抹茶スイーツで、縁を結ぶ。 好きなことをして、自分の人生を生きたい。

SNSで毎日、抹茶スイーツの情報を発信している中西さん。進学、就職、結婚と、順風満帆な人生を過ごしてきましたが、いつも人の目を気にしていたと話します。好きなことをして生きる決意をした中西さんが、歩き始めた新たな人生とは。お話を伺いました。

中西 ののか

なかにし ののか|お抹茶スイーツフォトグラファー
1989年生まれ。2012年日本大学文理学部教育学科卒業。2019年よりInstagramとTwitterにて抹茶スイーツの投稿を始める。ショップの商品画像を撮影するほか、「お抹茶スイーツを楽しむ会」も開催している。

大人から良く見られたい


東京都練馬区で生まれました。姉が一人いて、とても仲が良かったです。でも私と姉は、性格が正反対。自由奔放な姉に対して、私は他人の目を気にするタイプでした。親や先生からどう見られるかを気にしていましたね。

学校では定期テストに向けて勉強をすごく頑張っていました。A4の紙に毎日やることを書き出して、壁に貼って。勉強が好きだったわけではなく、大人から良く見られたかったんです。ある程度の成績をおさめていれば親も安心するだろう。そう思っていました。

高校1年生のとき、人間関係がうまくいかず、いじめに遭いました。苦しかったですね。結局クラス替えによって、その状況は乗り越えたのですが、自分のことをあまり周りに言わない方がいいと思うようになりました。また何かあったら嫌だなと思ったんです。

高校2年生のときに担任になった先生は、生徒と近い立場で接してくれる人でした。英語の先生なのに数学を教えてくれたり、テスト前には「違う科目の勉強したいよね」と時間をつくってくれたり。みんな先生のことを慕っていて、私も先生みたいになりたいなと思い、大学は教育学科に進みました。

しかし、大学で学ぶうちに、学校の先生になるには、特定の科目をちゃんと極めなくては駄目だと気づきました。私は勉強を頑張ってきたけれど、好きで勉強してきたわけではありません。だから、そこまで好きな科目もありませんでした。教員免許は取ったものの、自分に先生はできないと思い、就職活動をすることにしました。

大学の専攻が教育学科だったため、就職活動ではひとまず教育関連の企業を受けに行きましたが、就職氷河期と言われていた世代でもあり、結果は厳しかったです。内定がもらえたのは一社だけ。大手進学塾でした。塾での勤務を強く希望していたわけではありません。さらに言うと、子どもと接することに対して苦手意識がありました。それでも、内定をもらえたことに安心し、そこで働くことを決めました。

リピート再生のような毎日


塾に入社してすぐ、新卒社員向けの一泊二日にわたる研修がありました。挨拶や発声、お辞儀などの基本動作訓練や、会社の社訓を暗唱するといった、ハードなものです。先輩から話を聞いていたので、私は研修前に暗唱内容を暗記したり、商品知識テストの出題範囲を勉強して行くなど、事前にできる準備は全てやっていきました。そして、二十数人いた同期の中で、一位を取って研修を終えたんです。やる気があったというよりは、失敗するのが怖くて先回りして努力した結果、会社の中で「できる人」っぽく見られるようになったんです。

就職した会社での仕事内容は教室での受け付けや、入塾手続きなどが主な仕事。生徒とのやり取りは楽しかったですね。二年目で異動した本社では、アルバイト職員の勤怠管理をしたり、低学年向けのオプション講座を受け持ったりもしました。教壇に立って、人に教える仕事は楽しかったです。所属部署や業務内容が変わるときも、この講座だけは続けたいと思うほどでした。

結婚したのは、入社4年目のときです。就職して、結婚して、順風満帆なライフステージを歩めば、自分も安心したし、親も安心すると思いました。また、仕事が忙しく大変だったので、結婚して仕事を辞める選択肢を作りたかった、という気持ちもありました。でも、わざわざ自分から公表する必要もないと思いましたし、どこか二人の関係性に自信が持てなくて、結婚生活についてはあまり周囲に話しませんでした。

