暮らしを手づくりする人を増やしたい。皆で建てたDIY集会所で見つけた大切なもの。

「僕もやりたいことなんて、その時まで分からなかったですよ」と話す桑原さん。大志を掲げ、悩み苦しみながらもやりたいことを探し続けた人生について、お話を伺いしました。

桑原 憂貴

くわばら ゆうき|家具から家までつくれるDIYキットの開発・販売
TSUMUGI inc.の代表取締役 CEOを務める。

1984年群馬生まれ。「心地良い未来を生きるために、暮らしを手づくりする人を増やす」という想いのもと、
奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市で起業。
家具から家まで組み立てられるDIY用杉キット開発「KUMIKIプロジェクト」をスタート。
ともにつくるDIY集会所やインテリア家具等、手間を愛着に変えるデザインを通じた「豊かな暮らし」を提案。

社会問題とビジネス


高校生の頃から、グローバルという言葉に惹かれていました。
そのため、留学が必須の大学に入り、オーストラリアに半年ほど行きました。

留学先ではいろいろな国の人がいたのですが、みんなの問題意識の高さには驚きましたね。
そんな人たちと一緒に過ごしたものだから、僕も感化され、
国際問題を解決したい、世界を救いたいと思うようになり、
帰国後は国際協力を学ぶゼミに入りました。

そのゼミは先生もメンバーも常に好奇心を刺激してくれ、自分で考える意欲がついていきましたね。

例えば、「君は外国語といえば、何語が思い浮かぶ?」という話になり、
英語とスペイン語とフランス語と、あと少しの言葉くらいしか言えなかった時に、
「自分の考えている世界とはこの程度の広さしかない」と感じるようになりました。

ただ、ゼミでは社会の課題を自ら考え、解決していくことを目指しているものの、
ビジネス、お金儲けには否定的な空気を感じることもありました。
でも、卒業論文を書くときに、
マイクロファイナンスに取り組むグラミン銀行のムハマド・ユヌスさんの存在を知り「これだ」と思ったんです。

ビジネスの力で社会の課題を解決することが自分の道だと確信し、
そのためには力をつける必要があったので、まずは営業力をつけようと、
人材系の会社に入社することにしました。

自分のいるべき場所


入社1年目は、全く結果が出ませんでした。
同期の中でも営業成績はほぼ最下位だったように思います。

「あと1本電話すれば成約できるかもしれない」と思いながらも、それができなかったんです。
自分の頑張りが足りないのか、それとも純粋に自分が活躍する場がここではないのか分からず、
葛藤の中、落ちこぼれていき、どんどん息苦しくなっていきました。

また、会社に通える距離に住まなければならず、
毎日満員電車に乗り、忙しいので食事もコンビニで済ませ、
自分は人生の中でいったい何を選択することができているのか、悩む日々でした。

答えは出ないまま仕事を続け、
3年目になるとなぜかマネージャーとしてチームを持つことになりました。
そしてある時、部下である新卒の子に
「飛び込み訪問をする時に、足が動かないんです」と相談されたのですが、
なんて言ってあげたらいいのか、言葉を持っていなかったんです。

自分自身が言われても心が動くような言葉が言えず、ただ「そういうもんだよ」と言ってしまったんですよね。
このときの葛藤はそれからも心に残り続けています。

その後、チームの営業成績は良くなっていき、
不況で全社的に売り上げが厳しい時期に、毎月表彰をされるようになりましたが、
結果がついてくるようになった反面、自分の居場所はここではないという想いも強くなり、
会社を辞めることを決めました。

ちょうどこの頃、
社外の活動で友人と経験やスキルを活かして社会に貢献したい社会人と、
社会の課題を解決するために活動するNPOをマッチングするサイトを作っていました。
将来的にはこの活動を法人化していけないかと考えていたらところ、
同じようなことに既に取り組んでいる会社があると紹介され、転職をすることにしました。

仕事への自信


転職先の会社は、企業が社会貢献活動として売上の一部をNPOに寄付をする時に信用できるNPOを紹介したり、
国と一緒にソーシャルビジネスによって雇用創出をするための企画を考えるコンサルティングファームでした。

この会社では、それまでの自分の経験はまったく通用しませんでした。
前職で多くの表彰を受けた経験もあり、自信があったのですが、
周りのレベルが高すぎて全くついていけなかったんです。

会議でも発言することができず、
やりたいことに対してスキルが足りなさすぎて、鬱の一歩手前みたいな状態でしたね。

このままじゃダメだと思い、少しでもできることを増やし、何か信頼してもらえるようにと、
書類をコピーしたり、資料のホチキス止めをしたり、小さなことですが、
利用する人にとって一番気持ち良いと思えるよう工夫をしながら行いました。

