日本人の魂を後世に引き継いでいきたい。人の繋がりを感じる、建設の仕事。

東京都葛飾区の金町に拠点を起き、電気工事を行う建設会社を取り仕切る谷澤さん。 華やかな世界に憧れ、「汗水流して働くことを馬鹿にしていた」時代から一転し、今は職人として、日本人として誇りを持った仕事を行うことに責任を感じていらっしゃいます。これまでにどんな背景があったのか、お話を伺いました。

谷澤 広大

たにさわ こうだい|電気設備工事会社の経営
電気設備の工事を行う、匠技株式会社の社長を務める。

青森から逃げて東京に向かう


私は青森県で生まれました。祖父は地元で有名な大工で、「青森のビルの8割は俺が建てた」と言うような人間でした。昔から稼いだお金はお酒と博打と若い衆を食べさせるために使ってしまう、人情味の溢れる生き方をしていたと聞いて尊敬していました。

私は両親が離婚していたので妹の面倒を見ることが多く、1人でいることが多い少年時代を過ごし、高校は家の近くの工業高校に進学しました。高校卒業後は給料が良く福利厚生の手厚かった、看板を作る地元の会社に就職しました。

このまま地元から出ず、友達と楽しく暮らせたらと思っていて、それ以外の選択肢なんて頭に浮かんでいませんでしたね。

しかし、仕事が大変だったため2年程で辞めてしまったんです。その後はアルバイト生活を始めたものの、思ったことをストレートに言ってしまうため、雇われるのは向いてないと感じるようになりました。

また、付き合っていた彼女の束縛が厳しく精神的に追い詰められ、体重も15キロ以上落ちてしまい、このままではまずいと思って東京に逃げることにしたんです。

そして、仲間内でカラオケに行くと「歌がうまい」と言われることが多かったし、歌が好きだったので、歌手を目指すことに決めました。

与えられた時間を夢のために使う


東京で暮らしていた父の下、4畳半の家に居候する生活が始まりました。

ただ、歌手になるための活動は何もせず、朝も夜もアルバイトばかりしていて、すぐに「俺は何をやっているんだろう?」と思うようになってしまったんです。大好きだった映画『天使にラブソングを・・・2』の挿入歌「His Eye Is On The Sparrow」を泣きながら聴いていましたね。そしてすぐに音楽の道は諦めて、結婚して子どものためにお金を稼ぐ人生を送ることに決めました。

ところが、結婚したのですが、子どもは流産してしまいました。この時、子どもが「やりたいことをもう少しやったら?」と時間を与えてくれたような気がして、それなら歌手になるため本格的に動いてみようと思ったんです。

その後、結婚生活は1年で幕を閉じ、ライブに出演するために曲づくりを始めました。そこで、知り合いに教えてもらってキーボード、Mac、シーケンサー、スピーカー、アンプと集めていき、やっと曲作りをする環境が整いました。始めたシーケンサーから音を出した時は興奮が抑えきれず、1人ではしゃぎまくっていましたね。(笑)

そして24歳の時、初めてクラブのステージに立ちました。200人ものお客さんの前で、自分で作った曲を歌うと、もう何が何だか分からず、必死過ぎて何も記憶には残りませんでしたが、達成感はありましたね。

その後もライブ活動は続けつつ、すぐに自分でもイベントを立ち上げるようになりました。私はR&B音楽が好きだったのですが、好みに合うイベントが開催されていなかったので、自分が好きなジャンルで、好きなアーティストを呼んだイベントを作りたかったんです。

また、プロモーションを行うクルーも5名で立ち上げ、分からないながらもフライヤー作り等、イベントプロモーションをしていきました。

生きるために必要なお金


イベントは各月で開催していましたが毎回赤字で、さすがに続けるのが厳しくなってしまい2年で幕を閉じることにしました。その後は、自分でクラブイベントを開催する他に、企業にイベントのプロデュースやパーティーの企画を提案して仕事をしていきました。

また、自分の音楽活動は歌うのではなく、和太鼓を叩くようになりました。地元青森には「ねぶた祭」があり、私は5歳の頃から和太鼓を習っていて、太鼓を叩いている自分には誇りがあったし、この文化を継承していきたいと使命感のようなものを持っていたんです。「日本男子」の精神を受け継いでいきたいと。

そして、地域復興の気持ちにも目覚め、「青森ねぶた囃子の会」にも行くようになり、企業にねぶたとコラボレーションした企画を提案して回るようになりました。しかし、企画はことごとく潰されてしまったんです。時には利害関係のある団体からの圧力で潰されることもあり、お金や権力のなさを痛感しましたね。

また、イベントプロデュースの仕事も全然儲からず、詐欺師に騙されて数千万円の借金までするようになっていきました。付き合っていた彼女のお金で生活していたし、彼女からお金を借りたこともありました。

