回り道をしてたどり着いた、憧れの宇宙。誰もやったことのない方法で世界に貢献する。

「宇宙広告」「宇宙ライブ」などのエンターテイメント利用から、「宇宙×地方創生」「宇宙×農業効率化」など人の役に立つ形での利用まで、様々な宇宙利用を提案する金田さん。宇宙に対する憧れを持ちながらも、映像制作会社で働いていた金田さんが、どういう経緯で宇宙事業に携わるようになったのか。お話を伺いました。

金田 政太

かねだ まさた|宇宙利用の可能性を広める
株式会社スペースエンターテイメントラボラトリーのCEOを務める。

「映像」と「宇宙」に魅了されたルーツ


東京都大田区で、大雪の降る日に生まれました。小さな頃から、他の人ができないことをしたり、見たことがないものを見せたりして、人を驚かせるのが好きでした。

中学生の頃、宇宙に興味を持ちました。中高一貫の男子校に通っていたからか、周りの友人は、電車やゲームなど何かしらのオタク。僕も何かのオタクにならなければと思い、宇宙を選びました。機械やロボットなどの人工的なものが好きで、その中で一番すごいのはロケットや宇宙科学だと思ったんです。

高校3年生の時に「H2Aロケット」の打ち上げ映像を見て、ますます宇宙に惹かれました。僕が見たインターネット中継では、カウントダウンの声やスタッフのやり取り、拍手や歓声まで、リアルタイムで入っていました。そこから伝わる臨場感や、「大人の本気感」に惚れ込みました。

ただ、将来は宇宙関係の仕事をするのではなく、映画監督になると決めていました。毎週のように映画館に通うほどの映画好きで、撮影スタッフに憧れていたんです。派手でカッコいいハリウッド映画を撮りたいと思っていました。高校卒業後は、映像を学べる大学に進学しました。

それでも、変わらず宇宙が好きだったので、大学1年生の時に、種子島までロケットの打ち上げを見に行きました。そこで見た打ち上げの様子は、映像で見るより何倍も迫力がありました。ロケットが上がっていく瞬間、言葉に表せないエネルギーを身体中で感じ、正直、その凄さを伝えるのは、映像では無理だと思いましたね。生で見なきゃ絶対に伝わらないと。

宇宙に魅了された瞬間でした。この時から、映像に加えて、宇宙も自分の軸となりました。

想定外の出来事から就職


大学生の時は、宇宙に関わる仕事をしようと、研究機関や重工業系の企業に入るべく就職活動をしました。ただ、どこからも採用されず、宇宙の仕事は狭き門だと感じましたね。

大卒での就職は諦め、映像をもう少し専門的に学ぼうと、大学院進学を決めました。CGを勉強して、ハリウッド映画のようなカッコいい宇宙の映像を作ろうと思っていましたね。

ところが、大学卒業間近、卒業制作の手伝いをお願いしていた友人が蒸発してしまったことをきっかけに、急展開を迎えます。僕も面識があった、友人がアルバイトしていた映像制作会社の人たちは、友人が蒸発したことで相当困っていました。お願いした卒業制作の忙しさが原因で友人が蒸発したのではないかという罪悪感が僕にはあり、友人の代わりに働くことにしました。

友人からは4月に戻ると連絡があり、4月まで手伝ったら会社は辞めて、大学院に通う予定でした。しかし、4月1日を迎えても友人は現れず、「戻ってくるまで」という約束で、引き続き会社で働きました。その後、友人は完全に音信不通になってしまい、二度と戻ってきませんでした。僕は大学院をやめて、仕事に専念することにしました。

想定外の進路に進むことになったものの、仕事自体は楽しんでいました。学校より仕事の方が学べることが多いと感じましたし、仕事でのチャレンジ全てが刺激的でした。その環境で働けることは、むしろ喜ばしいことでした。

ただ、仕事で作るのは、音楽や企業のプロモーションビデオ。撮りたかったハリウッド映画でも宇宙の映像でもなかったので、「この仕事を続けたいんだっけ?」と、葛藤はありました。それでも、いつか絶対に好きな映像を撮ろうと思い、ハードな映像制作の仕事を続けました。

イベントで誘われた宇宙に関わる仕事


働き始めて2年ほどで、テレビ番組制作会社に転職しました。テレビの仕事をすると、モデルと知り合えると噂を聞いたのがきっかけでした(笑)。

2年ほどでその会社が解散となり、フリーランスで映像制作を始めました。フリーランスになる前に、宇宙関係の仕事ができないかと思い、天文系の出版社などに連絡をしましたが、雇ってもらえませんでした。どうしたら宇宙に関わる仕事ができるのか、分かりませんでしたね。

フリーランスになって、仕事で忙しかった会社員時代とは違って時間を自由に使えるようになり、宇宙関係のイベントに足を運べるようになりました。イベントに通ううちに、イベントで出会った、月面探査プロジェクト「HAKUTO(ハクト)」代表の方に、プロジェクトの映像制作を手伝ってくれないかと誘われました。

「HAKUTO」は日本発の民間月面探査プロジェクトです。宇宙開発に挑戦する人たちを、映像でサポートできる。まさにやりたかった仕事。迷うことなく手伝うと決めました。

プロジェクトに関わり始めると、次第に、映像制作以外のことにも首を突っ込むようになりました。プロジェクトをどう打ち出していくか、ブランディング全体が気になり始めたんです。素人にもかかわらず、エンジニアリングにも口を出すようになり、終いには探査ユニットの組み立てまで手伝い始めました。

