世界一の生態系を作る!自分にとっての「不惑」は「ベンチャー」でした。

「世界一の米国に並ぶベンチャーの生態系を作りたい」と話し、独立系ベンチャーキャピタルを運営する磯崎さん。シンクタンクに公認会計士、新規事業にベンチャー経営と、様々な領域に触れながら、自身の使命を見いだした背景には、いったいどのような思いがあったのでしょうか?

磯崎 哲也

いそざき てつや|ベンチャーキャピタリスト
Femto Growth Capital LLP のゼネラルパートナーを務める。

Femto Startup/Femto Growth Capital
isologue(ブログ)
起業のファイナンス(著書)
起業のエクイティ・ファイナンス(著書)

度々訪れた「天の啓示」


理系の職業に就く親戚が多かったせいか、小中学生の頃から物理の本などを読むのが好きでした。

高校では理系クラスに所属し、お小遣いでも科学の本を買い、理系以外の道を考えたことはありませんでした。
核融合とか「ワープ航法」(笑)など、物理で人類のフェーズが変わるような貢献をしたいなと、考えていましたね。

ところが、ハンドボール部を3年の夏までやっていて、ろくに勉強していなかったら、
志望していた理系の学部には全部落ちてしまいまして、結局、合格したのは、
「英数国なので理系でも受験しやすい」と友達のお母さんに勧められた経済学科だけだったんです。

それまで経済学科に進むということは考えたこともなかったんですが、
よく考えてみると、世の中や経済がどう動いているかというのは、今まで考えたこともなかったな、と。
経済学というのは数学も使うのでなんか面白そうだし、
「これは『経済をやれ』という、天の啓示なんじゃないか」と思ったんです。(笑)

親から「浪人させる金は無い」と言われたこともあったので、私は経済学科に入学することに決めました。

いざ入学したわけですが、他の人は要領よく「優」が取れる楽勝科目ばかり取っていたのに、
私は、はりきって難しい科目ばかり取ったものだから、全出席していたにもかかわらず成績はさっぱりで。

全出席する気力も失せたので、2年生からはアルバイトにも注力することに切り替えまして、
建設現場から、大型コンピューターのプログラミングまで、色々なところで働きました。

そんな日々を過ごしながら大学4年になり、夏休みもバイト先のガソリンスタンドに入り浸っていたら、
秋に大学に行ってみると、もうみんな就職が決まっていたんです。

「え、だってまだ3月じゃないじゃん?」
という感じでした。就活の時期すら知らなかったんですよね。

これはヤバいと思って、人材会社から送られて来たリクルート用の資料を見ていたら、
ちょうど新卒一期生でコンサルタントや研究員を募集しているシンクタンクのチラシが目に止まり、
その会社を受けることに決めました。「シンクタンク」というものが存在するということも、その時初めて知りました。

結局そのまま内定をもらうことができたので、これも「天の啓示」だと思い、入社することに決めたんです。

公認会計士から新規事業、独立へ


新卒一期生として入社してみると、とにかく強烈な組織でした。
設立してから1年の会社で、色々なバックボーンの中途採用の人がぶつかり合って、
まるで動物園でいろんな野獣が吠えているような感じで。(笑)

これもたまたまですが、最初の頃についた上司が元監査法人の人で、
非常に優秀な方ではあったんですが、とにかくおっかない。
書いたものを持っていっても、くしゃくしゃに丸めて投げつけられて、ドヤされたりして、
「このままだと死ぬ」と本気で思いました。

その上司からは、「基礎がなっとらん!ビジネスの基本はすべて会計で説明がつくから、簿記2級でいいから取れ!」と言われたのですが、
簿記2級を取っても、この上司から見下されることには変わりないだろうなと。
なんとか見直されないとヤバいと思い、
「じゃあ公認会計士取って見せますよ」と啖呵を切って、働きながらTACという専門学校に通いまして、
なんとか1年ちょっとで合格することができました。


確かに、会計士の勉強をしたことで、すべての産業やビジネスを財務的な観点から体系的に頭の中で整理する基礎ができて、
仕事にも非常に役立ったと思います。

取り組む仕事は、その時代その時代の新規性のある事業分野に関わる携わることも多く、
90年代後半になると、インターネットが本格的に商業利用され始め、
「これは来る!」と、大きな可能性を感じるようになりました。

