マイノリティーをエンパワーメントしたい。フィリピンの竹ジュエリーで伝えたいこと。

フィリピンの北ルソン地域に住む山岳先住民族の生き方にインスピレーションを受けてデザインされたジュエリーブランド「EDAYA」を立ち上げた山下さん。地域文化を継承していくことで、マイノリティが発信する力を強めたいと語る背景にはどんなものがあったのか、お話を伺いました。

山下 彩香

やました あやか|ジュエリーブランド代表
EDAYAの代表であり、ブランドのディレクション、デザインを行っている。

【クラウドファンディングに挑戦中!】フィリピン少数民族の竹楽器職人たちと歩んだ3年間の挑戦と学びの軌跡をエッセイ&作品集(CD付)として出版したい
EDAYA

人の心に興味を持つ


私は福岡県で生まれましたが、生まれてすぐに引っ越して神奈川県で育ちました。生まれつき左耳が聞こえなかったのですが、周囲の友だちには隠していました。日常生活はそこまで不便ではなかったのですが、左側から小さい声で話しかけられると聞こえず、映画館等で座る位置とかは気にしたし、聞こえなかった時も冗談等を言ってばれないようにしていました。

知られたら周りの人が離れてしまうのではないかと、いつも人の顔色を伺っていましたね。この頃から、人の心の中が知りたいと、心のどこかで思うようになっていました。

一方で、「自分にしかできないこと」にこだわりがあり、将来は戦場のカメラマンや国境なき医師団のような、第一線で働く仕事をしたいと思っていましたし、何に対してもやるなら一番を目指したいという思いがありました。

そこで、高校生になってカナダに1年間留学し、大学は医学部を目指していました。しかし、受験期間に帚木蓬生さんの『閉鎖病棟』や、24の人格を持つビリーミリガンの小説を読む中で、人の精神や心により関心を抱きはじめ、人の心と頭はどうやってつながっているのか、どうしたら人の心は動くのかを考え始めました。そういったことに関わる認知心理学という学問があると知り、そちらを目指すようになったんです。

そして一浪の末、東京大学の理科Ⅱ類に進学することができました。

劇団表現を通じてみつけたもの


しかし、大学に入ってみて、認知心理学が自分が想像していた学問とは少し違っていたことを知り、やる気をなくしてしまいました。直感的に「これだ」と思ったことに突き進んでしまうことが多かったんです。

それからは、大学よりもアルバイトなどに精を出すようになり、3年生で学部を選択する時期が訪れました。文系、理系にこだわらず自分の可能性をフェアに判断したほうが良いということは分かっていつつも、理系に進学したプライドもあり、その中で、将来海外の最前線で働く仕事につながりそうな、農学部国際開発農学に進むことにしました。

また同じ頃に、英語劇を行う劇団「MP(モデルプロダクション)2008」に参加することにしました。留学した時から自己表現できる人に憧れていて、大学1年生の頃からこの劇団のことは知っていたのですが、毎年入ろうと思いつつ、なかなか一歩を踏み出せていなかったのです。

しかし、学部生のうちに入らないとチャンスがなくなると思い入団を決意し、昔から色を組み合わせたりするのは得意だったので、演者ではなく衣装等を担当しました。

この劇団で1年間活動したことで、それまで考えていた人の心を動かすということに対して、自分のなかでの1つの方向性が見えました。それは、チームで1つのものを作った時のエネルギーはとてつもないものであること、本気で思いを込めたものであれば相手に伝わるということ、そして自分はポジティブなことを表現する芸術が好きだということでした。

そんな気づきを得ながら、卒業後は大学院に進学することにしました。学部での研究は「土」だったのですが、実験や分析が多く、大学院はより「人」との接点を求めて、医学系研究科人類生態学に進みました。

マイノリティをエンパワーメントしたい


大学院に進学した春、就職も考え始め、どの方向に進むか決めなければと考えていました。就職・公務員・研究者など進める道は多く、どれも面白そうだと感じたのですが、どれも自分じゃなきゃいけないことではなかったので、決めあぐねていたんです。

そこで、海外でなにかやりたいことがある人を応援している、「S.T.E.P.22」という団体に入り、そこに所属している社会人からの手助けをもらいながら、半年間ひたすら自分を見つめなおす時間に充てました。そして、学歴やプライドなどを取り払い、過去のことを振り返り考えていくうちに、障害を持っている自分にも当てはまる「マイノリティ」という言葉と、ポジティブなことを表現する「芸術」という言葉が軸であることに気づいていったんです。

