スモーキーマウンテン出身者も輝ける世界を。理不尽から救うために、後悔しない人生。

フィリピンの貧困地域出身者が英語教師になるプログラムを提供し、その卒業生が教師を務める語学学校を運営する倉辻さん。「理不尽な環境にいる人の力になりたい。」と語る背景にはどのようなものがあったのか、お話を伺いました。

倉辻 悠平

くらつじ ゆうへい|フィリピンで貧困層向け育成プログラムの提供
フィリピンにあるNPO法人PALETTEの共同代表を務める。

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PALETTE

環境によって変わる感情


私は大阪で生まれ育ちました。特別クセのない、ごく普通の小学生だったのですが、小学校4年生の時に、仲良くしていた友だちから突然いじめられるようになりました。いつも仲良しだった友だちが、ものを隠すようになったり、一緒に帰ってくれなくなったりして、悲しかったし、何か悪いことをしてしまったのかと考えるようになりました。

しかし、5年生になると突然いじめはなくなって、今まで通り仲良くできる生活が戻ってきました。特に自分が変わったわけでもなかったのに。この時に、当たり前ですが、「環境によって人は変わるんだな。」ということを強く感じました。自分ではコントロールできない、「理不尽な環境」によって苦しんでいる人が他にもいるんじゃないかと思うようになりました。

そこで、高校生になると、将来は心理カウンセラーになりたいと思うようになり、人の成長過程の人格形成と周囲の環境との関わりを勉強するため、大学は発達心理学を学べる学部に進みたいと思うようになっていきました。しかし、現役では合格することができず、浪人することになりました。

知らなかった理不尽な世界


浪人中も心理学を学べる学校を目指していたのですが、テレビで「世界がもし100人の村だったら」という番組を見た時に、進路を大きく変更することにしました。それは世界中にいる過酷な環境で生きている人たちの実情を紹介する番組で、自分が知らない場所で大変な目に会っている人がいることを知り、涙が止まらなかったんです。

それまでは自分自身が感じた理不尽さを解消したいと思っていたのですが、世の中には自分が知らない場所で、もっと理不尽な目にあっている人がいることを目の当たりにし、世界のことをもっと知らなければならないと思ったんです。そこで、大学は心理学系の学部ではなく、国際系の学部に行こうと思い、立命館大学の産業社会学部の国際インスティトゥート学科に進むことにしました。

しかし実際に大学に入ってみると、一般教養の授業は飽きてしまって、また新しい友だちと遊ぶことが面白く、勉強はせずに授業も寝てばかりいるような生活を送るようになりました。

そんなある時、授業が終わって目覚めると、国際協力NGOアクセスが主催するフィリピンへのスタディーツアーのチラシが置かれていました。その時「こういうことをしたかったんだ」と思い出し、すぐに友だちを誘ってそのスタディーツアーに申し込むことにしたんです。

そのツアーではフィリピンのスモーキーマウンテンと呼ばれる、ゴミ捨て場になってしまった地域近くのスラム街に行ったり、貧困地区でホームステイをしたりしました。そして、ホームステイ先の10歳位の子どもに将来何になりたいか聞いた時に、その子は嬉しそうに「お医者さんになって、同じように困ってる人を助けてあげたい」と言ったのですが、正直、心から「努力すれば叶う」とは思えなかった自分がいたんです。どうしたらこの状況から医者になれるか分からなかったし、その仕組を変えることもできない自分が悔しくてたまらない瞬間でした。

後悔なく人生を終えたい


その後はNGOに携わりながら、フィリピンの貧困をなくすための活動に従事しました。国内のチームでは様々な学校に行き、フィリピンの現状を知ってもらう授業を開いたり、海外のチームで実際にスモーキーマウンテンでゴミ拾い活動をしている団体の支援をしたり、大学の授業にはほとんど出ずに現場での経験を積んでいきました。

そうやってひたすら活動に打ち込み続けていた中、就職活動の時期を迎え、改めて自分はどんな人生を送りたいか考える時がきました。そして、自分は「どう死にたいか」と考えた時に浮かんだのが、映画『アルマゲドン』のワンシーンでした。ある登場人物が最期を迎える時に、それまでの人生が走馬灯のように走るのですが、その時のイメージに一切後悔がなかったんです。

