「のび太」が踏み出した山への一歩。大切なのはトライしていくこと!

「今は何でもできる気がする」と言い、研究者兼ベンチャー企業社長としてトライし続ける荻原さん。幼少期は非常に臆病者だったにもかかわらず、リーダーとしてヒマラヤ未踏峰に挑めるほど強く、逞しくなった背景とは何か、お話を伺いました。

荻原 宏章

おぎはら ひろあき|起業家・大学院生
現在、大学院で、学生として社会学の研究をしながら、 時代に調和したコミュニケーションツールを提供していく、 株式会社 あってぃらの代表取締役を務める。

ロボットだった幼少期


僕の父は田舎から出てきて、一代で社長になって事業を成功させた人で、
何に対しても1mmの迷いもないような、自分にも他人にも厳しい人だったんです。

それは、僕の教育に対しても同じで、
小さい頃から1日4時間は数学を勉強する時間があって、高校の数学は小学生の時に終わらせていました。
一方的に強要される教育をひたすら受ける僕はロボットみたいだったと思います。
友達と触れ合う時間もないのでコミュニケーションをとるのもすごく下手で、臆病者で、弱々しくて、
例えるなら『ドラえもん』に出てくるのび太のような子どもでした。

そんな僕の将来の夢は医者になることでした。

薬剤師の母の影響で人に尽くすことの大切さを感じていて、医者であれば人のためになると感じたんです。
また、自分の根底には、才能や力がある者は人のためにその力を使うべきという「ノブリスオブリージュ」の考え方があり、
勉強面に関しては得意だと感じていたので、それを人のために活かすべきだと思っていたんです。

ただ、社会で起こる大きな問題にも関心がありました。
僕が中学生の時、社会ではオウム真理教の事件が起こっていたのですが、
犯人たちは社会のエリートであるにもかかわらず、
目に見えない何かにコミットしてしまい犯罪を引き起こし、
社会に大きな影響を与えていることに対して、何か根本的な課題があるように感じたんです。

そんな課題感を持ちつつも、高校は横浜の進学校へ行き勉強に没頭する日々でした。

しかし、ある時、画一的で型にはめられたような学校の教育方針や、
自分の意思ではなく、他人に強制され続けていることに耐え切れなくなり、
大学受験を目前に勉強を辞めてしまったんです。

見えない出口


高校卒業後は、一種の鬱のような状態でした。

ニートのような生活の中でも、何かやらないといけないという思いはあって、
でも何をやればいいのか分からないという、出口が見えない状況で、
人生の中で一番キツイ時期でした。

また、昔から目指してきた医者という仕事も、
もちろん尊い仕事だし尊敬しているのですが、特定の状況の個人しか助けられないのではと思うようになり、
もっと広い視野で考えた時に、世界中で起こっている様々な問題に対して解決する手段は、
他にあるのではと考えるようになったんです。
かといって、どうすればその問題を捉え、解決策を導き出せるのか分かりませんでしたね。

ただ、高校の同級生たちは、大学へ進学していましたが、
僕は日本の大学は勉強しないところだと思っていて、
自分は大学へは行かなくても、大学で遊んでいる人には知識は負けてられないと考え、
お金が入れば本を買い、1年間に80~100冊の本を読んで勉強する生活を2年間くらいしていたんですよね。

そして出会ったのが社会学でした。

社会問題を考えるためのツールである社会学では、
解決できるところまでいくかはともかく、少なくとも問題を捉えることはできると感じたんです。
また、社会学の本を通じて、大学には頭の良いすごい教授がたくさんいることを知り、
自分の視野が狭かったことを認識し、大学へ行かなくてはダメだと思うようになりました。

今まで2年間無駄にしてしまった劣等感もあったので、
そこでまた一から必死に受験勉強し、 都内の私立大学へ入学することができましたが、
結局そこも画一的で、優秀な歯車を作るようなところだと感じてしまい半年程で退学しました。

その後、小さい頃から嫌な思い出しかない関東から離れたいと思い、
秋から必死に勉強して京都大学に入りました。

自分を変えたいという意志


京都大学に入ってからも、自分の弱いところは若い内に鍛え直さなければ、
一生成長することができないと感じていたので、
「苦手なところに自分を放り込んで、どうなるか見てやろう。」と思い、山岳部へ入ることにしました。

