建設的なアプローチで、自然な生き方を目指す。 誰でも自己実現できる世界実現のために。

誰でも自己実現できる社会を実現するため、様々な会社の変革に取り組むピョートル・フェリクス・グジバチさん。幼少期に、共産主義の崩壊から資本主義の台頭を目の当たりにして感じた社会に対する違和感とは。なぜいま日本で挑戦を続けるのか。お話を伺いました。

ピョートル・フェリクス・グジバチ

ピョートル・フェリクス・グジバチ|組織開発コンサルタント
プロノイアグループ 株式会社とモティファイ株式会社の2社を経営する。プロノイアグループでは、国内外の様々な企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティングを行い、モティファイでは新しい働き方といい会社づくりを支援する。多国籍なメンバーやパートナーとともに、グローバルでサービスを展開。

主な書籍
『ニューエリート』
『0秒リーダーシップ』
『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法 』
予約受け付け中!3月発売『Google流 疲れない働き方 やる気が発動し続ける「休息」の取り方』

共産主義の崩壊に立ち会い、世界は白黒じゃないと知った


ポーランドのグルドノという人口50名程度の山村で生まれ育ちました。冷戦真っ只中で、ポーランドは共産主義国家でした。共産主義体制下での暮らしは、不自然だと思いましたね。例えば、テレビのチャンネルは一つしかなく、国が伝えたいニュースが一方的に流れています。もちろん、コマーシャルは流れません。また、全員が平等なはずなのに、実際は警察や軍隊など支配者層はより良い条件で働いていて、一般の人は不満ばかりもらしていました。誰も国のことを信じていない、不自然な環境でした。

14歳の頃、体制が変わり、民主主義国家になりました。すると、それまで「良い」とされていたことが、ガラリと変わってしまいました。例えば、歴史の教科書に書かれていた1939年のポーランド侵攻。以前は、ドイツに侵略された後「ソ連が助けにきた」と書かれていましたが、新しい教科書では「ソ連も攻撃した」と、真逆の内容に変わっていたんです。

「これ何の話?前の教科書と違うんだよ」と両親に尋ねると、「これが真実だよ」と言われました。「なんで教えてくれなかったの?」と聞くと、「言っちゃダメだったから」と。また、私の祖父は戦争で足を撃たれて負傷していたのですが、祖父を撃ったのはドイツではなくソ連の人だと、その時初めて知りました。

世の中には、両親さえ教えてくれない事実がある。社会を無条件に信じることは危険だと学びました。

それは、共産主義に限ったことではありませんでした。体制変更後、ポーランドは資本主義化が急激に進み、公営だった地域の会社には外国の資本が入り、効率化の名のもとに人員削減や事業撤退が続きました。

田舎町で一つの会社がなくなることは、そこで暮らす人にとって、とても大きな影響があります。私のふたりの兄も、職を失いました。

資本家は自分たちの利益を最大化するために、本当のことだけを言ってるわけではない。資本主義だからといって必ずしも人が幸せになるわけではない。共産主義から資本主義への変化を体験して、世界は「白黒」とはっきりと割り切れるものではないと気づきました。

共産主義も資本主義も、どちらも完璧ではない。体制が人を幸せにできるわけではないし、どちらかを盲目的に信じることは危ない。誰かが良いことをしようとしていても、その裏に、隠そうとしている事実や、当人すら気づかない間違いや固定観念があるかもしれない。何が正しくて、何が嘘なのか、自分で考え建設的に疑う大切さを学びました。

共産主義も資本主義も信じられなくて、社会と戦うという気持ちが強かったですね。高校生の頃にはパンクロックにのめり込み、アナーキストになりました。ただ、攻撃的で非建設的な行動をしても意味がないことは分かっていました。

社会全体を見て自分の力でどこを変えられるか見極め、ある意味でゲリラのように、そこにしっかり集中していくという考え方が身につきましたね。

個人や組織の認識を変えるサポートがしたい


中学卒業後は、職業学校に行って働くのが一般的な中、私は勉強が好きだったので、高校に行きました。世界の国や暮らしへの興味から語学に夢中になり、同級生より何倍も勉強しました。

ところが、不況のあおりを受け、父が病気で仕事を辞めたことも重なり、学校に通い続けることができなくなりました。それで、高校を中退して、ドイツの会社で働き始めました。ポーランドの経済状況はひどく、インフレが進み、失業率も跳ね上がっていたので、ポーランドには二度と戻らないだろうと考えていました。

