すべての結果の責任を自分で負いたい。ボルダリングは人生に似ているんです。
「できない時に工夫したり考えたりするのが楽しいんです」とボルダリングの魅力、そして人生の面白さを語る白畑さん。38歳の時に兄弟でボルダリングジムを立ち上げる時に「特に不安はなかった」と語る裏にはどんな背景があったのか、お話を伺いました。
白畑 直樹
しらはた なおき|ボルダリングジム運営
神奈川県にあるBouldering gym & shop FREEDOMのオーナーを務める。
Bouldering gym & shop FREEDOM
個人で結果への責任を
私は京都で生まれ育ちました。
小さい頃から何かして失敗しても「やっちゃダメ」と言われることは少なく、
失敗したことをどうやって次に活かすか考えるように育てられていました。
そのため、自分でやると決めたことはやりきる、信念みたいなものは貫き通すようになっていき、
逆に周りに合わせるということは少し苦手でしたね。
特に、時間を無駄にするのはもったいないと考えていて、
遊ぶ時もだらだらするのではなく、何をするかすぐに決めたいタイプでした。
また、ずっとスポーツが好きで、小学3年生の時から競技スキーを始め、
中学ではサッカーと競技スキー、高校ではハンドボールと熱中しました。
高校のハンドボール部ではインターハイを目指していたのですが、
結局最後まで全国大会に行くことはできませんでした。
最後の試合で負けてしまった時、ミスをしたチームメイトを責めることもできず、
かと言って自分が何とかできたわけでもないし、感情をどこにぶつけてよいかもどかしく感じ、
自分は競技スキーのように、結果への責任を全て自分で背負う個人スポーツの方が好きだと気づいたんです。
部活引退後に実業団のチームからの誘いも頂いたのですが、そんなチーム競技への違和感もあり、
また好きかどうか分からない仕事をしながら実業団でハンドボールをやる二足のわらじ生活は違うと思い、
大学受験をすることにしました。
ただ、勉強は全くしていなかったので、浪人することになりました。
仕事の方が面白い
浪人中は勉強しながらアルバイトをしていたのですが、
徐々に働くことの方が楽しくなってしまいました。
クリーニング屋、飲食店、弁当の配達、ガソリンスタンド等色々なところで働き、
仕事は自分が動けばその分だけ何かしらの結果が出るのが楽しかったんです。
また、学校で勉強することが社会に出てからどう活かせるのかイメージもできていなく、
勉強よりも働いた方が費やした時間に対しての効果があると感じていました。
そのため、浪人は1年で辞めて働き始めることにしました。
ただ、働くのは好きだったのですが、アルバイト等の時給制のところだと、
一生懸命やっても、適当にやっても、同じ評価しかされないことに不満もありました。
お金の問題ではないのですが、結果に対しての工夫や努力は正当に評価されるべきだと思っていて、
雇ってもらっている職場の環境を変えようと、よく上司に提案をするようになりました。
しかし、提案しても受け入れられないことも多く、すると職場を変えることはできずに自分が去るしかない状況になり、
同時にありがたいことに色々な方から仕事を誘ってもらえることができたので、
自分に合う環境を求めて様々な職を転々としていましたね。
仕事内容自体は単純であまり面白くないものもあったのですが、
どの仕事でも新しい発見や学びがあったので、働くことは楽しんでやっていました。
そして20歳の頃、仕事の関係で神奈川に住むことになりました。
できないから悔しい
神奈川に出てからは、美容院向けに整髪料などを販売する会社で営業をしていました。
この職場は自由で、どんどん提案して仕事も作ることができたので働きやすく10年程勤めたのですが、
廃業してしまい、また職を転々とするようになりました。
周りでは友人が結婚したり、1つの場所で働いている姿を見たりして、焦りがなかったわけでもないのですが、
自分で選んだ道だし、毎日の時間の使い方に充実感はありましたね。
また、大学に進学してから就職した友人で、仕事がつまらないと言っている人も多かったのですが、
私は仕事が楽しいと思っていたので、限られた人生の時間は常にやりきりたいと考えるようにもなっていました。
そんな生活をしていて30歳位の頃に、クライミングの一種であるボルダリングを始めました。
元々TV等で見てやってみたいと思っていたところ、体験教室があったので参加してみたんです。
自分自身、初めてのスポーツでも大抵はそれなりにできたので、
ボルダリングもうまくできるだろうと思って臨んだのですが、
これが全然うまくできなかったんですよね。
それが悔しくて一気に闘争心に火がつき、どんどんのめり込むようになりました。
ただ、仕事に熱中している時はボルダリングから離れることもあって、
一時期離れてはまた戻る、といったスタイルで楽しんでいました。
しかし、ボルダリングのジムは数自体もそこまで多くなかったんですが、
どのジムもやり込んでいるベテランの人が集まる場所になっていて、
初心者や久しぶりにやる人には入りづらい空気だったんですよね。
居心地のあまり良くない場所に行くと、ボルダリング自体つまらないという気持ちも生まれてきてしまって、
それならば、初心者でも楽しめるジムを自分で立ち上げてしまえば良いと思い、
38歳の時に弟と女性スタッフの3人でボルダリングジム「FREEDOM」を始めました。
独立に対しての不安は特になかったですね。
背負っているものがあるわけでもないし、応援してくれる人もいたし、
最悪失敗しても死にはしないだろうなって思ってたんです。
納得感のある選択を
独立してからは、やらなければならない仕事も多くて大変でしたが、
全てが自分たちの責任で、やったことへの結果を今まで以上にダイレクトに感じられたので、
より仕事が面白くなり、充実感がありましたね。
FREEDOMは初めてボルダリングに触れる人でも分かりやすく、
気軽にできるような場所を目指しています。
ボルダリング自体がまだまだマイナーなスポーツで、
間口を広めてもっと多くの方に知ってもらわなければならないので。
初めてやることって、多かれ少なかれ不安はあると思うので、
ボルダリングを始めた人がFREEDOMに来て、その不安を超えて楽しいと思って帰ってもらいたいんです。
今でも毎日大変ではありますが、ボルダリングが流行していることもあり、
幸い多くの方に来てもらうことができています。
ただ、今はレジャーとしてボルダリングを楽しんでもらっているのですが、
本来の「スポーツ」として楽しんでくれる人を、もっと増やしていけたらと思います。
人それぞれだとは思いますが、ボルダリングの楽しさは登りきった瞬間ではなく、
自分が登れない難しいコースに挑戦して、試行錯誤している時にあると思うんですよね。
今は初心者の方に来てもらいやすいお店作りが少しずつできたので、
今後は本格的にやっている人たちも満足できるような広さや高さの壁をもつお店も展開していきたいです。
お店の名前であるFREEDOMは「自由」という意味ですが、
ボルダリングって人生と似ていて、自由だと思うんです。
どんなルートを通るかは選べますが、一方で落ちるリスクも考えなければならない。
でも、全てを踏まえた上で、人に言われた道ではなく、
自分自身で選択するから納得感があるんじゃないかと思うんです。
そうやって自分の人生を自由に選択していき、遠い将来自分の命が尽きる時は、
「自分の人生の中でできることは全部やりきった」と、納得感を持って終えられたらと思います。
2014.09.22