感情を動かし人を繋ぐ、新しいマーケティング。クラウドファンディングという新たな仕組み。

モール型クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」を運営する、株式会社ワンモア代表取締役の沼田さん。クラウドファンディングの本質は、「資金を集めること」ではなく、「人の感情を動かす」新しいマーケティングの仕組みだと語ります。「没個性」だった沼田さんが、ご自身のアイデンティティを見つけていくまでのお話を伺いました。

沼田 健彦

ぬまた たけひこ|モール型クラウドファンディングのサイト運営
「GREENFUNDING」を運営する株式会社ワンモアの代表取締役を務める。

GREEN FUNDING
株式会社ワンモア

自分のアイデンティティとは何か


私は東京で生まれました。 祖父は京都の田舎から東京に出てきて「氷売」などの商売をしていた人でした。私が生まれる頃には既に亡くなっていたので直接話すことはなくとも、父や母から聞いた小説みたいな祖父のエピソードは印象的でした。また、祖父の会社を継いだ叔父2人は、バブル時代とも相まってサラリーマンの父と比べて羽振りが良く見え、隣の芝生は青く見えたのか、小さな頃から商売をして自営で生きることに漠然と興味を持っていました。

私には3歳離れた兄と、双子の妹がいました。 兄は真面目で勉強ができる人で、その兄には負けたくない、比較されたくないと思い、 同じ程度の成績は取れるようにと工夫をしていましたね。

また、同い年の人間、それも女の子が常に近くにいるという特殊な環境から、ある意味では家庭内でも目立つために、自分の個性というものを強く意識していました。ひとくくりにされるのにも反発があり、変わったことをしたいと考えていたんです。

しかし、思春期になってみても自分の強みは分かりませんでした。 変な言い方になりますが、これといって苦手なこともない、でも得意なこともない。 勉強も運動も全部70点位だから、結果的には問題がないように見える。でもだからこそ自分は「没個性」だと思って悩んでいました。

高校生になると、東大に合格した兄を見てすごいなぁと思いつつ、「何とかして効率的に兄に追いつく方法はないか」と考えたりしていました。

人は感情の生き物である


何とか兄と同じ大学に入学できたものの、大学生活の前半は輝かない日々でした。中高時代のテニス部の先輩に「今しか入れないので籍だけでも置いておけ」と言われ、勝手にださいと思いこみ、当初は入る気がなかったテニスサークルに所属しました。

そのサークルは関東大会でも上位に入るような強さで、中途半端な参加しかしない自分がレギュラーになるのは難しく、肉体的な鍛錬の差を埋めなければ勝てない状況があると分かってきました。 一方で必死に練習するなんてださいと思い相変わらず努力もしない。結果として勝てないのが面白くなくて徐々に練習に行かなくなるという悪循環で、日々をだらだら過ごすようになってしまいました。

しかし、大学2年生の終わりになると、打ち込むものがない生活に嫌気を感じてしまったんです。 あんなに大学は面白いと言われてたのに、超つまらないじゃないかと。

そこで、もう一度テニスを頑張ってみようと思い、坊主にして週5で練習するようになりました。 すると、なんでしょうか、「必死になって取り組む」という行為の良さがはじめて実感できたんです。何か温度というか熱量というか、そういうものをはじめて感じたり、人が必死に勝ちに行く時は気合いが意外に大事で、その気迫によって相手を圧倒できることもあるほど、人は感情的な生き物なんだと学んだりしました。

合わないと思った道に進むため、電通へ


もう一つ、大学3年次からは、マーケティング分野の第一人者である片平秀貴先生のゼミに所属しました。最初の面談で「ブランドとは、経営者の志である」という話をされました。 何のことかさっぱり分からなかったけど、ゼミで学んでいく内にその言葉が身に染みこんでいき、何人もの経営者の先輩たちの想いを知ることで、経営そのものに興味を持っていきました。

社会に出るタイミングで、ぼーっと会社を興すことも考えてみたのですが、自分には何もできないと思い、結局大学で学んだことも活かせそうな広告代理店最大手の電通に入社することにしました。

実は、最初は広告代理店は合わないと思い、総合商社に行こうと考えていました。 しかし、親友に「テニスに一生懸命になった時みたいに、一見自分が合わないと思った道に進んだほうが数年経つと正解だと思えるよ」と言われ、その言葉に妙に納得し、電通で働くことを決めました。

電通に入社してみると想像どおりその雰囲気は合わず、「とんでもない会社に入ってしまった」と思いました。しかし、メンターの方に恵まれたこともあり、体育会の環境にいるのも気づけば体に染み込み、仕事で成果を出すことが楽しくなっていきました。

配属された部署も幸運な環境でした。 メンターの先輩の担務変更の関係で他の同期より強制的に独り立ちのタイミングが早かったり、 業績が伸びている航空会社を担当していたことで、ありがたいことに休む隙がない程仕事があったんです。

インターネットを使った新しい協賛の形があるのでは


また、担当していたクライアントが航空会社であったこともあり、広告出稿の提案だけではなく、様々なコンテンツ・イベントへの協賛依頼がありました。

ただ、クライアントとしては規模を判断して協賛するメリットのありなしを考えるため、お断りすることも多くあり、 もし協賛が集まらなかったらどうするかを聞くと、自腹で身を削るという話をいくつか聞きました。

プロジェクトを実行しようという人の思いは熱いのに、そこにお金が集まる仕組みの無さを実感したんです。 その時に、新しい協賛の形として、インターネットを使って協賛者とのマッチングができたら、面白いマーケティングになるのでは?とも考えたりしましたね。ちょうどクライアントがインターネットの利用に積極的だったころもあり、 デジタル要素を使った新しいマーケティングの仕掛けを起こしたいと考えるようになっていたんです。

