実際に退職して一本に絞ってみると、なんだか運気が変わっていくような感覚がありました。メンバーや環境に恵まれ、自分の好きなことをやっていると人が集まってくるんだなという引力のようなものを感じましたね。

現在は、好きな時に好きな場所で流れ星を見ることができる、人工流れ星を作る「STAR-ALE」というプロジェクトを運営しています。具体的には、人工衛星の中に流れ星のもとになる粒を千個ほど詰め込み、衛星が一定の軌道で回転している間に、注文があった時に大気圏に放出します。時間や場所を正確に放出する仕組みづくりに注力しており、1粒の流れ星から沢山の流星群まで、上空70〜80キロで光り輝きます。

まずは一つの人工衛星でサービスを始める予定です。仕組み上、人工衛星の軌道に併せて注文を受けるため、どの場所をいつ通過するかは時刻表のように決まってしまいますが、衛星自体が複数になっていくことで、時間も場所も問わずに流れ星を見ることができる環境を目指しています。

利用者としては、最初は法人利用を想定しており、特に観光に注力している政府に、世界規模でヒアリングを行っています。当日の天候も重要な要素となるため、相性の良さそうな地域のプロモーション利用から提案していく予定です。また、炎色反応を生かして色も付けられるので、大規模なスポーツ大会やフェス等のイベントも相性が良いのではないかと考えています。

元々は、宇宙システム関連の専門家の方や、メカニック周りの専門家の方、流れ星専門の研究者の方等、技術チームから作っていき、現在は研究の実用化を進めつつ事業化も進めています。来年にはエンジニアリングモデル(試作機)を作り、2017年には1号機の打ち上げ、2018年にはサービス開始を目指しています。それからは2号機・3号機とどんどん数を増やしていければと考えています。

やはり、「4つも5つも続いている流れ星を見たい!」という純粋な好奇心が強いですし、大きなテーマとしては、天文学とビジネスを繋ぐことで、科学と社会を繋ぐことができればと考えているんです。

実は、人工で流れ星を作ることは理学的な意味も大きいんですよね。天然の流れ星についてもよくわかっていないことが多いため、物差しができることで研究の進展につながりますし、流れ星の発生元である小惑星帯の物質について分かると、今度は太陽系自体を紐解いていくことにも繋がるんです。大げさに聞こえるかもしれませんが、人類の起源を知ることにつながる可能性もあると思うんです。実際に、現在の実験室レベルでも今まで分からなかったものが見つかることなどもあり、事業のプロセスでアカデミックに貢献し、アウトプットのビジネスで社会に貢献するという両輪を回していきたいと考えています。一度は後悔したこともあったものの、今では博士課程まで行ってよかったなと思います。

天文学の用語で、地球から発射されたロケット等が、他の惑星の引力を借りて加速したり減速したりして遠くに運ばれることを「スイングバイ」と呼びます。私は、会社についてもまさに同じだと考えていて、流れ星プロジェクトの引力でたくさんの人が集まり、そのまま色々な事業にスイングバイしていくのも面白いし、この引力をいかして長期的に個人でスピンアウトしていくのも良いと思うんです。会社としては、色々な惑星がある中の一つが流れ星。様々なプロジェクトが生まれ、多くなって、引力に導かれ、より遠くまで行きたいですね。