死ぬまでサポーター!サッカークラブが変えた人生

IT系のベンチャー企業で働く傍ら、地元福岡のサッカークラブ「アビスパ福岡」のサポーターとしての活動に情熱を注ぐ谷脇さん。「サッカーが好きなんじゃなく、アビスパが好き」と話す背景にはどんな物語があるのでしょうか。一つのサッカークラブと共に歩む人生について、お話を伺いました。

谷脇 良也

たにわき よしや|アビスパ福岡サポーター
アビスパ福岡サポーター
アビカラ!プロジェクト代表、エスコティーバ所属
アビスパと福岡を盛り上げるために日々奔走する三児のチチ。
盟主Tシャツプロジェクトなど企画、運営。

アビカラ!プロジェクト
個人HP
twitter:@kulop03

正直関心がありませんでした


1993年、日本初のプロサッカーリーグの「Jリーグ」が開幕した頃、僕は地元福岡で大学生をやっていました。

僕は昔からバスケットをやっていて、サッカーはやったことがなかったので、正直関心がありませんでした。
サッカーをしていた弟のために試合に連れて行ってあげたのが、僕にとって最初の観戦でした。

開幕の翌年、当時九州にプロサッカークラブがなかったので、プロサッカークラブを作るための市民運動があったんですよね
「福岡にもプロサッカークラブを」というかけ声とともに多くの人が動きだし、
結局50万人も署名が集まったんです。

その結果、静岡にあったクラブを福岡に誘致することになり、
福岡にもプロサッカークラブができることになりました。

多くのホークスファンに囲まれながらも、野球が好きでなかったこともあり、
サッカークラブができることには少し関心を持ちましたが、
のめり込むことはなかったですね。いちファンという感じでした。

その後、Jリーグ自体は着々と盛り上がりを見せ、99年よりJ1とJ2の2部制になることが決まりました。
それを受けて、98年にJリーグ下位チームとJFL上位チームが、翌年のJ1参入をかけて戦う「J1参入決定戦」が開催されることになり、
年間成績最下位のアビスパも参戦することになってしまったんですよ。
その勝敗次第で来期からJ2に落ちてしまう、いわば入れ替え戦のようなものでした。

今まで味わったことのない歓喜


「J1参入決定戦」とトーナメント方式で、1回戦は地元福岡の博多の森球技場で行われました。
当時は毎試合見に行くようなサポーターではなかったのですが、この日は大一番ということもあり、
スタジアムに足を運んだんですよね。

その試合は、後に「神を見た夜」と呼ばれる、劇的な試合でした。

1−1で迎えた後半、勝ち越し点を許したアビスパは、試合終了間際のロスタイムまで負けていたんです。
ところが、ロスタイムも終わろうとしていたまさに最後のワンプレーで、
途中出場だった地元出身のエース山下選手が得点を決めたんですよ。
得点と同時にタイムアップという、本当に漫画のようなゴールでした。

延長戦でもその勢いは収まらず、最後にVゴールが決まって3−2で勝利したんです。
その日のことを「博多の森の奇跡」と呼ぶこともあるくらい、まさに奇跡のような展開だったんです。

その日、僕は初めて席から立って試合を応援しました。

得点がはいった瞬間、あまりの感動に、隣の人とハイタッチしたり、
よく知らない人と抱き合ったりもしました。(笑)

とにかく鳥肌が立って、今まで味わったことがない歓喜が内側から込み上げて来たんですよ。

その日から、ちゃんと応援しようと思うようになり、サポーター団体に入りました。
20代半ばにも関わらず、プレイヤーとしてもサッカーを始め、サポーター仲間と毎日サッカーの練習をしていましたね。
ここまで始めるのが遅い人はいないんじゃないですかね。(笑)

「無」が一番辛い


ちょうどその頃、同じくアビスパのサポーターだった嫁に出会い、結婚をしました。
嫁に関しては、私よりもずっと昔から応援しており、
高校生の頃から学校に行かないで練習場に行くような、生粋のサポーターでした。

大学院を中退していた私はホームページ製作のアルバイトをしていたのですが、
子供が生まれることもあり、友人の紹介でなんとか正社員になりました。

自分を取り巻く環境は変わりながらも、結婚したことで応援への熱はより一層高まっていきました。

その結果、試合観戦時には、最前列で太鼓を叩くようにもなりました。
最初は、手は血豆だらけだし、10分も叩けば腕がパンパンになるのですが、とにかく熱狂的に応援していましたね。

後援会の実行委員にもなり、ピッチ以外での応援の活動も始めるようになりました。

ところが、当時の勤務先の都合で転勤をすることになってしまったんです。
福岡を離れ、東京に引っ越さなければいけなくなりました。
家族の中で私が一番悩み、引っ越す日には後ろ髪を引かれる気持ちでしたね。

