価値観も生き方も1つだけではない。モデル兼定住旅行家として伝えたいこと。

モデルとして活躍される一方で、「定住旅行家」として世界中を旅して、旅先で出会った人々の価値観や生き方を発信されているERIKOさん。旅を通して様々な人の人生と向き合う彼女の想いとは?お話をお伺いしました。

ERIKO

えりこ|モデル・定住旅行家
モデル、定住旅行家。モデルの仕事をする一方で世界中を住まうように旅し、出会った人々の生き方や価値観をメディアや講演会を通して発信する。

とにかく逃げ出したかった高校生時代


鳥取県米子市で育ちました。近くに航空自衛隊美保基地があり、幼い頃から日々の生活の中で飛行機を目にすることが多く、風を切って空を飛ぶ飛行機とそれを操縦する人に対して、次第に憧れを抱くようになっていました。高校進学までの私の夢はパイロットになることでした。夢を叶えようと、中学卒業後に自衛官養成学校への進学を志したものの数学があまりにも苦手だったために挫折。たまたま合格した県立高校に、渋々進学することにしました。

高校に対するモチベーションはほとんどありませんでした。夏が非常に暑い地域だったのですが、港の近くに高校があったため港特有の磯の臭いがひどく、窓も中々開けられないような状態で、私は劣悪な環境に嫌気が差していました。高校の勉強に対してやりがいを見出せず、不登校気味でした。

高校時代に、通いつけの美容院からモデルの誘いを受けて、モデルとしての活動を始めました。高校は休みながらも通い続け、ショーや撮影に誘われた際にはモデルとして参加するといった生活を送っていました。

なんとなく時間ばかりが過ぎていくような高校生活を送っていましたが、地理の授業で先生が世界地図を広げてお話をしてくれた時のことです。私はとっさに「世界はきっと自分が思っているより広くて、スゴイ」と思い、今すぐ目の前にある現実から飛び出したい、と強く思いました。暑い鳥取よりも気温が低い場所に行きたいという理由で、イギリスに短期留学しました。さらにその翌年にはNYに短期留学しました。私の中には大学に行くという選択肢はもはや無くなっており、両親と相談して、大学進学をしない代わりに高校時代に留学を経験させてもらうという形でした。2回の留学で「この世の中には自分の知らない世界がたくさんある」ということを肌で感じました。

上京後ストレスに悩まされ入退院を繰り返す


大学進学はしないと決めていたので、続けていたモデルという職業で食べていくことを決意して、鳥取よりもモデルの需要が高い東京に上京しました。ゼロから新しく物事を始めるというより、すでに自分が持っている切り札の中で何とかしようという考えから出した決断でした。

しかし、上京したところでお仕事は簡単に手に入るわけでもなく、身寄りもいません。生まれも育ちも鳥取だったので、鳥取と東京のギャップも大きいものでした。一人で生計を立てていかなければならず、ストレスがどんどん溜まっていきました。ストレスのはけ口は見つからず、胃潰瘍で何度も入院しました。モデルの仕事を探しつつ、バイトでお金を稼ぎ、ストレスで体調を崩しては入院ということを繰り返していました。バイトはアパレルの販売員でしたが、カジュアルブランドからハイブランドまで色々経験しました。

そんな中、私の唯一の楽しみは海外に行くことでした。お金を貯めて、海外に行ってはしばらく滞在し、その土地の言語を学ぶこと、これが何よりも私にとって大好きなことで頑張る原動力となっていました。イタリアには、2ヶ月留学し、語学と一緒に美術史も学びました。現地で学ぶことはすべて自分が「好き」と感じられることで、何時間も没頭することが出来ました。日本では体調をよく崩していたのにも関わらず、留学中や帰国直後は不思議なことに全く体調を崩しませんでした。

視野が広がったアルゼンチン留学


その後、スペイン語を学ぶための留学を決意。当初はスペインのバルセロナに行きたいと思っていました。しかし、いざ留学斡旋会社に話を伺ってみると、締め切り直前にも関わらず留学費用が20万円足りません。どうしてもスペイン語留学をあきらめ切れず、斡旋会社の担当者が薦めてくれたアルゼンチンに行き先を変更しました。スペインを行き先に考えていたので、アルゼンチンがどんな国なのか、正直全く知りませんでした。

実際に行ってみると、思っていたよりも素敵な街並で、ヨーロッパに似通っている部分もありました。現地での生活を通して、物質面の貧しさを感じることも多くありましたが、一方で、現地に住む人々の心の温かさに触れることも少なくありませんでした。

アルゼンチンでは、街の中をバスで移動していたのですが、バスに乗るときに、乗客は1ペソを乗車の際に払わなければなりません。1ペソはコインで、2ペソより大きい額はお札になってしまい、バスでは受け取ってはくれず、乗車ができません。1ペソはバスを利用する際の必需品でした。

