企業からイノベーションを!会社と向き合い、会社を学び、見い出した可能性。

ディベロッパーとして、アジアを中心とした海外事業に携わる傍ら、サラリーマンによるオープンイノベーションのプラットフォームを運営する刈内さん。「会社を辞めそうな新人だった」という刈内さんに訪れた転機とはどのようなものだったのでしょうか?お話を伺いました。

刈内 一博

かりうち かずひろ|ディベロッパー・イノベーター
野村不動産株式会社にて海外事業に従事。
『新世代トップランナーの戦いかた 僕たちはこうして仕事を面白くする』(NHK出版)共著
NHK Eテレ「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」論客出演
「かやぶきの里プロジェクト」起案、グッドデザイン賞3部門受賞
オープンイノベーションのプラットフォーム『新宿360°大学』主宰他

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社会をデザインすることへの関心


母親が美術の先生で、アートが身近にあったこともあり、
小さい頃から美術が好きでした。

小学校の写生大会でも1等を貰うなど美術が得意で、
高校の時に美術や数学への関心からデザインに興味を持ち、
大学は、国立の総合大学で唯一デザイン学科があった筑波大学に進学することに決めました。

ところが、実際に大学に入ってみると勉強よりも遊びの方に関心を持つようになり、
バックパッカーとして海外を放浪したり、オーガナイザーとして仲間とイベントを開催したり、野球チームを作ってみたり、
とにかく好奇心が強く、やってみたいと思ったことは何でもチャレンジしていましたね。

特に、友達にはとても恵まれ、自分一人ではできないようなことを仲間と作り上げる経験から、
プロデューサー的な立ち位置に回ることの面白さにハマっていきました。

また、最初は目に見えるデザインに関心があったのが、
旅を通じて地理軸をまたいでみたり、歴史を扱う研究で時間軸をまいでみたりする中で、
段々と無形のデザイン(社会の仕組みづくり)自体への関心を持つようになっていきました。
   
特に、ゼミで尊敬する先生に出会ってからは学問にも力を入れるようになり、
「農村の再生」をテーマに、
筑波山麓にある集落を舞台に、都市と共存していくための仕組みづくりについて取り組んだ卒業研究では、
1等をとることができました。

その後、就職氷河期だったこともあり、一度大学院に進学してから、
野村不動産へ就職することに決めました。

もともと、民間の立場から主体性を持って社会に働きかけることができる職業としてのディベロッパーに関心があったんですよね。

辞めそうな新入社員


入社してからは、分譲マンションの事業推進・建築部門に配属されました。
ところが、周囲からの期待を感じながらも、思うように結果が出せなかったんですよね。
学生時代はあまり苦労をしておらず、周りとの人間関係の中では周囲の理解に恵まれて、
自分が思うように物事を進められていたんです。

だからこそ、新人として会社で仕事を始めてからは、
今までとの違いを強く感じました。
長い時間を仕事に費やしながらも、力不足でうまくいかず、

「こんなはずじゃない」

と、仕事のできない自分への苛立ちを感じていましたね。
ついには、「何のために生きているんだろう?」「これで人生が終わっていいのかな?」などと悩むようになり、
いわゆる「辞めそうな新入社員」でした。

そこで、自分の得意なことをしようと、自分が活躍できるフィールドを会社の外に作っていくことにしたんです。
まずは、東京でゼロからクラブイベントを立ち上げ、草野球のチームを作り、長期休暇は海外にも行きましたね。

自分のストロングポイントだった、「人を集め、何かを仕掛けること」を社外で始めるようになり、
社内でくすぶっている自分とのバランスをとっていました。
社内外のギャップは大きく、週末になるとすごい元気になるという調子でした。

そんな社会人生活を過ごしながら、生意気な若手社員だった私は、

「憧れる先輩が社内にいない」

と愚痴をこぼしていました。
するとその時、先輩から、

「だったらお前がなれよ」

と言われたんです。
これにはすごく納得させられました。
下を向くのではなく、前向きに行動していこうと考えるようになったんですよね。

先輩からのそんな言葉に、愛情を感じました。

会社と向き合い、会社を学ぶ


その後、7年目になったタイミングで商品開発部という、
イノベーションを起こすことをミッションとした部署に配属されました。
もともと人がやらない新しいことに取り組むことにモチベーションがあったので、
すごく嬉しかったですね。

