人との出会いを通じて生まれた夢を追う。 0から1へ、DXで世界を変える仕事をする。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて「0から1」を作り出し、人々の生活を変えようと活動する新宮さん。新宮さんが夢を持つきっかけとなった出会いとは?お話を伺いました。

新宮 由久

しんぐう よしひさ|プロパティエージェント株式会社執行役員・CDO、DXYZ株式会社執行役員 ・CBO・CDO
1974年、愛知県名古屋市生まれ。愛知大学経営学部卒業。トステム株式会社(現・株式会社LIXIL)、株式会社タナベ経営を経て、2008年、ソフトバンクモバイル株式会社(現・ソフトバンク株式会社)に入社。iPhone発売のプロジェクトに参画し、日本にiPhoneを普及させる。2019年、プロパティエージェント株式会社に入社。2020年8月、顔認証IDプラットフォームサービスを開発・提供するDXYZ(ディクシーズ)株式会社を立ち上げ、事業責任者を務める。

鉄砲玉と言われた少年


愛知県名古屋市で生まれました。友達と遊ぶのが好きで、一度遊びに行くとなかなか家に帰ってきませんでしたね。幼稚園では部屋の隙間に潜り込んでふざけたり、家では置物を壊して父に怒られたり、落ち着きがなく、やんちゃな少年でした。家族からは「鉄砲玉」と呼ばれるほどです。

小学校高学年になり三重県に引っ越しても、その性格は変わりませんでした。友達と近くの山にカブトムシを取りに出かけたり、サッカーしたりして過ごしていました。サッカーではいつもシュートを打ちたがるような、目立ちたがり屋な性格でもありましたね。

中学校に進んでからは、バスケットボールに打ち込み、高校は三重県で上位3校に入る強豪校に進みました。勉強との両立に励み、テストの成績も学年でトップクラスをキープ。両親からは、東京の偏差値の高い大学に進むよう勧められましたが、特にやりたいこともありません。東京の大学の入学試験は受けずに、指定校推薦で地元の大学へ入学を決めました。

就職活動は地元の銀行や企業を中心に行い、内定をもらった中で最も規模の大きな会社に入りました。建築材料・住宅設備機器の製造・販売をしている会社です。ビル建設に関わることで、地図に残るような仕事ができるのではないかと感じたんですよね。

出会いを通じて仕事の楽しさを知る


入社して4年ほどは、名古屋で営業を行っていました。5年目になった時、東京本社のマーケティングの部署の社内公募があったんです。業務内容を変えたいという思いもあり、応募して転勤が決まりました。

異動して、社会人としてのスキルが一段上がりましたね。名古屋で営業マンをしているときは、担当のエリアだけをみていました。しかし東京本社では、日本全国にある支店の状況を横断的に判断し、マーケティングの施策を考えなければなりません。視野を広げられました。

一緒に仕事をしていた上司からは、仕事の進め方や資料の作り方など、学ぶことが多かったですね。例えば私が資料を作成し提出すると、翌日には上司の手によって全く違う資料に変わっているんです。論理的に物事を整理し、視覚的に理解しやすくまとめられていて。「この人の脳みそが欲しい」と思うほどでした。

上司から影響を受け、自己啓発本やビジネス本など本を読み漁ったり、業務に関する勉強をしたり、一生懸命仕事に取り組むようになりました。その結果、マーケティング戦略部の主任に着任しました。

4年ほど経った後、人事異動の話が出ました。会社の考える配置を聞くと、社員一人ひとりの思いをないがしろにしているのではないかと感じて人事と揉めてしまい、転職することに決めました。最終勤務日の仕事終わり、上司であった2人と3人で飲みに行って、皆で泣きましたね。一緒に仕事をしてきた上司と別れるのが寂しかったですが、2人とも転職する私の背中を押してくれました。