結局、経済的な理由もあって、結婚後も仕事は続けることにしました。毎日フルタイムで仕事をしながら夫の食事を用意して、洗濯して、掃除して。家事は全部やりました。夫の方が帰りが遅いので、全部自分がやらなきゃと思っていたんです。

性格上、食器を洗わずに残しておくとか、中途半端なことはできませんでした。どうせやってくれないだろうから、自分でやっちゃおう、と。気づけば負担がどんどん大きくなっていました。夫と話し合ったり、相談することもなかったんです。

一方仕事は、問い合わせ総合窓口を担う部署へ異動になりました。毎日どんな問い合わせが来るか予測もできないし、時にはクレームが飛んでくることも。難しい仕事でしたが、教室で働いた経験があり、低学年から大学受験まで幅広く関わってきたことで、一通りの対応はできました。

でも、ただ経験を積んできたからできた。それだけなんです。好きじゃなくても、経験を重ねれば仕事はできてしまうんですね。一日中電話に応え、帰ってから家事を片づける日々。まるでリピート再生しているような毎日でした。

好きで続けていた「抹茶」の活動


忙しい中、趣味として続けていたのが、SNSへの投稿です。最初は日常の写真を何気なく投稿していましたが、次第にスイーツの写真が増えていきました。もともと甘いものは大好き。中でも惹かれたのが、抹茶を使ったスイーツです。学生のとき、友達がくれた抹茶のキャラメルを食べて以来、抹茶味が気になって、コンビニなどでチェックするようになりました。

抹茶スイーツの投稿が多くなると、その投稿を楽しみにしてくださる方も増えていきました。そしていつしか、抹茶スイーツ専門アカウントとして、毎日写真をアップするようになったんです。毎日投稿しようと決めたわけではありません。好きなことをやっているうちに、気づけば習慣になっていました。

全国から抹茶スイーツを取り寄せ、毎日楽しんでいます。飽きることはなかったですね。実物よりも美味しく見えるような綺麗な写真を撮って、コメントにはお店の方から聞いたこだわりを盛り込んで。投稿を続けるうちに、フォロワー数は1万人を超えました。

スイーツやカフェの情報を交換するために、音声で交流するSNSも使うようになりました。参加したのは、カフェ好きな人が集まるルームです。そこには、年代も住む場所も、職業もさまざまな方が集まっていました。学生や経営者など、いろんな立場の方と「カフェ好き」という一つの共通点だけで出会えたんです。

カフェやスイーツがお好きな方との交流をきっかけに、それ以外のジャンルで活躍されている方たちとの出会いにもたくさん恵まれました。毎朝、音声SNSでみなさんのお話を聞いて元気をもらっています。

次第にカフェの話題だけでなく、仕事の話もするようになりました。最初のころ、私はいつも「スイーツが好きなただの会社員です」と自己紹介していました。その度に、「SNSのフォロワーさんがこんなにいるのに、これは仕事じゃないの?」と言われました。けれど、これは趣味であり仕事にはなり得ない、と思っていましたし、自分に自信がありませんでした。

ただ、そんな私とは裏腹に、音声SNSで出会った人たちの中には好きなことを仕事にしている人もいて、ずっと会社の中だけで過ごしてきた自分は、すごく狭い世界で生きてきたなと感じました。やりたいことでもない仕事をして、私は何をしているんだろう。みんなの話を聞くうちに、そんな想いが生まれてきました。

好きなことで生きていける


就職して10年目になり、仕事では役職に就き、人を育成する立場になっていました。今まで一番下のプレイヤーでいたのに、大きな責任が伴うようになり、壁を感じていて。この業務内容、役職で仕事を続けていくことに、耐えられるだろうかと思い始めていました。

