自分が提供したもので笑顔を作り出したい!パティシエの僕が求めるもの。
高田馬場にて「Re:s cafebar&sweets(通称リスカフェ)」を経営する前田さん。有名洋菓子店、ディズニーランドホテルで腕を磨いた末たどり着いた、自分が本当に求めていたものとは?お話を伺いました。
前田 峻行
まえだ たかゆき|ケーキを通して人を笑顔にする
高田馬場にて「Re:s cafebar&sweets(通称リスカフェ)」を運営する、株式会社 BIRTH of SMILEの代表取締役を務める。
小さな頃から商売が身近にあった
僕は埼玉県八潮市で生まれました。祖父は焼き鳥屋など色々な商売をしていて、父も魚屋を経営していました。自分の好きなことを仕事にしている父や、祖父の背中を見て育ったので、僕も楽しいと思えることばかりする性格でした。
逆に、周りからあれこれ言われるのは好きではなく、学校は苦手で休みがちでした。家でテレビを見たりゲームをしているか、祖父の元に遊びに行っていました。おじいちゃんっ子で、よくお店で手伝いもしていました。祖父はいつも笑っていたのが印象的でしたね。
父の魚屋も長期休みにはお手伝いをしていたので、商売は身近にありました。また、普通の勉強をするのが好きじゃなかったこともあり、高校は商業も学べる情報処理科に進みました。将来は自分のお店を持つのでは、と思っていましたね。
高校卒業後は、ケーキが好きだったこともあり、何となく大手製菓企業の「銀座コージーコーナー」に就職したいと思っていました。ところが、応募するには大卒以上の学歴が求められたので、渋々大学に進学することにしたんです。
ただ、大学は思っていた通り、あまり面白いとは感じられませんでした。しかし、先輩の知り合いがコージーコーナーでアルバイトをしていたので、赤坂にある店舗を紹介してもらえることになったんです。そして、僕もその店舗でアルバイトを始めることにしました。
「売る」だけでなく「作る」喜びを思い出す
赤坂のコージーコーナーは、カフェが併設されている珍しい店舗でした。そのため、ケーキを販売するだけでなく、店内でパフェ作りもすることになりました。
すると、商品を「売る」ことだけでなく、「作る」ことも好きだったことを思い出したんです。小さな頃からお菓子作りが好きで、ドーナツやホットケーキなどを作っては家族に食べてもらっていました。作ったお菓子を食べてもらい、喜ばれるのが好きだったんですよね。
その感覚を思い出してから、ケーキ作りを仕事にしたいと考えるようになりました。大学を卒業して、就職して、パソコンの前で仕事をしている未来の自分には違和感もあったんです。そこで、入学後半年ほどで大学を辞めて、料理の専門学校に通うことに決めました。
ただ、さすがに辞めるのが早すぎたこともあり、専門学校に行くための資金を貯めるため、1年ほどはアルバイト生活を送りました。結局、まとまったお金は貯めることができず、親に頼ることになりましたが。
パティスリー科でお菓子作りの勉強を始めてからは、ケーキ作りの現場でも仕事をしたいと考え、地元で有名な高級洋菓子店でも働かせてもらうことにしました。そして、1年で学校を修了し、そのまま洋菓子店で働く修行の日々を送りました。
修行といえ、最初からお菓子作りに携わることができ、様々な経験をさせてもらえました。入る前は分からなかったことでしたが、お店自体業界の中でも有名だったので、レベルの高い環境で仕事をすることができたんです。
洋菓子店からディズニーランドホテルのペストリーへ
どんどん仕事は覚えていき、シェフの次のポジションとして、責任を持って現場を回せるようにもなりました。そのため、この店舗で学べることはやりきった感覚も持つようになりました。
そこで、次の場所で挑戦するため、5年近く働いたお店を辞めることに決めたんです。シェフにならないかと誘ってももらいましたが、1店舗しか経験していない自分ではまだ務まらないのではないかという気持ちもありました。
辞める前の最後の仕事として、最繁忙期のクリスマスの現場を任せてもらえました。売上を昨年よりも上げることができ、しかも業務も効率化して例年より仕事も早く終えることができ、大きな自信に繋がりましたね。
次の挑戦は、できるだけ大手に行きたいと考えていました。彼女との結婚も視野に入れていたので、個人店ではなく、安定した企業で働きたかったんです。自分のお店を持ちたいとも漠然と考えていましたが、結婚を考慮すると、独立よりもどこかで働き続けた方が良いと。
そして、たまたまオープニングスタッフを募集していた、東京ディズニーランドホテルのペストリーに採用してもらうことができました。オープニングの時は、店舗のオペレーションが定まっていないので、凄まじく忙しかったですね。朝8時から翌日の明け方3時頃まで働くなんてざらで、毎日のように泊まり込んでいました。
