消費するために描くのではない。リアルな繋がりを生み出す、ライブペイント

アパレルブランドのグラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、イベントなどでライブペインターとしても活動されているREさん。「自分の価値観はパンクの精神に影響を受けている」と話すように、社会の歯車にはなりたくないと、もともと絶対就職はしないと決めていたそうです。 そんなREさんが、現在のようにライブペイントなどの活動をするまでにはどのような背景があったのか、お話を伺いました。

RE

|グラフィックデザイナー兼ライブペインター
アパレルブランド『5W』のグラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、個人でライブペインターとしての活動を行う。

『5W』
Marui RE Tetsuyuki(Facebook)

スケートシングとの出会い


小さい頃から絵を描くのが大好きな子供でした。
また、幼稚園の頃に親に勧められて始めた習字は、賞をよくもらっていて、
特に好きだったわけではなかったのですが、小学校を卒業するまで続けていました。

中学に入学すると、流行っていた漫画の影響でバスケ部に入りました。
かなり厳しい部活でしたが、NBAに憧れて練習を頑張っていましたね。

また、学校ではやんちゃな友達とも仲が良かったのですが、
彼らが先輩に使い走りにされているのを見て、
そういった理不尽な縦社会に対して嫌気がさしていました。
そこで色々な思いもあり、より新鮮な環境を求めて私立の高校に進学することを決めました。

高校でもまたバスケ部に入部したのですが、
また中学の時と同じような日々を3年間過ごすのかと思うと嫌になってしまい、高校2年の途中で辞めました。

その後は、入学した時から仲の良かった友達に誘われて、バンドを始めることにしたんです。
主にパンク・ロックをやって、ライブハウスに出たりしていたのですが、
バンドのアルバムジャケットやTシャツ、フライヤーなどのグラフィックがとても魅力的で、
自分でバンドのグッズを妄想でデザインしたりフライヤーを作ったりするのも大好きでした。

同時に、スケートボードなどのカルチャーからアートやデザインも好きになっていたので、
よく本屋でアートブックのコーナーを観ていました。

そんなある日、本屋へ行くとミッキーとSTAR WARSのストームトゥルーパーを組み合わせたとても気になる表紙の本があったんです。
買って見ていると、おまけにステッカーが付いていたり、
普通とは違う視点でとても表現にひねりがあり、子供心をくすぐられるものでした。

実は小学生の頃から、ずっと引っかかっていたCDジャケットや、誰かはわからないけど、カッコイイなと思っていたグラフィックを、
全部その人が作っていたことがわかり、どんどんその世界観に惹かれていきました。

そしてそのデザインをしているのが、スケートシングさんという方だとわかったんです。
そこで、自分も彼のようになりたいと思い、どんなことをするのかもよく知らないながらも、
グラフィックデザイナーを目指すことにしたんです。

あるレコード屋さんとの出会い


ところが、進路を考え始めたのが高校3年生の終わりに近づいていたので、
もう美大の受験には間に合わなかったんです。
普通の大学には行きたくないと思いつつも、両親から大学だけは絶対卒業しなさいと勧められ、
センター試験で唯一受かった、私立の大学に進学することになりました。

ただ、そうやってとりあえず大学に入っただけだったので、入学してからは本当に毎日遊んで過ごしていましたね。
バンドサークルに入り、その仲間と組んでライブハウスに出たり、スケートシングさんの追っかけをして、
彼のデザインしたTシャツを買ったり、DJイベントに遊びに行ったりしていました。

そして、しばらく追っかけを続けていると、オーナーがスケートシングさんと仲が良いという、
原宿の『ZOOT SUNRISE SOUNDS』というレコード屋さんに行き着いたんです。

すると、そのお店で売られている洋服や流れている音楽など全てがかっこよくて、とてもワクワクしたんですね。
また、それまではパンクやハードコアしか聞いてこなかったのですが、それ以外の音楽も聞くようになり、
自分の未知の世界がどんどん広がっていくのが楽しくて、お店に入り浸るようになっていきました。

そんな時に、このお店で服飾関係の学校に通う友達に出会ったんです。
話していくうちに意気投合し、一緒に何かおもしろいことができるのではないかということで、
彼が洋服のデザインをし、自分がロゴなどのデザインを手がける形で、アパレルのブランドを立ち上げることになりました。