部署を移動してまず始めたプロジェクトは、商品開発会議をオープンプラットフォーム化して、
他の業界のイノベーターの声を集めて商品作りをしていくというものでした。
実際に社外の様々な方とお会いしプロジェクトを進めていく中で、メディアなどの反響も大きく、
社会的な手応えを感じました。
しかし、プロジェクトとして進める中で、会社の期待に応えることができず、
自分の力不足を痛感しました。

また、並行して、学生時代の研究を活かした新しいチャレンジも行いました。
尊敬するゼミの先生に相談のもと、過疎化が進む農村に目を向け、
その地域振興を、会社のリソースを活かしてできないか考えるようになったんです。

そんな背景から、「かやぶきの里プロジェクト」と題して、
自社のステークホルダーである、分譲した住宅に暮らすオーナーさんやオフィスビルのテナントさんとそのご家族が、
農村に田植えなどの里山体験イベントへ行く仕組みを作りました。
元々、都市部に暮らす子ども達に「自然豊かな故郷(ふるさと)」が無いことを親御さんが嘆いており、
農村では、自分たちだけでは自立再建できないという課題があったため、
その相互扶助的な仕組みとしてプロジェクトを立ち上げたのですが、
実際にプロジェクトを進めていくと、本当に喜ばれていることを実感したんですよね。

漠然とですが、

「ああ、これはデザインの仕事なんだな」

と感じました。

しかし、プロジェクトを進めていく中で、取り組みの社会的意義への確信はもちながらも、
民間企業として扱えるものにするのは大変でした。
それでも、応援してくれている人もたくさんいる中で、自分自身が絶対的な当事者として前に進むしか無く、
関係者の期待に応えようという一心で関係者と向き合っていきました。

この時初めて「会社」を学んだ気がします。
会社に理解してもらうことが、必須な環境に置かれたことで、
自分自身、初めて深く会社と向き合い、会社を学んだんですよね。

その後、グッドデザイン賞の3部門同時受賞、同賞のベスト100にも選出という、会社始まって以来の名誉ある賞をいただき、
社内で応援していただける方も増えていきましたし、筑波山麓の皆さんにも喜んでいただくことができました。

オープンイノベーションのプラットフォームを作る


その後、人事異動で海外事業を行う部署に異動となりました。
バックパッカーの経験から、海外には強く関心があったので、
仕事で海外に携わる機会をいただけたことはとても嬉しかったですね。

また、商品開発部で経験した2つのプロジェクトを通じて、
日本企業でイノベーションを起こすことの難しさ、課題も感じていました。
今の社会で新しい価値を生み出すには、
小さく始めてトライ&エラーを繰り返して最適化しなければいけないと思うのですが、
一般的に、会社でそれを進めようとすると、実績が出る前の一歩目を作ることは簡単ではないと感じたんです。

そこで自分と同じような課題を抱える人のためにも、社会人向けのオープンイノベーションのプラットフォームを、
社外の活動として作れないかと考えるようになったんですよね。

そんな背景から、「オープンイノベーションのプラットフォームを作る」というテーマで、
『新宿360°大学』というプロジェクトを立ち上げました。
文字通り、360°の視野を持とうという思いを込めたこのプラットフォームでは、
20代・30代の、会社に勤める優秀なサラリーマンを集め、
毎回同世代で活躍するゲストの講演やディスカッション、
そして参加者からプロポーザルの機会を設け、新しい事業の立ち上げに繋がる場を提供しています。

本来、企業に務めるサラリーマンは、お金や人材、ノウハウ、信頼等の企業リソースを活かすことで、
よりレバレッジの効いたインパクトを社会へもたらすことができると思うので、
こういった活動を通じて、会社のリソースを活かして、社会に価値を提供するような、
イントレプレナーシップを持った人を生み出していくことにつながっていけばと思います。

また、この活動は課外活動ながら、会社からも応援していただくことができ、少しずつ取り組みの幅を広げています。

正直、20代の頃は、自分の力不足から、会社との関係を上手く築けていなかったのですが、
会社と向き合い、会社を学んでからは、会社をより好きになっていきました。

今後は新しく与えてもらった海外での挑戦の機会を通じて、
グローバル視点でもイノベーションを活かせるような人材になっていきたいです。

あとは、やっぱり、自らが尊敬される先輩になりたいですね。

2014.08.26

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