような経験でした。
その後、ようやく赤ちゃんが生まれたのですが、
正直、そのときは、安心ではなく、苦しみから解放されたという思いの方が強かったです。
こういうことを言うと、「赤ちゃんが生まれたのに、なんてことを言うのか」と思う人もいるかもしれません。
しかし、人間を生むということは命を削って行っていることで、
出産というのは、それほど綺麗事でないものだったんですよね。
それ以来、母親の偉大さを強く感じるようになりました。
社会は「働くママ」に厳しい
その後は、出産時の出血が多かったことで体調を崩していて、
なかなか現場に復帰できませんでした。
また、出産後は妹に預けてもらう予定だったのですが、
ちょうどその頃に妹も子どもを授かり、
結局、預け先がなくなってしまい、私の子どもは待機児童になってしまったんです。
そのため、状態的にも職場に戻るのは厳しいと判断して、
会社を退職することにしました。
それからは、とりあえずアルバイトやパートを始めようと、面接を受けていきました。
しかし、赤ちゃんがいることを理由に休まれたら困るという理由から、
採用されないことが続きました。
結局1年間働き先が見つからず、子育てだけの1年間となり、
働けないことはとても辛いことなんだと感じました。
また、夫がちょうど結婚を機に独立したんです。
独立したては経済的に苦しかったこともあり、私自身1年間美容院にも行かず、
スーパーのお買い得商品ばかりで、質素な生活をしていて、1年間で7キロも痩せてしまいました。
もはや食べる楽しさもなく、経済面でも苦労しましたね。
それでも、夫が起業してから、徐々に事業が軌道に乗っていったんです。
しかし、その状況に、嬉しい気持ちがある反面、その姿に私は嫉妬もしてしまいました。
自分だけが地味な生活をしていて、生活のためにだけ働き、何の意味があるのかと思ったんですよね。
女性として惨めに思ってしまったんです。
「自分はこんなために生まれたのかな」
と思い悩む日々が続きました。
友人との再会を機に前向きに
そんな中、たまたま高校時代の友人に会う機会がありました。
彼女は、昔はずっと部活に熱中しているような子だったのですが、
久しぶりに会ってみると、モデルの仕事をしているとのことでした。
そこで、自分が置かれている環境や辛さの話をしていくと、
彼女からモデルの仕事を紹介されたんです。
正直、それまで、モデルの仕事に対して良いイメージを持っていませんでした。
どうせ、自分のことをかわいいと思っているんだろうと思っていたんです。
ただ、その子には全くそういった嫌みな雰囲気がなかったんです。
というのも、その子がモデルを始めたのは、
新しいことに挑戦したいという理由からだったんですね。
それでも、私は1年間の辛い生活を経て、すっかり自信をなくしていました。
そのため、自分にはできないかもしれないと思っていたのですが、
彼女から
「この世界は厳しい。評価がいいかどうかは相手次第。需要がなければ消えていくだけ。
だからこそ、自分がどう思うかじゃない。やってみなきゃわからない。」
とはっきりと言われたんです。
この言葉を貰ったことで、
「この機会にかけてみたら、自分自身がすごく変われるかもしれない」
と思ったんです。
それを機に、モデルの仕事を始めることにしました。
それからは、ひたむきに努力をし続けました。
幼少期に親にかまってもらえなかったこともあって、
自らに光を当ててもらえる機会はどん欲に挑戦し続け、契約条件が悪くても仕事を続けました。
また、モデル業界では、評価の善し悪しがはっきりしていて、何度も否定されることがありました。
この業界では自分自身が商品なので、言われて当たり前なんです。
それでも、それまでの辛かった1年間に比べれば辛くなかったですね。
その期間が私のモチベーションになっていたんです。
クライアントに認められないことも、全く平気になりました。
そして、実際にモデルをやってみて思ったことは、
綺麗かどうかの評価は、勝手に人間が優劣をつけていて、
その時々の流行でしかないということです。
つまり、モデルの善し悪しはクライアントが決めるので、
自分がどう思うかは関係ないんです。
むしろ、自信をなくして謙遜するような態度は失礼なことだと思いました。
そのため、緊張もしなかったですし、今までの辛さをぶつけていましたね。
自分の姿を通して、同じ悩みを持つママを減らしたい
現在は、フリーランスでモデルをしています。
フリーランスは都度契約なので、会社に所属していないからこそ、
自分にしか出来ない仕事だと思って、一日一日を勝負だと思って仕事をしています。
また、子どもは5歳になり、保育園に通っていて、夫も自営のため、
家事育児の分担は半々になるよう試行錯誤していますね。
これからは、自分が母親として働く姿を通して、
母親であっても、自分の好きなことは出来るということを伝えていきたいです。
というのも、これからのママ達には、自分のような思いをしてほしくないんです。
仕事場で若い子と一緒にといると、
彼女達は、結婚に対する理想や希望もなく、子どもの希望もないと感じます。
これは、ママの負担ばかりを強調している周りや社会のせいだと思うんです。
私自身、母親になってから精神的に豊かになりましたし、
子どもにもいい面があることを伝えたいんです。
実際に、息子は自分の働く姿を見て喜んでくれていますし、
周りの評価に関係なく、私の仕事を息子がそう思ってくれることは、とても嬉しいです。
これまで何人ものママの悩みを聞いてきたので、
自分の姿を通して、少しずつでも社会を変えていけたらいいなと思っています。
2015.03.15