私も死ぬ間際で後悔のイメージが浮かばない人生を送りたいと思い、私にとってはそれが、世界にある理不尽な問題と向き合い続けていく、ということでした。また、全力で向き合わないと意味を成さないと考え、自分で事業を起こすことを決めました。この知ってしまった世界に対して何もしなかったら後悔する、そう思ったんです。

そして、この考えを全うするため、友人ら5人でフィリピンの貧困をなくすための起業チームを作りましたが、3年半働いた後退職し事業を始めることを約束し、大学卒業後はそれぞれ就職をすることしました。自分たちのアイデアを形にするためには、人を巻き込む力が必要だし、継続的なものにさせていくためにビジネスの力は絶対的に必要だと思ったんです。

そこで人の魅力を最大限成長させられそうな、リクルートに入社することにしました。

雇用を生み出す


ただ、自分の力が及ばないことが多く、会社に入りながらも団体の活動を続ける二足のわらじ生活だったこともあり、 営業成績は全く出せず、同期の中でも最下位でした。 上司や先輩からも、辞めるのもひとつの手だと勧められるほどひどく、本当に迷惑をかけしました。

しかし辞めずになんとか続けていたのですが、ある日、平日の朝5時頃まで団体のミーティングがあり、次の日の仕事に遅刻してしまったことがありました。この時にさすがにこのままじゃまずいと思ったし、団体のメンバーもこんな生活ではやっていけないと、1人を残して辞めることになってしまったこともあり、一旦団体の活動は休止して、仕事に集中することにしました。

考えを変えたたからといってすぐには結果は出ませんでしたが、上司、メンバー、お客様に支えられて、徐々に成果も残せるようになって行き、最終的にはリーダー職も経験させてもらいました。そして、当初の予定通り3年9ヶ月ほど働き、退職しました。

そして退職後、もう一人の共同代表者西村と一緒に、まずはフィリピンの語学学校に通うことにしました。 「フィリピンの理不尽さ」という分野の中で、「雇用」をテーマにしようという軸はあったものの、 具体化するためには現地の人に話を自分の耳で聞きたいと思っていたからです。

ただ、そうやって語学学校に通っていくうちに、そもそも語学学校のビジネス自体が良いものなんじゃないかと思うようになりました。「英語教師」という仕事はフィリピン人との親和性が強く、貧困地区出身で学歴が十分でない人でもなれることができるかもしれないし、海外からの生徒が来ることで学校の周りには経済圏ができるので、そこでも雇用が発生するんです。そして、この語学学校のアイディアをプレゼンテーションしたところ、多くの賛同の声をもらうことができたので、やってみようと決めました。

貧困地域出身者でも関係ない


そして、2014年1月に団体名を「PALETTE」と改め、フィリピンの貧困層の人がゴミ拾いなどの、その日暮らしを与儀なくされるような仕事ではなく、ちゃんとした仕事(ディーセント・ワーク)につけることを証明するロールモデル育成PROJECTを始め、英語教師になるためのプログラムを提供開始しました。 また、そのプログラムを卒業した人が本当に英語教師として働けるとことを証明するため、自分たちで語学学校も運営しています。

フィリピンでは大学を卒業しても正規の定職に就けないことも多いような雇用環境なので、貧困地区出身者が英語教師という職業になるなんて絶対無理だと色々な人に言われましたが、今では2人がプログラムを卒業し、英語教師として働いています。将来はこのプログラムを卒業した人が、他の語学学校でも働けるということを証明していきたいです。また、今は英語教師のプログラムだけですが、今後は職業の幅を広げていきたいと考えていて、ITエンジニアなども検討しています。

さらに将来は、フィリピンで子どもが学校を卒業できるように支援している団体などとも提携して、学校を卒業した後雇用まで包括的に支援できるような仕組みを創ったり、フィリピンの行政と、より底流階級向けの支援の一環として提携していったりしたいと考えています。そこまで仕組みが作れたら、そうやって貧困地域で育った人が仕事を見つける姿をロールモデルとしてメディアで配信していき、「フィリピン版情熱大陸」なんてやれたらと思っています。

まだまだ道は遠いですが、まずは貧困地域の人でも仕事ができるようになることを証明していき、 理不尽な環境で育った人でも輝ける社会を創っていきたいです。それが、私にとって後悔のない人生を歩むということになるんです。

2014.11.18

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