目の前の困り事を解決できる人間になりたい。 選択してこなかった人生を経て、見つけた道。

株式会社NTTドコモにて、新規事業に挑戦する金さん。これまで料金プラン策定など、大きな事業を担ってきましたが、自ら希望して選択してきたキャリアではなかったと話します。そんな金さんが、新規事業を通して実現したいこととは。お話を伺いました。

金 東賢

きん とうけん|株式会社NTTドコモ
1989年生まれ。関西大学商学部商学科在籍中、矢田研究室にてデータマイニングについて学ぶ。2011年株式会社NTTドコモに入社。関西支社滋賀支店にて、ドコモショップを対象としたルート営業、ショップ配置のためのエリアマーケティングを担当。2014年経営企画部料金制度室へ。ギガプラン、ahamoなどのサービス立案に関わる。現在、社内起業制度を活用した新規事業の立ち上げを目指している。

自分のことは自分でやろう


京都府で生まれ、大阪府高槻市で育ちました。背が高く、いつもふざけていたので、クラスでは目立つ存在でした。先生からの評価も良かったです。

中学生のときに両親が離婚し、母がお好み焼き屋を切り盛りしながら、きょうだい3人を育ててくれました。お店の経営は厳しかったです。周囲の「片親だから」という声が聞こえることもあり、そんなことは関係ないと証明したいと思いました。だから、ちゃんといい大学に入り、いい会社に入ろうと。自分のことはできる限り自分でやろうと思っていました。

高校3年生になると、周りが受験勉強のために塾に行き出しましたが、塾に行くお金はありません。そこで高校の先生に、大学受験のために何をすればいいかを聞き出しました。そこから自分で計画を立てて、受験勉強を始めたんです。知名度があり、家から近い大学を目指しました。学部を変えて5回試験を受け、その中でたまたま受かった関西大学に入学することを決めました。

粘り強くやり切れば、結果は出る


入学してからは、アルバイトと遊びに明け暮れる日々でした。夕方から朝まで居酒屋で働いて、そのまま大学へ行ったこともあります。仲の良い友人とボーリングにはまって、週5で通っていました。夜中の12時から36ゲーム投げ続けたり。寝なくても平気で、好きなことは無限にできました。

3年生になると、ゼミを選ばなければいけません。僕はアルバイトと遊びに明け暮れていて、学校にはあまり行っていなかったので、ゼミを選ぶ機会を逃していました。申込期限の寸前になって気づくと、まだ空きがあるのは2つのゼミだけ。全く分からなかったので、鉛筆を転がして、どちらに入るかを決めました。

入ったのは、データマイニングをテーマとするゼミです。大量のデータを分析し、そこから金脈を発掘するというもの。入ってから、そのゼミに空きがあった理由が分かりました。二十数名入っても、毎年卒業時には一人か二人しか残っていないという、すごく厳しいゼミだったんです。「えー?」と思ったけれど、単位を取るためにはゼミを頑張るしかありません。

第一回目の講義の日。担当の教授が「お金儲けのやり方を教えます」と話し出しました。大学の教授から、そんな言葉を聞いたのは初めてです。なんだこれ、他の授業と違って楽しそうだなと。その講義を聞いて、このゼミをやり切ろうと思いました。

遊びもバイトも減らし、研究に打ち込む日々が始まりました。やったのは、例えばレジのPOSデータを統計的に分析し、マーケティングに活かす、といったことです。商品の価格を変えると、購買数がどれだけ変化するのか。自分でプログラムを書き、抽出した数値を分析します。そこから予測モデルを構築し、適切な割引額を決め、利益の最大化をシミュレーションするものです。

もともと文系なので、統計のことは全く分からないし、プログラムを書いた経験もありません。めちゃくちゃ苦労して、必死に付いていきました。研究発表の締め切り前は、ずっと研究室にこもりっきりで研究し、徹夜の毎日でした。

