人の笑顔のための、ものづくり。価値観を180度変えた出会いとは。

墨田区吾妻橋に工房とショップの機能を備えた「HIS-FACTORY」を立ち上げた中野さん。革を使ってオリジナルブランドの商品を制作する仕事人としての一面もありつつも、地元の人たちとの関わりを大切にされています。そんな中野さんが貫くものづくりへの姿勢、そして現在の生き方に至るまでのお話をお伺いしました。

中野 克彦

なかの かつひこ|革製品工房&ショップのオーナー
墨田区吾妻橋に工房とショップの機能を備えた「HIS-FACTORY」の代表を務める。
革を使ってオリジナルの型のセミオーダーからフルオーダーの鞄を制作販売。オリジナルの革小物販売、ワークショップも開催している。

HIS-FACTORY HP
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興味が絶えない、職人が集まる製造の世界


社会人になるまで、千葉県の八千代で生まれ育ちました。
仲間と一緒にやんちゃばかりしていましたね。

定職につかず、いろいろなバイトする生活が続いていたのですが、
20歳前、親のつながりで東京の台東区で働くようになったのを機に地元を離れました。

その後入社した会社は鞄、袋物の金具製造卸問屋で、
左も右も分からず見るもの全てが初めてで、 新しい世界と出会ったような感覚でしたね。
金具製造現場から販売までの一連の流れを目にすることができ、それはすごく面白くワクワクしました。
また、製造に関わる人たちは、一筋縄ではいかない職人の方々ばかりで、
いろんな世界観を持った人たちとの出会いは刺激的だったんです。

積極的に関わっていたこともあり、仲良くさせてもらっていた鞄製造メーカーさんからお誘いをうけて、2年後に転職しました。

転職した先の社長は、取引先から受けたデザインを商品化に向けて工夫してはヒットを生み注文が絶えず続いていました。
しかし、拘りすぎて、生産になると外注の職人さんとの工賃が合わず、
注文が来ても利益が無い状態が続いてしまい、経営は右肩下がりで、
しばらくしたタイミングで会社を畳むことになってしまったんです。

勢いと挫折、俺の存在価値ってどこにあるんだろうか


残された私は、心の中にもっとできるんじゃないかと言う気持ちがあったので、
その会社を継ぐような形で24歳で独立することにしました。

初めは以前の取引先関係から仕事を請け負ったのですが、
景気も良かったのか新しい注文も途絶えず舞い込んでくるようになってきたんです。

私自身はまだ何をしたいかが、明確になかった分、仕事を選ぶ余裕さえなく、
とにかく目の前の業務をこなす事に夢中でした。
そうして、大量受注が進んで海外生産までも行うようになり、
いつの間にか売り上げが上がることがステータスという気持ちになっていったんです。

ただ売上が上がる一方、人件費、必要経費も上がっているのも感じていたものの、
次の注文で挽回できるという、神話を信じていました。

しかし、そんなうまくは行かなかったんですよ。
注文書通り生産したモノは在庫で持たされ、
半年後の引き取りの際には値引き、無理な納期も請け負い、返品など思いもよらないことが起きました。
さらに時代はデフレになり、加工賃や生産コストを安くするのが当たり前のような風潮が続き、利益は減少し続けていきました。

独立どころか振り回されていると感じ、自信も無くなりかけ、
「俺の存在価値ってどこにあるんだろう?」 ストレスばかりの日々が続きました。
このまま薄利多売で競争していくのか、もう辞めるか、新しい道を切り開くのか、散々悩みました。

自分のコトと仕事ばかりしか考えられなかったこの頃、あいそをつかされ離婚、
どん底を味わったような気分でした。

180度変わった価値観


その後は色々悩みましたね。
自分のこれまでを振り返った時に、メーカーに努めていたころの社長を思い出したんです。

職人気質で、とことん質にこだわる姿を思い出し、「あれだ!」と思ったんですよね。

手の込んだ、高品質の製品を自分のブランドとしてやっていくことを決意し、
それを機に、工房と住居が一体となった物件があった墨田区に移転しました。

大量生産型の取引先を変え、海外生産を打ち切りにして、
国内の職人さんと、手の込んだ取り組みを試みました。
しかし、高齢の職人さんにいきなり手の込んだ生産は負担が大きいので、
自分でパーツを作って、受け渡し、職人さんに組み立ててもらうような流れを作りました。

しかし、流通の値段には合わず、加工賃金は低迷し、またも厳しい状況が続きました。
「もう自分でやるしかないっ!」と思い、自分のブランドも立ち上げ、
自ら型紙からサンプルを作り、自分の作品を発表し、オーダーメイドで鞄を作って行こうとしたんです。
職人さん周りで長年見てきたので、ある程度は解っていたつもりですが、
実際やってみると失敗ばかり、テストや訓練の日々が夜な夜な続きました。

また、ホームページを開設し、ブログなど発信も行いました。
そして2Fを店舗と改装し、以前とは全く異なる仕事をするようになりましたね。
しかし、お客さんはほとんど来ない日が続きました。

そんなあるきっかけで、近所の友達に誘われて
地元の墨田区で開かれている『ものコト市』という、
ものづくりに携わる地域の方々が集まるイベントに出店をすることになったんです。

果たして鞄を出店しても売れるのかなぁ、なんて思いながら、当日に臨みました。
ところが、実際に出展してみると、それがもう、とんでもなく楽しかったんです。

神社を貸し切って、地域の手作りの商品や飲食店が並び、地元の人たちがたくさん来て、
この日多くの方々と触れ合い、たくさんの人の温かさに触れました。

そこでは、色々な人がワクワクしていて、笑顔に溢れ、奥ゆかしさもあり、
そこに集う人たちに、愛おしさを感じたんです。

売れる売れないはともかく、このイベントが本当に楽しく、 参加したこと自体に満足をしたんですよね。
その時、質重視で方向転換しながらも、売上は大事だという価値観は残っていたのですが、
人に喜んでもらえるのが何より大事だという価値観に180度変わりました。

人の笑顔のために


それから、ものづくりのイベントには積極的に参加するようになりました。
東向島珈琲店という近所の喫茶店のマスターにもとても良くしていただき、
いろいろな人との出会いもありました。

また、イベントに来てくれたお客様が数か月後にお店に来ていただき、
セミオーダーの鞄を注文してもらえたり、口コミでフルオーダーの鞄も制作も多くなったんです。

ワークショップでは、参加した人達が制作中に「楽しい~」、
完成後、自分の作った作品を見つめながら「嬉しい~」と目の前で言ってもらえるのを見て、
これまで味わったことのない、人の喜びを感じることができました。

そして、それまで想像もしなかった、
子育て支援イベントで子どもたちへの革を使ったモノ作りのワークショップなども頼まれるようになりました。

こうしていくうちに振り返ってみると、私は、墨田区の人たちから、「豊かさ」を教えてもらったと思います。
それまでは、無意識に利益を上げることが一番大事だと考えていたり、
うまくいかない事は人のせいにしていた自分がいました。

自分が変わらなければ何も変わらないということが良く解りましたね。

今では、どうしたら人に喜んでもらえるか、役に立てるかとかばかり考えるようになりました。
これからももっと、ものづくりを通じて、楽しさや豊さ可能性を皆さんに知ってもらいたいです。
墨田区にはたくさんの職人さんもいますし、イベントがあります、ぜひ遊びに来てもらえたら嬉しいですね。

これからも、素材も最良のもので味わいのあるもの、制作もじっくり手間をかけ、
10年、20年永く使い続けていただける鞄を作り続けて、
どこまで真の豊かさを追求できるか、ワクワクしています。

2014.11.21

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