事業会社しか経験していなかったので、外部の目線からビジネスを見て、自分のスキルを上げたいと思い、経営コンサルティングの会社に転職しました。運よく、役員の方と二人でチームを組み仕事をさせてもらって。1年ほど働き、経営とは何かを一通り学ぶことができましたね。

「0から1」に世の中を変える


33歳のとき、ヘッドハンティングでソフトバンクモバイルに転職しました。入社後、iPhoneが日本で初めて発売されることになり、事業責任者を務めることになりました。発売当初は、物珍しさに売れていたんですが、だんだんと売れなくなってしまったんです。どうすべきか話し合い、対策を講じていきました。

iPhoneのプロジェクトは、社内でも極秘。少人数で行われていて、会社に泊まり込みで会議をすることもありました。社長の孫正義さんとも、毎週のように議論していましたね。

発売開始からおよそ7カ月後、打開策として、利用料金を抑えられるキャンペーンを考案しました。そのころはスマートフォンではなく携帯電話が主流で、インターネットを使用する場合、データ通信量に応じてお金を支払う従量課金制が主流だったんですよね。ですが、iPhoneを購入した人のほとんどは、インターネットを頻繁に使います。従来の課金方法だと、データ通信量の上限に達し、料金が高額になってしまっていました。

そこで、あらかじめ通信量の上限額で契約すれば、月々支払う端末価格と通信料金に割引が適応されるようにしたんです。月々の利用料金が値引きされるので、これまでiPhoneを使っていない人にも買ってもらいやすくなりました。

キャンペーン実施後、月の販売台数は前月の7倍ほどに増加。毎週末、実際にどのくらい売れているかが気になって、上司といろいろな店舗を見に行きましたね。売り場が大勢の人で溢れているのを見ると、とても嬉しかったです。

それと同時に、iPhoneが普及したことで、ガラパゴス携帯の時代からスマートフォンの時代へと、日本人の生活スタイルが変化していくのを体感しました。人々の生活を変えるような変化を、事業責任者として自らが先頭に立って推進することができ、これからもこんな仕事をして行きたいと感じるようになりました。

40歳のときには、自分の感情を持ったパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の販売が始まり、再び事業責任者を務めました。発売当初から、毎月1千台をホームページ上で販売しました。実は、孫さんから「1千台を1分で売り切ってほしい」と言われていたんです。この言葉を受け、7カ月連続で、毎月1千台を1分で売り切ることができました。まだ誰もやっていないことをするためには大変な苦労もありましたが、人々の生活の中に「0から1」を生み出す仕事はとてもおもしろく感じました。

誰と何をするかを軸に仕事を決める


孫さんとは、ソフトバンクモバイルに入社してからおよそ10年間、一緒に仕事をして苦楽をともにしてきました。仕事に対して誰よりも真面目で、事業のことも技術のことも両方をちゃんと理解されていて。大きな仕事をするためには、全体のことを俯瞰する力が必要なんだと知りました。

43歳のとき、孫さんが事業会社を離れることになったんです。孫さんはアイデアマンで、圧倒的な存在でした。社内では、孫さんについていこう、という必死さがだんだんとなくなってしまう空気感がありましたね。私自身も物足りなさを感じ、仕事に対する熱量が下がっていき、次の転職先を考えるようになりました。

仕事は、誰と何をするか、で決めようと思っていて。これからの人生も、ソフトバンクモバイルで経験したような「0から1」で何かを作り出し、世界を変える大きな事業に取り組みたいと考えていました。数社からヘッドハンティングでオファーが来ていたのですが、その中で、「0から1」の事業に取り組める会社に絞っていきましたね。

いくつかの会社のトップの方とお会いしましたが、不動産業を営むプロパティエージェントの社長と話をして、新たな事業をいくつも創出していきたいという考え方が合うな、と直感し、入社を決めました。