しかしその結果、脱落せずにゼミの研究をやり遂げることができたんです。最後まで粘り強くやりきれば、結果は出るのだと学びました。逆に言うと、やらなければ結果は出ない。だから、とにかく粘り強くやってみることを大事にしようと思うようになったんです。

人のせいにするな


ゼミの研究に没頭していたので、就職活動を始めたのは、周りがもう内定をもらい出していた3月でした。それでも、粘り強くやれば何でもできるという経験があったので、3日間で約80社にエントリーシートを書きました。業界研究する時間もなく、とにかく知っている名前の会社に出したんです。

書類選考はほとんど通りませんでしたが、面接には提案資料を持ち込み、面接終わりに渡すようにしました。そうすれば、僕を評価する時間も、評価軸も増えると思ったんです。作戦が功を奏したのか、最初に内定をもらったのが携帯電話の通信事業者のNTTドコモだったので、そこに決めました。

入社後は、研修を経て、営業として滋賀支店に配属されました。仕事はドコモショップを対象としたルート営業。ドコモの営業方針や戦略を店舗レベルで実行したり、ショップの売上を上げるためのコンサルティング営業の仕事です。

自分が直接販売するわけではなかったので、数字に対してどこか他人事のような感覚がありました。目標を達成できなくても、「店には言ってるんですけど」とどこか他人事でした。

お店との商談においても「これ達成できていませんね、もっと頑張ってください」と、そんな言い方をしていました。すると、その後の飲み会の席で課長に言われたんです。「人のせいにするな」と。「売上が上がらないのは店が悪いんじゃない。お前がやってへんからや。もう支店に来なくていいから、店に行け」と叱られました。

めちゃくちゃ悔しかったです。家に帰ってすぐ、ノートに今できていないことやその理由、これからどうしていくかなどを書きまくりました。気づけば朝になっていましたね。そして次の出勤日、支店には行かずにショップに直行したんです。店頭に立って、自分で販売をやってみました。課長は飲み会の席で店に行くことを指示したのを覚えていなくて「金が出社してこない」と焦っていたようです。

そうすると、初めて気づくことがありました。例えば、本社から提供されるセールストーク。会社が売りたい商品の魅力を詰め込んだセールストークがあるのですが、現場は忙しくて、それを全部言っている時間がないんです。端的な伝え方や、一目で分かるツール、提案時間を捻出するために他の応対時間をいかに効率化できるかなど、セールストークを言ってもらう以外の取組が必要でした。こちら側の想いばかりを伝えて、現場が見えていなかったなと反省しました。

それからは、実際に売ってみて、どうすればもっと売れるかを考えたり、売れるスタッフと売れないスタッフの差はどこにあるのかを考えたりしました。月に数回は丸一日店に立つようにして、何か問題があれば、必ず自分でも売ってみるようにしたんです。そのうちに、営業の成績は上がっていきました。課長の一言のおかげで、仕事を他人事ではなく自分事として考えられるようになったんです。

会社の根幹に関わる料金プランの変更


営業成績が上がったことで、ショップの移転や新規出店の計画を立てる、エリアマーケティングも担当するようになりました。そして、入社4年目。ショップ担当時代の成績やエリアマーケティングの取組が認められて、経営企画部の料金制度室へ異動になったんです。

料金制度室は、携帯電話の料金プランを考える、会社経営の根幹に関わる部署。料金制度室へ異動だと聞かされたときには、何をするかも全く分かっておらず、「それどこですか?」と聞きました。でも辞令をもらったので、行くしかないなと。

料金制度室は少数精鋭の部署でした。先輩と僕の2人で料金戦略を立てていくことになったんです。料金プランの立案や、収支のシミュレーション、システムの要件定義、広報やIR対応など、本当に川上から川下まで、すべて2人で対応しました。自分たちで考えて自由に動けるのは、楽しかったですね。かなり忙しい部署でもありましたが、2人しかいないので、抜けられないという責任感もありました。