それでも、私は「就職してフルタイムで稼がなきゃいけない」「仕事と趣味は別だから、仕事はやりたくないことをやらなきゃいけない」という固定概念に縛られていました。でもある日、音声SNSで出会ったある方から「固定概念は不要だ」と言われたんです。「こんなに光る才能があるのに、なんでそれを活かさないの?」と言ってくれました。

夫は私の趣味に関心がなく、抹茶スイーツについて話すこともありませんでした。でもこのSNSで、自分が好きで極めてきたことを、褒めて応援してくれる人にたくさん出会えたんです。それがすごく嬉しかった。もしかしたら本当に、自分の好きなことが仕事になるかもしれない。そう思えました。

2021年の秋、9年半勤めた会社を辞めました。そのひと月後、離婚もしました。環境をすべてリセットしたんです。親は心配していますが、死にはしないから、とりあえず見てて、って。ここから、私は自分の人生を生きることにしました。

自分の可能性を探っている時期


今は、2つのSNSで抹茶スイーツの投稿をしています。2年半以上、毎日欠かさず投稿を続けています。目指しているのは、抹茶スイーツ好きな人と、お店をつなぐ縁結び役になること。素晴らしいお店の存在を皆さんに伝えたいし、投稿を見た人が楽しんでくれればと思っています。お店の方から「私の投稿を見て買いに来てくれた人がいる」とお礼をもらうこともあって、お店の応援ができるのは嬉しいですね。

最近は、一眼レフを購入して本格的に写真撮影を始めました。退職後、知人のコーチングを受けたときに「写真、相当好きじゃない?」と言われて。人に言われてやっと、自分の好きな気持ちに気づいたんです。

写真を撮っているときは、スイーツと会話しているような感覚ですね。どの高さから撮ると一番美味しそうに見えるか、とか。技術的なことも勉強しなければと思っていますが、今はスイーツへの愛で撮っています。一眼レフで撮影を始めてから、オンラインショップなどに掲載する商品撮影も依頼されるようになりました。件数は多くないですが、少しずつ仕事につながっています。

今後力を入れていきたいのは、抹茶スイーツを軸にしたリアルな場づくりです。抹茶スイーツ好きな人が集まるイベントを、過去に数回開催しました。そこで、年代も職業もさまざまな人が、抹茶スイーツを介してつながったんです。みんなで遊びに行ったり、仕事が生まれたりもしました。今も交流が続いています。リアルな場を共有したことで、想像もしなかった価値が生まれた。人と話すのっていいなと思いました。

最近になって、人とのコミュニケーションを大切にしたいと思うようになりましたね。過去の私は、夫と話す努力をしてきませんでした。スイーツ巡りも全部一人でやっていたし、フォロワーさんとも密にやり取りしてこなかった。でも人と対話することで、人生がもっといいものになると気づいたんです。だから、自分がいいと思ったものをシェアして、いろんな人と関わっていきたいです。

自分自身をオープンにすることも、今まではあまりしてきませんでした。でも素直に話してみると、相手も心を開いてくれるし、応援してくれる人がたくさんいました。これからは自分をオープンにして、人とのつながりを深めていきたいです。

今は、自分の可能性を探る時期だと思っています。頼まれたことは何でもやらせてもらい、さまざまなことに挑戦しています。写真を撮ったり、画像を加工したり、ウェブページの作成にも挑戦しました。

やってみると、こんなことができたんだ、得意だったんだ、と気づくことがありますね。人に教えるのも好きなので、何か自分の得意なことをお伝えするコンテンツをやってみてもいいな、と考えています。

ただ、これをやって社会貢献したいとか、そこまでは今浮かんでいません。抹茶スイーツ、写真を撮ること、場づくり。自分が好きなことや得意なことを掛け合わせて生きていけたら、と思っています。その先で自然と人のためになることができたら、嬉しいですね。まずはこれから始まる、自分の人生を楽しみたいです。

2022.03.10

インタビュー・ライティング | 塩井 典子
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