性被害・性犯罪の課題解決で日本の信頼を築く。 世界中の人々をエンパワーする価値を生み出す。

「世界で戦える人間になりたい」と精力的に活動される前田さん。数多くの海外経験を通して自身の過去と向き合ってきました。「日本の信頼を築いていきたい」と語る前田さんが、今後成し遂げたいこととは。お話を伺いました。

前田 瑞歩

まえだ みずほ|パナソニック株式会社
1996年、福岡県糟屋郡生まれ。2015年、関西学院大学国際学部に入学。在学中、計6回の国際プログラムに参加。2019年、パナソニック株式会社に入社。2020年7月より、大企業の若手中堅有志団体の実践コミュニテ ィ「ONE JAPAN」主催の大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」に参加。8月より、経済産業省主催の次世代イノベーター育成プログラム「始動Next Innovator」に参加。シリコンバレープログラム派遣メンバーに選抜される。

世界に出て感じた日本への信頼


福岡県糟屋郡で生まれ、幼稚園に入るとき、父親の仕事の関係で兵庫県姫路市へ引っ越しました。

物事が面白くなるよう、工夫して遊ぶことが多かったです。動物のぬいぐるみとおもちゃを組み合わせて物語を作ったり、ファンタジーの世界を絵に描いたり。友達と遊ぶときは、ボードゲームで独自のルールを作ったり、アニメのキャラクターになりきって鬼ごっこをしたり。新しいものを作るのが好きでした。

小学生になり、神戸市に引っ越しました。3年生の頃から、他人の目を気にして周りに合わせるようになり、目立った行動を取らなくなりましたね。しかし次第に窮屈さを感じ、新しい世界に飛び込みたいと思うようになりました。そこで中学校に入るとき、両親を説得し、生徒のチャレンジ精神を尊重してくれそうな私立の中高一貫校に入学したんです。

ところが、小学校の狭い社会しか知らないまま中学校に入ったからか、「空気が読めない」と言われ、1年生の終わり頃から友達からいやがらせを受けるようになりました。仲間はずれにされたり、無視をされたりするようになり、精神的にかなりきつかったです。

ただ、無人島でキャンプをするなど様々なイベントがあり、他の学校では得られなかった体験ができました。バトントワリング部に入り、コーチがいない中で自分たちで自由に演目を作っていくのも楽しかったですね。

高校1年生になった夏休み、イギリスへ3週間の語学留学へ行きました。幼稚園の頃から英会話教室に通っていて、自分の英語が伝わるか興味があったんです。

世界中の高校生が集まって、一緒に英語の授業を受けたり、交流をしたりしました。海外の学生は、英語を第二言語として自由に操り、自分の個性を積極的に表現していました。しかし私は、そんな学生たちに尻込みしてしまい、人見知りをして思うように喋れなくなっていったんです。

日本では、学校のテストで常に高得点を取っていて、語学力には自信がありました。それなのに、ただただ周りに圧倒され続け、すごく悔しかったです。「井の中の蛙」状態になっていたことに気づき、世界で対等に戦える人間になりたい、と思うようになりました。

ある日、留学先の学校内を歩いていると、セルビア人の学生からいきなり話しかけられました。開口一番、「アイラブジャパン」と言われて。携帯電話の裏側に、浮世絵のシールを貼っているのを見せてくれて、会話が弾み親しくなれたんです。

日本人というだけで、関係が深まる。世界と繋がることができる。とても不思議な気持ちになりましたね。日本に対する高い評価や熱い信頼を感じました。この信頼を、次の世代にもずっと残していきたい。私も世界から信頼を集められるものを作りたい、と感じるようになりました。

海外での経験が学びに


海外経験をさらに積みたいと思い、春休みには1週間、アメリカのシアトルでの語学留学プログラムに参加しました。その中で、現地の高校生と一緒にクッキーを作る授業があったんです。レシピには知らない英単語がたくさん載っていて、協力して作っていくことで、英語を楽しく学べるきっかけになりましたね。料理と言語を同時に学べる仕組みになっていて、おもしろいと感じました。

その後、高校3年生の夏休みの課題でビジネスコンテストがあり、シアトルでの経験をもとにビジネスプランを練ったんです。料理教室でクッキングを楽しみながら言語を学べるサービスを考案し、最優秀賞を受賞しました。ビジネスモデルやお金について考えることには苦手意識がありましたが、自分で考えたアイデアを、白紙の状態から形にしていくことは楽しかったです。将来も、試行錯誤しながらアイデアを形にしていきたい、とぼんやり考えるようになりました。