一方で、皮肉なことにインターネットに多く触れたことで、ネット上での電通に対してのネガティブな評判が目に止まるようになりました。漠然ともっと社会からポジティブな評価を受ける仕事をしたいと考えるようになり、5年目の時に希望していたネット系ではない部署へ異動となったことをきっかけに、 中高大学の同級生が経営していた会社に思い切って転職することにしたんです。

ストーリーで人の感情を動かす


転職した先のイミオでは、パキスタンからフェアトレードで輸入したサッカーボールを日本で販売していました。 誰に話しても、「素晴らしい」と共感してもらえ、社会的にも意義のある仕事でした。 ただ、圧倒的なスピード感で進むベンチャーの仕事に魅せられていく一方で、在庫を抱えキャッシュフローを気にしないとならない多くの中小ものづくり企業には、新しい仕組みが必要だとも感じるようになっていました。

ある時、有名アーティストとコラボしたサッカーボールを受注生産で予約を募ったところ、 なんと予約開始数時間で想定の数倍近い申込みが来たという成功例がうまれました。メッセージの伝え方によって、サッカーボールを「スポーツの道具」という機能的価値としてではなく、 それぞれの人にとって「インテリア・記念品」というエモーショナルな価値として捉えてもらうことができるんだ、と思いましたね。

「ストーリー」を伝えることで、感情が動き、それが購買につながる。 これはものづくり分野はもちろん、電通時代に関わっていたコンテンツづくりにおいても、在庫や初期リスクを解決できる、革新的なマーケティング手法なのではと考え始めたんです。

また、ちょうどSNSが台頭していて、新しい行動様式が生まれることも予測していました。 いいね!に代表される「承認と共感の時代」に起きてくる購買活動を考えることが、新しいマーケティングの仕組みをつくるヒントになるはずと考えていたところ、海外でインターネット上で出資を集められるクラウドファンディングという仕組みがあることを知りました。

まさに「共感」で感情を動かし購買につなげる仕組みで、この中で起きていることを研究し、モデル化していくことこそが新しいマーケティング手法だとその可能性を感じたんです。

そして、人生の恩人とも言える先輩の後押しもあり、2011年に起業することに決めたんです。

人と人の縁で、心にダイレクトに繋がる仕事


ただ、グルーポンの事例などを見て、海外で確立されているからといって全く同じビジネスをするのは、大きな資本を持った企業が参入してきた場合リスクが大きいと考えていました。 そこで、「モール型」というビジネスモデルを構想しました。

自分たちだけでプロジェクトを集めてくるのではなく、クラウドファンディングのパッケージシステムを提供して、クラウドファンディングサイトを運営したいパートナー企業を集めたのです。そうやって、パートナーの皆様と一緒になってプロジェクトを集めてプラットフォームを盛り上げ、力を結集して成長してきたのが「GREEN FUNDING」です。

その後、クラウドファンディングに関する様々な知見が溜まっていく内に、自社直営で運営するサイトにも多くのプロジェクトや支援者が集まってくるようになりました。パートナーの皆様のサイトと自社サイトがハイブリッドで存在するモール型のクラウドファンディングサイトは、世界でも珍しいオリジナルなビジネスモデルです。

よくクラウドファンディングは「資金調達のための手段」と言われますが、どちらかと言えば、人の感情を揺さぶることで結果お金が動く「新しいメディア」と捉えています。テレビCMと予約販売が一体化している、そんな感じです。 人と人の縁で仕事が広がりますし、人の感情とダイレクトに繋がる仕事なので、常に新しい発見もあり飽きないですね。

より多くの人に新しいマーケティングの仕組みを


今後はまずはコンテンツ系のプロジェクトに注力し、その後「日本らしいプロダクト」系にも広げていきたいと考えています。 クラウドファンディングでは新技術を使ったものづくり系のプロジェクトも多いので、GREEN FUNDINGを通じて新しいプロダクトを作っていくことにも興味があります。

一方で技術革新は常に起こっているものではないので、 ある程度したらハードだけの発明は落ち着いていくと思います。その時こそハードとソフトをどう組み合わせていくかの勝負になり、審美眼をもった日本のクリエイターたちが「日本らしいプロダクト」を生み出せるチャンスだと思っています。初音ミク等に代表されるとおり、技術の上に生まれてくるジャパンコンテンツは、ソフトとして世界と勝負できる武器になるはずだと考えているからです。

また、様々なパートナー企業と提携して、クラウドファンディング自体を社会に広めることにも力を入れています。今までもテレビ番組を企画したりしていましたが、2015年1月には、TSUTAYA を展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)のグループ企業、T-MEDIAホールディングスと提携することも決まりました。「Tカード」を持つ映画・音楽・本好きの会員の方に、新しい映画・音楽・本を作るクラウドファンディングのプロジェクトを紹介したり、いつもは見る・聞く側の人も、作り手側になれる世界を作っていきたいと思っています。また、Tポイントで支援できる仕組みを取り入れるなどし、今までアプローチできていなかった人たちにも、クラウドファンディングの仕組みを知ってもらえればと思います。

最近思うのは、自分が没個性でアイデンティティを探していたからこそ、起案者やプロジェクトの魅力をどう伝えるかを一生懸命考えれるし、そういう仕事が好きなんだと思います。そしてクラウドファンディングを通じて、様々な人・プロジェクト・事業・企業、ひいては社会の役に立っていくことこそが、実は私のアイデンティティなのかもしれません。

2015.02.17

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