そんな折、「面白い人がいる」と知り合いに紹介されて、証券会社に勤める人に出会いました。
実際に話を聞いてみると、オンライン証券のシステムを考えているとのことだったのですが、
ちょうどその翌年の1999年7月には日本の金融ビッグバン、証券自由化がひかえていたので、
まだ世の中の人のほとんどはインターネットというものを知らないけど、
これはビジネスとしていけるんじゃないかと思うようになったんです。

そんな背景から、1998年の9月末、二人そろってそれぞれの会社を退職し、
一緒に事業を立ち上げることになりました。

生まれてから一番楽しい経験


独立して事業立ち上げに携わっての感想は、
「こんなに面白い世界があったのか!」
というものでした。
今までのコンサルタントとしての人生では、提案したことを採用するのは、あくまでクライアントで、
自分は「第三者」に過ぎなかったのが、自分が完全に当事者になるわけです。

単なる嘱託社員という立場でしたので、失敗したら路頭に迷うかも知れないという恐怖と、
事業が形になっていくワクワク感でアドレナリンが出て、まるでジェットコースターに振り回されているような感覚でした。

これは、生まれてから一番楽しい経験だと思いましたね。
この体験で、私は完全にベンチャーに目覚めてしまいました。

とはいえ、肝心の証券業は全くやったことがなかったので、本格的なオンライン証券の業務の詳細に入って行くと、
あまりお役に立てそうも無いなと思っていたところに、米国で盛り上がり始めていたインキュベーター(起業家支援)を、
日本で立ち上げないかという誘いをいただき、日本第一号社員として転職することに決めました。

そこで初めてベンチャー投資に触れ、グループのCFOも経験しましたが、2000年のネットバブル崩壊を受け、
当面IPOという感じでもなくなってしまったんです。

ベンチャーという「不惑」


気づけば40歳を目前としたタイミングでしたので、
その時、自分にとって「惑わずに取り組めること」は何なのだろうと、改めて考えてみたんですよね。

初心になって考えてみた時に思ったのは、やはり対象は「ベンチャー」で、その中でも自分の役目は、
「ファイナンス的な観点からベンチャーをサポートすること」なんじゃないかと考えて、独立して仕事を始めました。

その後、複数の上場も体験しまして、それなりに順調にやっていたんですが、
危機意識が生まれたのは、リーマンショックです。
日本のベンチャー界でも投資金額はどんどん減っていき、
「このままだと、日本のベンチャーは全滅してしまうんじゃないか」とまで思いました。

また、ベンチャーにアドバイスを行うのは非常にやりがいがある仕事なんですが、
開業した直後のベンチャーは、たいていはコンサルティング料を払うお金もありません。
米国でもY Combinatorや500 Startupsなど、再びインキュベーターブームが始まっていたので、
やはりベンチャーにお金を出資するほうがうまくいくんじゃないかと考えまして。

2012年1月からインターリンクといっしょに「フェムト・スタートアップLLP」という、
少額出資をしてアドバイスもするということをはじめ、2013年4月からは、
新生銀行グループの新生企業投資株式会社とジョイントベンチャーで「フェムトグロースキャピタル」という、
アーリーステージ以降の会社に1億円から3億円程度出資するファンドを組成することになりました。

「世界一の米国に並ぶ生態系」に


不惑の40代を経て、迎えた50代は「天命を知る」年齢です。
長い間色々な角度からベンチャーに携わって来て、今は、

「日本に、世界一の米国に並ぶベンチャーの生態系を作り上げる」

ことを手伝うのが自分に与えられた使命だと考えています。

日本のベンチャー環境は、米国から25年程度遅れていると思いますので、一朝一夕に米国の水準に追いつくわけはありません。
特に、ベンチャーというのは、他の金融業と違って「生態系」、すなわち経営者・投資家・専門家といった「人」への経験の蓄積と、
そうした人どうしのネットワークの形成が非常に重要です。
生態系は一日にして成らず、長い時間をかけて育てていかなければならないものです。

米国は経済の規模の日本より格段に大きいので、現在年間1千億円前後の日本のベンチャー投資が3兆円といった規模まで拡大するのは、
さすがにちょっと難しいと思いますが、GDP比も考えて、年間1兆円弱程度のベンチャーキャピタル投資が行われる環境を、
あと10年でぜひ整えたいと考えています。

2014.06.22

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