留学経験を通して、日本が世界からどう見られているのか、世界の人に日本をもっと信頼してもらうためにはどうしたらいいのか、といったことに興味があったので、大学では、国際政治を専攻しました。

世界で戦える人間になるため、いろいろな国を訪れ、交流したり仕事をしたりして自分を鍛えたい。そう思い、積極的に国際プログラムに挑戦することにしたんです。

大学2年生の夏から3年生の春までは、アメリカのサンフランシスコへ交換留学に行きました。現地の大学で国際関係学を学びながら、日本人学生会の運営メンバーとして活動しました。メンバーは、日本からの留学生が3割、日本に興味のある現地学生が7割ほど。餅つきパーティーやバーベキューなど、交流イベントを毎月開催しました。

日本人学生会のメンバーは、私個人に対して、厚い信頼を寄せ、とても親しくしてくれました。悩みを真剣に聞いてくれたり、「自分のことを大切にしないとだめだよ」と向き合ってくれたり。私自身を受け入れてもらった感覚でしたね。

中学で仲間外れにされて以来、どこか自分を好きになれず、受け入れられずにいました。しかし、私のことをちゃんと見てくれる存在に出会えたことで、「自分は自分のままでいい」と、自己肯定感を高めることができたんです。

自分自身の過去に向き合う


大学3年生になると、40日間、内閣府が主催するプログラム「世界青年の船」に参加しました。世界11カ国から集まった青年およそ240人と、ディスカッションや文化交流をしながら、船上で共同生活します。

プログラムが始まる前に、参加者がセミナーを開催できる機会があると知り、自分に何かできるだろうか、と悩んでいました。一緒に参加する女の子たちと話していたとき、偶然、ジェンダーの問題に関心の高い人がいて。私は、中学生のときに知人から受けた性被害の経験を打ち明けたんです。

その経験は人に話すこともなく、これまで蓋をしていました。しかし話してみると、「その経験はきっと誰かの役に立つ。セミナーを開いてほしい」と背中を押してもらえたんですよね。

そこで、「世界の恋愛事情と性暴力」というテーマでセミナーを開きました。誰でも身近に考えやすい恋愛の話から始め、国によって、性に対しての価値観が全く違っていること、日本と海外の性教育の現状など、これまでの海外経験を含め話をしました。

セミナーには、何十人もの人が集まってくれました。終わったあと、参加者の女性が「勇気を出してあなた自身の経験を話してくれたことを誇りに思う」と言ってくれて。受け入れられたことを強く感じ、性被害・性犯罪の問題にもっと向き合い、アプローチしていこう、と心に決めました。

世界中に価値を届ける


就職活動では、「世界で日本の信頼を築く」という夢を実現できる会社を探していました。世界青年の船で様々な国の人との出会いがあり、特定の大陸や地域だけ、先進国だけ、というのではなく、世界中に価値を届けていきたいと思っていて。加えて、自分で考えたアイデアを形にする商品企画の仕事にも興味がありました。日本の力で世界中をエンパワーしていることと、デザインや企画の力で新しいものを作り出していることの二点から、パナソニックに入社を決めたんです。

何か新しいものを生み出したい。そう考え、新しいアイデアを考え発表する社外プログラムに挑戦しました。しかし、ユーザーの心に寄り添ったビジネスを作り出したいと思うのに、なかなかうまくいかなくて。思い通りの結果が出ず、力不足を実感しました。

知識を深めたいと思い、入社1年目の秋には、社内の有志が集う、新規事業の創出を促進するサークルに入りました。毎週一回、業務後に勉強会を開き、社会情勢の変化の背景を議論したり、本の輪読を行ったりするサークルです。

そこで勉強していたところ、サークルの先輩から、大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」を紹介してもらいました。詳しくお話を伺い、人脈を得ながら実践的に学び、形にしていくことができそうだと思い、参加を決めました。

世界中の性被害・性犯罪の課題解決を


人生をかけて取り組みたい課題は何だろうか。CHANGEでは、自分の経験を振り返り、性被害・性犯罪の課題解決をテーマに新規事業案を練ることにしました。

まず、実際に性被害を受けた、世界各国の男女およそ60人にヒアリングを行いました。SNSで呼びかけたり、世界青年の船で出会った人に紹介してもらったりして、一人ひとりに直接お願いをしていきました。性被害という重いテーマにも関わらず、受けてくれた人はとても真剣に話をしてくれましたね。

