「食」を通じて伝える手伝いをしたい。イスラエルとガーナに出会って見えたもの。

「最初はただ楽しいと思って動いていたら、どんどん周りに人が集まって来て、かたちができたんです」と、ガーナのスパイス「パラダイスシード」を日本で販売開始するまでのことを楽しそうに話す越出さん。食を通じて海外に関わるまでには、どんなストーリーがあったのか、お話を伺いました。

越出 水月

こしで みずき|フードコーディネーター
フードコーディネーター。 フリーランスで食にまつわる様々なイベントを開催しながら、
現在は株式会社シェアトレードを立ち上げ、「パラダイスシード」というスパイスの輸入販売を行っている。

【クラウドファンディングに挑戦中!】ガーナのスパイス「パラダイスシード」を日本でより広く販売するために加工場を作りたい!
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ブログ「Grains of Paradise」

イエスの生き方を学ぶ


私は東京の世田谷で生まれました。

一人っ子で、父が出版関係の仕事をしていた影響もあり、本が好きでした。よく童話やファンタジーを読んでいて、その世界観の裏にあるメッセージを感じてなのか、人が生きるとか死ぬとか、そういうことへの関心を持っていました。

小学2年生で仙台に引っ越したのですが、田舎にある独特の閉塞感やルールがあまり好きになれず、外に出たいという気持ちが強くなり、将来は海外に行こうと漠然と考えていました。叔母が日本と海外を行き来しながら働いていて、よく面白いお土産と共に海外の話をしてもらったり、絵葉書が世界中から届いたりしていた影響もあったのかもしれません。

しかし、高校3年生の時に、やはり大学に行こうと決めました。相変わらず本が好きで、色々読んでいく中で、死生観に対して、ひとつの答えを見出している「宗教」ってすごいなと思ったんです。その宗教に関して勉強したいと思い、東京にある大学のキリスト教系の学部に進学することにしました。

そこでは、イエス・キリストに関して研究しました。なぜイエスは、2000年以上経った今もキリスト教として人々に影響を与え続けているのか、彼はどんな生き方をしていたのか、宗教の根幹の部分に関心があったんです。

ただ、イエスの発言や行動をいくら調べても、どんな背景の中で起こったことか知らなければ、本当の意味で解釈できないと思い、ユダヤ教徒として生まれ、パレスチナ地方で育ったイエスの状況を少しでも理解するため、大学卒業後はイスラエルに留学することにしたんです。

知ってもらいたい一面


最初はヘブライ語を学ぶための学校に通い、その後、ハイファ大学とヘブライ大学に1学期ずつ通いました。そこではユダヤ教の基礎や、イスラエルという国に関して様々な視点から学びましたが、それだけが学びたかったわけではなかったので、学外で色々な人に話を聞きに行ったり、お家にお邪魔して、ユダヤ教の様々な儀式を見せてもらったりもしました。

イスラエルは日本とは全く違う文化で、あまりに異世界だったので面白かったですね。ただ、日本からは「紛争の多い地域」としてしか認識されていないことに、違和感も感じました。イスラエルの文化は先進的で、映画も音楽も世界では先端を走っているし、コンテンポラリーダンスも非常に有名です。また科学技術が発達していてIT産業も非常に活発なんです。

実際、世界中の人が、そういう一面での面白さを感じてイスラエルに来ていたのですが、日本では政治の面だけを見られて敬遠されていて、それがすごくもったいないと思ったんですよね。

当初したかった勉強はあまりできませんでしたが、こういう文化的な一面をもっと知ってほしいと思うようになりつつ、1年半ほどで日本に帰国しました。

ところが、帰国したものの、何をすれば良いのかわからなくなってしまいました。勉強したことを活用したいと思っても、英語はあまりできなかったので、ヘブライ語だけを活かせる仕事はほとんどなく、中東地域とは関わっていたかったので、結局、トルコ料理屋でアルバイトをすることにしました。

フードコーディネーター


そんな時、新聞で「フードコーディネーター」の特集記事に出会いました。フードコーディネーターは、カタログや広告等、あらゆるところで使われる食べ物の写真を演出する仕事で、料理のレシピから盛り付け、お皿や空間など、写真に写る部分は全てアレンジしていくんです。

そして、この仕事を私もやりたいと思ったんですよね。元々食べることは好きで、イスラエルでも郷土料理を作ってもらってばかりだったし、昔からアルバイトをするのはいつも決まって飲食店で、自分の軸は「食」にあるのではと思っていたのです。また、この記事を見た時、純粋に面白そうだと思ったし、食に関わる飲食店以外の仕事があることを初めて知り、やってみることにしました。

