美容師の働き方に多様化を。元証券マンが旧態業界で起こす、2度目の挑戦。

「美容師の働き方に多様化を」というコンセプトでスタートアップを立ち上げた酒井さん。 証券会社から、家業の再建に取り組むも失敗、というキャリアの背景には、いったいどのようなエピソードがあったのでしょうか?

酒井 真吾

さかい しんご|美容師の働き方を多様化する社会起業家
「美容師の働き方に多様化を」というコンセプトのもと、FABBYというサービスを準備している。
社会起業家育成のためのアクセラレータープログラム「SUSANOO」の第1期生。

商売をする両親の背中


小さい頃から、別々の商売をしている両親の背中を見ながら育ちました。

父親が独立した投資顧問会社を経営していて、
母親はヘアサロンを含む美容関連の経営に携わっていました。

家の中でも、自然と商売の会話になることが多かったですし、
生活をしていて、景気の影響を感じることもありましたね。

特に、父親からは相場のイロハを教えてもらい、発注なんかも手伝わせてもらうこともありました。
事業家や金融関係の方と会ったり、海外の著名投資家・ジョージソロスの話を聞いたりするうちに、

「世の中をダイナミックに動かしている」

ということを、すごくカッコよく感じたんです。

大学生になり、ぼんやりと将来のことを考えるようになると、
父親のような金融のスペシャリストか事業家になりたい、
という気持ちがありましたね。

ところが、そんなことを考えていた21歳の時、父親が亡くなりました。

それ以来、何をやりたいかというよりは、

「やばい、ちゃんと生きなきゃ」

という気持ちが強くなったんです。

残された家族は母親と姉だけで、男がいないため、
「自分が稼がなければ」という危機感を強く持つようになったんですよ。

その後、就職活動を経て、ちゃんと稼げるという前提のもと、
金融のスペシャリストも事業家も目指せると感じた、大手の証券会社に就職することに決めました。
ずっとサラリーマンで居続けるイメージはなく、3年経ったらどちらに転がるかを決めようと考えていましたね。

証券会社で感じた悔しさ


証券会社に入社してからは、とにかく仕事で忙しかったですね。
毎日ヘトヘト(笑)仕事のことばかり考えて生活していました。

入社後、最初は営業として働き、内閣官房への出向を経て、公開引受部という部署に配属になったんです。

公開引受部では、新規上場を検討する企業の準備に携わるため、
様々な業界のベンチャー企業に触れることができました。

そしてある時、母親が経営する会社と同じ、美容業界の案件に携わる機会があったのですが、
同僚はもちろん、公開引受部からの評価がとても低かったんです。業界の市場規模が小さいし、
そもそも美容業界なんて相手にもされていなかったんですよね。

「こんな低い評価なのか」という驚きと同時に、これまで自分は、

「美容業界で一生懸命頑張る母親のおかげで食べてこれたんだ」

という気持ちから、直感的に、すごく悔しさを感じました。

また、そんなタイミングで、リーマンショックが起こったんです。
軒並み景気が悪くなっていく中、母親の会社も影響を大きく受けていたので、

「会社を手伝ってほしい」

と依頼を受けたんですよね。
ちょうど働き始めて、3年が経ち、改めて将来のことを考えてみました。
公開引受部で感じた悔しさも原動力となり、

「だったらちゃんとした会社を創ってやる」

という気持ちから、証券会社を辞めて、母親の会社を手伝うことに決めたんです。

「変化」を求めた失敗


母親の会社は、ヘアサロンやネイルサロン、メイクスクール、ヘアメイク派遣等、
幅広く事業を展開していました。
元々、入る前から大変だと聞いていたのですが、実際に中に入ってみると、想像以上でしたね。

債務超過でまさに瀕死の状態。とにかく延命させるために必死でしたが、
資金調達に走り回っても、母親の会社ではどこも門前払いでした。
待ったなしの状況だったので、グループの再建計画を作り直し、
新たに僕が会社を創業して資金調達をはかり、企業再建に取り組みました。

証券会社の経験もあったので、自信はあったのですが、
この業界に一歩足を踏み入れた瞬間から、全く違うと気づかされましたね。
本当にこれまでとは180度違う世界でした。

お金集めや人材の確保、新しい事業など、いくつかうまくいった面もありましたが、
初めて携わった建て直しは、非常に難しい挑戦でした。
大きな孤独に加え、ストレスと多額の借金を抱え、多くの人達に裏切られて、文字通りどん底でした。

結局、5年間奔走し、昨年その会社を手放すことになりました。
振り返れば「ちゃんとした会社を創ろう」という考えが勝手な思い込みだったということに気づいたんですよね。

旧態依然の業界に、証券会社で経験したような、資本主義の最先端を持ち込んでもうまくいきませんでした。

僕は業界を「変化」させようとしていたんです。

でも、それは過去の否定になってしまっていて、根本にあるべき尊敬ができていなかったんですよ。
実際に現場で働く美容師達は、お客様と接して、幸せに安定して暮らしたいと願っていました。
変化を求めていない人もいたんですよね。

そんな人たちのことを「認めて、より良くする」という姿勢が必要だったんです。

美容師の働き方に多様化を


そんな背景から、現在は「美容師の働き方に多様化を」というコンセプトのもと、再び、新しく会社を立ち上げました。
会社の建て直しを行う中で、実際にたくさんの美容師と接する中で、その働き方に課題感をもったんですよね。

ヘアサロンのような無形サービスは、働いている人が「商品」となるため、
ヘアサロンの中での振る舞いが、そのまま顧客満足度につながると思うんです。
しかし、働いている若い子達は、圧倒的に社会人としての基礎力が劣っていると感じたんですよね。

当然と言えば当然で、専門学校に入り、そのままヘアサロンに入ってしまうと、
社会に出る経験もなく、美容師になってもずっと同じ場所で働いています。
外に出る機会もなく、関わる範囲がすごく狭いんですよ。

それがすごくもったいないと思ったんです。

今考えているのは、「美容版のUBER」のようなサービスで、
サービスを望んだお客様のもとに美容師が駆けつけ、施術を行うというイメージです。

そうすることで、美容師がお店の中だけでなく、外の世界に出て行く機会となるし、
お客様に満足してもらうために、一人一人が向上心を持って働くことができ、
働き方の選択肢が増えてくると思うんです。

接客中心のサービス業、いわゆる労働集約型産業ならどこでもある課題だと思うんです。
だからこそ、多くの人が使ってよかったと思えるようなサービスにしていきたいですね。

まるで軍隊のような証券会社から始まり、生き残りを賭けた中小企業のリアルに触れた後は、
スタートアップとして、ロックバンドのように、全世界に響き渡るインパクトを残したいんですよね。

2014.07.16

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