それまではオタクだったし、人としゃべるのが苦手で、
腕立て伏せが1回もできなかったんですが、そんな自分を変えたかったんです。

ただ、京都大学の山岳部は、ただの部活じゃないんです。

日本のアルピ二ズムの一角を作ったとも言える存在で、
OBの方々は山岳文化で影響を持つだけでなく、学術界やビジネス界でも著名な人ばかりりです。
一方で、創部90年程で、活動中に現役部員やOBが生命を落としてしまうこともある過酷な部活なんです。

でも、日常的にそんな危険が伴う山岳部だからこそ、
システムもしっかりしていて、まるで軍隊組織のようでした。
山へ登ることも一つの軍事作戦のようで、出発するまでにありとあらゆることを想定して行くんです。

特にリーダーは、一度山に入ってしまうと、
今までごまかしていたことや、内面のダメな部分も全てさらけ出されてしまうし、
隊員の命を全て預かっているという意識を持たなくてはいけないので、
いわゆるビジネス上でのリーダーとは違った、全てを引き受けるリーダーシップが必要となる環境でした。

世界観が広がった一歩


山岳部では2回生の時、僕の海外初遠征となるネパール・ヒマラヤへ挑みました。

リーダーを務める先輩は、1年間の私生活や学業など全てを準備に費やして、
僕たち隊員を海外の山へ連れて行ってくれたんです。

僕にとって初の海外の山や、今まで登ったことがなかった6200m峰の山に登ったこと、
またその先輩のリーダーとしての姿を間近で見せていただいたことで、自分の世界観が大きく変わった瞬間でした。

また、3回生の時には、僕がリーダーを務めてたプロジェクトの途中で、
1回生の後輩が1人落ちてしまい、背骨を7本も折る大けがを負ってしまったんです。
しかし、以前からシミュレーションしていた事故発生時の現場での対処や搬送、病院の手配、事後処理も含めてきちんと実行し、
その後輩は一命を取り留めることができました。
一歩対応を間違えれば命を落としていたかも知れず、不仲になる可能性もあった状況ですが、
ご両親からも非常に感謝され、その後も親しい関係を保つことができました。

このような環境下にずっといたので、普通の生活と比べて死を感じる瞬間が多くあったため、
重みのある人間コミュニケーションを学ぶことができ、怖いものはほとんど無くなりましたね。

そして、4年生の時には、先輩がリーダーとなってネパール・ヒマラヤの未踏峰に挑もうとしていたのですが、
その先輩が、計画や準備のあまりの大変さに、途中で断念してしまったんです。

隊員となっていた後輩たちが取り残されてしまったのを見て、
僕は2年生でヒマラヤへ連れて行ってもらった時の義理もあったし、後輩にも自分と同じような体験をさせてあげたいと思い、
1年は私生活を捨てる覚悟で、リーダーになることを決意しました。

ただ、今の世界に存在する未踏峰って、
地理的や政治的に踏み込めない地域で、行くこと自体が一大プロジェクトなんです。

チームは10人から成るものだったんですけど、
インドのザンスカール地方にある最後の町から丸3日車で移動し、
さらに10日間程かけて馬と徒歩で峡谷を越え、ようやく山のふもとまで行き、
そこから2週間の計画で山にアタックし、初登頂を達成することができました。
本当に何とも言えない達成感が得られました。
それから日本に帰ってしばらくは、取材や報告会で大変でしたね。

トライしていく姿勢


山岳部での経験を通して、僕はあらゆる面において成長することができたので、
ある意味で当初の狙い通りになったと思っています。

現在は、大学院へ進みながら、会社の経営もしています。

マクロ的に社会を捉え、現代社会の問題をいかに捉えていくか研究していますが、
その中で見えてきた、コミュニケーションに関する課題を解決したいという思いもあり、
研究者とベンチャー企業の社長という2足のわらじを履いています。

将来的に、どちらかに絞る必要があるかもしれませんが、今はまだどちらにもトライしていこうと考えています。

何か新しいことや苦手なことにトライすることは、すごく不安に感じるかもしれませんが、
僕自身は、自分の意志や周りの人や環境による助けもあり、
これまでのことは全てやってみてよかったと思える結果になっています。

臆病者で、腕立て伏せが一回もできなかったような僕も、
しんどくても山岳部という過酷な環境に一歩踏み出して、
成長していくという意志を持ち続け、折れずに続けたことで変われたんです。
そういう経験があるから、今は小学生みたいに「何でもできる」ような気がするんです。

社会の本質的な問題を捉えることも、コミュニケーションという普遍的な問題に取り組むことも、
非常に大きな挑戦だと思いますが、僕はこれからもトライし続けます。

2014.09.16

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