ある日、出先から帰宅するのにバスを使うにも関わらず、私は1ペソを持っていませんでした。2ペソ払うと伝えてもバスに乗せてもらうことが出来ません。周りも暗くなり始め、一人ではどうしようも出来ずに困り果て、不安や焦りも次第に大きくなっていきます。偶然近くにいた子連れの貧しそうな女性に、1ペソが無いか聞いてみました。彼女はごそごそとポケットから1ペソを取り出し、ニコっと大きな笑顔で私にそれを譲ってくれました。私が紙幣を渡そうとしたら、彼女はそれを断り、「その1ペソはあなたにもらわれるためのお金だったから」と言いました。何の見返りもなしに、全くの見ず知らずの人間に優しくすることが出来る、彼女の心の優しさに衝撃を受けました。同時に、社会的にある程度認められた地位を築くこと、お金を手に入れること、これが幸せに直結していると信じていた自分の価値観に疑問を覚えました。結局その日、私は彼女の1ペソで帰路につくことが出来ました。

アルゼンチン留学は3ヶ月で終わり、スペイン語を習得して帰国しました。3ヶ月間の間に、幾度と無く自分の今までの価値観を揺さぶられるような経験がありました。現地に住む人々の心の温かさ、価値観に感銘を受け、次第に自分の持つ価値観や考え方も変わっていきました。留学後、不思議なことに、ストレスで体調を崩すことは全くなくなりました。

旅先の人々の価値観と生き方を発信する使命


私は、モデルとして働く一方で、定住旅行家という肩書きを持っています。定住旅行家とは、旅先で現地の人たちと暮らすように滞在する人のことをいいます。今までの人生で様々な国と地域に訪れました。今では6か国語喋ることが出来ます。今後も、旅をしてそこに滞在することで、少しでも現地の人々の生活に溶け込み、彼らの価値観、生き方に向き合っていきたいと思っています。旅先では、その土地の言語を学ぶようにしています。言語は生きていて、そこに住んでいる人々の価値観や人生観、文化や歴史を反映するものです。だから、言語を学ぶことはその場所で生きている人々を知ることに直結していると、私は信じています。

旅先での私の経験を通じて、彼らの生き方を多くの人に知ってほしい。地道な作業であっても、彼らの生き方や考え方を発信し続けていきたいと思います。現在は講演会や、ブログ、書籍を通じて発信しています。人は皆、何かに悩むことがあると思います。悩んでいる人を見ていて思うのは、自分もそうですが、人は価値観や考え方が凝り固まりすぎている時に悩みやすいのではないか、ということです。だから、自分とは違った生き方をしている人、考え方を持っている人を知ること、それに触れることが悩みの解決に繋がるかもしれない。少しでも笑顔になる人が増えるかもしれない。そう思うのです。

よく周囲から自分のバイタリティーは何処から来ているのか、聞かれることがあるのですが、私はただ自分が好きなことに熱中しているだけです。周りから自分がどう見られるかということにあまり判断基準を置いていません。「好き」は何よりも人を突き動かす原動力だと私は信じています。日本で生活していると、目先の利益や効率性を重視し過ぎているように思います。確かに効率性を重視することが大切なときもある。しかし、それが全てではないと思うのです。その場ではどれほどの価値があるのか分からなくても、時間が経って価値の重さに気づくことがあるのです。効率性を重視すると、地道な作業も排除されがちですが、地道な作業をすること自体に価値があることもあります。結果に繋げるためのプロセスそのものが、目的になり得るということです。地道な作業をすることでストーリーが新たに生まれ、その人の人生経験を豊かにしてくれることもあるのです。

私は今後もモデルと定住旅行家の活動を続けていきます。一見それぞれが全く関係のない仕事にも見えますが、実はお互いにリンクし合っていることがよくあります。最近は、モデルであることに加えて、モデル以外の専門性や付加価値が必要とされる時代になってきました。私の場合、それが「定住旅行家」です。自分の経験や、世界ではどのような人が生きていて、どのような価値観が存在しているのかを発信するのには、労力も、お金も、時間もかかります。好きでやっていても、大変なこともあります。今でこそ、定住旅行する際に協力して下さる企業さんがいますが、スポンサーを探すのに今まで地道に営業活動をしてきました。今でも、自分の活動をより多くの人に知ってもらえるように、日々努力しています。大変なこともありますが、私は自分がやっていることは、自分の大切な命を使ってでもやる価値があると思っています。高校時代や上京してしばらくの頃は、なかなか生きがいも喜びも見出せず、悩んでいました。でも、そんな時期があったからこそ、この活動が少しでも多くの人のためになってほしいと強く思っています。


インタビュー:中田侑見

2016.01.11

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