すると、半年ほどたった時に、いつもは出張の手配を総務に頼んでいた社長が、
僕に直接手配の仕事を頼んでくれたんです。
小さなことですが、前の会社を含めてこんなに仕事で嬉しかったことはありませんでした。
この小さな出来事が僕にとっての大きな自信につながり、
それからは少しずつ仕事も任せてもらえるようになり、楽しくなっていきました。

そんな時に、東日本大震災が起きました。

「いつか」なんて来ない


震災をキッカケに、東北で復興の仕事を中心的に行うこととなり、
社長や副社長、僕も含めた数人のメンバーで岩手にほぼ住みながらの毎日が始まりました。

そこで見た被災地の社長たちの力強さは、忘れられない光景でした。
製造ラインが稼働できないことで、毎月300万円以上の赤字を出し続けている会社の社長が、
「企業の信頼の証は、従業員との信頼なくしてありえない」と言い、
必死に色々なところからお金をかき集めて、従業員に給料を支払っていたんです。
その姿を見た時、経営の現場で力強く生きる社長たちと、
外から何のリスクも背負わずに口出しするだけの自分に、圧倒的な差を感じてしまったんです。
社会問題を解決するなんて言葉で語るだけじゃなく、
現場に入って、自分でリスクを取って物事に取り組まなければダメだと痛感しました。

そんな時、木材工場が被災したことから、行き場を失った地域の杉を活用した商品開発の可能性を探る調査を、
勤務していた復興まちづくり会社で行うことになりました。

当初は、建材としては使いにくい小さな杉を活用した家具づくりを考えましたが、
柔らかくて傷がつきやすい杉の家具の加工を引き受けてくれる場所はなかなか見つからず、
悩んでいたとき、昔から自分がほしいと感じていた、
暮らしに合わせて付け足し可能なレゴブロックのような家具や家をつくれないだろうかというアイティアが浮かんできました。

事業になるかどうか分からない取組でしたし、調査期間は既に終わっていたため、
ここからは自分の足で立って歩んでいこうと思ったんです。

それまでは、いつか実力が整ったら社会問題を解決するビジネスをやろうと思っていたのですが、
実力が整う「いつか」なんて生涯来ない、今やらないと一生やらないと覚悟を定め、
会社を辞めて独立する決断をしました。

僕が求めていたもの


その後、岩手県陸前高田市に会社を設立し、
家具から家を組み立てられる杉キットの開発「KUMIKIプロジェクト」を立ち上げました。
このうち、家をつくれるKUMIKI HOUSEと呼ばれるキットは、
ブロック型の木材をレゴブロックのように組み合わせていくので、特別な大工技術は不要です。

最初は、本当にできるのか不安もありましたが、少し大工さんに手伝ってもらいながらも、
わずか2日で50人の地元住民とともに集会所を建てることができたんです。

家を自分たちで建てるなんて、手間も時間もかかることなんですが、
家族や地元の人と一緒にやるから、その繋がりがあるから楽しみながらやることができたんですね。

この光景を見た時、「人の繋がり」の暖かさを実感したとともに、自分が人生で求めていたのは、
この人との繋がりだったと気づいたんです。

また、この地で気仙大工の人と関わったのですが、
材木の発注ミスをしてしまい設計書を見ながらどうしたら良いのか慌てている僕を横目に、
その場の風、土地、温度、海との距離などから考え、
「ここにちょっと木を足せば十分だよ」と言って、問題を解決してしまいました。

彼らは全国の宮大工の源流と言われていて、最高峰の技術を持ち、
かつ現場での体験があるからその想像力を働かせ、なにか問題が起きても答えを創りだすことができるんです。

この姿を見た時、この想像力こそが、社会の問題を解決するのに必要だと感じました。

そして、今の世の中の人に想像力が欠けているのは、
消費と生産が分断されているため、「作り手の気持ちや苦労」を想像できないことにあるんじゃないかと考え、
逆に、生活に関わるものを自分たちで作ることが、人の想像力を取り戻すきっかけになると思ったんです。

現在は「暮らしを自分たちの手でつくる」という取組を広げていくために、
想像しながら「つくる楽しみ」と、誰かとともにつくることによる「つながる喜び」を都市においても感じてもらいたいという考えで、
小さな家具や雑貨等、ものづくりのイベントや講座を開催するものづくりの遊び場「CABIN」を、
東京の早稲田に2014年10月にオープンすることになりました。

将来は、小さな家までもをDIYで作れるようなキットを発売していこうと考えています。
手間はかかるけど、自分たちで作れるものは実際に手を動かして作ることで、
人との繋がりを感じ、想像力を養っていける世界にしたいと考えています。

2014.09.01

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