気づいた課題から目を背けない。 いつでもどこでも「心地よい清潔」を。

牛乳石鹸共進社にて、入浴ヘルスケアを柱とする新規事業に取り組む江越さん。2021年に第一弾となる商品をリリースし、現在は災害時に役立つ新商品・サービスの開発にも取り組んでいます。大企業に勤めながら、独自の着眼点で新しいビジネスに挑戦する、江越さんの原動力とは。お話を伺いました。

江越 亮一

えごし りょういち|牛乳石鹸共進社株式会社
1979年大阪府岸和田市出身。2002年、営業職として牛乳石鹸共進社に入社。九州支店に配属される。2008年中四国支店に配属。2013年営業統括部へ。2020年に新規事業室が開設され、新規事業に携わる。現在、新規事業室にて主に高齢者の入浴ヘルスケア事業に取り組んでいる。大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONEJAPAN 2021」ファイナリスト

自分で納得できないのは嫌だ


大阪府岸和田市に生まれました。恥ずかしがり屋で、人前に出るのは苦手な子どもでした。

背が高く、身体を動かすことが好きだったので、中学校ではバスケットボール部に入部しました。バスケは、チームプレーの楽しさと、個人プレーの楽しさを両方味わえるスポーツです。そのバランスが面白くて、ハマっていきました。

高校でも、迷わずバスケ部に入部しました。しかし、中学の時よりも周りのレベルが上がって、レギュラーになれないことも増えたんです。そこで、自主的に練習に取り組むことにしました。朝は始発の電車に乗り、6時から早朝練習。部活後も、筋トレに励みました。

通常の練習に加えて負荷がかかるので、体力的にはきつかったです。でもみんなと同じ量やってたら追いつかれへん、という気持ちが強かったですね。

自分以上に練習している人はいない、と言えるまで練習しようと思っていました。レギュラーになれなかったとき、「あのとき練習したか?」と自問自答して、後悔したくない。自分で納得できないのは嫌だ、と思っていました。

高齢者の役に立つ事がしたい


大学卒業後、身近な商品を扱っているという理由から、牛乳石鹸共進社へ入社しました。営業職として、九州支店に配属。九州では牛乳石鹸の認知度が高く、お得意先様に温かく迎えてもらうことが多かったです。厳しいことを言われても、牛乳石鹸が好きだという気持ちが伝わってきたので、仕事は楽しかったですね。こんなに喜ばれる商品なんだと感動しました。

入社8年目、中国・四国エリアの担当をしていたとき、社内で牛乳石鹸のファンをつくるプロジェクトが立ち上がり、メンバーに選ばれました。若者の会社に対する認知度が下がっていること、固形石鹸離れが進んでいることが、プロジェクト発足の背景でした。

ファンづくりのために、まずは社員や地域に向けて、さまざまなイベントを企画。社員の家族参観日をつくったり、地域の子どもを対象に石鹸の型抜きワークショップを開催したりしました。

ただ、会社が若者にばかりフォーカスしていることに、僕は違和感を感じました。牛乳石鹸のファンであり、長年会社を育ててくれたのは年配の方々です。営業先で実際に商品のファンである方たちとお会いしていたこともあり、会社がお世話になった方々へ目を向けていないことに、「自分たちに何か取り組むことができないか」とモヤモヤしました。

また、両親が長い間祖父の介護をしていたことも、高齢者に目を向けるきっかけになりました。母は毎日、祖父の自宅まで通い、排泄や入浴の手伝いをしていたんです。僕は、終わりが見えない介護の大変さを聞いていました。

自分が高齢者の立場に立って考えると、最後は笑って人生を全うしたいし、人生の後半の時間を疎かにしてはいけないよな、とも思ったんです。人生100年時代と言われる中、人生の後半が楽しくないという、ネガティブな話も聞いていました。何か高齢者の役に立つ事業ができないかという想いが、漠然と自分の中に芽生えました。