ヒアリングを続けていく中で、加害者目線が欠落していると感じました。性被害を無くすための解決策をどれだけ考えても、本当に有効か分からなくて。専門家に聞いたとしても、当事者ではありません。私が他の人より何か一つでも多くできることがあるとするならば、私自身の加害者に直接話を聞けることだと思いました。もし報復に繋がったら怖いけれど、まだ私には勇気が出せる。何か得られるものがあるかもしれないと思い、思い切って話を聞くことにしたんです。

「どうして自分を狙ったのか」「どうして何度もやろうと思ったか」などの質問をぶつけました。自分では考えられないような答えが返ってくることもありましたが、一つひとつ丁寧に話してくれて。加害者からの被害者の見え方、目の付け所、気にしている点などを知り、解決策を多角的に考えることができました。加害者になってしまう人の物事の見方や心情を知り、客観的に振り返ってみて腹落ちする感覚もありましたね。

許せない気持ちはもちろんあります。ただ、事業プランにプラスになっただけではなく、これまで目を背けてきた過去の経験に向き合い、心の中でモヤモヤしていたことを解消できました。加害者自身も、犯した罪を謝りたいと思うけれど、容易に近づけない、通報されたらどうしよう、と悩んでいたことも知りましたね。

ヒアリングでは、性被害の課題をさまざまな角度から見ることができました。話を聞いていく中で、証拠を残せないことが一番大きな課題だと感じました。何も証拠が残らないから、誰かに助けを求めても相手にしてもらえない、警察に行っても被害届を受け取ってもらえない。だから被害者が適切なサポートを受けられない。犯人は捕まらないままで、怖い思いをしている人がたくさんいました。

被害に遭われた方の大半は恐怖で動けないので、スマートフォンで証拠写真を残すことはできません。これをテクノロジーを使って解決できるのではないかと思い、「歩行者版ドライブレコーダー」を考案しました。小型カメラを体につけておき、自動で撮影。動画は個人の顔が分からないようマスキング処理をしておき、有事があり警察に届け出を行う際には処理を外すことができるという仕組みです。

きちんと通報できるようにすることで、犯人が捕まって再犯を食い止められます。ただ自衛のためというよりも、証拠を残せるようにすることで、そもそも手を出しづらい状況を作り、性被害に苦しむ人がいなくなる社会にすることが大事だと考えました。

このアイデアで、CHANGEプログラムに参加した約100チームの新規事業案のうち上位5チームに選ばれ、最終ピッチに登壇しました。事業プランは、パナソニックの技術やリソースを使わなければ形にできません。将来的に社内で事業化させたいと考えていた中で、社内の新規事業関連の部署の方にお声がけいただけました。フィードバックをいただく機会をもらい、ブラッシュアップさせています。

世界中をエンパワーする


現在は、パナソニック株式会社の社内カンパニーであるアプライアンス社で、海外向けの冷蔵庫や洗濯機のマーケティング部門に所属しています。世界で販売されるパナソニック製品の販売情報を集約し、マーケティング活動に生かします。

パナソニックには、日本が誇る技術があり、世界中に価値を届けていく力があります。日本の力の結晶である家電製品を世界中に届けることで、誰かの役に立っていることを感じますね。家電製品によって家事をする時間を短縮することで、働きに出たり、子どもと一緒に過ごせる時間が増えたり、自分の時間を持てたりする人が増えるはず。家電を通して個人をエンパワーできればと考えています。

本業とは別に、歩行者版ドライブレコーダーの事業化にも取り組んでいます。2020年8月には、経済産業省主催の次世代イノベーター育成プログラムに参加。事業プランをさらにブラッシュアップさせ、12月に行われた最終発表会では100人中上位20位に入り、シリコンバレープログラム派遣メンバーに選抜されました。現地の大学やスタートアップ、アクセラレーターなどとの対話を通して、事業をさらにグローバルなものへと高めていきます。

今後は、国によって違う法規制や文化、プライバシーの問題などを乗り越え、世界中で使えるようにしていきたいと考えています。まずは、日本の技術を使って性被害・性犯罪の問題を持続可能な形で解決することで、世界からの日本の評価を上げ、日本の信頼を築いていきたいですね。世界中の人が生き生きと、夢を持って生きられるためのものやサービスを生み出していきたいです。

2021.01.18

インタビュー・ライティング | 宮武 由佳
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