ただ、翌年、病気になった母のお見舞いのためにポーランドに行ったときに、母に「おまえ勉強好きだったね」と言われて、ポーランドに戻ることにしました。楽しく働いていたのですが、本当は勉強したい気持ちがあったんです。周りの人ができないような大きなことをして、社会に影響を与えたい。そのためには、勉強は大切です。仕事をしてお金を稼げる自信がついたこともあって、ポーランドに戻って高校に入り直すことにしました。

高校卒業後、ポーランドの大学に進んでからも、長期休みはドイツや他の国で働きました。語学を専門的に学んでいたので、通訳や翻訳の仕事をしていました。

大学では、語学の他にも心理学やジャーナリズムやコミュニケーション、マーケティングやビジネスなど、興味のあることをひたすら勉強しました。先生と交渉して授業に出ない形での研究も許してもらい、最大で3つの大学・大学院に並行で通いました。

勉強と仕事を続けながら、将来は、情報発信を通して「人の認識を変えたい」と考えるようになっていました。私の兄は、失業して自暴自棄になり、アルコール中毒になってしまいました。人生には意味がないと考えていたんですね。私は逆に、世界が変わって新しい波が来るなら、その波にうまく乗るためにはどんな立ち方をすれば良いのか考えていました。そういう少しの違いで人生や幸せは大きく変わるものだから、人の認識を変えるようなことがしたかった。

でも、兄の心をいかに動かせばいいかわからず、私はすぐに感情的になってしまっていました。ある時、「死ね」と言ってしまったこともあります。すると、兄のアルコール依存症は深刻化し、本当に死んでしまいました。

自分自身の行動に深く傷つきましたし、言葉には魔法のような力があると思いました。どんな言葉を使い、どんな風に人と接するかは、その先に起こることとも関連がある。そんな出来事から、言葉や言語学への興味はますます深まりました。

感情を建設的にコントロールして、他者の成長を支えるサポートがしたい。そのために、教育の現場や、会社の広報を担いたい。そんなことを考えていました。

異文化研究のため日本へ


大学で学ぶ中で、次第に異文化の研究に興味を持ちました。企業のグローバル化が進み、様々な場所で異文化問題が発生し始めたことで、異文化研究が盛んに行われるようになったんです。

しかし、私はヨーロッパから出たことがなかったので、異文化理論をどう使えばいいのかイメージできませんでした。極端に違う文化を持つ日本に行きたい。そう考え始めた矢先、たまたま日本の文部科学省が研究者を募集している広告を見つけ、日本に行くことが決まりました。日本への留学までに1年ほど時間があったので、その前に資本主義の最も盛んな国を知ろうと考え、アメリカで1年ほど暮らしてから日本に行きました。

日本では、ヨーロッパの会社との情報発信の違い、つまり広報の違いを比較しようと考えていました。しかし、私が入った研究室の先生の専門は社会学で、企業との繋がりが全くありませんでした。個人がいきなり企業に話を聞きたいと言っても、なかなか受け入れてもらえません。初日から途方に暮れてしまいました。

どうすれば文化の違いを研究できるのか。考えた末、「ブランドと消費行動」を研究することにしました。ブランド商品が日本社会で注目されていましたし、消費行動の研究であれば、企業に入り込まなくても道行く人に声をかければ研究できます。それで、ユーザーインタビューをしたり、雑誌を読んだりするために、日本語を必死で勉強しましたね。

1年半ほどして研究が終わる頃には、日本の文化をだいぶ学べました。そのまま博士課程に進んで研究を続ける道もあったのですが、私は日本の小さな広告会社に入ることにしました。元々、日本の会社のことを知りたかったのに、研究では会社のことはほとんど分かりませんでしたし、アカデミックな世界に進んだら、会社との距離はますます遠くなってしまうと考えたんです。

ところが、入社3ヶ月で会社が潰れました。帰国する道もありましたが、まだ日本で知りたいことがありましたし、中途半端で終わらせたくなかったので、日本で働き続ける道を探しました。

会社の不自然さをなくして、世の中にいい影響を与える


それまで培った「語学」と「異文化」のスキルをいかせる会社を探したところ、語学学校を運営するグローバル企業での仕事が見つかりました。アメリカで進んでいた異文化間コミュニケーションのコンサルティングと教育を行う部門を日本でも立ち上げる、という仕事でした。

