変化の時代だからこそ、死という普遍テーマを。 訪問看護に込めた、「豊かな死」への思い。

「終末期で看取りの文化を創出する」というコンセプトのもと、余命末期の方々に向けた訪問看護事業を行う高丸さん。急速に変化が起こる時代だからこそ、普遍的な「死」に取り組むと話す背景には、学生時代に感じた、「母を理解したい」という思いがありました。

高丸 慶

たかまる けい|訪問看護事業運営
余命末期の方々に向けた訪問看護事業を行う株式会社ホスピタリティ・ワンの代表取締役を務める。
また、納棺師を養成するおくりびとアカデミーの校長、一般社団法人訪問看護支援協会の代表を務める。

株式会社ホスピタリティ・ワン
おくりびとアカデミー
一般社団法人訪問看護支援協会

母を理解したいという思いから看護学部へ


東京に生まれ、中学校から私立の一貫校に進学しました。
元々両親が慶應卒だったこともあり、親の勧めもあり、
慶應義塾の中等部に進学することにしたんです。

受験の時から、入学してからは遊んで良いと言われていたこともあり、
中高はかなり遊んでいましたね。
将来はビジネスマンになろうという漠然とした思いはあったものの、
進学するのはどこの学部でもいいかな、と考えていました。

そんな折、たまたま慶應大学に看護の学部ができたんです。
もともと、高校の化学の授業で「死への準備教育」という話があり関心をもっていたことから、
この学部にも興味を持つようになったんですよね。

その授業では、ある人の人生最後の1ヶ月を例に取り、
「豊かに死んでいくこと」について習う授業だったのですが、
自分自身、どんな風に死ぬんだろうな?という疑問もありましたし、
何より、人が亡くなった後の家族の姿が印象的だったんです。

実際に、祖父母が小学校5・6年の時に亡くなったのですが、
急に亡くなったこともあり、私の母は受容できていないように見えたんですよね。
祖母の部屋の片付けが全くできず、祖父のやっていた宗教を1人で続けていたのを私は不思議に思っていたのですが、
この授業を受けて、

「あ、母はこういう状態なんだ」

と気づいたんです。
そんな背景もあり、もっと母を理解したいという思いから、
看護学部への進学を決めました。

ただ、看護自体まだ歴史の浅い学問だったので、
授業で学ぶというよりは、自ら主体的に学ぶ感覚でしたね。

学んでいく中で、既存の保険制度や介護士の仕組みへの課題感を感じ、
将来は自ら新しい仕組みを作ろうと考えるようになり、
看護の知識に加え、簿記等のビジネスの勉強もするようになりました。

そして、大学を卒業してからはまずは一度就職しようと思い、
外資系の医薬品メーカーに入社することを決めました。

独立と試行錯誤


実際に入社をしてからは営業として働き始めたのですが、
外資系企業であることに加え、稼ぎ頭の部署にいたこともあり、
新卒ながら、数億円の売上げを任せてもらい、それでいて皆浮かれず仕事をしており、
非常に恵まれた環境でしたね。

しかし、同時に早く起業がしたいという思いも抱くようになりました。
あまりにも外部環境が劇的に変わることに対して、自分が置いていかれている感覚があったんですよね。

「早くやらなきゃ」

という焦りがありました。
そこで、入社1年で会社を辞め、仲間とアイデア出しを行い、
看護師向けの会報誌の広告代理店を立ち上げることに決めました。

しかし、最初はうまくいかず苦しみましたね。
途中からは雀ボーイのアルバイトを並行でしながら仕事をしていました。

その後、前職の他の部署の人と並行してもう一社会社を立ち上げ、
将来挑戦しようと考えていた制度ビジネスのために大学院にも進学し、
仕事をしながらドクターまで通うことに決めました。

そうやって準備を進めたビジネスプランで、
26歳のタイミングで、3社目の会社を立ち上げたんです。
1社目は継続していたものの、2社目はリーマンショックの影響でたたんでしまい、
自分の中では3社目に注力しようという思いがありました。

そして、末期がんの方等、病気でも家にいたい人のために、
自社の看護師を派遣する「訪問看護」のビジネスプランで、
ベンチャー企業の支援コンテストの優勝を獲得し、
ホスピタリティワンという社名のもと、満を持してスタートを切ることができたんです。

苦しんだ末のブレークスルー


ところが、いざ会社をスタートしてみると、全くダメだったんです。

全く売上がたたず、ビラを配っても、自転車で現場を周っても、
病院の営業周りをしても効果が出なかったんですよね。
そうやって成果が出ずにもがいている中で、
初めて来たのは、2万5千円の仕事でした。

余命があとわずかのご婦人からの依頼で、最後に旦那様に会いにいきたいということで、
旦那様が入院している病院に行くのに、付き添う役目を務めさせていただいたんです。
そして、実際に付き添いが終わると、

「あなたたちがいたから、旦那に会えたわ」

と言っていただいたんですよね。
それを聞いて、自分たちがやっていることを求めている人は絶対にいると感じました。
だからこそ、アプローチが違うだけだと、そのまま色々なことを試していきました。

ただ、それまでなんとか食いつないでいたものの、どんどんお金もなくなっていき、
いよいよなんとかしなければ、という状況になりました。

加えて、そのタイミングで、一緒に始めた仲間が会社を離れることになったんです。  
まったく軌道に乗る前に1人になり、正直、人間不信になるかと思いました。

しかし、それでも諦めることはなく、むしろふっきれるような感覚がありましたね。

そして、その直後から急激に業績が伸びていったんです。
それまで愚直に撒いていた種が、やっと実っていったんですよね。
軌道に乗ってからは、事業を続けたことで、社歴も伴い、周囲からの信頼も得ることが出来、
今では正社員5人、非常勤の看護師が45名にまで増えていきました。

変化の時代だからこそ、普遍的な「死」というテーマを


現在は、「終末期で見取りの文化を創出する」というコンセプトのもと、
ホスピタリティワンの訪問看護事業を行う傍ら、

『おくりびとアカデミー』という名前で、納棺師を半年で養成する活動や、
訪問介護の支援協会の活動を行っています。

今の世の中、情報量が多すぎて、多くの人が思考停止になっている気がします。
人間の脳は原始時代から変わらないのに、情報は増えたことで、
人々は、普遍的に変わらないものを求めているように思えるんです。
そんな風に、変化が多い時代からこそ、変わらないものが大切にされるはずだと思うんですよね。

だからこそ、普遍的なテーマである死について、
「豊かに死ぬ」ための手段を打ち出していきたいと思います。

そして、自分自身に関しても、豊かに死ぬために、
親を看取ること、子どもを育てることにはすごく関心がありますね。

2014.09.27

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