そうやって次第にお店の周りの人とも仲良くなっていき、自分が書いた絵をお店に飾らせてもらったりしているうちに、
お店のTシャツのデザインを依頼してもらったことがあったんです。

大好きなお店からデザインを依頼され、しかも出来上がったものをお店の人がとても満足してくれたのはとても嬉しく、
これからも届けたい人のためにデザインを作るということをしていきたいなと強く感じました。

ただ、消費社会の対象としてものを売るのではなく、
自分たちが満足するものを、着てもらいたいと思う人のために作る、という思いでやっていたので、
あまり商売をしている感覚ではなかったです。

また、もともとパンク・ロックの精神に影響を受け、社会の奴隷にはなりたくないと思い、
就職は絶対しないと心に決めていたんです。
だから、卒業後もこのままグラフィックデザイナーとしてやっていくことにしました。

メキシコでの壁画の体験からヒントを得る


そして大学卒業後のある日、学生の時から好きで通っていた、青山のクラブがあったのですが、
それが無くなってしまうことになったんですね。
そこでたくさん仲間もできていたので、クラブは無くなってしまうけど、
みんな音楽が好きだし、これから代わりに定期的にイベントを開催していこうということになったんです。
そこで、先輩が映画のタイトルを言い間違えてしまったことをきっかけに、
そのイベントの名前を『未来世紀メキシコ』と名付けて、毎月開催するようになりました。

そして何度かイベントをやっていくうちに、メキシコという名前を付けたものの、
メキシコについて何も知らないことに気づき、調べてみると意外と文化などが面白そうな国だと興味を持って、
一度行ってみることにしました。

そして、友達に現地の知り合いを紹介してもらい、
実際にその現地の方にとてもお世話になり、いろいろなところを案内してもらって、とても楽しく旅ができたんですね。
そこで、そのお礼の気持ちを込めて、お世話になった友達へ絵を描いて渡していました。
すると、それをとても喜んでくれて、家の壁にも描いくれと頼まれたので、初めて大きな壁に絵を描くことになったんです。

今まで人が見ている目の前で描くという機会がなかったのですが、
やってみると、見ている人がとても喜んでくれたり、一緒に書こうということになったりと、
描いていく過程の周りの反応が面白く、異国の地で言語が違っても、気持ちが通じている気がしました。

その時に、僕がやりたい、届けたい人のために絵を描くということができているのではないかと気づかされたんです。

更に、壁画を描いた体験から思い当たるものがありました。
それが、ライブペイントだったんです。
実は、2007年に京都へ枯山水を学びに1ヶ月滞在していた時、クラブイベントでライブペイントを観て、
イベントで絵を表現する方法もあるのかと、ずっと引っかかっていました。

そして自分が壁画の体験をしてみて、その場にいる人と言葉は通じなくても気持ちが繋がる、
コミュニケーションツールとして絵を描くことができ、
絵の素晴らしさに改めて気づくことができました。

ネット社会の今だからこそ必要なコミュニケーションツール


そして、日本に帰国してからは、個人での作品制作やアパレルのグラフィックデザインを続ける傍ら、
月に3~4本のペースでライブペイントの活動をするようになりました。

ライブペイントは、パーティーの雰囲気などに合わせてその場で考えて作り上げていくのですが、
見ている人も絵の制作の段階を見ることができるので、普通に絵を見る時と心境が違うはずですし、
描いている途中で周りの人が反応してくれるので、人と人が繋がるコミュニケーションツールにもなっていると考えています。

最近はネット社会で、家にいるだけでどこへでも行けて、何でも見れて、外部と繋がった気になりやすい環境であり、
その分、人と人のコミュニケーションや現場で体験するダイレクトな感覚が、人々から重要ではなくなってきていると思うんです。
だから、自分の活動を通して、もっと目の前のことの大切さや、実際に人と人の繋がりを増やすことができたらいいなと思っています。

将来的には、自分の活動を広げていき、心のあるコミュニケーションで繋がった「村」を作りたいなんてことを考えています。
そこではお金は必要なく、例えば絵を描く代わりにご飯をもらうというように、
物々交換ができるような、コミュニケーションによって成り立つ世界が作り上げたいんです。

これからも自分の絵や活動を通して、様々な人々と繋がり、
消費社会や情報ばかりに翻弄されない、心のある世界を目指して生きたいですね。

2014.10.05

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