異動して5年経った頃、料金プランは絶えず改善していましたが、それでも料金プランが複雑で分かりにくいというお客様の声や、法律の改正があり、料金プランを抜本的に変える必要性が出てきました。先輩は異動になり、僕はほぼ一人で新プランの設計を担当することに。複雑だった料金・割引サービスをシンプルにして、端末購入による割引なども無くすなど、料金プランの設計に留まらず、モバイル事業全体の見直しが必要な大きな変革でした。

発表にたどり着いたときには、今できるベストなプランだという思いはありました。しかし、世の中の反響を見ると「結局分かりにくい」とか「値上げじゃないか?」といったネガティブな声もありました。それを見て、達成感を味わう前に、気持ちが萎んでいきました。どうせなら、使う人に喜んで欲しいし、あのプランいいよね、と言われたかったからです。数日間は、SNSを覗いては落ち込んでいました。

ユーザーに喜ばれるプランを


その後、時間に余裕ができたときに、なぜ他通信事業者への乗り換えが多いのかを考えてみました。端末の価格やラインナップ、ショップ数、プロモーションなどは他社に劣っていません。そのとき「高いイメージがあるからドコモが選ばれていないのでは?」という仮説に行き当たりました。

社内でもそんな意見は出ていましたが、実際に検証した人はいませんでした。もしこの仮説が正しいなら、いくら料金や端末価格を下げても効果がないことになります。ドコモに対するイメージ自体を変える必要があると思いました。そこで、データをまとめて仮説を立証してみました。すると、実際に高いというイメージを理由に選んでいない人がいることや、その人たちが料金プランの詳細を知らないことが分かったんです。そこで「ドコモ=高い」イメージを変える、新たなサービスを打ち出すことにしました。

前回のプラン発表の反響が悲しかったので、今度は本当に喜ばれるものをつくりたいと思いました。客観的なデータを基にするだけでなく、自分が欲しい料金プランを考えてみよう。行き着いたのは、究極にシンプルで安価な料金プランです。

複雑さをなくして一つのプランのみ。店頭ではなくオンライン契約。端末に元から入っているアプリや提供するサービスは、必要最小限。一ユーザーの視点から、本当に必要なものだけを入れたサービスにしたんです。

ところが、コンセプトやスペックをほとんど考えたところで辞令が出て、僕はまた異動になりました。新しいプランに自信があったし、本当は最後までやり遂げたい気持ちはありました。

その後、新プランが発表されました。発表会の日にまたSNSを見ると、今度はポジティブなコメントが、6万件以上も並んでいました。すべてのコメントに「ありがとう!」と返信したいくらい、嬉しかったです。会社目線ではなく、お客さんが欲しいものを考えてできたサービスが、評価された。結果としても、他社への乗り換え件数は減り、約12年ぶりに転入が転出を上回るプラスになりました。

自分で人生を選択してこなかった


新しい職場では、ルート営業のマネージャーとして働くことになりました。働き方や営業方法など、変えられるところはたくさんあり、最初の一年は忙しく働きました。

少し落ち着いた頃、社内の新規事業創研修「ドコモアカデミー」のチラシが目に入りました。表紙にデザインされた虎と鷹が格好良くて。誰でも参加できたので、軽い気持ちで応募したんです。

ドコモアカデミーでは、様々な領域で、社会の一線で活躍する外部講師の講義を聞くことができました。話を聞いて、外の世界って面白いなと思いました。自分たちは既存事業を主としているので、新規事業についての話は新鮮で、とても衝撃でした。

また、外の世界とのギャップも感じました。予測不可能な時代と言われ、世間では「会社がいつ潰れるか分からない」「転職は当たり前」などと叫ばれています。でも会社で働いている中では、そんな意識も生まれません。外の世界の話を聞いて、取り残されていくような気持ちになりました。外に出たら、自分には何ができるのだろう?初めてそんなことを考えました。

ある講義では「イノベーションは、やり方さえ分かれば誰でもできる」と聞きました。そのためにはまず「困っている人のところへ行き、話を聞いてきなさい」と。今は何の使命感もなくても、困っている人の話を聞けば、助けてあげたい気持ちが湧いてくる。それが事業になるという話でした。「困っている人が思いつかない人は、生ぬるいです」と言われたとき、どきっとしました。