気がつくと、プロジェクトの中心メンバーになっていました。そして、プロジェクトを会社化する時に取締役に就任し、正式にフルタイムで働き始めました。

月面音楽ライブ計画


次第に、「探査」という真面目なことだけでなく、宇宙を使って面白いこともしたいと思い始めました。宇宙をエンターテイメントに利用するため、月面で音楽ライブを実現するための研究を始めました。

実際に人が月に降り立ってライブをするのは技術的に非常に難しい。そこで、月の上にスクリーンとプロジェクターを設置して月を背景にライブ映像を映写し、その全体を撮影することで、ライブ映像を表現しようと考えました。

そして、宇宙空間で撮影可能な映像ユニットを作成するため、数名の技術者とチームを組みました。技術的に人工衛星に近いということで、人工衛星の専門家が集まりました。初めは、彼らから人工衛星の話を聞いても、地味だと思うだけで、興味を持てませんでした。しかし、海外で人工衛星ビジネスが進んでいることや、人の役に立つ使い道があることを知るうちに、次第に人工衛星に魅了されていきました。

その頃になると、HAKUTOの仕事が落ち着いてきて、プロジェクトとして、僕の強みを活かせる段階を超えた感覚がありました。色々なことを同時に進めるのは苦手だったので、エンターテイメントのプロジェクトに集中するために、HAKUTOを辞め、人工衛星チームと一緒に株式会社スペースエンターテイメントラボラトリーを立ち上げました。

独立することに、不安はありませんでしたね。何とかなるだろう、と妙な自信がありましたし、夢に向かって走っている方が幸せだと感じていたので。

研究を進めるうちに、重さや大きさの関係で、月面での音楽ライブ用のプロジェクターもスクリーンも、宇宙に持っていくのは難しいと分かりました。そこで、光を半分透過して半分反射する「ハーフミラー」を使うことにしました。ハーフミラーを使えば、他に必要なものは、事前に作った映像を映す小型ディスプレイと、宇宙空間で撮影するカメラのみです。プロジェクターやスクリーンに比べ、重さや大きさを大きく減らせます。

ディスプレイに映したホログラム映像を、カメラに映るようにハーフミラーで反射させます。そうすれば、カメラからは、反射してくるディスプレイの映像と、透過して見える背景の宇宙を同時に映せます。

この技術を使って、自動車メーカーの「AUDI」の宇宙広告を作りました。「成層圏気球」と呼ばれる気球で成層圏まで映像ユニットを運び、そこで宇宙と地球を背景に映像を制作するプロジェクトでした。結果は大成功。宇宙とエンターテイメントの掛けあわせ方のひとつのカタチだと感じました。

農業の宇宙利用で夢に挑戦するためのインフラを


他にも、宇宙のエンターテイメント利用ということで、「宇宙総合格闘技」の研究など、様々なことを考えています。また、エンターテイメントに限らず、小型の人工衛星を始めとした宇宙技術を使う総合的なソリューションを企画しています。

例えば、宇宙×地方創生。群馬県桐生市は、過去に絹織物で栄えた街ですが、今は人口減少が著しい地域。ここに、宇宙用の衣類や部品を作る産業を作り、町興しをしようという企画です。

また、特に力を入れているのが、人工衛星の農業利用です。人工衛星は、センサーを用いて地球上のあらゆるものを観測してデータを送れるので、ある意味では、地球をまるごとインターネットにつなげる広大なIoTデバイスです。センサーを変えれば、写真だけでなく、人間の目では感知できない物質の状況も測れます。

このデバイスをどうビジネスに活かせるのか考えた時、答えは農業でした。地表の様々なデータを取れるなら、世界中の地表で一番多く行われている農業で使おうと考えました。

まずは、フィールドセンサーを地面に刺して地表のデータを取ります。どんな農業環境か調べるんです。さらに、人がどのような農作業を行ったかを記録します。加えて、人工衛星やドローンなどを使って、地表の作物状況を調べます。その相関を測れば、農業環境に対して、どんな農作業をすると、どのように作物ができるかをデータ化できます。そのデータを活用することで、農業を効率化できます。

これは、人工衛星の小型化が進んで、コストが安くなった今だからできることです。一般的な人工衛星では、1つの衛星が同じ場所を通るのは2週間に1回ほど。それだと間隔が空きすぎて必要なデータを取れませんでした。今なら、打ち上げコストが安いので、複数の人工衛星を使って、データを送る間隔を短くできるんです。

農業をデータ化、効率化することで、食料問題を解決できたらと思います。僕がこれまで好き勝手に夢を追いかけられた理由のひとつに、食に困らなかったことがあります。大変な時でも、ご飯は食べられたんです。逆に、食べるものに困っていたら、夢を追うどころではありませんから。そういう意味で、食料問題の解決とは、人が夢に挑戦するためのインフラ作りだと考えています。

これからも、宇宙に関わることなら、分野を問わず挑戦していきたいです。何をしても大抵の人がしたことがないことなので、驚いてもらえますから。

年を重ね、家族が増えたり減ったりするうちに、人の役に立ちたい気持ちも出てきました。楽しいことと人の役に立てること、その融合をしていきたいです。

もちろん、将来的には僕自身が宇宙に行くことも計画の一部ですよ。

2016.01.21

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