マイノリティやメジャーではないものに取り組んでいく個人をエンパワーメントし、それぞれの人が、ありのままの自分を発信していける社会にしたいと思ったんですよね。

そして、ボアール氏によるブラジル発祥の「被抑圧者の演劇」という、抑圧された人々の力を演劇を用いて発信していくという手法がフィリピンの劇団でも使われていることを知り、S.T.E.P.22の奨学生として夏休みに2週間のプログラムに参加しました。その後、さらに、もっと現地のことを知りたいと北フィリピンのルソン地方で活動するNGOの劇団とコンタクトを取り、衣装担当として手伝わせてもらうことにしました。実際に劇に携わってみると、その劇の音楽は、全て北ルソン山岳先住民族の伝統的な「竹で作られた楽器」で演奏されており、その響きに魅了されてしまいました。

また、その劇団の音楽を全て一人で奏でていた演奏者のエドガーさんは、プロの演奏者でありながら鉱山でも働いていると聞き、鉱山を見学させてもらうことにしました。大学院では、土とそこにまつわる人と文化のようなことをフィールドワーク的に研究していたので、興味があったんです。そして実際に鉱山を見た時、正直大変そうな環境で課題意識も感じたのですが、この時は特に何をするわけでもなく、日本に帰国することにしました。

伝統の継承を考えるきっかけを作る「EDAYA」


帰国してからは就職なども考えたのですが、フィリピンで見た光景が頭から離れず、あんなに貴重な体験をできたのに、何もしなくて良いのかと感じるようになり、研究者の道も念頭に置き、とりあえずはフィリピンに戻り鉱山を研究することにしたんです。

現地で研究を進めていくと色々な関係性も見えてきて、最初に感じたほど鉱山で働くのは劣悪ではないと分かってきたのですが、それでもチャンスは少ないと感じましたね。

しかし、私は研究をして現地の人から情報を色々もらっているのに、自分は何も提供できていないことに歯がゆさを感じるようになりました。そのため、何かできないかエドガーさんに相談したところ、彼は伝統の楽器だったら作ることができるとのことでした。そこから、楽器と楽器や地域の伝統文化にインスピレーションを受けたジュエリーの製作販売の構想が生まれました。

そして、大学院前期課程を修了後は、就職でも進学でもなく「EDAYA」というブランドを立ち上げ起業することを選択して、北ルソンの文化や竹楽器の伝統が失われないように、現地で作った、竹を材料にして、デザインにも文化的背景を組み込んだジュエリーの販売を日本で始めました。また、文化を継承していくために、現地で竹楽器の調査をしたり、子ども向けに教育したりする活動や、地域を活性化する取り組みとしてフィリピンと日本の地域同士の交流会などに力をいれるようになりました。

そして、2年間様々な活動を続けてきたのですが、全てを行うには時間も限られていて、またジュエリーとその他の活動を分けた方が良さそうなことも分かってきたので、ジュエリーのブランドを一新して、そちらに注力して、その他の活動は規模は小さくても継続することに力を入れることにしました。

伝統文化はかっこいい


今はジュエリーの制作販売を強化しているのですが、その先には、フィリピンで竹楽器といった伝統文化に関心をもつ若者が増え、しいてはマイノリティーの若者自らがそのアイデンティティに自信をもち輝ける社会を目指しています。

2年間の活動を通じて、現地での伝統を継承していくには、教育や体験を行うだけでは不足していて、彼らにとっては生活していくことができるだけの収入を得ることも大事なことだとわかったんです。

今の日本は東日本大震災の経験もあり価値観が見直されて、経済的発展だけが全てでなく、文化を残したり、それぞれの人らしい生き方をする価値も大切だと認知されています。しかし、フィリピンは経済が急成長している国なので、経済の発展が重要で、より多くの人の食や生活の質を向上させる事業に比べて、文化事業への関心は低いのです。

私は途上国はこのままいくと、経済成長だけを求めるあり方にひずみが出て文化的な欲求に回帰しつつある日本と同じように、ひずみが生まれるまで気づかない経済成長を辿るのではないかと感じています。そうであれば、大切な文化が失われてしまう前に、今の段階から一元的な価値観に引っ張られるのではなく、もっと文化的事業に取組むという価値観を持てるようにしたいと考えていて、そのためにはそれに取り組むことが経済的でかつ、かっこいいと思われることが必要なんです。

だからこそ、「生活ができる収入を得られる」「かっこいい」という側面から現地の若者が携わりたいと思ってくれるように、EDAYAのブランドを設計しているし、事業として成功することで、竹楽器だけではなく、他の地域の文化に関わる人へのロールモデルとなることも目指しています。

そうやって地域の伝統を生業として生きる人を増やし、マイノリティをエンパワーメントしていきたいと思います。ブランドのコンセプトは固まってきているので、これからはより多くの人に協力してもらい、より社会にインパクトを与えられるように進んでいきます。

2014.10.14

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