醸造科学科には、日本酒の蔵元の息子が何人もいました。彼らは、家を継ぐ気で来ているわけですから、「日本酒をもっと広めたい」とか「こういうお酒の味を伝えたい」とか、それぞれの信念を持っていました。

単純に「とりあえず家業を継ぐ」という気持ちではない、熱い想い。私も日本酒が大好きだったので、彼らと語り合ううちに、日本酒の良さをもっと伝えたい、と感化されていきました。

一方で、彼らに負けたくないとも感じていました。蔵元に生まれたわけではないけれど、日本酒を想う気持ちでは同じだと。そこで、将来は日本酒に関わる仕事をすると決めました。日本酒に対して何かしらの想いがあるなら、口先だけではなく動かなければ。卒業後は醸造に関わる仕事をするんだから、どうせなら日本酒に関わりたいと。

ただ、日本酒に関わりたいと言っても、販売職、製造職、研究職など、選択肢がある中で、どれかは決め切れませんでした。大学卒業時点では就職せず、大学院に進学して醸造に関してさらに深く学びながら、将来を考えることにしました。

最初は、研究職に惹かれていました。ただ、研究の結果が現場に活用されるまでには、長い時間がかかります。日本酒業界は低迷していたので、もっと早く、直接的に貢献できる仕事をしたいと感じるようになりました。

また、大学の仲間を見ていて、日本酒の造り手になりたいという思いが強くなりました。業界の中心にいるのは、やはり造り手。日本酒業界のことを思うなら、その中心で仕事がしたい。そうでなければ、同級生たちと対等に話せないだろうと。

自分で造ったお酒を飲んでみたい気持ちもありましたね。法律で禁止されているので、お酒を造るには酒造メーカーに入るしかありません。

そんな理由から、日本酒の造り手になろうと決めました。