そして、フードコーディネーターの人にひたすら連絡をし、拾ってくれて方のもとで師事することになったのですが、これは非常に大変でしたね。元々社会人の基礎なんてなく、敬語も喋れないしメールも送れなかったので、全て一から教えてもらったのですが、怒られることもたくさんありました。また、師匠の言うことは絶対なので、理不尽だと思うこともありましたが、ここで辞めたら負けだし、将来絶対成功してみせると、歯を食いしばり続けました。

辛いことも多かったのですが、社会で生きる力は鍛えてもらったのでありがたかったですね。ただ、3年の修行期間を終えた後にフリーランスとして独立したのですが、この仕事に違和感も覚えるようになっていました。撮影用の料理は、写りのために最適化されていて、場合によっては食べられないこともあるんです。写真の先にいる人に料理の良さを伝える嬉しさはあるのですが、私は単純だったので、目の前で「美味しい」と言ってもらえる方が好きだと気づいたんですよね。

そこで、イスラエルの文化を知ってほしいとの思いとも相重なり、イスラエル料理の教室やワークショップ、ケータリングのサービスを始めることにしました。そしてこれが予想外に多くの方に来ていただけるようになり、
メインの仕事になっていったんです。

ガーナとの出会い


そんな仕事をしている時、「FOODEX」という日本最大の食の展示会に、イスラエルやパレスチナの調味料がないか見に行ったのですが、そこでガーナのスパイス「パラダイスシード」に出会ったんです。この味が、今まで食べたことのない独特な味で、ショウガ科のスパイスなんですが、爽やかさや花の香りもあり美味しいし、いろんな料理に使えそうだと感じ、とにかくすごく惹かれたんです。

そして、ちょうどその時、シェアハウスに食品企業で働く人が住んでいて、帰ってからその香辛料を見せたら、二人で盛り上がり、どんどんガーナについて調べていくようになりました。最初は純粋な興味で調べていくうちに、徐々にガーナに関わる様々な人につながっていき、終いにはお互い別々の繋がりで現地に行こうとしていたので、時期を合わせてガーナに行ったんです。

ガーナはイスラエルに行った時と同じように、完全に異世界で日本の常識は全く通用せず「中東とはまた違う異世界だ」と感じ、非常に刺激的でした。そして、この滞在で現地の人たちのエネルギーも感じ、パラダイスシードを輸入しようと決めました。

しかし、帰国後、日本からガーナの人に連絡しても、中々話が進まなく、現地に住んでくれる仲間を探したのですが、誰も見つからなかったので、日本でのことはパートナーに任せて、私が現地に行き開拓をすることにしました。しかし、行った時期が収穫の時期ではなく、ひたすら農家とのつながりをつくり、流通の情報を集め、半年ほどで一時帰国し、体勢を立て直すことにしました。収穫時期すら分からない状況のスタートでした。

美味しいから選んでほしい


その後、日本にいる時にイベントを通じて知り合った、ガーナに非常に強い思い入れを持つメンバーが入り、その彼がガーナに住み、開拓をしてくれることになったんです。

それでやっと体制が整い、引き継ぎと収穫のために再びガーナに行きました。収穫直前で頼んでいた現地のパートナー候補が仕事を放棄するトラブルもありましたが、現地で非常に良くしてくれていた、ガーナ人大学教授とその生徒さんたちの協力があり、なんとか収穫と加工をすることができました。

その時、周りの日本人の方には、「ガーナ人があんなに一生懸命働いているのは見たことない」と言ってもらえ、自分たちはすごく運が良いんだと思いましたね。

そして2014年8月に、パラダイスシードの日本販売を開始できました。今はまだ始めたばかりですが、今後はこのスパイスが「途上国のものだから」ではなく、「美味しいから」という理由で、日本のスーパーでも売られるようにしたいです。また、そうやって日本で売れることで、ガーナの農家の人の生活に少しでも潤いが出れば嬉しいし、お金が貯まったら日本に旅行に来てほしいとも思います。自分たちが育てたものが、どんな風に日本で売られているのか見てほしいんですよね。

また、個人としては、今後も食に関わる仕事も続けていきたいと考えています。私の仕事は「食」を通じて何かを伝えることで、食の写真を通じて「料理の魅力」を伝えたり、レシピを通じて「食材の使い方」を伝えたり、郷土料理を通じて「その土地の文化」を伝えたりしています。

何かを伝えるのに「食」ってすごく有効なんです。例えば、国の紹介を言葉で説明されても、なんとなくしか分かりませんが、料理を食べたら自分の体験として残るため、より具体的にイメージができますよね。そうやって、これからも中東やアフリカの文化をはじめ、色々なものを「食」を通じて伝えていきたいです。

遠い将来の目標は、と聞かれると今はまだ見えてないというのが正直なところです。ただ、今までもそうだったように、動いてみたら色々な出会いがあって、出会いからモチベートされて、次の目標が見えてくるタイプなんです。

だから、日々の小さな目標や夢をしっかりと追いながら、動き続けることで、今後も新しい目標を見つけていきたいと思います。

2014.09.25

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