本の世界で遊び回り、新たな挑戦を仕掛けたい。時代を超えて、出版文化のためにできること。

一人でも多くの方に本屋さんに足を運んでもらい、一冊でも多くの本を手にとってもらうため、「ほんをうえるプロジェクト」という活動を行う吉村さん。小さい頃から本が好きで、物書きを仕事にしたいと考えた学生時代。オンライン書店の立ち上げ、リアル店舗のイベントと、本の世界で様々な経験をしてきた吉村さんが考える新しい挑戦とは?お話を伺いました。

吉村 博光

よしむら ひろみつ|本の商品企画・レビュー・書店イベント企画等
株式会社トーハンの社内プロジェクト「ほんをうえるプロジェクト」にて、商品開発や異業種連携、書店イベントやレビュー作成などを行っている。

本好きの学生時代、そして出版取次会社に就職


長崎県長崎市に生まれました。小さい頃から親の仕事の関係で引っ越しを繰り返し、中学生になってからは東京で暮らし始めました。父が本好きで、「いつか小説を書いてやる」という口癖だったため、私も小さい頃から幅広く様々な本を読み、特に歴史小説や推理小説が好きでした。西村京太郎が好きなおじさん臭い子どもでしたね。高校の進路選択では迷わず文系に。ある授業で、様々な学問の根本を辿っていくと哲学や文学に行き着くことを習ってからは、文学部に進もうと考え、卒業後は早稲田大学の第二文学部に進学しました。

大学は夜間授業でした。日中は学費を稼ごうと出版社などでアルバイトを始めました。引越しの作業員や、焼肉屋の出前持ち、雑誌の編集アシスタントなど、様々な仕事を経験しました。中でも、雑誌の編集に携わるうちに、常に時代の変遷を感じながら働けることに魅力を感じ、「こういった環境で仕事をしたい」という思いが強くなっていきました。

就職活動の時期を迎えると、将来は物書きになりたいと考えていました。父の口癖に影響を受けてか、「書くことは素晴らしいことだ」という感覚がありました。部屋に籠って文章を書いている時に充実感を得ていたんです。アルバイトの経験から雑誌の編集に関心を持ち選考をうけてみるものの、結果は不採用に。周りの方から、「将来何かものを書きたいなら、大学卒業後はライターになれば?」というアドバイスをいただいたこともあり、就職せずにフリーランスになることを考えるようになりました。

そんな時、文学部の友人とキャッチボールをして遊んでいて進路の話になると、友人から「文学部は就職しない人も多いけど、お前はなんとなくちゃんと就職すると思っていたけどな・・・」と言われました。それを聞いて、なんだか、自分の中で就職活動を最後までやり通したいという気持ちを抱きました。既に大学4年の8月を迎えていましたが、すぐに就職課に向かい、就職活動の情報を再び集め始めたんです。そして、出版業界に「取次」という業種があることを知りました。大好きな本の世界で色々できそうな仕事だと思い、選考を経て株式会社トーハンへの入社を決めました。

オンライン書店の波、e-honの商材担当に


入社してからは、英語が得意だったこともあり、海外にある書店を担当する部署への配属になり、注文いただいた本を箱詰めして出荷するという業務に取り組みました。汗をかく肉体労働もありましたが、仕事は楽しく前向きでしたね。仕事の拠点自体は日本でしたが、海外への出張機会もあり、ヨーロッパの担当になってからはフランクフルトの国際図書展示会にブースを出展する担当も務めました。

展示会には、海外のオンライン書店がブースを出していました。国内では、海外の動きとして漸くそのニュースが出始めた時期。しかし、ブース展示をみると、明らかに日本市場も視野に入っている感じだったのです。この時にオンライン書店に関する当事者意識が高まり、今後、自社はどのように動くべきなのかと考えるようになりました。年齢的には、業務に関する基礎的な知識を身につけ、将来のことを考える時期でした。微力ながら、出版業界の変化を「読み手」にとってより良い方向に導くのに貢献したいという使命感を抱くようになりました。

すると、その展示会からの帰国後、ちょうど社内でオンライン書店を立ち上げる機運があり、たまたまそのメンバーに選んでいただいたんです。周りに関心があることは伝えていたものの、すぐに携われるとは思っていなかったので嬉しく感じました。

