価値づくりとビジネスの両輪を回す。失敗はするものだから、とにかく挑戦を!

ビール好き女性のためのメディア&コミュニティ「ビール女子」、企業とコミュニティをつなぐマッチングサイト「ナヲナス」、高齢者とのくらしをテーマにしたWEBメディア&コミュニティ「ヨクラス」など、様々な事業を展開しつつ、新規事業も常に考えている八木さん。大手企業から起業するまでには、どんな出会いがあったのか。お話を伺いました。

八木 太亮

やぎ たいすけ|新しい価値づくり
ビール好き女性のためのメディア&コミュニティ「ビール女子」、企業とコミュニティをつなぐマッチングサイト「ナヲナス」、高齢者とのくらしをテーマにしたWEBメディア&コミュニティ「ヨクラス」など、様々な事業を展開する、株式会社京橋ファクトリーの代表取締役を務める。

生み出すことが好きだった


富士山の麓、静岡県富士市で母子家庭に生まれました。性格は、内向的で人見知り。アニメやテレビゲームが好きで手先の器用な子供でした。母親からは「ものづくりをする仕事が向いているよ」と言われて育ち、ブロックを買い与えられたり、プラモデルを自分で買って遊んでいたりしたこともあって、「つくること」が自然と好きになりましたね。学校でも図工が得意で、作ったものを母に見せて、工夫した点などを褒めてもらえるのが好きでした。

また、祖母からは「悪いことはするな」と言われて育ったので、小さい頃から「社会と正しく向き合おう」と意識していました。祖母の言葉の影響や、好きなロボット警察アニメが好きだったこともあって、高校卒業後は警察官になろうと考えていました。将来のイメージを持てないまま大学に行くことに、違和感もありましたし。

ところが、警察官の採用試験には落ちてしまい、結局大学へ進学することにしました。進学への強い動機はないものの、法学部で法律を学べば、また警察の試験を受けられると思っていましたね。

大学に入ってからは、生活費を稼ぐのに必死で、アルバイトばかりしていました。ただ、2年目を迎えると少し余裕が出てきて、「何かしなきゃ」と感じ始めました。アルバイト以外することがなく、なぜか分かりませんが、暇を持て余していることに焦っていましたね。

そこで、ギターを始め、友達とバンドを組みました。オリジナル曲を作るようになると、どんどん音楽にのめり込んでいきました。ギター一本で、ゼロから曲を創造できるのが好きでしたね。

大学卒業後は、コピー機やITソリューションの営業を行なう、リコージャパンに入社しました。社会に対して大義がある仕事をしたいと考える中で、「環境経営」を掲げ、CSRに力を入れていた社風に惹かれたんです。また、コピー機の「メカメカしさ」も好きでした。

「やっちゃっていいんだ」と思わせてくれる出会い


営業の仕事は、人見知りの僕にとっては最初は困難の連続でした。それでも、仕事が嫌ということはなく、一生懸命取り組み、人と接することへの苦手意識はだいぶなくなっていきました。

また、「仕事以外でも何かしたい」と漠然と考え、積極的に飲み会に参加して友達を作っていました。普段は人見知りでしたが、お酒を飲むと喋れるんですよね。特に、気軽に飲めるビールは、コミュニケーションツールとして非常に優秀だと感じていました。

社会人2年目には、「シブカサ」という、渋谷でビニール傘のシェアリングサービスを提供する団体と出会いました。環境問題に取り組むアイディアの展示会に行った時に、シブカサのブースに目を奪われ、声をかけたんです。クリエイティブな空気が漂っていて、他の団体とは違ったカッコよさがありました。

気づけば、「僕にできることはありますか?」と聞いていました。同じような年代で、会社に勤めながらサービスを運営しているメンバーに、圧倒的なエネルギーを感じ、その魅力的な姿に惹かれていたんです。また、単純に「雨」が好きだったので、傘を扱うサービス自体にも魅力を感じていました。何か運命めいたものを感じて、手伝いたいなと。

週末の時間を使って一緒に活動を始めると、彼らのパワフルさを、より強く実感しました。会社の仕事だったら、色々考えて尻込みしてしまうような「アグレッシブなこと」をどんどんやっていて、「ここまで勝手にやっていいんだ!」と思わせてくれるんです。しかも、みんな本業でも結果を出していました。自分と同じような境遇なのに、純粋に凄くて。みんなに追いつこうと必死でしたね。

仕事へのモヤモヤから起業を決意


一方で、シブカサの活動を始めてからは、仕事に対するモヤモヤを感じるようになりました。小さな頃から自分の中にあった「ものづくり」への想いが再燃してきて、会社の仕事とギャップを感じていたんです。シブカサの仲間たちが、会社を辞めて続々と起業したのも影響していました。みんなが起業できるなら自分にもできるはず、負けていられないと思っていました。

起業しようか、それとも会社の仕事を続けようかと色々考えをめぐらせ、最終的には、早く起業した方がいい、という結論にいたりました。事業を始めても、失敗する可能性は高い。それなら、例え失敗しても軌道修正が効く20代で勝負したほうが良い。それに、独立した方が成長幅が大きいとも感じていました。

そこで、3年半勤めた会社を退職して、事業内容は決めずに、とりあえず会社を作りました。ものづくりをしたいと思いつつ、こだわらずに色々試そうとも思っていましたね。起業して半年ほどは、事業のタネを探すための情報収集をし、アメリカにも行きました。

