評価される場所は必ずある。 組織を編集し、一人ひとりが咲ける職場へ。

株式会社ユーザベースで、オウンドメディアの編集を中心に社内コミュニケーションに取り組む筒井さん。社員の「採用」だけではなく「定着」が大事だと語る背景には、あらゆる職種を渡り歩く中で、固まっていった考えがありました。筒井さんが転職を重ねて気づいたこととは。お話を伺いました。

筒井 智子

つつい ともこ|株式会社ユーザベース ブランディングチーム カルチャーエディター
東京都小金井市生まれ。大学卒業後、SIer、キャリアカウンセラー、BtoBマーケターなど様々な職種を経験。2017年フリーライターとして独立し、2019年6月から株式会社ユーザベースのコーポレート部門にジョイン。

文学少女、場づくりにハマる


東京都小金井市に生まれました。一人っ子で、いとこの家によく遊びに行っていました。本が大好きで、遊びに行ってもいとことは遊ばず、ずっとその家の本を読み漁ってましたね(笑)。わからない漢字が出てくると、家事をしている叔母にずっとついて回って、「この漢字なんて読むの?どういう意味?」と聞いていました。誕生日には漢和辞典を買い与えられることになりました。

小学校に入ると、さらに読書熱が高まり、学校の図書館、近所の市立図書館の分室にある小説を次々に読破していきました。本のジャンルの中では物語が特に好きで、低学年のころはいつも主人公に感情移入しながら読んでいましたね。主人公になりきっているので、脇役がちょっかいを出してくると腹が立ちました。高学年になるにつれ、「どうしてひどいことをするんだろう」と脇役の気持ちにも思いを巡らせるようになりましたね。物語の世界に浸り続け、卒業時には学校の図書館の蔵書はほとんど読破していました。

中学は地元の公立校に進み、吹奏楽部に入りました。担当は金管楽器のトロンボーン。基本的にメロディー以外のパートを担当するので、1人で練習しても曲全体における自分の役割がよくわかりません。だから個人練習の後、初めてみんなで合わせたときに、きれいなハーモニーを奏でられた瞬間がすごく気持ちよかったですね。合奏を通して、みんなで1つのものを作り上げる楽しさを知りました。

高校でも吹奏楽に熱中し、勉強はほとんどしませんでした。大学は行ける選択肢の中で、一番近い学校を選び、ダンスサークルに入りました。踊るのは好きでしたが、周りの子と比べると、ダンス自体の上達よりも、振り付けやフォーメーションを考えるほうがずっと楽しかったです。舞台づくりにも興味を持ち、演出、集客、スポンサー集めなどに奔走していました。舞台の製作総指揮を務め、メンバーを取りまとめて、良い「場をつくる」のがすごく好きでした。

仕事は辛くて当たり前


学生生活をダンスに捧げたため、周りに比べて就活を始めるのが遅かったです。就職氷河期で会社を選んでいる余裕がなかったので、仕事内容をよく確認せずに、面接で会話が盛り上がった大手生命保険会社の情報システム子会社に就職しました。

配属先は金融機関のIT業務のコンサルティングチームで、1年目からクライアント先に駐在したり、地方銀行をひたすら回ったりする日々。出張が続くので体力的にしんどかったですが、他に比較対象がなかったので「仕事ってこういうものだ」と思って働いていました。入社1年目の終わりにブログを始め、仕事の愚痴を書いて激務で溜まったストレスを発散しました。

しかし仕事量は増える一方で、体力的にしんどくて入社3年目に、さすがに耐えられなくなってきました。加えてシステムコンサルタントの仕事は、できて当たり前と思われがちで、人の役に立てた実感も得られにくかったんです。せっかく働くなら、もっと人から「ありがとう」と言ってもらえる仕事がしたい。そう思い、転職先を探し始めました。

とりあえず転職エージェントに行ってみると、髪はちゃんと巻いているし、きれいなネイルもした女性のキャリアカウンセラーが現れたんです。その転職エージェントはすごく忙しい会社のイメージでしたし、私自身も多忙なのが当たり前だと思っていたので、その女性の生き生きと働く姿にとても驚きました。

まず現職の状況を説明したところ、「そのような環境で働いていたのなら、どの会社に転職しても幸せに働けますよ」と言われました。客観的に指摘されて初めて、自分が割と過酷な環境で働いていたと気づいたんです(笑)。