オンライン書店「e-hon」 の事業部では、商材担当として、主にオススメしたい本の選定等の業務に携わりました。商品知識をつけるため、毎日200点程の新刊を手にとってチェックしました。さらに、オススメする文章を自ら書く機会もあり、これまでやってきたことが生きる仕事だなと感じましたね。ジャンルの区切りなく様々な本に触れて、自らのオススメに対してお客様の反応が直接届き、非常に良い経験をすることができました。サイト自体順調に拡大していき、充実感がありましたね。

オンライン書店からリアル店舗へ


立ち上げ以来、オンライン書店e-honは順調に成長しました。ただ、キャンペーンを行って会員登録を促しても、なかなか商品の購入に結びつかないという課題が生まれました。そこで、他のサイトでは販売していない商品を扱ったり、書店でのリアルイベントを開催して、e-honのブランド価値を高めようと考えるようになりました。

書店でのリアルイベントを開催する中で、著者の方にトークとジャズの生演奏を行っていただいたイベントが、ものすごく上手くいきました。会場のガラスが曇るほどの熱気が生まれ、お客様だけでなく書店員の方まで感動するイベントとなり、その方ご自身の言葉でe-honをお薦めいただいたことで、単なる宣伝とは異なる発信や、参加者からの口コミも生まれていきました。それ以来、「こういう施策は必要だな」と感じるようになり、リアルの店舗にもっと出て行きたいと考えるようになりました。

ちょうどそんな時、新規プロジェクトへの社内公募がありました。そのプロジェクトは、商品開発や企画を従来の形にとらわれずに取り組めるもので、「それまでやってきたことの幅を広げられるのではないか」と感じ、参加してみたいと考えて応募を決めました。

社内選考を通過し、43歳のタイミングで、公募で集まった3名で「ほんをうえるプロジェクト」という取り組みを始めました。植物に水をあげて長時間かけて育てるように、一冊一冊の本をじっくり丁寧に売り伸ばしていこうという試みで、それまで行われていた狩猟民族的な仕掛け販売を、農耕文化的なアプローチでやっていこうという挑戦でした。

まずはできることから手を付けようと、既に出版されているものの、埋もれている本を発掘して売り伸ばして行こうと考えました。例えば、『イモムシハンドブック』という本は写真が綺麗な本で、夏になると良く売れるというデータがありました。そのデータに目をつけてからは、テレビの大道具の会社にオファーし、芋虫のオブジェを作ってもらい、店頭に飾ることを始めました。それを見て女性が立ち止まって本を手に取っていただけるようになり、出版社や書店から大好評となりました。

本の世界で遊び回る、これまでにない新しい挑戦を


現在は、「ほんをうえる」というコンセプトのもと、あえて活動範囲を規定せずに、「一冊でも多くの本を売りたい」「一人でも多くのお客様を書店様に呼び込みたい」という信念で活動しています。

活動は大きく分けて「仕掛け提案」・「商品開発・異業種連携」・「イベント・レビュー」の3つを行っており、私は後者の2つを専門に担当しています。具体的には、書店でのイベントを企画したり、テレビ埼玉の情報番組「ごごたま」の「本に恋して」というコーナーに出演して本を紹介したり、書評サイトHONZへのレビュー執筆を行ったりしています。

プロジェクトの発足当初から意識しているのが書店様の集客改善です。面白いイベントを開催したり、専売商品を企画開発したりすることで、お客様の来店を増やすことに繋げたいという思いがあります。そのためにも、出版社だけでなく異業種も巻き込んだ、世間から注目を集められるような、商品開発やイベント開発を考えています。

もちろん、従来型アプローチが重視する効率の大切さも知っています。ここ数年の取り組みを通じて、効率と創造は一つの行為の中に同居しにくいことを痛感していますが、一つ屋根の下(同じ会社の中)には同居できると思います。それは、組織の成長や存続のために重要な観点だと思っています。お客様や書店様が喜ぶことを見つけて、新しいことに幅広く挑戦していきたいですね。

個人的な話で言えば、HONZに書評を寄稿させていただくようになり、自分が書いた文章を多くの人に読んでもらえる、という嬉しい経験が続きました。ものを書く経験を続けてきて報われたような感覚がありましたね。最終的にはものを書いて世間に報われたいという思いがあるのだと思います。これからも、本の世界で遊び回りながら、新しいことを仕掛けて行きたいです。

2015.12.23

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