「旅館っていい商売やな」と思えるようになっていた矢先、阪神大震災が起きました。被害の大きな地域に住んでいたので、家中の物が倒れて、家具なんかはみんな壊れてしまいました。それでも、周りでたくさんの方が亡くなる中で、私や小さな子どもたちはみんな無事でした。

その時、私はこの世に「残されたんだ」と思いました。せっかくこの世に残してもらった命。感謝を噛みしめて、何か世の中に返していかなあかん。一生懸命やらな、亡くなった方たちに申し訳ない、と感じたんです。

私にとって頑張る対象は旅館。この時から、自分の中で気持ちにスイッチが入った気がします。それまでは、田舎に住むことにも抵抗があったので、逃げたい気持ちが心のどこかにあったんですが、覚悟が決まったんです。商売では命をとられることはないですし。

また、震災でいろんなモノを失ったことで、モノはいつかなくなるということを実感しました。でも、それは別に大したことじゃないんですよ。それよりも「心に残るもの」や「思い出」の方がずっと大切で、そういうものを追い求めて生きたいと思うようになったんです。

旅館に本腰を入れて取り組むようになってすぐ、「旅館の神様」と言われる、旅館をプロデュースする先生と出会いました。最初はテレビ番組でその人の存在を知り、すごい人だなと思っていたところ、福島で開かれるセミナーに参加する機会を得たんです。しかも、その先生が話す時間はほとんどない予定だったのに、当日他の登壇者が体調不良になり、1時間以上も話を聞けました。

最前列に座っていた私は、セミナが終わる頃にはすっかり魅了されていました。何をしたら儲かるという手法ではなく、相手のことを思う心意気が大事。旅館をやってたらいろんな大変なことが起こるけど一生懸命にやっていたら必ず良くなる。そんな話を聞いて
「私も頑張ります!」という気持ちになったんです。

その後、その先生と二人で話す時間をいただき、旅館に見学にも来てもらい、その先生の会社に頼んで旅館を改装することにしました。自分の思いを込めた旅館にするためです。最初は反対していた父も、私が寝ても覚めても旅館のことを思うようになってくると、工事を許してくれました。