相談を重ねていくうちに、「筒井さんのキャラクターはうちに合っているから、興味があったら選考を受けてみませんか」と提案されました。カウンセラーの方と話していてすごく楽しかったので、うれしかったですね。また、初めての転職で不安だったことに、一つひとつ丁寧に答えてくれたので、カウンセラーの方には感謝の気持ちでいっぱいです。キャリアカウンセラーになれば、今自分が恩を感じているように、人から感謝される仕事ができると思い、転職エージェントに入社を決めました。

好きな仕事を見つけ、変わった仕事観


入社後の研修を経て、キャリアカウンセラーとして働き始めました。歌舞伎町のホストからプロスポーツ選手、会社員に戻りたい社長など、様々なバックグラウンドを持つ転職希望者を、常時100人前後受け持ちました。転職理由を聞くと、みんな最初は「キャリアアップしたい」とポジティブな理由を答えるんです。しかし話を掘り下げていくと、転職理由の核にあるのは職場の人間関係の悩みがほとんど。その悩みの種類は人それぞれで、いろいろな考え方、感じ方があるんだと視野が開ける感覚でした。

自社は、役員ですらあだ名で呼び合うほどフラットで親しみやすい雰囲気があって、すごく居心地が良かったですね。ミーティング中も役職を気にせず議論に参加でき、目的がはっきりした質の高い議論を経て、仕事がどんどん前に進んでいく感覚が好きでした。

仕事にやりがいを感じられ、人間関係も良好。働いているうちに、大変だと思っていた仕事のイメージがポジティブに変わっていったんです。

そんな中、リーマンショックが起きました。転職希望者は一気に増えていきましたが、転職先は一向に決まりません。転職を成功させて「ありがとう」と言われるのがモチベーションだったので、力になれず苦しかったですね。景気の影響を受けずにキャリアカウンセラーを続けられないかと思い、転職先を探しました。医療業界は不景気でも採用が減らない業界だと考え、医療系の人材紹介会社に決めました。

ブログを活かし、ネットワークを広げる


業界が絞られても、仕事はほとんど同じなのですぐに適応でき、時間に余裕ができました。前職で忙しかったときにビジネス書に救われた経験があって、著者に会ってお礼が言いたいと思い、空いた時間を使って著者が登壇するセミナーやイベントに顔を出すようになりました。

一参加者のままでも良かったのですが、もっと詳しく話を聞いてみたい。でも医療系人材会社という一般企業と接点の少ない業界にいる自分では、なかなか興味を持ってもらえなさそう…。そんなことを考えているとき、社会人1年目から続けてきたブログが使えるのではと思いつきました。著者の本を読み書評をブログに載せ、セミナーに参加した後は参加レポートをすぐ記事にする。それをコツコツ繰り返していたところ、徐々にTwitterなどでも著者の方とやり取りさせていただけるようになり、個別にお会いする機会もいただけるようになりました。

そんな中、ブログを読んでいた元同僚に文章力を買われ、BtoBマーケティングツールを展開している企業のコンテンツマーケティング担当として、「うちの会社に来ない?」と誘いがありました。未経験の業種・職種ではありましたが、有益なコンテンツで顧客を惹きつけ、商品購入や問い合わせにつなげるコンテンツマーケティングには興味があったので、チャレンジしてみようと転職を決めました。

評価される場所は必ずある


新しい会社での仕事は、BtoBマーケティング全般。イベントを開催したりプロダクトを紹介するコンテンツを作ったりして、会社やサービスの認知を獲得していきます。イベントのレポートも導入事例記事も、ライティング力が問われる仕事です。ブログ以外にも社外でライティングの経験を積みたいと思い、副業を申し出ましたが、「マーケターに専念してほしい」と言われ許可がおりませんでした。

マーケティングの知識を身に着け、一定の成果が出るようになってきたと自分では考えていましたが上司からは思ったほど評価してもらえませんでした。「もっとこうしたほうがいい」というアドバイスに従い、勉強して改善するのですが、また評価してもらえない。努力が実を結ばず、楽しく働けない日々が続きました。

ずっと会社にいると辛いので、転職も視野に入れてライター養成講座に通い始めました。

修了後は講座をきっかけに少しずつ仕事をもらえるようになりました。会社は副業禁止なので、報酬はランチをごちそうになったりするぐらいでしたが、ちゃんとお金をもらえば食べていけるかもしれないと思い始めました。