ホテルのペストリーは、それまで働いていた洋菓子店とは違い、パティシエとしての腕をひたすら追求するというよりも、お客様を楽しませることに重きを置いていたので、これまでとは違った学びがありました。デザート作りや、宴会場の盛り込み、ディズニーらしい可愛らしさの追求など、ここでしか経験できないことが多かったですね。
提供したもので笑顔を作れている瞬間を見たい
ただ、数年働くと、またある程度のことは学べた感覚がありました。メニュー開発などそれ以上のレベルの仕事をするには、ポジションが中々空かないので、数年では携われるような状況ではありませんでした。
そこで、個人的にケータリングでケーキを提供するプロジェクトも始めることにしました。すると、作ったケーキを食べる姿や、囲んでもらうシーンなど、直接反応を見れたことで、自分が求めていたことに気づけたんです。
作ったケーキを囲んでもらい、みんなが笑顔になる。それこそが自分が実現したかったことだったんです。洋菓子店でもホテルでも、お客様が直接食べている姿は、ほとんど見ることはできていませんでした。
そこで、僕は直接、笑顔になってもらう瞬間を見られる場所として、カフェ形態のお店を作ることにしました。以前付き合っていた彼女とは別れてしまっていたので、独立に歯止めをかけるものはありませんでした。
そして、4年ほど働いたホテルを辞めることにしました。具体的なことは一切決まっていない状況でしたが、自分がやりたいことを発信しながら動けば実現できると信じていたので、不安はありませんでした。
その後は、開業の勉強のため、異業種交流会などにも顔を出すようになりました。すると、違う世界の人と触れ合う面白さを知り、自分のお店も人が出会い、新しい何かのきっかけになるような場所にしたいと考えるようになりました。
また、友人と一緒にお店をやりたいとも考えるようになっていきました。とても素敵な友人が、アパレル店員などをとして働くけど長く続かないことがあって。その友人と一緒に働きたいと思い、それなら少し広めの場所を借りようと決め、カフェのイメージはどんどん具体的になっていきました。
そして、2013年5月、高田馬場に「Re:s cafebar&sweets(通称リスカフェ)」をその友人やアルバイトのスタッフを含めて5人で開きました。
目指していたものを実現するために再スタート
実際にお店を始めてみると、自分がお客様に喜んでもらえる嬉しさだけでなく、一緒に働くメンバーが喜び喜ばれる姿を見ることの嬉しさも実感することができました。
ただ、経営状態は思わしくなく、スタッフを雇っているのは難しくなっていき、3年目の今は、ひとりで経営する状態になってしまいました。うまくいかないことばかりで、何度も店を閉じたいとも思いましたし、自信は完全に失ってしまいました。
それでも、来てくれる人の顔や、ここで繋がれた出会いに支えられ、なんとか続けることができています。「絶対に無理だ」となるまでは、やり続けようと考えています。
今は、これまでのことを一度リセットして、リスタートをしようと気持ちを切り替えて動き始めたところです。店名の「Re:s」には、返信が来る「RE:」と、スマイルの「s」の意味を込めていて、「誰かにしたことが笑顔で返ってきて、それが繰り返される場所」という意味を込めていましたが、さらに「リスタート」「リセット」する場所でもあると意味づけ、再出発をしました。
そして、このお店を開く時に目指していたように、チームをもう一度作りたいと考えています。一緒に働く人の笑顔もまた見たいんです。
笑顔になってもらうために、お店でケーキや料理、サービスを提供するだけでなく、様々なイベントの企画もしています。楽しそうなことをみんなで一緒にするのが好きなんです。
ただ、僕は人見知りなこともあり、その楽しんでいる輪には入っていたくないんですよね。みんなが楽しそうにしている場所を支え、自分は外側から見守っていたいんです。それはケーキも同じで、誕生日など大切な日には、笑顔の中心にあるケーキを作るけれど、僕はその状況を外から見れたらそれでいいんです。
僕の中で思い出される笑顔のイメージは、幼い時にいつも笑っていた祖父の表情が浮かんできます。僕自身は感情を表現するのは苦手ですが、家族のことが大好きですし、自分の家族も持ちたいですね。
より多くの笑顔を作っていくためには、今のお店だけでは終わりたくないですね。カフェだけでなく、ケーキ屋だって作りたいし、色んな企画をしたいし、家族や子どもも欲しい。これからも楽しいと思えることに取り組んでいけるよう、ここから再スタートしていきます。
2015.08.26