しかし、「就職したら負け」と思っていたので、定職に就こうとは思えませんでした。イベントやプロモーションの仕事で芸能界などの華やかな世界を垣間見ていたので、汗水たらして泥臭く働くのなんて嫌だったし、「お金儲け」に嫌悪感も持っていたんです。特に、昔青森で働いていた建設の世界には絶対に戻りたくないと思っていました。

ただ、そんな人間の元にはお金が巡ってくるわけもなく、ついにお金がなくて何もできなくなってしまいました。交通費もないし、水も買えない。この時、初めてお金がないと生きていけないんだと実感し、絶対に戻りたくないと思っていた建設の世界に戻ることにしたんです。

ビジネスの世界での弱肉強食


知り合いに紹介され、東京スカイツリー建設に伴う一般家庭でのアンテナ工事の仕事をもらい、死に物狂いで働き始めました。しかし、下請けの下請けで、それこそ6社くらい挟んでの仕事だったこともあり、4ヵ月働いて手元に入ったのはたったの3万円でした。

しかし、この工事先だった1つの家の人が私のことを気に入ってくれて、その人のお陰で救われたんです。私は自分の会社を持って仕事を受けていたのですが、機材を置く場所がないと相談すると倉庫を貸してくれ、荷物を運ぶ車がないと話すと車を買って格安で使わせてくれ、どうしてもお金がなく従業員に給料を払えない時には一時的に工面もしてくれました。また、その人は有名な建設会社の社長でもあり、私たちの会社では扱えないような案件も委託してくれ、仕事をもらえたんです。

最初はお金にならない仕事ばかりで、赤字が続いていたのですが、数千万円規模の太陽光パネルの設置案件を受託してから、この世界での仕事の取り方や交渉の仕方が分かるようになりました。当初は格安の値段で受けていたため1000万円以上の赤字になっていたのですが、最終的に利益が残るような交渉に成功したんです。この時、やっとビジネスの世界での弱肉強食の意味を理解し、経済社会の一員になれた気がしました。

その後、2014年4月には再婚した妻との間に娘が生まれました。私自身、子どもや家族を守らなければならないと責任が増すとともに、従業員も同じように家族への責任を持つ人がいると思うと、社長として会社を絶対に潰してはいけないし、彼らをお金のことで困らせてはならないと強く思うようになりました。

そして、この頃から業績が急激に良くなり、大きな仕事を発注できるようになったんです。

日本人の魂を受け継ぐ仕事を


今は、建設業の中でも、太陽光発電所でのパネルの設置など電気工事をメインにやっています。

昔は嫌だと思っていた仕事でしたが、今は180度考え方が変わり、この仕事に誇りを持っています。泥臭い仕事は嫌だと思っていたけど、華やかに見える世界なんて蜃気楼みたいなもので、その裏側では汗水流して働いている人がいるんだと気づいたんです。結局、仕事ができる人はどの世界でも誰よりも努力しているんです。ただ、人には得意なこと、苦手なことがあって、私ができたのはイベントのプロデュースではなく、工事の仕事だっただけです。

工事の仕事は自分たちだけではなく、色々な人たちが繋がっているから完成する仕事です。設計する会社から元請けの会社、我々のような電気工事の会社、さらにその後に実際に電流を繋ぐ人など、本当に多くの人が関わっています。それぞれの人がプロとして誇りを持って仕事をしているお陰で、日本の質の高い建築水準を保てているんです。

逆に、契約上はどんな手抜きをしても、決められた事を期日までにできればそれで良いのですが、それだと必ず次に作業する人に迷惑がかかってしまいます。私はその点を厳しく見ていて、職人が手を抜いた仕事しようものなら、怒号が飛びます。確かに、手を抜きたい気持ちは分かるし、私だって手を抜いてしまった経験はあります。しかし、手を抜くと必ず自分の中に後悔が残ってしまうのも事実なので、どんなに大変な時でも手を抜かないようにするんです。この日本のものづくり、職人魂を引き継いでいけるようにプライドを持った仕事をできればと思います。

そんな思いで仕事をしているからこそ、工事が終わり配線を眺めている時に「美しい」と思える瞬間はやりがいを感じますね。発注会社の人に喜んでもらえるし、仲間と一緒に完成した姿を見るのは格別です。

また、しっかりとお金を稼げるようになったら、世界中でねぶた祭を開催したいと考えています。ねぶたには、職人魂と同じように、日本人の持つ気概を感じることができ、この魂を、自分自身の背中を通じて次の世代に伝えていきたいんです。

何かを守ったり、作ったりしていくためにもお金はしっかりと稼ぎつつ、この日本社会で失われつつある心を引き継げるような生き方をしていきたいです。

2015.04.19

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