前職のときに築いたネットワークを活用し、いろいろな人に会社に残るべきか、フリーのライターとして独立すべきかを相談しました。ほとんどの人が「まだ独立してなかったの?」「え、会社員だったんだ?」という反応で、独立する気持ちの後押しをしてくれましたね。出版関係の友人の中には「フリーになるならたくさん仕事振るよ」と言ってくれる人もいて。年齢的にフリーランスになる不安は大きかったですが、そうした友人たちの後押しがあって、独立を決断しました。

フリーで仕事を始めて間もなく、ある会社からマーケティングに関する記事を依頼されました。取材から執筆まで一通り行った後、そのでき栄えを見たクライアントが記事を高く評価してくれました。前職の経験からマーケティングの専門的な知識を持っているので、取材で相手の話を深く理解できたからです。知識や能力は大きく変化していないのに、マーケターから、マーケティングを理解するライターという立場に変わった途端、ガラッと評価が変わったんです。評価される場所は必ずある。だから、自分に合わないと思ったら逃げていいんだ、この道を選んで良かったんだと強く実感しました。

また、キャリアカウンセラー時代に培った傾聴力も、取材にすごく活きました。キャリアカウンセラー、マーケター、ライターと全然違う職種を経験しているようで、キャリアはちゃんと積み上がって自分の糧になっていたんだと思いました。

仕事は順調でしたが、フリーランスだと確定申告などの事務作業が億劫で、一生続けるのはしんどいと感じていました。また、ライターの仕事は労働集約型なので、今後のキャリアを考えると、より効率良く働ける編集の仕事がしたいと思うように。ただ、編集経験がない中で、いきなりフリーで編集の仕事はもらえないはず。どうしたものかなと考えていたとき、ライターの仕事をいただいていた会社から、人事・採用系のコンテンツの編集担当として正社員のオファーを頂いたんです。

キャリアカウンセラーとしての経験や、自分が過去に社内環境で辛い思いをした経験から、採用や社内環境づくりにずっと興味がありました。検討した結果、本気でその分野に取り組むためには、フリーランスとしてではなく、一度会社に入って成功事例をつくるべきだと思ったので、再び会社員に戻ろうと決めました。

HRマーケティングで、社員の定着へ


現在は、オンライン経済メディアのNewsPicksや会社産業分析情報サービスのSPEEDAを運営する株式会社ユーザベースのコーポレート部門で、HRマーケティングを担当しています。

HRマーケティングとは、採用に始まり、入社から退職に至るまでの一連の流れにおいて、会社と個人がより良い関係性を築けるようにする手法です。マーケティングにおける、商品やサービスの提供者を会社、顧客を社員に置き換えるイメージですね。

マーケティングが一度商品やサービスを買ってもらったら終わりではなく、継続的な関係を築くのと同じで、会社も一度採用したら終わりではありません。採用できても頻繁に離職するようであれば結果的に採用コストはかさみますし、社員のモチベーションが落ちれば生産性が下がり、業績に響きますよね。採用した後、社員として「定着」し、高いモチベーションで働き続けてもらうことも重要なんです。

社員の採用や定着を図る施策の1つが、自社メディアの運営。成果を出した社員のインタビュー記事や、組織づくりに関する記事を載せて、会社のカルチャーや社員の雰囲気をありのままに伝えています。求職者に事前に記事を読んでもらえれば、カルチャーを理解した上で、選考にきてもらえるので、採用の効率化や、ミスマッチの軽減につながるんです。

もう1つがインナーブランディング。社内のカルチャーを「編集する」施策です。例えば、社内コミュニケーションを活性化させる研修などを行っています。社員同士がお互いのことを深く知り、社内のコミュニケーションの風通しが良くなるように設計していますね。社員の反応を見ながら、1人ひとりが気持ちよく働けるカルチャーに日々更新できるよう、社内イベントや飲み会にも積極的に参加するようにしています。だから肩書きは「カルチャーエディター」なんです。

今まで転職を繰り返してきた中で、馴染めない社内環境で我慢して働いた辛い日々もありました。そんな経験を経て思うのは、「置かれた場所で咲く必要はない」ということ。合わないと思ったら、逃げていいんです。誰しも必ず評価される場所はある。だからこそ誰もが自分が輝ける場所を見つけて欲しいと思います。

ただ、それが今所属する会社であるに越したことはないですよね。会社側は、そんな場所をつくるための努力が必要です。今後も社員1人ひとりが花咲けるような職場づくりを続け、成功事例を記事にして世の中に広めていきたいです。

2020.02.21

インタビュー・ライティング | 伊藤 祐己
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