踏み出すタイミングがきた


新規事業への想いはあったものの、結局、そこから行動を起こすところまでは至りませんでした。それから6年後、本社の営業統括部で働いていたときに、新規事業を検討するプロジェクトが立ち上がりました。選出されたメンバーは6名。その一人に選ばれました。

新規事業案を検討するうち、6年前に抱いた、高齢者向けの事業をやりたいという想いが蘇ってきたんです。そもそも、新規事業検討のメンバーに選ばれることなんて、そうそうありません。これは「今こそあたらしいことに踏み出す機会だ」と神様が言っているのかもしれない。勝手に人生のターニングポイントだと感じて、ここを逃したらもう駄目だと思ったんですね。

検討会では、ずっと温めてきた想いは隠しつつ、アイデアの一つとして高齢者向けの事業案を出しました。でも心の中では、もうこれをやるんだと決めていて。積極的にその案を押していったんです。

そして取締役会で時間を頂き企画書を持って行き、自ら事業案をプレゼンしました。経営のタイミングを考えると、もうこの日しかないと。提案というよりは、やらなければならないという気持ちでしたね。取締役会に乗り込む緊張よりも、ここで言わなきゃ駄目だという想いが強かったです。

プレゼンの結果、会社の承認を得て、新規事業室が開設されました。

ふたりでスタートした新規事業室


新規事業室のメンバーは、僕と商品開発担当者の2名です。人生の後半を、楽しく心地よく過ごすことに貢献する新事業をつくりたい。そんな思いで、介護施設でヒアリングをしたり、介護業界の展示会へ出向いたりして、情報を集めました。

すると、高齢者が入浴にリスクや面倒を感じていて、お風呂を嫌がる方が多いことが分かりました。牛乳石鹸が培ってきたノウハウで、何かできると感じました。そこで、介護施設での入浴介助に焦点を当て、高齢者と介護者の負担を減らし、安全に入浴できるような洗浄料を開発しようと考えたのです。

福祉を学ぶために、スウェーデンの施設見学もしました。そこでは、日本との考え方の違いに驚かされましたね。福祉の環境が整っているため、「高齢者が施設に入ること=幸せ」のような価値観があるんです。

それまで、人生の後半に対してネガティブな印象があり、高齢者の負担を軽減しようと勝手に考えていましたが、違う視点に気づかされました。一方的に助けるのではなく、高齢者も介護者も笑顔になれるよう、メーカーの立場でそのお手伝いができればと思うようになったんです。

現場の声を聞き取りながら、少しずつ商品づくりは進んでいきました。しかし、新商品の開発は一筋縄では行きません。社内の各部署にお願いに回ったり、新型コロナウィルス感染症の影響で、ヒアリングが思うようにできなかったり、二人の意見が食い違ったり。難しさを感じる場面が多々ありました。

中でも不安だったのは、自分たちだけが組織から浮いているように感じたことです。例えば、毎年春と秋には、会社が一丸となって取り組む新商品の発表会があります。新商品について勉強し、今期はこれを売っていくぞと、どの部署も気合を入れる。それなのに、僕たちはその流れと関係のないところにいるんです。今まで大家族の一員のように、みんなと同じ流れに乗ってやって来たのに、そこから外れたような不安や焦りがありました。

それでも、自分が心からやりたいと思ったことをやらせてもらっている、その幸せは大きかったですね。思えば営業職のときも、自分が心の底から良いと思った商品を、お客様に買って頂いていました。自分の気持ちに正直に働いているからこそモチベーションは高く、不安よりも「やりたい」が勝ったんです。

そして入社19年目の2021年、入浴ヘルスケアに着目した新事業の第一弾となる商品を発売しました。転倒の危険性を減らし、安心して使えるよう、泡切れが良く、浴室で滑りにくいボディ&ヘアケアシリーズです。ワンプッシュで手軽に使えることや、石鹸のやさしい香りによって入浴時間が楽しくなるのも特徴です。