アメリカ法人では、外部のコンサルタントと一緒にプログラム開発を行っていたので、日本法人でも同じように進めました。しかし、アメリカと同じやり方を日本に持ち込むには限界があり、本社を説得して、社内でコンサルタントを育成することにしました。それで、社内でコンサルティング部門を立ち上げた後も、社内教育やリーダー育成プログラムをやるようになりました

その会社で4年ほど働いた後、アメリカ資本の金融機関で5年働き、その後、グーグルにヘッドハンティングされました。どちらの会社でも、人材、組織開発の責任者を任され、タレントマネジメントやリーダーシップ開発、イノベーション人材の育成などに携わりました。

私が意識していたのは、メンバー間の心理的安全性を担保して、会社の中で自然な関係をつくることです。私から見ると、ほとんどの会社は不自然な環境で、不自然な話し方、不自然な関係性で動いてるんですよね。人間に人事制度をあてはめて、この年齢だからこの仕事をするとか。それって自然な生き方ではないですよね。そもそも、会社は個人の夢や目標を実現する場所なので、会社のために個人が犠牲になることが不自然なんです。

それに、不自然な環境は、必ず問題を引き起こします。私の人材・組織開発では、人に良い影響を与えるような言葉を使ったり、複雑な関係を解消してなんでも言い合える状況を作ったりして、より建設的な関係を作るようにしました。次第に、会社組織を変えることが、世の中に一番大きな影響を与えることができるのだと感じるようになりましたね。

自分がやりたいと思うことに100%時間を使うためには、自分で会社を経営するのが一番。そう考えて、4年勤めた会社をやめて、独立することにしました。

社会に一番影響を与えられる場所で命を使う


現在は、ふたつの会社の経営を通して、人が能力を発揮できる組織づくりのお手伝いをしています。

組織から不自然さを取り除くことや、人が嘘をつかなくても良い環境づくりを大切にしています。嘘をつくと、関係が複雑になり、信頼関係が失われて、建設的な会話ができなくなります。共産主義体制下のポーランドの社会がまさにそんな状況でしたが、それがチームや会社で起こると大変なことになります。そうならないための組織づくりが大切なんですね。

また、会社を変革することで、「誰でも自己実現できる世界」を実現できると考えています。私がやりたいことの本質はそこにあるんです。

自己実現するために、まずは「自己表現」できることが大切です。心理的に安全な場所で、自分がやりたいことを素直に表現してもらう。表現すると、自分のどんな部分が他者の役に立つか見えてきます。自分が表現したことで他者に貢献した瞬間こそが、自己実現の瞬間ではないかと思います。

そして、自己実現できる人こそが次世代のエリート「ニューエリート」ではないかと考えています。肩書や偏差値ではなく、自分の得意なことで社会に役に立つ。そんな人を日本で増やすことが、今の私の力を使って社会に一番影響を与えられることではないかと考えています。

なぜ日本なのかと言われれば、日本の大企業は自分たちが思っているよりも世界に大きな影響力を持っているからです。日本では、たとえ会社が潰れたりクビになったりしても、あちこち仕事がありますが、世界を見れば、そうじゃない国がほとんどです。そういう国から日本企業の工場が撤退すれば、大げさな話ではなく何万人も仕事を失います。私はその大変さをポーランドで経験しているので、なんとしても防ぎたいと思っています。

影響力が大きいということは、逆に良い影響を与えられる可能性もあります。その影響力の大きさを、日本企業で働く人に実感してほしい。そんな思いを持って、クライアント企業の組織づくりや、書籍の執筆・講演などの情報発信を行っています。

今後は、情報を発信するだけでなく、一緒に実践する場も作りたいと考えています。情報発信をしていると「独立します」とか「勇気をもらえました」といった嬉しいメッセージをたくさんもらえるのですが、行動に移せる人はそう多くありません。私たちが主導して、学びと実践のどちらも満たせるコミュニティを作ろうとしています。

また、これまで大企業の組織づくりをお手伝いすることが多かったのですが、今後は中小企業やベンチャー企業の社長と一緒に、頑張れる企業を増やしたいと考えています。日本の雇用を支えているのは、中小企業。その世界に変革をもたらすことで、社会により大きな影響を与えられるのではないかと思います。

私の本質は、昔からあまり変わっていません。社会に一番大きな影響を与えるために、自分の力をどこに使うか。人生の分岐点を見極めて、ゲリラ的に動く。それだけです。

2018.03.05

インタビュー・編集 | 島田 龍男
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