東京に引っ越してからは、「虚無感」という言葉がしっくりくるような感覚でした。
もちろん観戦には行くのですが、アウェーの試合であることに加え、
一緒に応援する知り合いがいなかったこともあり、座って応援していました。

太鼓を叩いているときは考えられなかったのですが、選手のミスに対して愚痴を言うようにもなっていたんですよ。
その間、アビスパはJ1に上がったり、翌年J2に落ちたりしていましたが、
そういう状況でクラブに対して何もできないんだと思い込んでいましたね。

何もできない=「無」が一番辛いんですよ。
なんだか、やりきれない日々でした。

サッカーが好きな訳じゃない


そんなある時、当時務めていた会社のグループが開催したフットサル大会に参加したことがありました。
僕は、自分のルールの一つで、東京に来てサッカーをする機会があるときは、必ずアビスパのユニホームを着るようにしていたんです。
それが自分のアイデンティティでした。

大会当日、僕はもう一人同じユニホームを着ている方がいることに気付いたんです。
まさかそんな人がいるとは思わなかったので、目を疑いました。
そして何の運命か、彼がいるチームと試合をすることになったんです。
整列するや否や、

「アビスパ好きなんですか?」

と話しかけたのを、今でも鮮明に覚えています。
その日から彼とはとても仲良くなり、アビスパの話を熱く語り合うようになりました。
とにかく、東京でアビスパの話ができることがすごく嬉しかったです。

話を聞くと、彼は同じ福岡出身で、東京に来てからアビスパを応援するようになったとのことでした。
昔からのサポーターではないんですが、すごく純粋にクラブを応援していたんですよね。

僕は、サポーターとして最前列に立ち、後援会でクラブ側とも接触していたこともあり、
嫌な面も色々見てきました。
でも、彼との出会いで、再び純粋にクラブを応援する気持ちを思い出したんです。

僕が好きなのは、サッカーじゃなくて、アビスパだったんですよ。

そう気付いてからは、自分の中で何かが変わった気がしました。

そんな時、他県のクラブで、サポーターの寄付で、クラブカラーのゴールネットをクラブに寄贈したニュースが耳に入ってきました。

最初はすごいなぁと思ったのですが、「それは地元の人がやることだよね」と考えていました。
ところが、よく調べてみると、東京で働く人間が地元のクラブのために発起人になったとのことでした。

それを聞いて、なんだか負けたくないと思ったんですよ。

「他の県のやつにできて、福岡にできん訳がなかろうもん」

そう思ったんです。
すぐに、渋谷の居酒屋に彼と友人を集め、ファンから募金を募る、
「アビスパ・カラーゴールネット・プロジェクト」を立ち上げました。
その年クラブの成績が史上最低で、サポーターの雰囲気も最悪でした。
そんな時だからこそ、ポジティブなことをしようと思ったんですよ。

ファンの多くない関東からのスタートでしたが、目標金額の30万円をなんとか達成することができました。
クラブに寄贈する前に僕の家にゴールネットが送られて来たときは、なんだか感慨深かったですね。

死ぬまでクラブがあってほしい


そのプロジェクト以来、少しずつサポーターの雰囲気も変わっていった気がします。
福岡では、「なんで地元の俺らがやれなかったんだ」という声もあがり、少しずつ色々なところで動きが起こり始めました。
僕らも、旅行会社と提携した公式ツアーの開催や、盟主botのTシャツ・ステッカー販売によるチームへの寄付、
USTREAMでの番組配信など、毎年毎年、色々なことに挑戦しましたね。

2013年にクラブの資金がショートしてしまい、経営危機に陥ったときも、
サポーターが自発的に動いて募った寄付と、スポンサー企業からの支援で、なんとかクラブを存続することができました。

「誰かがやれよ」ではなく、「私がやるよ」に変わっていったんです。

現在、福岡では、やはり野球が人気です。
今はみんなホークスですが、将来はアビスパを地元に根付くクラブにしていきたいんですよ。
少しでも多くの人がアビスパに興味を持ってもらえるよう、これからも挑戦していこうと考えています。

でもまぁ、究極的には、僕が死ぬまでクラブがあってほしいというのが本音です。

別に優勝したり、強豪になったりしなくていいんです。
だけど、つぶれたら困る。

僕は、アビスパがあったおかげで、結婚して、フリーターから正社員になって、数多くの大切な人に出会えたんです。
僕の人生の根っこは、アビスパなんですよ。

だから、無くなったら困るんです。

今でも週末は子供と嫁を連れて試合に行きます。
将来は、「奇跡」の試合でゴールを決めた山下選手がアビスパの監督になって、
孫でも連れて観戦に行き、「あの山下監督がいなかったら、お前は産まれてこなかったんだぞ」って話をしたいですね。(笑)

2014.04.07

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