商品が出来上がったときには、やっと出せる、やっと想いが形になったという気持ちでした。利用者の声を拾い上げて形にしたものなので、ヒアリングに協力いただいた施設の方々へ、実際に商品を届けられたときは嬉しかったです。取り組みに共感して声を掛けていただくこともあり、新たな繋がりが生まれたのも喜びでした。

できるかどうかよりも大事なこと


新規事業を本格的に進めていくにあたり、社外でネットワークをつくり、進め方のノウハウをきちんと学びたいと考えました。そこで知ったのが、大企業の若手中堅社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」が主宰する「CHANGE」でした。大企業内の挑戦者を支援するためのプログラムで、3ヵ月に渡って他の挑戦者と共にノウハウを学び、事業案のプレゼンまでを行います。

せっかく一からノウハウを学べるのであれば、入浴介助から一旦離れ、まっさらな事業案を考えてみようと決めました。

顧客へのヒアリングを重ねる中で、東日本大震災の被災者の方に話を聴く機会がありました。「髪の毛がどうにもならない」「1週間髪を洗わなかった経験はあるか?」といった生の声を聴いて。課題の深さを感じましたね。でもそのとき、僕たちならこういうものを提供できます、とすぐに言えなかったんです。

牛乳石鹸は「美と清潔 そして健康づくりに役立つ」商品の提供をミッションに掲げています。ただ既存事業では、震災のときに美と清潔を提供できていない。なんでできていないんだろう。そう思った瞬間、頭の中にモヤモヤが湧いて、止まらなくなりました。

そんな中、ある被災者の方から「牛乳石鹸で働いているなら、こういう商品つくってよ」と言われました。「できるかどうかは分かりませんが、検討します」とお伝えすると「できるできないじゃなくて、やりたいことを発信するのが大事なんだ」と言われたんです。

発信すれば、共感者も現れるはずだと。自分は事業の実現性を気にしていたけれど、大事なのはそこじゃないんだと気づいた瞬間でした。新規事業を進めていく心構えとして、そのメッセージは強く心に残ったんです。

できるかどうかは分からないけれど、まずアクションを起こすことが大事なんだ。その想いをもとに、少量の水でも洗髪できるミストブラシの案を発表しました。被災者の方のメッセージがあったからこそ、たどり着いた案でした。

誰もフォーカスしていないことが気になる


いまは新規事業室で、震災で断水した時など、水が少ない状況でも洗髪できる商品・サービスの開発も進めています。検証を進める中で、ミストブラシという形態は変わるかもしれませんが、解決したい課題は変わりません。

個人的には、起業にも興味を持っています。新規事業で得た学びは、一部署だけでなく、あらゆる部署の仕事に関わるものでした。その学びを生かし、会社員という枠を超えて様々な事にチャレンジしてみたい。自分に正直に生きたいんです。会社のことは大好きですが、ちゃんと自分のやりたいことと向き合えているか、常に考え続けていきたいです。

僕の原動力になっているのは、人の役に立つことの喜びや使命感だと思います。牛乳石鹸と同じで、真面目な性格なんですよね。自分がやらなければと使命感を感じてしまう。自分に嘘は付きたくないというか。特に「ここができていないな」と気づくと、やらないと気が済まないんです。

会社がお風呂の大切さを訴えているときに、お風呂がない状況について考えたり、若者にアプローチしようとしているときに、高齢者が気になったり。みんながフォーカスしていないところが気になるのかもしれません。こっちもやらなきゃいけないじゃないか、と。足りていないピースを埋めるような感覚です。

当たり前にあったニーズに対して、どのように美や清潔を提供するかを考えてきたのが、既存のビジネスでした。今度は新規事業によって、見えていないニーズに対しても、価値を提供できたら。みんなが見ていないところに目を向けて、困っている人の課題を解決したいです。

2022.02.10

インタビュー・ライティング | 塩井 典子
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