DXで「0から1」の事業をつくる


44歳で新たな会社に移り、社内のDXと新規事業の構築に取り組みました。

不動産業界は驚くほどアナログな部分が多く、システムを取り換えたり、ツールを導入して自動化したりと、社内のDXを進めました。不動産業界の中でいち早く、賃貸借契約に関する取引において、宅地建物取引士が対面で行っていた重要事項の説明をスマートフォンやタブレットなどのテレビ会議機能を活用して実施できるようにしたり、 不動産取引において複雑だった書類手続きを、オンライン上で簡潔に行えるようにしたりしました。

さらに新規事業では、不動産投資型のクラウドファンディングの「Rimple(リンプル)」というサービスをスタートさせました。自社で保有しているマンションやアパートなど、既存のアセットを使って顧客データを集められるのではないか、と考えたんです。

Rimpleは、1口1万円からの少額投資が可能。クレジットカード会社など他社の提供するポイントをお金に換算して投資に利用することができます。スマートフォンで簡単に投資できるので、不動産投資が初めての方でも利用しやすいのが特徴ですね。

サービスが軌道に乗り、次に何の事業を始めようか、と考えていました。そこで、前職で扱っていたスマートフォンのことを考えてみたんです。

現代では、スマートフォンは体の一部で手放せない存在であり、電子決済や電子証明などができるひとつの「ID」のように使われています。しかし、IDとして使うのであれば、スマートフォンという「モノ」である必要もないはず。一人ひとり違う「顔」をIDとして使えれば、スマートフォンを持ち歩く必要がなくなるのではないかと思いました。

IDとしてのスマートフォンに代わるものを、オープンプラットフォームで作る。まだ手のつけられていないこの領域に、挑戦することに決めました。1年ほど社長と協議を重ね、2020年8月、子会社として顔認証システムの開発を行うDXYZ株式会社を立ち上げました。

利便性の高い世界の実現へ


現在は、DXYZ株式会社で事業責任者を務めています。

2020年9月からは、自社のオフィスで顔認証IDプラットフォーム「FreeiD(フリード)」の実証実験を行っています。FreeiDは、スマートフォンアプリに自分の顔を登録すると、顔認証IDとしてクラウド上で登録・管理できる仕組みです。

顔認証なら、オフィスに入る際にカードキーなどを取り出すこともなく、非接触で、マスクを付けたままでも認証が可能。コロナ禍でも、安全でスムーズに建物に出入りできます。それ以外にも、タクシーや買い物での支払いなど、様々な用途で幅広く利用することができるよう、開発を進めています。

これまでの顔認証システムでは、サービスごとにアプリやシステムがバラバラで、それぞれに顔情報の登録が必要でした。そのため、用途が限定的になってしまっていたんです。FreeiDではバラバラになっていた情報をまとめ、一度顔情報を登録すれば、入退室管理や決済など、生活のあらゆるシーンで顔認証できる仕組みを作ろうとしています。

例えば、1日の生活で、朝起きてマンションから出るとき、仕事に行くためにバスやタクシーに乗るとき、コンビニでお昼ご飯を買うとき、自動販売機でジュースを買うとき、鍵やお金や交通系ICカードが必要です。これら全てが顔認証だけで終われば、鍵もお金もカードも持つ必要がなく、とても利便性が良くなると思うんですよね。忘れ物はないか、スマートフォンの充電は大丈夫か、などの心配事も減り、心に余裕ができるはずです。

今後は、どれだけ多くのパートナーと連携できるかが課題だと考えています。タクシーやバス、コンビニ、自動販売機など様々なサービスを運営する企業と連携し、FreeiDを使ってもらえるパートナーさんを増やしていきたいです。人々が不要な持ち物を持たず、快適に生活できるような世界を実現したいですね。

今は、DXの領域で、人々の生活の中になかった利便性を生み出して、「0から1」を実現できればおもしろいな、と思っています。どこかの街の1キロ四方からでもいい、自分の周りから、世界を変えていきたいです。

2021.03.08

インタビュー・ライティング | 宮武 由佳
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