これまで僕は、自分で選択する人生を送ってきませんでした。家の近くの大学を受け、80社エントリーシートを送った中で、たまたま通った会社に入り、その後も会社に言われるがままに異動して。自分から進んで選択したことは一度もなかったんです。自分はこのままでいいのか。どんなキャリアを歩んでいきたいのか、考えるようになりました。

同じようにキャリアに悩む人がいるかもしれないと考え、話を聞きに行ったのは、中学時代の同級生です。そのうちの一人は、エステティシャンでした。彼女から聞いたのは「コロナ禍で生活が立ち行かず、死ぬかと思った」という話。他の仕事を探そうにも、見つかるのは単価が低い在宅の仕事だけとのことでした。キャリアがどうというよりも、生活そのものの悩みを抱えていたんです。

他にも、飲食店や小売業に従事する人たちに話を聞きに行くと、同じような課題を抱えている人がいました。年収が上がらず、先が見えない。朝から深夜まで働かなければいけない。異業種に転職したくても経験がなく、転職できない現状があったんです。

こういった人たちの課題を解決できないかと考えました。転職したくてもできない人の転職を支援する、新規事業を立ち上げたい、と。

目の前の困っている人を、助けたい


現在はドコモのグループ会社に出向して、ルート営業を行う人たちのマネジメントをしながら、新規事業に取り組んでいます。やりたいのは、飲食店や小売業で働く人に向けた、異業種への転職支援。「接客しかやってないから」と自信がない方もいますし、企業側も未経験者を雇うことに消極的です。転職エージェントに相談しても、積極的に転職を勧めてもらえないという現状があります。

この課題は、単純に企業と転職者の間を取り持つだけでは解決しません。転職者に足りないスキルや、企業が求める要素の差分を埋めることで、転職を支援できたらと考えています。社内起業を目指して、ヒアリングなどに取り組んでいるところです。

また、ダイバーシティ推進などを行う会社にて、副業も開始する予定です。その会社では、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を数値化して、組織課題を解決する事業をやっています。今までは、ダイバーシティもほとんど意識したことがありませんでした。ドコモアカデミーで、介護や教育、不妊などさまざまな課題に対する事業案を聞いて、ダイバーシティの大切さを実感しました。ダイバーシティを意識して働いてみようと思っていたところに、ちょうど募集があったので、自ら手を挙げました。

今の目標は、転職支援の事業案をちゃんと事業化することです。本当に困っている人がいて、しかも誰も助けてくれないという現状がある。当事者の方に、事業案について話すと「ありがとう。頑張って欲しい。」と言われるんです。だから、頑張ろうと思えます。

とはいえ、一生転職支援をやり続けたいわけではありませんし、うまくいくかもわかりません。労働環境や賃金の問題が改善されれば、転職する必要はなくなりますし、そうなれば転職支援の事業も必要なくなるでしょう。今ある課題が解決されるのなら、その方がいいと思っています。

社会課題を解決したいという大きな話ではなくて、目の前の人が本当に困っているので、助けたいんです。それが事業になるなら、やりがいがあります。自分が知っている範囲の小さなことを、解決できる人間になりたい。もし今の事業が形にならなくても、次に困っている人のところへ行って、話を聞き、事業化できるまで挑戦し続けたいです。

どういう道を歩んでいくのか、これからは自ら選択して考えていきたいと思っています。まずは新規事業に全力を注ぎますが、外とつながるために副業も色々やりたいし、大学院にも行ってみたい。会社の仕事ももちろん頑張りますが、他にも色んな事に挑戦したいと思っています。

僕にできることは、目の前のことを粘り強く、他人ごとにせず頑張ることだけです。目の前の困っている人を見つけて改善していけば、いつか世界が良くなるはず。そう思って、頑張って続けていきます。


2022.04.21

インタビュー・ライティング | 塩井 典子
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