そして、大学時代のバンドメンバーが左利きだったことから発想を得て、左利き専用のギターショップを立ち上げることにしました。ECショップなら手軽に始められるし、楽器の単価は高いので収益が安定する。しかも、日本人の10人に1人は左利きと言われているのに対して、左利き用の楽器の供給は明らかにそれより少ないので、ニーズがある。そう考えたんです。

予想通り、WEBマーケティングの対策をほとんどしなくても、商品は勝手に売れました。ニーズや課題があれば、ニッチな分野でも戦えると学びました。ただ、売れると言っても、そこまでの数にはならなかったので、半年ほどで撤退しました。

その次は、外部のパートナーと一緒に、海外向けに「忍者」と「ノマド」を掛けて、当時増えていた「ノマドワーカー」向けの「忍者PCバッグ」の生産を行いました。念願のものづくり。バッグだけでなく、ブランドとして展開することを目論んでいました。しかし、海外のクラウドファンディングで1万ドル集めて1ロット目を作るまでは良かったのですが、生産体制やチームを作れず、プロジェクトは頓挫してしまいました。

価値を生み出し圧倒的に成長できる会社を


事業撤退はしても、毎回学びがあり、ノウハウが積み重なっている感覚がありました。ただ、ひとりでできることに限界を感じてもいました。大きな仕組みを作るなら、チームが必要。今のままでは、単に自分が好きなことをやっているだけで、社会に大きな価値を生み出せないかもしれないと、迷いがありました。

そんな時、ある経営者と出会いました。上場経験などもある方で、話すうちに価値観は私と近いと分かってきました。お互いに、「社会に新たな価値を生み出す」ことを大切にしていました。私がものづくりを好きなのは、新しい価値を生み出せるから。ちょうど、ものだけでなく「仕組み」や「文化」を作ることにも価値を感じ始めていた時でした。

そこで、その人にメンターになってもらい、株式会社京橋ファクトリーを立ち上げました。それまでと違い、自分の好きなことをするだけでなく、圧倒的に成長するビジネスを作ることを目標としました。大きなビジネスを作って、お金を儲けることはもちろん大切なのですが、それ以上にビジネスでの成功は、誰かの課題に応えて大きな価値を生み出していることの証明になります。圧倒的に成長する事業を作ることで、社会に圧倒的な価値を生み出したかったんです。

それからは、ものづくりにこだわらず、様々な領域で事業のタネを探しました。「失敗する確率が高いのが前提」なので、考えたことはとにかく試してみると決めていました。早くサービスを立ち上げて、どんなことが起こるかを見て、と細かく仮説検証していきました。

また、少し前からプライベートで友人たちと運営していた「ビール女子」というWEBサイトも、会社の事業にしました。元々は、大好きなビールメーカーと仕事をしたいと思って始めた趣味のサイトで、順調にアクセスが増えていました。ところが、趣味とはいえ、持ち出して時間やお金を消費しながら運営していると、次第にメンバーが疲弊して、続けられなくなるんですよね。ビール女子も継続する上での課題を感じて始めていました。

成長しているのに閉じてしまうのはもったいない。広告収入を得られる可能性も感じる。本格的に運営しようと決めて、元々運営していた仲間も会社に誘って現在の会社の事業にしました。実際に事業として運営してみると、これまで溜まっていた様々なノウハウを活かすことができ、数カ月後に収益化することができました。

価値を生み出してビジネスとしても回す


現在は、「ビール女子」を始め、コミュニティと企業のコラボレーションを生み出すマッチングサイト「ナヲナス」や、高齢者とのくらしをテーマにしたメディア&コミュニティ「ヨクラス」など、複数の事業を運営しています。新規事業を生み出す時間も、必ず作っています。失敗することもあるので、常に次の種まきをしているんです。

また、受託開発やコンサルティングなども並行しています。博打のようにひとつの事業に全てを注ぐのではなく、安定して挑戦し続けるための基盤作りでもあり、新規事業のノウハウ作りでもあります。WEBサイトの受託開発で知らない業界と関わることも、新たなサービスを生み出すために役に立つんです。

立ち上げるサービスの基準は、圧倒的に成長するビジネスかどうか。その根底には、世の中に大きな価値を生み出せるかの判断があります。課題があり、ニーズが存在するのか。加えて、ビジネスとして成立するのか。事業が継続して価値を生み出し続けるために経済性が大切なことは、過去に関わってきたプロジェクトを通じて痛いほど身に染みているので、価値創造とビジネスの両輪を回すことが私のテーマです。

価値を生み出せるなら、領域にはこだわっていません。例え興味を持っていなかった業界でも、その課題に対して、「自分たちのやる意味」を見つけられ、腑に落ちればいいんです。個人的には、生み出した価値に対して、反応があると嬉しいですね。ビール女子でも、自分たちが作ったコンテンツの反響を見るのは楽しみです。

私たちの会社は、「ファクトリー」なので、今後も様々な事業を生み出していきます。個人的にも、あと何回かは起業するんじゃないかと思っていますね。その根底にあるのは、「価値づくり」と「ビジネス」の両輪を回すこと。社会の課題を解決するため、新たな価値を生み出し続けていきます。

2015.12.21

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